この記事の要点
- 「〜の規定にかかわらず」は、別の条文が定めた原則を脇に置いて、この条文の決め方に切り替える言い回しです。ただし書が同じ項の中で例外を作るのに対し、こちらは別の規定を名指しして、その原則を上書きします
- 同じ「かかわらず」でも、「〜かどうかにかかわらず」は上書きではなく「どちらであっても区別しない」という意味で、読み方が変わります
- 「〜を妨げない」は、この条文の定めがあっても、別の権利や手続きはそのまま使える、という両立の確認です。「〜できる」と新しく権利を与える文とは役割が違います
条文の一つの項の中にある「本文」と「ただし書」の関係は、「ただし書」「本文」「前段・後段」「柱書」とはで整理しました。今回は、別の規定を名指しして原則と例外の関係を示す言い回しを取り上げます。相続と登記の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です)。
「〜の規定にかかわらず」──前の条文の原則を上書きする
お墓や仏壇の引き継ぎを定める民法897条1項は、こう書かれています。
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
「前条」は民法896条で、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」という相続の原則を定めた条文です。897条は、系譜(家系図など)・祭具(仏壇や位牌など)・墳墓(お墓)については、この896条の決め方を当てはめず、祭祀を主宰すべき人が引き継ぐ、と定めています。「前条の規定にかかわらず」は、「前の条文にはこう書いてあるが、この場面ではそちらを使わずに、この条文の決め方による」という切り替えの合図です。
ただし書との違いを整理しておきます。ただし書は、同じ項の中で「原則はこうだが、この場合は除く」と例外を作ります。これに対して「〜の規定にかかわらず」は、原則が別の規定に置かれているときに、その規定との関係を示す書き方です。896条を読んだだけでは「お墓も相続人が分け合うのか」と思えてしまいますが、897条まで読むと結論が変わります。原則を定めた条文だけで判断せず、それを上書きする規定がないかを確かめる習慣が、この言い回しを知っていると身につきます。祭祀財産の引き継ぎそのものについては、祭祀財産の承継者の決まり方と引き継ぎの段取りをご覧ください。
もう一つ、相続分の指定を定める民法902条1項です。
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
「前二条」は900条(法定相続分)と901条(代襲相続人の相続分)です。配偶者と子なら2分の1ずつ、という法定相続分の割合は、遺言による指定がないときの決め方であり、遺言で別の割合を定めることができる、という関係がこの一文から読み取れます。ただし、遺言で自由に決められるという意味ではなく、遺留分など別の規定による制約は残ります。なお同条2項は、一部の相続人の相続分だけを指定したときは、残りの相続人の相続分は「前二条の規定により定める」としており、上書きされる範囲が指定のあった部分に限られることも条文自身が書いています。
同じ「かかわらず」でも意味が違う──「〜かどうかにかかわらず」
気をつけたいのは、「かかわらず」の前に何が置かれているかです。共同相続における権利の承継の対抗要件を定める民法899条の2第1項を見てみます。
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
ここでの「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」は、どの条文も上書きしていません。「遺産分割で取得した場合でも、そうでない場合(遺言による場合など)でも、区別しない」という意味です。
見分け方は、直前の語です。「〜の規定にかかわらず」なら、別の条文の原則を脇に置く切り替え。「〜かどうかにかかわらず」「〜の有無にかかわらず」なら、場合分けをしない、という宣言です。前者は「前条」「前二条」「第六十条」のように、具体的な条文を指す語とセットで現れます。「対抗することができない」の意味は「対抗することができない」とはで扱いました。
「〜を妨げない」──あわせてできることを確認する
「妨げない」は、「妨げる」の否定です。「この条文の定めがあっても、別の権利や手続きの行使はそのまま認められる」という、両立の確認に使われます。短くて分かりやすい例が、契約の解除を定める民法545条4項です。
解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
契約を解除しても、それとは別に損害賠償を請求することもできる、という関係です。「解除か賠償か、どちらか一方しか選べないのではないか」という疑問に、条文があらかじめ答えている形です。
相続の条文では、承認・放棄の撤回を定める民法919条が分かりやすい例です。
1 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。 2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
1項は、いったんした承認や放棄は、3か月の熟慮期間の途中であっても「撤回」できないと定めます。2項は、それでも民法の総則や親族の編に定められた理由による「取消し」(たとえば詐欺・強迫によるものなど)は、1項によって止められることはない、と確認しています。「撤回できない」という1項だけを読むと、あらゆる場面で覆せないように見えますが、2項の「妨げない」で、撤回と取消しが別のものとして扱われていることが分かります。同条3項は、この取消権が追認できる時から6か月、承認・放棄の時から10年で消滅すると定めており、「妨げない」で認められた道にも期限があることまで条文が用意しています。「取消し」という言葉の意味は「無効」と「取り消すことができる」の違いで整理しています。
もう一つ、遺言執行者がいる場合の民法1013条です。
1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。 2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。 3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
1項・2項は相続人の勝手な処分を禁じ、無効とする定めですが、3項は、相続人にお金を貸している人や亡くなった方の債権者が相続財産に対して権利を行使すること(差押えなど)は、この禁止によって止められない、と確認しています。1項・2項の縛りがかかるのは相続人であって、債権者にまで及ぶものではない、という線引きです。
ここで押さえておきたいのは、「妨げない」は「〜することができる」と書いて新しい権利を与える文ではない、という点です。もともと別の規定や立場で認められている行為が、この条文によって邪魔されない、と確認する書き方です。ですから、「妨げない」と書かれた行為が実際にできるかどうかは、その行為を認めている元の規定(919条なら総則・親族の取消しの規定、1013条なら債権者の権利)のほうで判断することになります。遺言執行者の役割全般は遺言執行者──選任から、銀行・登記・税務まで「何ができるのか」をご覧ください。
登記の条文では──「かかわらず」が付く条文と付かない条文
不動産登記法にも、「〜の規定にかかわらず」が繰り返し出てきます。原則を定めているのは60条です。
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
売買の登記なら買主(登記権利者)と売主(登記義務者)が一緒に申請する、という共同申請の原則です。これに対して、相続人に対する遺贈の登記を定める63条3項は、こう書かれています。
遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。
「第六十条の規定にかかわらず」で共同申請の原則を脇に置き、登記権利者(遺贈を受けた相続人)が一人で申請できる、と定めています。この3項は2023年(令和5年)4月施行の改正で加わった規定で、詳しくは相続人への遺贈は一人で登記できるで扱いました。
一方、同じ63条の2項(相続や法人の合併による移転の登記)は、「相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。」とだけ書かれていて、「第六十条の規定にかかわらず」が付いていません。それでも相続登記が相続人だけで申請できることに変わりはありません。60条自身が「法令に別段の定めがある場合を除き」という受け皿を用意しているため、単独申請を認める条文は、「かかわらず」と書いてあってもなくても、この「別段の定め」に当たるからです。「かかわらず」という語があるかどうかだけで、原則が上書きされているかを判断しないほうがよい、という例です。
まとめ
- 「〜の規定にかかわらず」は、別の条文の原則を脇に置いて、この条文の決め方に切り替える合図。ただし書が同じ項の中の例外なのに対し、こちらは別の規定を名指しする
- 「〜かどうかにかかわらず」は上書きではなく、場合分けをしないという宣言。直前の語で見分ける
- 「〜を妨げない」は、この条文があっても別の権利・手続きはそのまま使えるという両立の確認。権利を新しく作る文ではないので、できるかどうかは元の規定で判断する
- 登記の条文のように、原則の側に「別段の定めがある場合を除き」と受け皿があるときは、「かかわらず」の語がなくても原則が上書きされていることがある
条文の言い回しが分かると、「原則はこうだが、自分の場合は別の条文が優先するのではないか」「この手続きをしても、別の権利は残るのか」といった疑問を、条文に沿って考えられるようになります。実際の相続や登記の手続きでご自身の事情がどの条文に当たるか迷われたときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月)。
- 民法 第545条・第896条・第897条・第899条の2・第900条・第901条・第902条・第919条・第1013条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第60条・第63条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123