この記事の要点
- 「者」は法律上の人を指す。個人(自然人)だけでなく、会社などの法人も含む
- 「物」は形のある物=有体物を指す。民法85条に定義が置かれている
- ひらがなの「もの」は、者・物のどちらにも当てはまらないものを指すときや、いったん挙げた対象にさらに絞り込みを重ねるときに使われる
法律の条文には、「者(もの)」「物(もの)」「もの」という、読みだけ聞くと区別できない3つの言葉が出てきます。結論から言うと、この3つは、法令をつくるときの書き分けのきまりに従って使い分けられています。漢字の「者」は人、漢字の「物」は形のある物、ひらがなの「もの」はそのどちらにも当てはまらないものを指すときや、いったん挙げた対象を絞り込んで受け直すとき──この使い分けを知っておくと、条文を読むときに「いま何の話をしているのか」を取り違えにくくなります。
「者」=法律上の人(個人も会社も)
漢字の「者」は、権利や義務の主体となる「人」を指します。ここでいう人には、個人(法律用語で「自然人」といいます)だけでなく、会社などの法人も含まれます。
相続の条文から例を挙げます。相続人になれない場合を定めた民法891条は、「次に掲げる者は、相続人となることができない。」という書き出しで始まり、1号で「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」を挙げています。ここに出てくる「者」は、相続人・被相続人という相続の場面を定めた条文なので、いずれも生身の人間を指しています。「者」という言葉自体は法人も含みうるので、どこまでを指すかはそれぞれの条文の中身から読み取ることになります。
「物」=形のある物(有体物)
漢字の「物」には、民法85条にそのものずばりの定義があります。「この法律において『物』とは、有体物をいう。」──つまり、土地や建物、現金、家具のように形のあるものが「物」です。
意外に思われる例として、ペットも法律上は「物」に分類されます。かわいがってきた家族の一員でも、権利の主体である「者」ではなく、相続の対象となる「物」の側に置かれるのです。この点はペットと相続の記事で詳しく扱っています。
ひらがなの「もの」=どちらでもないもの・絞り込みの受け皿
ひらがなの「もの」は、大きく2つの場面で使われます。
1つ目は、「者」にも「物」にも当てはまらないものを指す場合です。たとえば権利や地位のような、形のない抽象的な対象がこれに当たります。
2つ目は、いったん挙げた対象に、さらに条件を重ねて絞り込む場合です。会社法2条3号は「子会社」を「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」と定義しています。法人は本来「者」に当たる存在ですが、「法務省令で定める」という絞り込みを受ける形で言い直すときは、ひらがなの「もの」で受けるのが法令の書き方の慣例です。
もうひとつ、相続の条文で目を引く例があります。民法886条1項の「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」です。ここは「〜したものとみなす」という法令の定型的な言い回しで、この「もの」は直前の「既に生まれた」を受ける形式的な言葉として使われており、権利の主体を指す漢字の「者」と書き分けたものではないと説明されています。
なお、生まれる前の胎児が権利能力(権利や義務の主体となる資格)をどこまで持つかについては、民法学に古くからの議論があります。生きて生まれたときにはじめて、相続が開始した時点にさかのぼって権利能力を取得すると読む考え方(停止条件説)と、胎児である間も相続については権利能力を認めたうえで、死産だったときにさかのぼって失われると読む考え方(解除条件説)が対立しています。条文が「者」ではなく「もの」と書かれていることだけから、この議論の結論が決まるわけではありません。
この条文の「みなす」という言葉の意味は、「みなす」と「推定する」の違いの記事で解説しています。
まとめ
- 漢字の「者」は人(個人+法人)、漢字の「物」は形のある有体物(民法85条)
- ひらがなの「もの」は、者・物のどちらでもないものを指す場合と、いったん挙げた対象を絞り込んで受け直す場合に使われる
- 同じ読みの言葉が3通りに書き分けられているのは、条文が「誰の話か」「何の話か」を厳密に区別するための工夫
条文の読み方そのものは知識として役立ちますが、実際の相続や登記の手続きでは、個別の事情によって適用される条文も結論も変わります。具体的な手続きで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第85条・第886条・第891条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 会社法 第2条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086