この記事の要点

  • 「無効」ははじめから効力がない状態。取り消しの意思表示をするまでもない
  • 「取り消すことができる」は、取り消すまでは一応有効。取り消して初めて、はじめから無効だった扱いになる(民法121条)
  • 取消しには「誰が取り消せるか」と「いつまで取り消せるか」の制限がある(民法120条・126条)

契約や遺言をめぐる話し合いの場では、「あの契約は無効だ」「あれは取り消せるはずだ」という言葉が飛び交います。日常の会話ではどちらも「なかったことにする」くらいの意味で使われますが、法律の条文では、はっきり区別して書き分けられています。結論から言うと、はじめから効力がないのか、それとも取り消すまでは有効なのかが出発点の違いです。

条文は「無効とする」と「取り消すことができる」で書き分けている

まず、条文の言い回しを見比べてみます。

  • 民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」
  • 民法3条の2「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」
  • 民法5条2項(未成年者が法定代理人の同意を得ずにした行為について)「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」
  • 民法9条「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。」(日用品の購入など日常生活に関する行為は除かれます)

「無効とする」と書かれているものは、その時点で効力が生じていません。誰かが「取り消す」と言わなくても、はじめから効力がない状態です。

これに対して「取り消すことができる」と書かれているものは、取り消されるまでは一応有効に扱われます。取り消すかどうかを決めるのは、取り消せる立場の人です。判断能力が十分でない状態でされた契約については、実家の売却と「意思能力」の話とも重なる場面です。

なお、成年後見の制度そのものについては、令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)によって、後見と保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化する見直しが決まっています。施行日は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、この記事の時点(2026年8月)ではまだ施行されていません。以下の説明は、現在効力のある民法の条文にもとづくものです。

取り消すと「はじめから無効」になる

では、取り消した後はどうなるか。民法121条は「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。」と定めています。取り消しの効果は、取り消した時点から先だけでなく、さかのぼって及ぶということです。

ここで「みなす」という言葉が使われている点にも意味があります。この言い回しについては「みなす」と「推定する」の違いで詳しく触れています。

結果として無効と同じ状態になるのなら、区別する意味はどこにあるのか。違いが出るのは、そこに至るまでの道のりです。

分かれ目は「誰が」「いつまで」

取消しについては、「誰が取り消せるか」と「いつまで取り消せるか」が、民法の条文にはっきり定められています。

誰が取り消せるか(民法120条)──行為能力の制限による取消しは、制限行為能力者本人やその代理人、承継人、同意をすることができる者に限られます。錯誤・詐欺・強迫による取消しも、その意思表示をした本人やその代理人・承継人に限られます。関係のない第三者が横から「あれは取り消しだ」と言える仕組みにはなっていません。

いつまで取り消せるか(民法126条)──取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないと時効によって消滅し、行為の時から20年を経過したときも同様とされています。つまり、取消しには時間の区切りがあります。

では、無効の場合はどうでしょうか。条文には、取消しの民法120条にあたるような「主張できる人」の定めが置かれていません。もっとも、だからといって「無効なら誰でも主張できる」と言い切れるかどうかは、無効とされる理由によって考え方が分かれます。公の秩序又は善良の風俗に反する行為の無効(民法90条)のように、誰からでも主張できると考えられているものがある一方で、意思能力を欠いた状態でされた行為の無効(民法3条の2)については、判断能力が十分でなかった本人を守るための決まりであることから、本人の側からのみ主張できると考える見解が有力です。この点は条文に書かれておらず、解釈に委ねられている部分です。無効か取消しかという入口の違いに加えて、こうした場面ごとの違いもあるとご理解ください。

無効と取消しの違いは、追認(後から認めること)の扱いにも表れます。民法119条は「無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。」と定めています(無効であることを知って追認したときは、新たな行為をしたものとみなされます)。無効なものを後から「やっぱり認めます」と言って生き返らせることは、原則としてできない仕組みです。

まとめ

「無効」ははじめから効力がない状態、「取り消すことができる」は取り消すまでは有効で、取り消して初めてはじめから無効だった扱いになります(民法121条)。そして取消しには、取り消せる人の範囲(民法120条)と、5年・20年という期間の制限(民法126条)があります。条文が「無効とする」と書いているか「取り消すことができる」と書いているかは、その先の進め方を左右する手がかりです。

もっとも、目の前の契約や遺言が実際にどちらにあたるのかは、当時の状況や証拠によって判断が分かれるところです。気になる場面に心当たりがあるときは、早めにお近くの司法書士や弁護士にご相談ください。期間の制限がある話でもありますので、迷っている間に選べる道が狭くなることがあります。

参考資料

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