「〜の規定にかかわらず」と「〜を妨げない」の違い──条文が「別ルール」と「両立」を示す言い回し【相続の条文で解説】

この記事の要点 「〜の規定にかかわらず」は、別の条文が定めた原則を脇に置いて、この条文の決め方に切り替える言い回しです。ただし書が同じ項の中で例外を作るのに対し、こちらは別の規定を名指しして、その原則を上書きします 同じ「かかわらず」でも、「〜かどうかにかかわらず」は上書きではなく「どちらであっても区別しない」という意味で、読み方が変わります 「〜を妨げない」は、この条文の定めがあっても、別の権利や手続きはそのまま使える、という両立の確認です。「〜できる」と新しく権利を与える文とは役割が違います 条文の一つの項の中にある「本文」と「ただし書」の関係は、「ただし書」「本文」「前段・後段」「柱書」とはで整理しました。今回は、別の規定を名指しして原則と例外の関係を示す言い回しを取り上げます。相続と登記の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です)。 ...

2026年9月12日 · ひぐらしさとし

「しなければならない」「することができる」「ものとする」の違い──条文の語尾で義務か任意かを読み分ける【相続登記の条文で解説】

この記事の要点 「〜しなければならない」は義務を課す書き方。相続登記の申請(不動産登記法76条の2第1項)のように、怠ると過料などの不利益がつながっていることがある 「〜することができる」は、するかどうかを本人が選べる(権利や裁量がある)書き方。相続人申告登記の申出(同法76条の3第1項)が例 「〜ものとする」は法律の中に定義がなく、原則や方針の宣言、行政側への義務付け、念押し、読み替えの指示など、いくつかの使われ方がある。読むときは「誰が主語か」「何を定めているか」を条文ごとに確かめる 法律の条文は、同じ「する」という動作でも、語尾の書き方で意味が大きく変わります。結論から言うと、「しなければならない」は義務、「することができる」は権利や選択の余地、「ものとする」は原則の宣言や念押しなどの複数の顔を持つ言い回しです。この3つを読み分けられると、「これは必ずやらなければいけないのか、やってもやらなくてもよいのか」が条文から直接読み取れるようになります。以下は、執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年9月8日 · ひぐらしさとし

「ただし書」「本文」「前段・後段」「柱書」とは──条文の一つの項の中を読み分ける言葉【相続の条文で解説】

この記事の要点 条文の一つの項の中は、さらに細かく呼び分けられます。「ただし、」で始まる文が「ただし書」、その手前が「本文」。二つの文が並ぶときは「前段」と「後段」。「一、二、三…」の号を束ねる冒頭の部分が「柱書(はしらがき)」です 見分け方は、文の始まりと終わりの言葉でほぼ機械的に決まります。「ただし、」「この限りでない」ならただし書、「この場合において、」「〜も、同様とする」なら後段です これらの呼び名は、条文自身が別の条文を指すときにも使われます(「第十一条本文」「第九条ただし書」「前項前段」など)。読めるようになると、条文の中の「あの部分を見よ」という指示が追えるようになります 「条」「項」「号」という階層の話は、姉妹編の条・項・号の読み方と枝番号で整理しました。今回はその一段下、一つの項の内側の呼び名です。相続の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です)。 ...

2026年9月4日 · ひぐらしさとし

「者」「物」「もの」の使い分け──同じ読みでも指す対象が変わる法律用語【民法の条文で解説】

この記事の要点 「者」は法律上の人を指す。個人(自然人)だけでなく、会社などの法人も含む 「物」は形のある物=有体物を指す。民法85条に定義が置かれている ひらがなの「もの」は、者・物のどちらにも当てはまらないものを指すときや、いったん挙げた対象にさらに絞り込みを重ねるときに使われる 法律の条文には、「者(もの)」「物(もの)」「もの」という、読みだけ聞くと区別できない3つの言葉が出てきます。結論から言うと、この3つは、法令をつくるときの書き分けのきまりに従って使い分けられています。漢字の「者」は人、漢字の「物」は形のある物、ひらがなの「もの」はそのどちらにも当てはまらないものを指すときや、いったん挙げた対象を絞り込んで受け直すとき──この使い分けを知っておくと、条文を読むときに「いま何の話をしているのか」を取り違えにくくなります。 ...

2026年8月31日 · ひぐらしさとし

条・項・号の読み方と枝番号──「第213条の2」の「の2」は第2項ではない

この記事の要点 条文は「条 → 項 → 号 → イ・ロ・ハ」の階層でできている(項は算用数字、号は漢数字) 「第213条の2」の「の2」は枝番号で、独立したひとつの「条」。「第213条第2項」とは別の条文 枝番号や「削除」の表示は、改正のときに後ろの条文番号をずらさないための立法の工夫 条文を調べていて「民法第213条の2」という表記に出会ったとき、「213条の2番目の項(=第2項)のことかな」と読んでしまう方が少なくありません。結論から言うと、これは誤りです。「第213条の2」は、第213条と第214条の間に挟まれた独立したひとつの条であり、「第213条第2項」とはまったく別の条文です。 ...

2026年8月27日 · ひぐらしさとし

「追認」とは? 取り消せる行為・無権代理を有効に確定させる意味

この記事の要点 追認(ついにん)とは、取消しができる行為や無権代理行為のように、いったん効力が不確定な状態にある法律行為を、後から「有効なものとする」と確定させる意思表示のこと 効果は場面によって違い、無権代理行為の追認は原則として契約の時にさかのぼって効力が生じる(民法116条)のに対し、取り消すことができる行為の追認は「以後、取り消すことができない」という効果になる(民法122条) 追認ができるのは誰でもよいわけではなく、取消しができる行為なら取消権を持つ人、無権代理行為なら本人というように、法律が定める立場の人に限られる 契約書や登記の話をしていると、「あとで追認すれば大丈夫です」という言い方を聞くことがあります。追認とは、いったん効力が不確定になっている法律行為を、後から「有効なものとして確定させる」意思表示のことです。似た言葉に「承認」や「同意」がありますが、追認は「すでに行われた行為の効力を、事後に確定させる」という点に特徴があります。 ...

2026年8月23日 · ひぐらしさとし

「無効」と「取り消すことができる」の違い──条文の書き分けと、期間制限があるかどうか【民法の条文で解説】

この記事の要点 「無効」ははじめから効力がない状態。取り消しの意思表示をするまでもない 「取り消すことができる」は、取り消すまでは一応有効。取り消して初めて、はじめから無効だった扱いになる(民法121条) 取消しには「誰が取り消せるか」と「いつまで取り消せるか」の制限がある(民法120条・126条) 契約や遺言をめぐる話し合いの場では、「あの契約は無効だ」「あれは取り消せるはずだ」という言葉が飛び交います。日常の会話ではどちらも「なかったことにする」くらいの意味で使われますが、法律の条文では、はっきり区別して書き分けられています。結論から言うと、はじめから効力がないのか、それとも取り消すまでは有効なのかが出発点の違いです。 ...

2026年8月19日 · ひぐらしさとし

商業登記を放置するとどうなるか──「過料」の根拠条文(会社法976条)を確認する

この記事の要点 商業登記の懈怠に対する過料の根拠条文は会社法976条で、同条は第1号から第35号まで過料事由を列挙する包括規定であり、「登記を怠ったとき」は第1号に規定されている 過料の対象は「登記を怠ったとき」全般であり、商号変更・本店移転・目的変更・役員変更など、会社法915条1項が定める変更登記義務(原則2週間以内)を怠れば、いずれもこの条文の対象になり得る 過料の上限は百万円で、刑事罰ではなく行政上の秩序罰。対象になるのは会社そのものではなく、発起人・取締役・清算人など登記義務を負う個人 「役員変更登記を怠ると過料になる」という話は聞いたことがあっても、その根拠条文が何かまで意識する機会は少ないかもしれません。実はこの過料は役員変更に限った規定ではなく、商業登記全般にかかわる一本の条文(会社法976条)に根拠があります。今回は、条文の構造そのものを確認します。 ...

2026年8月15日 · ひぐらしさとし

「対抗することができない」とは──「登記がないと主張できない」の意味を条文で読む【不動産登記の条文で解説】

この記事の要点 条文の「対抗することができない」は、「無効になる」という意味ではない 「当事者の間では有効だが、当事者以外の一定の人(第三者)に向かっては権利を主張できない」という意味 不動産について定める民法177条では、登記が「第三者に対抗する」ための条件(対抗要件)とされている 法律の条文には、「第三者に対抗することができない」という言い回しがくり返し出てきます。日常語の「対抗」は、張り合う・対決するといったイメージですが、法律の世界では意味が違います。結論から言うと、「対抗する」は「権利や出来事を、相手に向かって主張して認めさせる」という意味で、「対抗することができない」は「当事者の間では有効だが、当事者以外の人(第三者)には主張できない」ことを表します。これを「無効」と読み違えると、条文の意味を大きく取り違えてしまいます。 ...

2026年8月11日 · ひぐらしさとし

「準用する」とは──条文でよく見る「準用」の意味と読み替えのしかた【相続の条文で解説】

この記事の要点 「準用する」は、ある事柄について定めた規定を、性質の似た別の事柄にあてはめて働かせる立法技術。同じ文章を何度も書かずに済ませるための工夫です 「適用する」は本来の対象にそのまま働かせること、「準用する」は別の対象に必要な読み替えをしたうえで働かせること 準用されるのは、条文で名指しされた条・項の範囲だけ。「〜とあるのは〜と読み替えるものとする」という一文があれば、その置き換えをしてから読みます 法律の条文を読んでいると、「〇〇の規定は、△△について準用する」という言い回しに何度も出会います。結論から言うと、準用とは、ある事柄について定めた規定を、性質の似た別の事柄にあてはめることです。同じ内容の条文をもう一度書き写す代わりに、「あちらの条文を借りてきます」と宣言する立法上の工夫だと考えると分かりやすくなります。 ...

2026年8月7日 · ひぐらしさとし