この記事の要点

  • 条文の一つの項の中は、さらに細かく呼び分けられます。「ただし、」で始まる文が「ただし書」、その手前が「本文」。二つの文が並ぶときは「前段」と「後段」。「一、二、三…」の号を束ねる冒頭の部分が「柱書(はしらがき)」です
  • 見分け方は、文の始まりと終わりの言葉でほぼ機械的に決まります。「ただし、」「この限りでない」ならただし書、「この場合において、」「〜も、同様とする」なら後段です
  • これらの呼び名は、条文自身が別の条文を指すときにも使われます(「第十一条本文」「第九条ただし書」「前項前段」など)。読めるようになると、条文の中の「あの部分を見よ」という指示が追えるようになります

「条」「項」「号」という階層の話は、姉妹編の条・項・号の読み方と枝番号で整理しました。今回はその一段下、一つの項の内側の呼び名です。相続の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です)。

「本文」と「ただし書」──原則と例外の書き分け

民法896条は、相続の効果を定めるもっとも基本的な条文です。原文はこうなっています。

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

「ただし、」から始まる後ろの文が「ただし書」、その手前の文が「本文」です。本文が原則(財産に属した権利義務はすべて引き継ぐ)を定め、ただし書が例外(亡くなった方本人だけに結びついたものは別)を定める、という構造になっています。ただし書の結びにある「この限りでない」は、「本文の定めは、この場合には当てはめない」という意味の決まり文句です。

条文を引用するときは、「民法896条本文」「民法896条ただし書」のように書き分けます。条文自身がこの呼び方を使っている例もあります。民法13条2項は「第十一条本文に規定する者」と書いていますが、これは11条のうち、ただし書(「ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。」)を除いた部分を指しています。なお、ここで例に挙げた11条・13条は、民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号。2026年6月24日公布)による成年後見に関する規定の見直しで、11条の内容が改められ、13条から19条までが削除されることになっています。施行日は公布の日から2年6月を超えない範囲内で政令が定めるものとされ、執筆時点では施行されていません。この記事の説明は、いま施行されている条文によります。

ただし書は、号の中にも置かれます。民法921条1号は次のとおりです。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

この場合、「民法921条1号本文」「民法921条1号ただし書」と呼びます。号の本文(財産を処分すると単純承認とみなされる)と、そのただし書(保存行為などは除く)という組み合わせです。「みなす」の意味は「みなす」と「推定する」の違いで扱いました。なお、どのような行為が「保存行為」に当たるかは個別の事情によりますので、この記事では条文の形の説明にとどめます。

「前段」と「後段」──二つの文に分かれているとき

一つの項の中に二つの文があり、後ろの文が「ただし、」で始まらないときは、前の文を「前段」、後ろの文を「後段」と呼びます。遺言の撤回を定める民法1024条を見てみます。

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

前の文(遺言書そのものを破棄した場合)が前段、「〜も、同様とする。」で結ぶ後ろの文(遺贈の目的物を破棄した場合)が後段です。なお、この1024条も先ほどの令和8年法律第45号で「遺言書」が「遺言書等」に改められる予定ですが(公布の日から1年を超えない範囲内で政令が定める日に施行)、執筆時点では施行されておらず、前段・後段という形は変わりません。後段の典型的な書き出しには、もう一つ「この場合において、」があります。民法20条1項は「……催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。」という前段・後段の構造で、同条2項はこれを「同項後段と同様とする」と引用しています。

相続登記の申請義務を定める不動産登記法76条の2第1項(2024年4月1日施行)も、前段・後段の形です。

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

前段が相続で取得した人の申請義務、後段が相続人への遺贈で取得した人にも同じ義務を広げる文です。そして同条2項は「前項前段の規定による登記」という書き方で、前段だけを指し示しています。「前段」という呼び名が分からないと、この2項が何を指しているのか読み取れません。

ここで気をつけたいのは、後段はただし書ではないという点です。ただし書は本文の例外を定めますが、後段は前段に付け加えたり、前段と同じ扱いを別の場合にも広げたりする文として使われることが多く、役割が違います。後段を「ただし書」と呼んでしまうと、引用先がずれて話が通じなくなります。見分け方の目安は、一つの項に文が二つ並ぶとき、後ろの文が「ただし、」で始まればただし書、そうでなければ後段、と考えることです。

「柱書」──号を束ねる部分

「一、二、三…」と号が並ぶ条文では、号の前に置かれた文を「柱書(はしらがき)」と呼びます。相続人になれない人を定める民法891条は、こうなっています。

次に掲げる者は、相続人となることができない。 一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者 二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。 (三号から五号まで略)

「次に掲げる者は、相続人となることができない。」が柱書、その下の一号から五号までが各号です。柱書だけを読んでも誰のことか分からず、号だけを読んでも「相続人となることができない」という効果が分かりません。柱書と号は必ずセットで読みます。2号の中にただし書があるのは、先ほどの921条1号と同じ形です。

ひとつ注意があります。「柱書」は広く使われている呼び名ですが、法律の条文には出てこない言葉です。民法・不動産登記法・会社法の条文全文を検索しても「柱書」という語は見当たりません(法令データベースで現行法令全体を検索した限りでは、法律・政令に用例はなく、一部の省令・委員会規則に用例があるにとどまります)。法律がこの部分を指すときは「各号列記以外の部分」と書きます(たとえば会社法の附則には「第七百五十一条第一項各号列記以外の部分中」という表現があります)。ですから、「891条柱書」と「891条各号列記以外の部分」は同じ場所を指しています。

これらの呼び名に、法令上の定義はない

「ただし書」「本文」「前段」「後段」は、上で見たとおり条文自身が引用語として使っていますが、その意味を定義した条文は見当たりません。「柱書」に至っては法律の条文に登場しません。いずれも法令を作る側・読む側の慣用として定着した呼び名で、たとえば参議院法制局職員による研修資料『法令読解入門』では、「前段・後段=二文のうちの前の文、後の文」「本文・ただし書」として整理されています。定義がないからこそ、「ただし、」「この場合において、」「同様とする」「この限りでない」という文言の目印で見分ける、と覚えておくのが確実です。

まとめ

  • 「ただし、」で始まる文がただし書、その手前が本文。原則と例外の関係
  • 二つの文が並び、後ろが「ただし、」で始まらなければ前段後段。後段はただし書ではない
  • 号を束ねる冒頭の文が柱書。法律の条文の中では「各号列記以外の部分」と表記される
  • 呼び名そのものに法令上の定義はなく、文言の目印で見分ける

条文の中の「どの部分」が問題になっているかで、当てはまる結論は変わります。相続や登記の手続きでご自身の事情がどの部分に当たるか迷われたときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

  • 参議院法制局職員による研修資料『法令読解入門』(平成26年度法令・議会・官庁資料研修 講義資料・2015年2月19日・国立国会図書館デジタルコレクション): https://dl.ndl.go.jp/pid/9277312

あわせて読みたい