この記事の要点
- 法令では、漢字の「時」はその出来事が起きた時点(タイミング)を、ひらがなの「とき」は「もし〜なら」という仮定の条件を表すように書き分けられている
- 「場合」も仮定の条件を表す言葉で、条件が二重になるときは、**大きい条件に「場合」、小さい条件に「とき」**を使うのが一般的な書き方とされる
- ただしこれは法令を作るときの用語法の慣行であり、使い分けそのものを定めた法令があるわけではない
条文を読んでいると、漢字の「時」とひらがなの「とき」の両方が出てきます。同じ文の中に両方が並んでいることさえあります。これは誤記でも気まぐれでもなく、法令では意味によって書き分けられています。結論から言うと、漢字の「時」は時点、ひらがなの「とき」は条件です。本記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。
使い分けの原則──「時」は時点、「とき」は条件
法令を作るときの用語の使い分けとして、一般に次のように説明されます。
- 漢字の「時」……その出来事が起きた時点そのものを指す。「いつの話か」を特定する言葉
- ひらがなの「とき」……「〜であれば」「〜した場合には」という仮定の条件を表す。「どんな条件がそろったら」を示す言葉
- 「場合」……「とき」と同じく仮定の条件を表す。条件が一つだけなら「場合」と「とき」のどちらも使われるが、**条件が二重になるときは、大きい(外側の)条件に「場合」、小さい(内側の)条件に「とき」**を使って書き分ける
もっとも、この使い分けは法令を起草するときの慣行として説明されるもので、これ自体を定めたルールが法令にあるわけではありません。最終的な意味はその条文ごとの文脈で判断される、という点は押さえておいてください。
「時」の例──相続放棄の3か月はいつから数える?(民法915条1項)
漢字の「時」の働きがよくわかるのが、相続放棄などの期限を定めた民法915条1項です。相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」、相続について単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選ばなければならない、と定められています。
ここでの「知った時」は、3か月の数え始めの時点(起算点)を指しています。条件ではなく「いつから数えるか」というタイミングの話なので、漢字の「時」が使われているわけです。この3か月をいつから数えるかは相続放棄の重要ポイントで、詳しくは相続放棄の3か月の起算点の記事で解説しています。
一つの文に両方が出てくる例──失踪宣告の取消し(民法32条1項)
「時」と「とき」が同じ文に同居する条文もあります。行方不明になった人について家庭裁判所が失踪宣告をすると、その人は法律上、一定の時点で死亡したものとみなされます(民法31条)。その宣告を取り消す場面を定めた民法32条1項は、次のように始まります。
失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。
途中に出てくる2つの漢字の「時」は、いずれも死亡の時点(タイミング)を指しています。前の「時」は民法31条によって死亡したものとみなされる時点、後の「時」は実際に死亡した時点です。一方、文末近くの「証明があったときは」は、「証明があったならば」という条件です。時点には漢字、条件にはひらがな、という書き分けが一文の中で確かめられる例です。
条件が重なると「場合」と「とき」で書き分ける(民法20条1項)
最後に「場合」との関係です。民法20条1項は、未成年者のように一人では完全には契約を確定できないとされる人(制限行為能力者)と取引した相手方が、本人が行為能力者となった後に「あの契約を認めるのか、取り消すのか」の返事を求める催告について定めています。前段で、1か月以上の期間を定めてこの催告ができるとしたうえで、後段が次のように続きます。
この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
前段で述べた「催告をした」という場面全体を「この場合において」という形で受け(大きい条件)、そのうえに「期間内に確答(返事)を発しない」というもう一つの条件を「とき」で重ねています(小さい条件)。条件が二重になったら、外側は「場合」、内側は「とき」──この書き分けを知っていると、長い条文でも条件の構造がつかみやすくなります。
ちなみにこの後段は「追認したものとみなす」で終わっています。返事がないまま期間が過ぎると、契約を認めた扱いが確定するという意味です。「みなす」の強さについては、「みなす」と「推定する」の違いの記事をどうぞ。
まとめ
法令では、漢字の「時」は時点を、ひらがなの「とき」は仮定の条件を表すように書き分けられ、条件が二重になるときは大きい条件に「場合」、小さい条件に「とき」を使うのが一般的な書き方と説明されます。ただしこれは法令を作る側の用語法の慣行で、具体的な条文の意味はその条文ごとの解釈によります。条文の読み方や相続の手続きで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 民法 第20条・第31条・第32条・第915条(e-Gov法令検索・2026年8月2日に条文本文を取得し、本文中の民法32条1項・20条1項の引用が条文どおりであることを確認済み): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
※ 次の資料は法令そのものではなく、公的機関(参議院法制局)による解説資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 参議院法制局「法制セミナー」のうち「個々の『条文』を読むコツ」(2026年8月2日閲覧。「〜の場合において」「〜ときは」を条件を表す語とする整理〔2ページ〕と、「〜場合において、×××ときは」では「場合」が1段目・「とき」が2段目の条件になるという説明〔7ページ〕を確認しました。なお、漢字の「時」が時点を表すという説明はこの資料には含まれておらず、本文のその部分は民法32条1項などの条文の実例に即した一般的な説明にとどめています): https://houseikyoku.sangiin.go.jp/seminar/seminar2.pdf