この記事の要点

  • 条文の「対抗することができない」は、「無効になる」という意味ではない
  • 「当事者の間では有効だが、当事者以外の一定の人(第三者)に向かっては権利を主張できない」という意味
  • 不動産について定める民法177条では、登記が「第三者に対抗する」ための条件(対抗要件)とされている

法律の条文には、「第三者に対抗することができない」という言い回しがくり返し出てきます。日常語の「対抗」は、張り合う・対決するといったイメージですが、法律の世界では意味が違います。結論から言うと、「対抗する」は「権利や出来事を、相手に向かって主張して認めさせる」という意味で、「対抗することができない」は「当事者の間では有効だが、当事者以外の人(第三者)には主張できない」ことを表します。これを「無効」と読み違えると、条文の意味を大きく取り違えてしまいます。

「無効」とは違う──契約そのものは生きている

まず、よく似た響きの「無効」と比べてみます。たとえば民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と定めています。「無効」は、その行為の効力がはじめから生じないことをいい、この場合には誰との関係でも効き目がないことになります。

これに対して「対抗することができない」は、行為そのものの効力は認めたうえで、「第三者との関係でだけ、それを主張できない」とするものです。契約そのものが消えてなくなるわけではない──ここが最大の違いです。

民法177条を読んでみる

不動産の条文で代表的なのが民法177条です。原文はこうです。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。(民法177条)

「物権の得喪及び変更」とは、所有権などの権利を取得したり、失ったり、内容が変わったりすることです。かみくだくと、「不動産の権利を手に入れても、登記をしないうちは、当事者以外の人に向かって『私の権利だ』と主張できない」という意味になります。

ポイントは、この条文が「登記をしなければ権利を取得できない」とは書いていないことです。ひとつ前の民法176条は「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」と定めており、たとえば売買であれば、売主と買主の合意によって、2人の間では権利は移ります(いつ移るかについては、代金を支払ったときとするなど、当事者の取り決めで別に定めることもできます)。登記は、権利を発生させるための条件ではなく、当事者以外の人に主張するための条件(これを「対抗要件」と呼びます)という位置づけです。この二段構えが、日本の民法の基本的な仕組みです。

「第三者」との関係で問題になる

登記をしないまま時間がたつと、同じ不動産について、あとから利害関係を持つ人(第三者)が現れることがあります。そのとき、登記のない権利者は、その第三者に向かって自分の権利を主張できない場面が生じます。「当事者の間では有効」であっても安心はできない、というのが対抗要件という仕組みの注意点です。

もっとも、ここでいう「第三者」は、はじめに書いた「当事者以外の人」のすべてを指すわけではないと考えられています。これまでの裁判所の考え方では、当事者やその相続人などを除いたうえで、「登記がないことを主張することに正当な利益がある人」を指すものとされてきました。その不動産について何の権利も持たない人まで広く含むわけではない、という整理です。

とはいえ、どのような人がその「正当な利益がある人」に当たるかは、その人の立場や事情によって判断が分かれる難しい問題です。実際に権利を争う相手がいる場面での見通しの判断は、弁護士にご相談ください。

なお、第三者をめぐる条文では、事情を知っていたかどうかを表す「善意・悪意」という用語もよく登場します。意味はこちらの記事で解説しています。ただし、民法177条の「第三者」に当たるかどうかは、事情を知っていたかどうかだけで決まるわけではありません。

「対抗要件」と「登記の申請義務」は別の話

ここまでは、登記がないと第三者との関係でどうなるかという民法上の効果の話です。これとは別に、不動産登記法は、一定の場合に登記の申請そのものを義務づけています。

相続によって不動産の所有権を取得した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項。2024年4月1日施行)。また、所有権の登記名義人は、氏名・名称または住所に変更があったときは、その変更があった日から2年以内に、変更の登記を申請しなければなりません(同法76条の5。2026年4月1日施行)。正当な理由がないのにこれらの申請を怠ったときは、過料の対象になります(同法164条1項・2項)。

対抗要件」は「登記がなければ第三者に主張できない」という当事者と第三者との間の問題であり、申請義務は「期限内に登記を申請しなければならない」という手続上の義務です。両者は別の次元の話ですが、いずれにしても、「当事者の間では有効だから登記をしないままでよい」ということにはならない点に注意してください。

※この記事は、執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。

まとめ

「対抗することができない」は「無効」ではなく、「当事者の間では有効だが、第三者には権利を主張できない」という意味です。民法177条は、不動産の権利について登記をその「対抗要件」と定めています。条文で見かけたら、「(当事者以外の人に向かって)主張して認めさせることができない」と読み替えるのがコツです。不動産の登記手続きについて分からないことがあるときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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