この記事の要点

  • 親なき後の相続対策を、一つの制度ですべてまかなうことはできません。遺言は財産の行き先を決め、信託は託した財産の管理を続け、後見は子本人の財産管理と生活の手続きを支えます
  • 親権は、子が18歳で成年になると終わります。子に障害があっても、親が親権者として代理を続ける仕組みにはなっていません
  • 遺言で後見人を指定できるのは子が未成年の場合です。成年の子の後見人を選ぶのは家庭裁判所です
  • 遺言や信託契約は、親に判断能力があるうちに準備する必要があります
  • どの組み合わせが合うかは、子の状態や財産、頼れる人によって変わります。全体の整理はお近くの司法書士に、福祉・年金・税・争いごとはそれぞれの窓口にご相談ください

「自分たちが亡くなった後、この子の暮らしとお金はどうなるのか」。障害のある子を持つ親にとっての「親なき後」の相続対策は、結論から言うと、遺言・信託・後見のどれか一つですべてをまかなうことはできません。3つは役割が違い、それぞれに届かない部分があるからです。

この記事では、3つの役割と限界を一般的な内容として整理します。「どれを選ぶべきか」は個別の事情で変わるため、この記事では結論を出しません。執筆時点(2026年11月)の制度に基づく説明です。

親が亡くなると、何が問題になるのか

親権は18歳で終わる

親権は、成年に達しない子についてのものです(民法818条1項)。成年は18歳です(民法4条)。この2つの条文は、子の障害の有無で区別していません。そのため、子が成年になった後は、親であることだけを理由に、親権者として子を代理することはできません。

子も相続人になる

親が亡くなると、子は相続人になります(民法887条1項)。配偶者がいれば、配偶者も相続人です(民法890条)。遺言がなければ、遺産の分け方は相続人の話し合いで決めます(民法907条1項)。これを遺産分割協議といいます。

法律行為をした時に意思能力(自分の行為の結果を判断できる力)がなければ、その行為は無効です(民法3条の2)。子が内容を理解して判断することが難しい場合、家族が代わりに署名して済ませることはできず、成年後見人など本人に代わる人を家庭裁判所に選んでもらう必要が出ることがあります。詳しくは認知症の相続人がいる遺産分割の進め方で取り上げています。認知症の例で書かれていますが、判断能力の問題という点は共通です。

受け取ることと、管理できることは別

相続で財産が子のものになっても、それを管理する人が自動的に決まるわけではありません。つまり親なき後には、次の3つの問題があります。

  1. 財産の行き先をどうするか
  2. 受け取った財産を誰が管理するか
  3. 暮らしや療養に関する手続きを誰が担うか

3つの制度は、得意とする問題がそれぞれ違います。

遺言・信託・後見の役割の違い

比べる点 遺言 信託 後見
主な役割 親の財産の行き先を決める 託した財産の管理と、子への給付を続ける 子本人の財産管理と、生活・療養の手続きを支える
誰が準備するか 親が作る 親と受託者が契約する(遺言でする方法もある) 法定後見は親族などが家庭裁判所に申し立てる。任意後見は子本人が契約する
効力が生じる時 親が亡くなった時(民法985条1項) 信託契約なら原則として契約の時(信託法4条1項) 法定後見は開始の審判があった時(民法838条2号)。任意後見は任意後見監督人が選任された時(任意後見契約法2条1号)
及ぶ範囲 遺言をした親の財産 信託した財産だけ 子本人の財産と、生活・療養に関する事務
届かないこと 受け取った後の管理 施設入所など暮らしの手続き 親の財産の行き先

遺言──財産の行き先を決める

遺言では、自分の財産の全部または一部の行き先を決めることができ(民法964条)、亡くなった時に効力が生じます(民法985条1項)。行き先を定めた財産については、遺産分割協議を経ずに引き継がせる形を取れるため、子が話し合いに加わることが難しい場面で意味を持ちます。ただし、遺言の書き方によって扱いは変わります。割合だけを定めた遺言では具体的な分け方の話し合いが残ることがあり、遺言に書いていない財産が残れば、その分も話し合いが必要です。

遺言の内容を実現する遺言執行者については、預貯金の払戻しなどの権限についての定めもあります(民法1014条2項・3項)。

一方で、遺言には次の限界があります。

  • 受け取った後の管理までは手当てしにくい:遺言が決めるのは基本的に行き先です。その財産を誰がどう管理し続けるかまでは、行き先を書くだけでは手当てできません(遺言で信託をする方法や、財産を与える人が後見人に管理させない意思を表示したときの定めは、後の深掘りで触れます)
  • 次の行き先の指定は確実とは言えない:子が亡くなった後の行き先まで親の遺言に書くことは「後継ぎ遺贈」と呼ばれ、その効力には見解の対立があります。民法上の効力に否定的な見解が多数説といわれてきた一方、現在は有効とする説のほうが通説だとみる発言もあり、有効か否かを論じた判例はないとされています(西希代子「信託法と相続法──信託と遺留分制度との関係を中心として」信託研究奨励金論集43号〔2022年〕2頁、12頁注9〜11。遺言代用信託・受益者連続型とは)
  • 遺留分は残る:遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の取り分で(民法1042条1項)、侵害された人は金銭の支払いを請求できます(民法1046条1項)。障害のある子に多く渡せばほかの子との間で、ほかの子に多く渡せば障害のある子との間で、問題になることがあります。遺留分やきょうだい間の争いは、弁護士の担当分野です
  • 成年の子の後見人は指定できない:遺言で後見人を指定できる定めがあるのは、未成年者についてです(民法839条1項)。成年後見人は家庭裁判所が選任します(民法843条1項)
  • 親の判断能力が必要:遺言をする時に、遺言をする能力が必要です(民法963条)。認知症と遺言能力もあわせてご覧ください

なぜその配分にしたのかという気持ちは、付言事項として書くことができます。ただし、付言事項に法的な効力はなく、遺留分を変えることもできません。

信託──託した財産の管理を続ける

信託は、親(委託者)が財産を受託者に移し、受託者が定められた目的に従って管理や処分をし、子(受益者)がその利益を受ける仕組みです(信託法2条・3条)。基本は家族信託(民事信託)とはで説明しています。

遺言が届かなかった「受け取った後の管理」に届くのが、信託の特徴です。親が亡くなった後も管理と給付が続くように定めることができます。また、受益者が亡くなった後に次の人が受益権を取得する定め(信託法91条)や、信託が終わった後に残った財産の帰属先の指定(信託法182条1項)についても、条文があります。

受託者の担い手は、大きく分けて親族と信託銀行等です。信託の引受けを営業として行うには、原則として内閣総理大臣の免許が必要です(信託業法3条。管理型信託業の登録について同法7条)。信託銀行等の商品は、内容や条件が会社ごとに異なるので、各社への確認が必要です。

特定贈与信託という仕組み

信託銀行等を受託者とする仕組みの一つに、特定贈与信託があります。信託協会の案内によると、障害のある方の生活の安定を目的に、親族などが信託銀行等に金銭等の財産を預け、信託銀行等がその財産を管理して、生活費や医療費として定期的に金銭を交付するものです。

この仕組みは贈与税に関わるもので、相続税法21条の4に定めがあります。対象になる人や信託できる財産には条件があり、信託は受益者が亡くなった日に終了する形に限られます(同条2項)。税の扱いは税理士にご確認ください。なお、相続税には障害者控除の定めもあります。

信託の限界

  • 信託した財産だけが対象:信託しなかった財産の行き先は、遺言など別の方法で決める必要があります
  • 暮らしの手続きは受託者の役割ではない:受託者の役割は託された財産の管理や処分などで、受託者であることから、施設入所などの手続きを本人に代わってする権限が生じるわけではありません(家族信託が向かないケース)
  • 受託者がいなくなることがある:受託者の死亡や辞任などで任務は終わります(信託法56条1項)。新しい受託者については信託の定めや関係者の合意によるほか(信託法62条1項)、裁判所が選任することもあります(同条4項)。受託者が欠けたまま新受託者が就任しない状態が1年続くと、信託は終了します(信託法163条3号)
  • 子が受託者をチェックしにくい:受益者には受託者を監督する権利がありますが、子が自分で行使するのは難しいことがあります。信託法には、信託監督人(信託法131条)や受益者代理人(信託法138条)という仕組みがあります
  • 期間・遺留分・税金の問題は残る:受益者が順に移る定めには30年に関わる期間の制限があります(信託法91条)。信託にしても、遺留分や贈与税・相続税の問題がなくなるわけではありません

後見──子本人を法律面で支える

法定後見は、判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助に分かれます(民法7条・11条・15条。3類型の違い)。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです。裁判所の案内では、市区町村長も申立人に挙げられています。

成年後見人は、本人の財産を管理し、財産に関する法律行為について本人を代表します(民法859条1項)。生活や療養看護、財産の管理の事務を行うにあたっては、本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しなければなりません(民法858条)。

後見には、次の限界や注意点があります。

  • 誰が後見人になるかは家庭裁判所が決める:親が後見人を務めていて亡くなった場合も、後任は、親族などの請求または職権で家庭裁判所が選任します(民法843条2項)
  • 親の財産の行き先は決められない:後見が扱うのは子本人の財産です。親の財産をどうするかは、遺言や信託の問題です
  • 親の希望どおりに使うことを約束する制度ではない:後見人は本人のために事務を行います。たとえば、本人の住まいの売却や賃貸などには家庭裁判所の許可が必要で(民法859条の3)、親の希望だけで決まるものではありません
  • 長く続き、報酬の問題がある:後見開始の審判は、その原因がなくなったときに取り消されます(民法10条)。裏を返せば、その状態が続く限り、原則として後見も続くのが現行の仕組みです。家庭裁判所は、本人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができます(民法862条。報酬の決まり方)

一方の親が先に亡くなる場面にも注意が必要です。残った親と子は、同じ遺産を分ける相続人どうしになります。残った親が子の成年後見人である場合、遺産分割の話し合いが必要なときは、親が子を代表すると利益が相反するため、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求することになります(民法860条・826条)。後見監督人がいるときは、後見監督人が子を代表します(民法851条4号)。

任意後見

任意後見は、判断能力が不十分になったときに備えて、本人が任せる相手と内容を契約で決めておく制度です(任意後見契約法2条1号)。公正証書で結び(同法3条)、任意後見監督人が選任された時から効力が生じます(同法2条1号・4条1項)。

親なき後の場面で注意したいのは、契約をする本人は子だという点です。子が成年であれば、子自身に契約の内容を理解して判断する力があることが前提になります(民法3条の2。未成年の間に親権者が代わって結ぶ場面は、後の深掘りで触れます)。親自身の判断能力の低下に備える任意後見とは、別の話です。信託との違いは家族信託と任意後見の比較で整理しています。

成年後見の改正法──決まったことと、未定のこと

決まったこと

  • 「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました
  • 法務省の説明によると、成年後見制度について「後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化」し、本人にとって必要な範囲で利用できるようにするものです
  • 改正後の民法では、7条が補助開始の審判の条文になり、判断能力を欠く常況にある人については10条の「特定補助人」の仕組みが置かれます

未定のこと

  • 成年後見の見直し部分の施行日です。公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日とされており、2026年11月の確認時点では、施行日を定める政令を確認できていません

施行までは、この記事で説明した現行の仕組みが使われます。施行日前に後見開始の審判を受けた人については、施行後も原則として従前の例によるとの定めがあります(令和8年法律第45号附則2条1項)。実際に検討するときは、その時点の制度をご確認ください。

組み合わせるときの考え方

組み合わせとは、一つを選ぶことではなく、届かない部分を別の制度で補うことです。一般的な関係は次のとおりです。

組み合わせ 一般的な関係
遺言+後見 遺言で子に渡した財産を、後見人が子のために管理する
遺言+信託 信託した財産は信託の定めに従い、信託しなかった財産の行き先を遺言で決める
信託+後見 託した財産の管理は受託者が担い、子本人の財産(信託から受け取ったお金や受益者としての権利を含む)と暮らしの手続きは後見人が担う

時間の流れで見ると、次のように問題が移っていきます。

  • 親が元気なうち:遺言や信託契約、親自身の任意後見は、この時期に準備するものです
  • 親の判断能力が落ちてきた後:新たに遺言や契約をすることが難しくなります(親の判断能力が落ちてきたと感じたら)
  • 親が亡くなった時:遺言の効力が生じ、信託はその定めに従って始まるか、続きます。子を支える後見人が必要かどうかも問題になります
  • 子が亡くなった時:子に配偶者や子どもがなく、親や祖父母などの直系尊属もいなければ、きょうだいが相続人になります(民法889条1項2号)。相続人が誰もいない場合、財産は最終的に国庫に帰属することがあります(民法959条。相続人がいない場合)。子が遺言を残せるかどうかは、子自身の能力によります(民法963条)

どの組み合わせが合うかは、主に次の点で変わります。

  • 子本人が、どの程度まで内容を理解して判断できるか
  • 財産の中身(自宅、預貯金、賃貸不動産など)
  • 頼れる親族の有無と、その年齢
  • きょうだいがいる場合の、配分についての考え方

分野ごとの相談先

親なき後の問題は、一つの窓口では完結しません。

知りたいこと 相談先
福祉サービスの受給や利用、受け取る財産が受給に影響するか 市区町村の窓口、相談支援事業所
障害年金 年金事務所、社会保険労務士
贈与税・相続税(特定贈与信託の税の扱いを含む) 税理士
遺留分、きょうだい間の争い 弁護士
信託銀行等の商品の内容 各信託銀行等
通帳の管理や日々の支払いの手伝い 社会福祉協議会(日常生活自立支援事業)

まとめ

親なき後の備えでは、遺言が財産の行き先を、信託が託した財産の管理を、後見が子本人の財産管理と生活の手続きを担います。それぞれに届かない部分があるため、組み合わせて考えることになります。

遺言や信託契約には親の判断能力が必要です。子の成年後見人を親が遺言で決めておくこともできません。こうした限界を知ったうえで、家族の状況を一度整理しておくことが出発点になります。何から手をつければよいか迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

制度ごとに違い、一律の額は示せません。法定後見の申立てでは、裁判所の案内によると、申立手数料として収入印紙800円分、登記手数料として収入印紙2600円分、連絡用の郵便切手が必要で、鑑定の費用を負担することもあります。後見人の報酬は、家庭裁判所の判断で本人の財産から支払われます(民法862条)。遺言を公正証書にする場合は公証人の手数料が、信託にはいくつかの費用がかかります。専門家に頼む場合の報酬は別です。

Q. 期限はありますか?放置するとどうなりますか?

遺言・信託・任意後見の準備に、法律上の期限はありません。ただし、親の判断能力が落ちると、遺言や信託契約が難しくなります。備えがないまま親が亡くなると、遺産分割のために後見人などの選任が必要になることがあります。また、相続で不動産を取得した人には、相続の開始と取得を知った日から3年以内の相続登記の義務があり(不動産登記法76条の2第1項)、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の定めがあります(同法164条1項)。遺産分割が進まないときの手続きとして、相続人申告登記があります(同法76条の3)。

Q. 自分でできますか?どこに相談すればいいですか?

遺言は自分で書く方法もありますが、方式を外すと無効になることがあります。なお、遺言の方式も令和8年法律第45号で見直されます。押印の任意化などの部分は、公布の日から1年を超えない範囲で政令で定める日に施行され(2026年11月の確認時点で、施行日を定める政令は確認できていません)、その日より前にした遺言には、押印を含む従前の方式が適用されます(同法附則1条2号・5条1項)。法定後見の申立ては、本人の住所地の家庭裁判所に対して行います。信託は財産の内容によって契約や登記の手間が変わります。全体の整理や手続きはお近くの司法書士に、福祉・年金・税・争いごとは上の表の窓口にご相談ください。


【さらに深掘り】遺言と信託をつなぐときの設計上の論点──遺言信託と遺言代用信託、受託者、次の受け取り手

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、信託した財産は信託の定めに従い、信託しなかった財産の行き先を遺言で決める、という関係を示しました。ここでは、遺言と信託をつなぐときに条文の上で問題になる点を整理します。どの形を選ぶべきか、どう組み立てるか、契約や遺言の文言をどう書くかを示すものではありません。

受益者が順に移る定めの30年の読み方と、遺留分についての学説の整理は、遺言代用信託・受益者連続型とはの深掘りで扱っていますので、ここでは繰り返しません。

遺言信託と遺言代用信託

法務省のパンフレット「知って活用 信託制度」(令和8年3月31日公表)は、障害のあるお子さんの扶養のための信託の例として、2つの形を挙げています(7頁)。

  • 親が親族を受託者に指定する遺言をし、親の死後に遺言執行者がその親族に財産を譲渡する形
  • 親が生前に親族と信託契約を結び、自分の死後の受益者として子を指定する形(遺言代用信託)

前者が、信託法の遺言信託です(信託法3条2号。同じパンフレットは「信託遺言」と呼んでいます)。

言葉の上で注意したいのは、信託銀行等が「遺言信託」という名前で扱うサービスとの違いです。信託協会の案内によると、このサービスは遺言書の作成の相談から保管、遺言の執行までを支援するもので、信託銀行等は遺言執行者として関わります。案内の流れは遺言の内容の実現までで、その後に子へ給付を続ける仕組みとしては説明されていません。信託法の遺言信託とは別のものです。

2つの形の主な違いは次のとおりです。

比べる点 遺言信託 遺言代用信託
信託をする方法 遺言(信託法3条2号)。民法の定める方式に従います(民法960条) 信託契約(信託法3条1号)のうち、委託者の死亡の時に受益権を取得する定めなどがあるもの(同法90条1項)
効力が生じる時 遺言の効力が生じた時で、原則として親の死亡時(信託法4条2項、民法985条1項) 原則として契約の締結時。停止条件や始期があれば、その成就や到来の時(信託法4条1項・4項)
受託者となる人 親の死後に、引き受けるかどうかが問題になります(信託法5条・6条) 契約の相手方として、親の生前に決まっています
親が考えを変えるとき 遺言の方式に従って撤回できます(民法1022条) 受益者の変更は原則として委託者ができます(信託法90条1項)。そのほかは信託の変更の枠組みによります(同法149条)
親の死後の委託者の地位 相続人は原則として承継しません(信託法147条) 147条の対象ではなく、条文から一律には決まりません

遺言信託は遺言によってする信託ですから、遺言が方式を欠くなどして効力を持たなければ、信託の効力も生じないことになります(信託法4条2項からの読みです)。また、親の死後に財産を受託者へ移す手続きが残ります。パンフレットの例でも、財産を譲渡するのは遺言執行者です。遺言執行者は遺言で指定でき(民法1006条1項)、いないときは家庭裁判所が利害関係人の請求で選任できます(同法1010条)。

一方、契約の時に効力が生じる遺言代用信託では、親の生前から財産は受託者に属することになります(信託法2条3項)。

遺言と信託契約を併用するときの前後関係

信託財産は受託者に属する財産です(信託法2条3項)。遺言で処分できるのは遺言者の「その財産」ですから(民法964条)、契約で受託者に移った財産は、親の遺言で行き先を決める対象から外れて考えることになります(条文からの読みです)。財産そのものとは別に、親自身が持つ受益権や、受益者を変更する権利と遺言との関係は、信託の定めとあわせて確かめる点です(信託法89条2項参照)。

先に遺言があり、その後で同じ財産を信託した場合には、民法1023条が関わります。遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触するときは、抵触する部分について遺言を撤回したものとみなす定めです(同条1項・2項)。信託契約は財産の処分をする旨を含む契約ですから(信託法3条1号)、この規定の問題になり得ます(条文からの読みです)。信託契約との関係を直接定めた条文はなく、抵触するかどうかは遺言と契約の内容によります。

受託者の確保──親が亡くなった後に変わること

遺言信託では、指定された人が引き受けるかどうかは親の死後に決まります。利害関係人は相当の期間を定めて確答を催告でき(信託法5条1項)、期間内に委託者の相続人に確答しなければ、引き受けなかったものとみなされます(同条2項)。受託者の指定がないとき、指定された人が引き受けないときなどは、裁判所が利害関係人の申立てで選任できます(同法6条1項)。遺言に名前を書いたことで、その人が受託者になると決まるわけではありません。

遺言代用信託では相手方は生前に決まっていますが、受託者の死亡で任務が終わる点(同法56条1項1号)は同じです。受益者である子の暮らしが親の死後も長く続くことを考えると、どちらの形でも、受託者が途中で代わる場面が視野に入ります。信託銀行等を受託者として考える場合は、どの形の信託を、どの財産について引き受けるかを各社に確認する必要があります。受託者を親族以外に広げて考える場合は、信託の引受けを営業として行うことにならないかも確認点です(信託業法2条1項・3条・7条1項)。どこからが「営業」かを、この条文は定義していません。

親が亡くなると、受託者の交代などの手続きの前提も変わります。信託法には、委託者が現に存しない場合の定めがいくつもあります。遺言信託では、相続人は原則として委託者の地位を承継しないので(同法147条)、別段の定めがなければ、親の死亡後はこの場合に当たると読めます。遺言代用信託では地位の相続が論じられており(前掲の深掘り)、相続されるとすれば、親の相続人が委託者の立場で関わることになります。親の死亡後に誰が動くのかは、委託者の地位についての定めとあわせて確かめる点です。

委託者が現に存しない場合に、信託法の原則は次のように変わります。

場面 委託者がいる間の原則 委託者が現に存しない場合
新しい受託者の選任 委託者と受益者の合意(信託法62条1項) 受益者が選任します。裁判所による選任では「受益者の状況」などが考慮されます(同条8項・4項)
受託者の辞任 委託者と受益者の同意(同法57条1項) この同意の規定は適用されません(同条6項)。やむを得ない事由があるときの裁判所の許可は残ります(同条2項)
受託者の解任 委託者と受益者の合意(同法58条1項) この合意の規定は適用されません(同条8項)。任務違反で信託財産に著しい損害を与えたなどの重要な事由があるときの、裁判所による解任は残ります(同条4項)
信託の変更 委託者・受託者・受益者の合意(同法149条1項) この合意の規定は適用されません(同条5項)。同条2項や3項2号の範囲が残ります
信託の終了 委託者と受益者の合意(同法164条1項) この合意の規定は適用されません(同条4項)

いずれも、信託行為の定めによって扱いが変わることがあります(同法57条1項ただし書・58条3項・62条1項・149条4項・164条3項)。終了の場面の定めについては、家族信託が終わるときの深掘りで触れています。

この表から読み取れるのは、委託者が現に存しない場合には、解任や終了の合意のように使えなくなる方法がある一方で、新しい受託者の選任のように受益者が中心になる手続きもあるということです。受益者である子が自分で判断することが難しい場合に、誰が子に代わって動くのかが、親なき後の信託でとりわけ問題になります。子に成年後見人がいれば、受益権も子の財産として、後見人が財産に関する法律行為について子を代表することが考えられます(民法859条1項からの読みです)。

監督の面も同じです。法務省のパンフレットは、受託者の監督が十分にできない受益者を保護する方法として、委託者が監督権限を持つこと(信託法145条2項・3項)と信託監督人(同法131条)を挙げています(8頁)。親が亡くなった後は、委託者による監督を当てにできない場合があります。信託監督人については、受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情があるときなどに、裁判所が利害関係人の申立てで選任できる定めがあります(同条4項)。受託者自身は信託監督人になれません(同法137条・124条2号)。これに対し、受益者代理人は信託行為で指定する形で定められており(同法138条1項)、同条には131条4項のような裁判所による選任の定めがありません(いったん就任した受益者代理人の任務が終了した後の新たな受益者代理人については、裁判所による選任を含む62条の規定が準用されます。同法142条1項)。受益者代理人がいると、受益者は法律や信託行為で認められた一定の権利を除いて、自分では権利を行使できなくなります(同法139条4項)。

子の次の受け取り手──似ているが別の2つの定め

子が亡くなった後の行き先を信託の中で定めるときの、条文の入口は主に2つです。

比べる点 次の受益者へ続ける 信託を終わらせ、残った財産を渡す
条文 受益者の死亡により他の者が新たな受益権を取得する定め(信託法91条) 信託行為で定めた終了事由(同法163条9号)と残余財産の帰属(同法182条1項)
信託 続きます 終了して清算に入ります
次の人の立場 新たな受益権を持つ受益者 残余財産受益者または帰属権利者(帰属権利者は清算中は受益者とみなされます。同法183条6項)

見落としやすいのは、指定がない場合の行き先です。残余財産を受ける人の指定がないとき、または指定された人の全員が権利を放棄したときは、委託者またはその相続人その他の一般承継人を帰属権利者に指定する定めがあったものとみなされます(同法182条2項)。それでも定まらないときは、清算受託者に帰属します(同条3項)。条文が挙げているのは委託者の側で、受益者である子の相続人ではありません。

本文の時間軸で触れた「子が亡くなった時」の相続は、子本人の財産についての話です。信託財産は受託者に属する財産なので(同法2条3項)、信託の定めに従って次に渡る部分は、定めの内容によっては、子の遺言や相続人の範囲とは別の流れで動くことになります。

このほか、次の点も関わります。

  • 受託者が次の受け取り手を兼ねるとき:受託者が受益権の全部を自分の財産として持つ状態が1年間続くと、信託は終了します(同法163条2号)。たとえば、受託者であるきょうだいが子の次の唯一の受益者になると、この規定が問題になります
  • 特定贈与信託は続ける形とは前提が違います:本文のとおり、受益者が亡くなった日に終了する形に限られます(相続税法21条の4第2項)。信託協会の案内によると、残った財産は基本的に受益者の相続人または受遺者に交付され、あらかじめ交付先を指定しておくと指定された団体等に交付されます。具体的な条件は各信託銀行等に、贈与税の扱いは税理士にご確認ください
  • 受益権の譲渡:受益権は原則として譲り渡すことができます(信託法93条1項)。法務省のパンフレットは、受益者の扶養を目的とする信託などでは譲渡できないと判断される可能性があるとしています(8頁)。譲渡を禁止または制限する定めも置けますが、その定めを知らず、知らないことに重大な過失もない第三者には対抗できません(同条2項)

遺留分はどこで問題になるか

信託の設定によって遺留分侵害額請求を一律に免れるわけではないという点で、学界はほぼ一致しているとされています(西希代子「信託法と相続法──信託と遺留分制度との関係を中心として」信託研究奨励金論集43号〔2022年〕4頁)。そのうえで、親なき後の信託では、論点は次の場所に現れます。

  • 請求の相手方:民法1046条1項が挙げるのは受遺者と受贈者で、受託者や受益者という言葉はありません。相手方を受託者とみるか、受益者とみるか、その双方とみるかは考え方が分かれています(同論文7・8頁、16頁注43。前掲の深掘り)。親なき後の場面では、たとえばほかの子が請求するときに、相手方が受益者である子なのか、受託者である親族なのかという形で問題になると考えられます(この場面への当てはめは推論です)
  • 計算の基礎と受益権の評価:遺留分を計算する基礎については、信託財産の価額とする考え方(信託財産説)と、受益権の価額とする考え方(受益権説)などがあります(同論文7・8頁)。受益権説に立つと、受益権の評価が問題になります。子の受益権がいつまで続くかは分かりません。民法1043条2項は、存続期間の不確定な権利などは家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従うと定めており、受益権説をとる同論文は、受益権の評価についてこの規定またはその類推適用によるとしています(8頁)

遺留分の額、請求の当否、請求された場合の対応は、弁護士の担当分野です。受益者が代わる場面などの贈与税・相続税は、税理士にご確認ください。

信託と遺言などをどのような形で併用するかについて、法務省のパンフレットは、弁護士や司法書士等の専門家のサポートを受けながら検討することが考えられるとしています(10頁)。

【さらに深掘り】親が後見人を務めてきた場合に親の死亡で変わること──後任の選任、家庭裁判所の監督、権限の届かない範囲

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、親が後見人を務めていて亡くなった場合も、後任は家庭裁判所が選任するという点を示しました。ここでは成年後見の側から、条文と家庭裁判所などの資料で確かめられる範囲を整理します。誰を後見人にすべきか、どの制度を選ぶべきかを示すものではありません。改正法が関わる点は最後に分けて記し、それまでの説明は現行の条文によります。

親が亡くなっても、後見は終わらない

親が亡くなっても、子についての後見が終わるわけではありません。後見開始の審判の取消しについて民法10条が定める原因は、本人の状態の回復であって、後見人の死亡ではありません。親が唯一の成年後見人だった場合、子の側から見ると成年後見人が欠けた状態になり、家庭裁判所が、本人やその親族その他の利害関係人の請求により、または職権で、後任を選任します(民法843条2項)。

手続きの入口は次のとおりです。

  • 申立て先:後見開始の審判をした家庭裁判所です(家事事件手続法117条2項)
  • 聴取:本人の陳述を聴きます。ただし、心身の障害により聴くことができないときは別です(同法120条1項3号)。後任となる人の意見も聴きます(同条2項1号)
  • 取下げ:この申立ては、審判の前でも家庭裁判所の許可がなければ取り下げられません(同法121条2号。申立ての取下げ)

東京家庭裁判所のハンドブック(令和7年4月)は、後見人等が死亡した場合には、親族など後見人等に近しい人が裁判所に連絡することになると案内しています(13頁)。奈良家庭裁判所のハンドブック(R8.1一部改訂)にも、本人の兄が後見人の死亡を連絡し、後任の選任を申し立てる予定だと伝える連絡票の記載例があります。連絡の方法は、審判をした家庭裁判所の案内でご確認ください。後見監督人がいれば、遅滞なく後任の選任を請求することと、急迫の事情がある場合に必要な処分をすることが、その職務に含まれます(民法851条2号・3号)。

親が唯一の成年後見人だった場合、後任が決まるまでの間は、子を代理する成年後見人がいない期間が生じることになります(条文からの読みです)。

親の側には締めくくりの手続きが残ります。後見人の任務が終わると、後見人またはその相続人は、2か月以内に管理の計算をしなければなりません(民法870条。期間は家庭裁判所が伸ばすことができます)。後見監督人がいれば、その立会いが必要です(民法871条)。急迫の事情があるときの必要な処分を定めた民法654条も後見に準用され(民法874条)、同条は受任者の相続人も挙げています。親の死亡の場面では、親の相続人がこれらを担う形になります(条文からの読みです。管理の計算)。親の相続人には子本人も含まれますので、相続人が子本人だけの場合などの進め方は、家庭裁判所にご確認ください。

誰が後任になるか──親族、専門職、複数の選任

選任にあたって考慮する事情は、本人の心身の状態、生活と財産の状況、後任となる人の職業と経歴、本人との利害関係の有無(法人であれば事業の種類や内容なども)、本人の意見その他一切の事情です(民法843条4項)。厚生労働省の「成年後見はやわかり」は、誰を選任するかの家庭裁判所の判断には不服申立てができないと説明しています。親族後見人と専門職後見人などの一般的な違いは、成年後見人には誰がなれる?で整理しています。

最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」によると、親族が成年後見人等に選任されたものは約16.4%(7,014件)、親族以外は約83.6%(35,718件)で、親族のうち親は462件です(10・11頁)。ただし、これは後見・保佐・補助の開始と同時に選任された場合の数値で、後任の選任は含まれません。開始の原因も認知症が約61.3%、知的障害が約9.6%です(7頁)。親なき後の後任の場面をそのまま表す数字ではありません。

きょうだいが後任になると、親の遺産分割がまだ終わっていない場合に、本文で触れた利益相反の問題が同じように生じます。東京家庭裁判所のハンドブックは、後見人と本人がきょうだいで父の遺産分割をする例について、特別代理人の選任が必要で、後見監督人がいれば不要と説明しています(Q11・36頁)。特別代理人がいれば何でも許されるわけではなく、本人の取得分が法定相続分を下回らないようにするなど、本人の利益を守ることが求められるともしています(同頁)。

成年後見人がいる場合でも、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、請求により、または職権で、さらに成年後見人を選任できます(民法843条3項)。奈良家庭裁判所のハンドブックは、事案によって専門職と親族を複数選任することがあるとしています(1頁)。複数の場合、家庭裁判所は職権で、共同して、または事務を分掌して権限を行使することを定められます(民法859条の2第1項)。岡山家庭裁判所のガイドブック(上・2025.4発行版)は、次のように説明しています(4頁)。

  • 権限が分担されている場合は、定められた範囲内でしか権限を行使できない
  • それ以外の場合は、職務権限は同一で、単独で行使できる。ただし、取引の相手方によっては連名を求められることがある
  • 複数の選任は家庭裁判所の裁量に委ねられ、不服申立てはできない

他の成年後見人が残っていれば、親が亡くなっても、子を代理する人が誰もいなくなるわけではありません(条文からの読みです)。ただし、権限が分担されていた場合には、親の担当範囲を残った後見人が当然に行えるとは限りません(同じガイドブックからの読みです)。審判の内容の確認が必要です。詳しくは成年後見人が2人以上いるときはどうなる?をご覧ください。

岡山家庭裁判所のガイドブックは、後見人等の職務は本人の能力が回復するか本人が亡くなるまで続くとしています(3頁)。本人が若ければ、後見人の交代が一度で済むとは限りません(推論です)。親が亡くなる前に、高齢などで務めを続けにくくなる場面もあります。辞任には正当な事由と家庭裁判所の許可が必要で(民法844条)、辞任した後見人は遅滞なく後任の選任を請求しなければなりません(民法845条)。東京家庭裁判所のハンドブックは、正当な事由の例に高齢や病気で職務を行えなくなった場合を挙げ、辞任の申立てと後任の選任の申立てを同時にするよう案内しています(20頁。辞任と解任)。後見人の選任をめぐって親族の間で争いになるときは、弁護士の担当分野です。

家庭裁判所の監督と報告

後見監督人または家庭裁判所は、いつでも、後見人に事務の報告や財産目録の提出を求め、事務や財産の状況を調査できます(民法863条1項)。家庭裁判所は、後見の事務について必要な処分を命ずることもできます(同条2項)。適当な者や家庭裁判所調査官に調査をさせることもできます(家事事件手続法124条1項・3項)。後見監督人は、必要があると認めるときに、請求により、または職権で選任されます(民法849条。後見監督人とは)。

報告の具体的な形は資料で確かめられます。東京家庭裁判所のハンドブックは、就任時の報告に加えて毎年定期的に書面で報告する必要があるとしています(Q2・28頁)。岡山家庭裁判所のガイドブックは、後見等監督人がいる場合の報告先は監督人としています(3・4頁)。

民法863条の監督の定めは、後見人が親かどうかで区別していません。東京家庭裁判所のハンドブックは、親族が後見人であっても、本人の財産は「他人の財産」であるという意識を持つ必要があるとし、本人の収入・支出を後見人や親族のものと区別して管理し、領収書などを残すよう求めています(Q5・30頁)。岡山家庭裁判所のガイドブックも家族が後見人を務める場合を含めて同じ趣旨を述べ、不正な行為があれば解任のほか、業務上横領等の刑事責任や賠償責任を問われる場合があるとしています(3頁)。この区別と記録がなければ、親の死亡後に、どこまでが子の財産でどこからが親の遺産かを確かめることが難しくなります(推論です)。

このほか、後見制度支援信託・支援預貯金という仕組みがあります。これを直接定めた条文はなく、家庭裁判所の運用として実施されているものです(後見制度支援信託とは)。定期報告の流れは財産管理と家庭裁判所への報告で説明しています。

後見の権限では手当てできない範囲

親の役割がそのまま後見人に移るわけではありません。法務省の法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料4は、現行の民法858条の「事務」は法律行為を指し、それに付随するものを除いて事実行為は含まれないとされていると整理しています(5頁)。厚生労働省の「成年後見はやわかり」も、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではないと説明しています。

奈良家庭裁判所のハンドブックが生活・療養看護の仕事として挙げるのは、介護契約、施設入所契約、医療契約など、本人の身の上に関わる契約についての代理です(1頁)。親が担ってきた日々の世話、付き添い、見守りそのものは、後任の後見人が選ばれても自動的に引き継がれるものではありません(これらの資料からの読みです)。福祉サービスの受給や利用については、本文の表のとおり、市区町村の窓口や相談支援事業所にご確認ください。医療への同意や身元保証については、成年後見人が『できないこと』とはで扱っています。

財産の面では、別の定めもあります。無償で財産を与える第三者が後見人に管理させない意思を表示したときは、その財産は後見人の管理に属さないものとされ、管理者の指定がなければ家庭裁判所が選任します(民法869条・830条1項・2項。準用からの読みです)。親の遺言でこの定めを使う場面を直接論じた資料は確認できていないため、ここでは条文の指摘にとどめます。

親権者が未成年の子を代理して任意後見契約を結ぶ場面

本文では、子が成年であれば、任意後見は子自身の判断力が前提になると述べました。子が未成年の間については、日本公証人連合会のQ&A「任意後見契約」のQ5が、意思能力が欠ける未成年の子の親が、子に代わって自分を受任者とする契約を結ぶ場面を説明しています。

  • 家庭裁判所で特別代理人の選任を受けたうえで、受任者にならない親権者の片方と特別代理人が共同で未成年者を代理し、受任者となる親権者と契約を結ぶことができる
  • 本人が未成年の間は任意後見監督人を選任しないため、契約の効力を生じさせることができるのは、本人が成年に達した日以降になる(任意後見契約法4条1項1号)

このQ5は、親自身が受任者となる形についての案内です。親以外が受任者となる形や、親権者が一人の場合には触れていません。裁判所の判断を示す資料は確認できていません。実際に契約できるかどうかは、公証役場にご確認ください。

受任者である親が亡くなった場合の扱いは、法定後見と異なります。任意後見契約は委任契約で(同法2条1号)、受任者の死亡は委任の終了事由です(民法653条1号)。任意後見契約法には任意後見監督人が欠けた場合の選任の定めはありますが(同法4条4項)、任意後見人の後任を家庭裁判所が選任する定めはありません。親を受任者とする契約で親が亡くなれば、子を支える人をどうするかが別に問題になります(条文からの読みです)。

改正法との関係──決まったことと、施行が未定のこと

決まったこと(令和8年法律第45号。改正後の条文は、施行前のものです)

  • 後任の選任と追加の選任は、改正後の民法876条の2第2項・3項に置かれ、考慮する事情は同条4項に置かれます。複数の場合の定めは876条の12に、監督の定めは876条の20に置かれます。いずれも補助人についての条文です
  • 施行日前に後見開始の審判を受けた人と、その成年後見人・成年後見監督人に関する民法の規定の適用は、附則に特別の定めがある場合を除いて従前の例によります(同法附則2条1項)。あわせて、補助開始の審判の請求や、後見開始の審判の取消しの請求についての定めがあります(同条4項・7項)。これらの人に関する家事審判の手続も、従前の例によります(同法附則8条1項)
  • 任意後見は、任意後見開始の審判がされた時から効力が生じる形に改められます(改正後の任意後見契約法2条1号)。本人が未成年者であるときは、この審判をしません(同法5条1項1号)。他の任意後見契約の受任者が欠けるまでは審判をすることができない旨の合意(不開始の合意)の定めも置かれます(同法4条1項)
  • 施行日前に結ばれた任意後見契約にも改正後の規定が適用され、任意後見開始の審判がされた時から効力が生じる定めがあるものとみなされます。改正前の規定によって生じた効力は妨げられません(令和8年法律第45号附則6条1項・2項)

施行が未定のこと

  • 成年後見の見直し部分の施行日です。2026年11月3日の確認時点で、施行日を定める政令は確認できていません(e-Gov法令APIの改正履歴と法務省の案内ページによる確認です)

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

あわせて読みたい