この記事の要点
- 成年後見人は、申立ての際に候補者を挙げることはできても、最終的に誰を選ぶかを決めるのは家庭裁判所です(民法843条)
- 後見人には大きく分けて「親族後見人」「専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士など)」「市民後見人」「法人後見」という選択肢があります
- 「市民後見人」という呼び方は法律で定義された用語ではなく、研修を受けた市民が家庭裁判所に後見人候補として推薦される仕組みを指す、行政施策上の呼び方です
結論から言うと、成年後見人に「誰がなるか」は、申立人の希望どおりに決まるとは限りません。申立ての際に候補者を挙げることはできますが、実際に選ぶのは家庭裁判所であり、本人の状況によっては親族以外の人や法人が選ばれることもあります。
※本記事は執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。
なお、成年後見制度そのものを見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。本人にとって必要な範囲で制度を利用できるようにする観点から、後見・保佐・補助という現在の3類型を見直し、補助に一元化する方向の内容とされています。現在の3類型の違いは、法定後見の3類型『後見・保佐・補助』はどう違う?──判断能力の程度で決まる仕組み をご覧ください。ただし成年後見制度に関する部分の施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、この記事の執筆時点ではまだ施行されていません(施行日は未定です)。施行までの間は現在の制度がそのまま続きます。すでに開始している後見・保佐がどう扱われるか(経過措置)や、改正後の具体的な運用については、施行に向けて改めて確認する必要があります。以下は現在施行されている制度についての説明です。
選ぶのは家庭裁判所──民法843条の考慮要素
民法843条1項は、家庭裁判所が後見開始の審判をするときに、職権で成年後見人を選任すると定めています。誰を選ぶかについては、同条4項が考慮すべき事情を列挙しています。本人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、後見人となる者の職業及び経歴並びに本人との利害関係の有無(後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と本人との利害関係の有無)、そして本人の意見その他一切の事情です。
つまり、申立書の候補者欄に誰かの名前を書いても、その通りに選ばれる保証はありません。財産の規模や親族間の関係、本人の意向などを踏まえて、家庭裁判所が個別に判断します。
親族後見人と専門職後見人
本人の配偶者や子など身近な親族が後見人になるケースを、一般に「親族後見人」と呼びます。本人の生活状況をよく知っているという利点がありますが、財産の規模が大きい、親族間で意見が分かれている、専門的な財産管理や法的対応が必要になりそうといった事情があると、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれる傾向があります(あくまで傾向であり、選ばれるかどうかは事案ごとの判断です)。
司法書士が専門職後見人として選ばれる場合、家庭裁判所が公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートなど司法書士会系の団体から推薦を受け、その名簿を参考に選任するという運用が採られていることがあります。ただしこれは法律に定められた仕組みではなく、家庭裁判所ごとの運用によるものです。申立書に特定の司法書士を候補者として記載する場合など、名簿を経由しない選任もあり得ます。
市民後見人と法人後見
親族でも専門職でもない一般市民が、研修を受けたうえで後見人になる仕組みを「市民後見人」と呼びます。老人福祉法32条の2は、市町村が後見等の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用や、家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないと定めており、都道府県にもこれに協力する努力義務を課しています。市民後見人の養成は、この規定を背景とした市区町村の取り組みとして進められています。ただし条文の文言自体は「後見等の業務を適正に行うことができる人材」という表現にとどまり、「市民後見人」という言葉が条文に書かれているわけではない点には注意してください。
もう一つの選択肢が「法人後見」です。個人ではなく、社会福祉協議会やNPO法人などの法人が後見人になるケースで、先ほどの民法843条4項も「後見人となる者が法人であるとき」を前提とした考慮要素を定めており、法律上も想定された仕組みです。個人の後見人が高齢や病気で対応を続けられなくなるリスクを、法人という組織で分散できる利点があります。なお、親族後見人・専門職後見人・市民後見人という呼び分けが「どういう立場の人か」という切り口であるのに対し、法人後見は「個人か法人か」という別の切り口による呼び方です。四つが横並びに排他的な選択肢として並ぶわけではない点にご注意ください。
まとめ
成年後見人には、親族後見人・専門職後見人・市民後見人・法人後見という選択肢があり、実際に誰を選ぶかを決めるのは家庭裁判所です(民法843条)。市民後見人は法律上定義された用語ではなく、老人福祉法32条の2を背景とした市区町村の人材育成の取り組みを指す呼び方です。誰がふさわしいかは本人の状況によって異なりますので、申立てを検討する際は、お近くの司法書士会や公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートなどの相談窓口にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第843条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 老人福祉法 第32条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000133
- 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(令和8年法律第45号): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート: https://legal-support.or.jp/