この記事の要点
- 成年後見人・保佐人・補助人・任意後見監督人の報酬は、本人が自由に決めるものではなく、家庭裁判所への申立てと審判によって定まる
- 報酬は本人(被後見人等)の財産の中から支払われ、家庭裁判所は本人の資力その他の事情を考慮して判断する
- 具体的な金額は事案ごとに家庭裁判所が個別に判断するため、本記事では目安額は示さない
「後見人になったら、報酬はいつ、どうやってもらえるのか」——制度を調べ始めた方から、こうした質問を伺うことがあります。成年後見人等は本人のために重い責任を負う立場ですが、報酬は自動的に支払われるものではなく、また後見人等が自分で金額を決めてよいものでもありません。本記事は、執筆時点(2026年08月)の制度に基づく一般的な解説です。
報酬は「申立て」をして初めて認められる
成年後見人の報酬について、民法862条は、家庭裁判所が、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができると定めています。ここで重要なのは、報酬は家庭裁判所の裁量による「与えることができる」という仕組みである点です。後見人になったからといって当然に報酬を受け取れるわけではなく、実務上は、家庭裁判所に対して報酬を与えるよう求める「報酬付与の申立て」を行い、家庭裁判所がそれを認める審判をして初めて、本人の財産から報酬を受け取ることができます。保佐人・補助人についてもこの規定が準用されており(民法876条の5第2項・876条の10第1項)、任意後見監督人についても、任意後見契約に関する法律7条4項が民法862条を準用しているため、同様に家庭裁判所への申立てを要する仕組みです。なお、任意後見人(本人があらかじめ契約で選んでおいた受任者)自身の報酬は、任意後見契約の中であらかじめ定めておくものであり、この報酬付与の審判の対象には含まれません。
「無報酬ではない」が「言い値でもない」
この申立ての仕組みは、2つの誤解を防ぐためのものといえます。ひとつは「後見人はボランティアで、報酬は一切ない」という誤解です。実際には、家庭裁判所が認めれば本人の財産から相当な報酬を受け取る道が制度上開かれており、無報酬とは限りません。もうひとつは「後見人が自分の判断で好きな金額を本人の財産から受け取ってよい」という誤解です。報酬は必ず家庭裁判所の審判を経て初めて確定するものであり、後見人等が独断で金額を決めて本人の財産から支払うことは認められていません。なお、後見人等の事務ぶりを見守る後見監督人が選任されている場合、その存在も報酬額を判断する際の考慮事情のひとつになります。
家庭裁判所が考慮する事情──目安額はあえて示しません
家庭裁判所は後見人等の事務全般をいつでも監督できる立場にあり(民法863条)、報酬付与の判断もこうした監督の一環として行われます。報酬付与の申立てがあった場合、家庭裁判所は本人の資力(管理する財産の規模)や、後見人等が行った事務の内容・複雑さ、身上監護に要した労力、後見監督人が選任されているかどうかといった個別の事情を考慮して判断するとされています。もっとも、実際にいくらが認められるかは事案ごとの個別判断であり、家庭裁判所や地域によっても運用が異なり得るため、本記事ではあえて具体的な目安額は示しません。ご自身やご家族のケースでどの程度になりそうかは、個別の事情を踏まえた判断が必要になります。就任後の財産管理や家庭裁判所への報告の一般的な流れについては、成年後見人になったら何をする?もあわせてご覧ください。
制度改正の動きにご注意ください
本記事は現行の成年後見制度に基づく解説ですが、この制度は大きな改正が予定されています。令和8年(2026年)6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、同月24日に公布されました。この改正では、後見・保佐の制度を見直し、補助の制度に一元化する方向とされているほか、報酬に関する規定そのものも見直しの対象に含まれています。具体的には、新設される民法876条の19において、後見人等が行った事務の内容等が報酬の考慮要素であることが規定上明確化される見込みで、報酬を認めた審判の実績を公表する取組みも予定されています。本記事で説明した報酬付与の仕組みは、こうした見直しがすでに盛り込まれており、変わる時期のみが未定という状況です。成年後見制度の見直しに関する部分の施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、具体的な時期は今後定められます(本記事執筆時点では未確定)。また、施行時にすでに開始している後見・保佐については、附則の経過措置により基本的に現行の内容のまま利用を継続でき、解任事由や本人の意向を尊重する義務など一部の規定のみ改正後の民法が適用される扱いが予定されています。施行までは本記事で説明した仕組みで運用されますが、実際に手続きを進める際は、その時点の最新の制度をご確認ください。
まとめ
成年後見人・保佐人・補助人・任意後見監督人の報酬は、当然に支払われるものでも、後見人等が自由に決められるものでもなく、家庭裁判所への申立てと審判によって初めて定まる仕組みです。具体的にどの程度の金額になるかは、本人の財産状況や事務の内容など個別の事情によって家庭裁判所が判断するため、本記事では一律の目安額をあえて示していません。報酬を含めた具体的な見通しについては、お近くの司法書士会や公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、または担当の家庭裁判所にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月19日・いずれも一次情報です。条文はe-Gov法令API実取得、改正法の記述は法務省サイトの実読で照合済み)。
- 民法 第862条(後見人の報酬)
- 民法 第876条の5第2項・第876条の10第1項(保佐人・補助人への準用)
- 任意後見契約に関する法律 第7条第4項(任意後見監督人への民法862条の準用)
- 民法 第863条(後見の事務の監督)
- 民法 第876条の19(改正後・報酬の考慮要素の明確化。令和8年法律第45号による新設・未施行)
- e-Gov法令検索(民法): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索(任意後見契約に関する法律): https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150
- 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html