「善良な管理者の注意」と「自己の財産におけるのと同一の注意」の違い──相続の条文で読む注意義務の重さ

この記事の要点 民法で、人に注意を求める基準としてよく出てくる言い回しが2つある。「善良な管理者の注意」が重い基準、「自己の財産におけるのと同一の注意」が軽い基準 相続の条文では、相続人が遺産を管理するとき(918条)や相続放棄のあとに財産を保存するとき(940条)に軽い基準が、遺言執行者(1012条3項→644条)には重い基準が使われている 軽い基準には「自己の財産に対するのと同一」「固有財産におけるのと同一」など言い回しの揺れがあるが、どれも「自分(自分の財産)と同一の注意」という同じ形の言葉になっている 民法を読んでいると、「善良な管理者の注意をもって」「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」という決まり文句に出会います。どちらも「きちんと気をつけて扱いなさい」という意味に見えますが、法律の世界では求められる注意の重さが違う2つの基準です。結論から言うと、前者が重い基準、後者が軽い基準です。 ...

2026年10月26日 · ひぐらしさとし

「代理」「代表」「使者」の違い──民法99条・会社法349条と登記の委任状で読み分ける

この記事の要点 「代理」は、代理人が自分で意思表示をし、その効果だけが本人に及ぶしくみです(民法99条1項)。登記の委任状に受任者として名前が載る司法書士は、登記の申請手続きについての代理人です この記事で取り上げる「代表」は、会社などの法人の代表です。会社法349条は取締役・代表取締役について株式会社を「代表する」と書き、支配人について「会社に代わって」と書く会社法11条とは言葉を使い分けています。委任状では「○○株式会社 代表取締役△△」として申請人の側に立ちます 「使者」は、本人が決めた内容を伝える・届けるだけの役割を指す講学上の言葉で、民法や会社法に定義した条文はありません。代理人との分かれ目は、内容を決めているのが誰かです 登記を司法書士に依頼するときの委任状には、「委任者 ○○株式会社 代表取締役△△」と「受任者 司法書士□□」という二つの肩書が並びます。似た言葉ですが、会社法や不動産登記令の条文では「代表」と「代理」が書き分けられています。さらに、書類を窓口へ届けるだけの人は、どちらにもあたらない「使者」として整理されます。三つの違いは、誰が内容を決めているか、誰の行為として扱われるかで読み分けると整理しやすくなります。なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の条文に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月18日 · ひぐらしさとし

「推定相続人」「法定相続人」「共同相続人」の違い──民法の条文に「法定相続人」は出てこない【相続の条文で解説】

この記事の要点 民法の条文は、相続が始まったあとに実際に相続する人を「相続人」、相続が始まる前の段階で「相続が開始した場合に相続人となるべき者」を「推定相続人」(民法892条のかっこ書きで定義)、相続人が複数いるときのそれぞれを「共同相続人」と使い分けています よく聞く「法定相続人」という言葉は、民法にも相続税法にも出てきません(2026年10月時点のe-Gov法令検索の現行条文の全文で確認)。民法900条の見出し「法定相続分」、不動産登記規則247条の「法定相続情報」、国税庁の案内の「法定相続人の数」のように、周辺で使われている言葉です 相続税法15条の基礎控除で数える「相続人の数」は、相続放棄をした人がいても放棄がなかったものとして数えます。相続放棄をした人を「初めから相続人とならなかったものとみなす」民法939条とは数え方が違うので、同じ「相続人」でも、どの法律の条文で数えているかを確かめることが大切です 相続の説明では「法定相続人」という言葉がよく使われます。ところが、民法の相続のきまり(第五編)の中で相続人を定めている章(第二章)の見出しは「相続人」で、その条文を読んでも「法定相続人」という言葉は出てきません。この記事では、民法が使い分けている言葉のうち「相続人」「推定相続人」「共同相続人」の三つを取り上げます。それぞれが何を指すのかを、条文の文言で確かめます(執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です)。 ...

2026年10月14日 · ひぐらしさとし

「別段の定めがある場合を除き」「別段の意思を表示したときは」とは──条文の原則を変えられる「別段」の読み方【遺言・登記の条文で解説】

この記事の要点 条文の「別段」は「特に異なる、特別の」という意味で、条文が置いた原則を、別の決め方で置き換えてよいとあらかじめ認める受け皿の言い回しです。「法令に別段の定めがある場合を除き」なら法令の別の規定(同じ法律の他の条文や、別の法令)が、「定款に別段の定めがある場合を除き」なら会社の定款が、「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」なら遺言者の意思が、条文の原則より優先します 誰が原則を変えられるのかは、「別段」の直前に置かれた言葉(法令に/定款に/遺言者がその遺言に)で決まります。遺言の条文に多い「別段の意思」は、遺言者が遺言の中で表示した意思を指しています 民法91条は「別段」ではなく「異なる意思を表示したときは」という言い回しで、当事者の取り決めで変えられる規定(任意規定)の一般ルールを定めています。逆に、遺留分の侵害額の請求(民法1046条)や遺留分の放棄(1049条)の条文には受け皿がなく、侵害額をお金で請求できる仕組みや、相続開始前の放棄に家庭裁判所の許可を求める仕組みから、遺言者が一方的には変えられないと読み取れます 条文には、原則を書いたうえで、「別の決め方があればそちらに従う」という逃げ道をあらかじめ用意しているものがあります。その合図になるのが「別段」という言葉です。同じ項の中で例外を作るただし書や、別の条文を名指しして原則を上書きする「〜の規定にかかわらず」とは、少し役割が違います。遺言と登記の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です)。 ...

2026年10月10日 · ひぐらしさとし

「親等」の数え方──「四親等内の親族」「直系尊属」はどこまで? 直系・傍系・尊属・卑属を読み分ける【民法725条〜727条】

この記事の要点 親等は「親族間の世代数」で数える(民法726条1項)。親と子のあいだが一親等で、親子関係を1つたどるごとに1ずつ増える 兄弟姉妹やおじ・おば、いとこのような「傍系」は、共通の祖先までいったんさかのぼり、そこから下る世代数を合計して数える(同条2項)。兄弟姉妹は二親等、おじ・おば・甥・姪は三親等、いとこは四親等 民法が親族と呼ぶのは「六親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族」(725条)。養子は縁組の日から養親とその血族のあいだで血族と同じ親族関係になる(727条) 法律の条文には、「四親等内の親族」「直系尊属」「三親等内の傍系血族」といった言葉がたびたび出てきます。結論から言うと、親等とは親族のあいだの世代の数のことで、直系・傍系はタテ・ヨコの区別です。「直系尊属」は父母・祖父母など自分より上の世代の直系の親族、「直系卑属」は子・孫など下の世代の直系の親族を指します。これらの言葉と親等の数え方を押さえれば、「四親等内」「直系尊属」が誰を指すのかは条文から読み取れます。 ...

2026年10月6日 · ひぐらしさとし

「申請」「申立て」「届出」「請求」の違い──登記は申請・裁判所は申立て・役所への知らせは届出? 働きかけを表す法律用語の読み分け【相続・登記の条文で解説】

この記事の要点 「申請」は、役所に対して許可や登記などの処分を求め、役所側が「認める・認めない」の応答をする働きかけ。行政手続法2条3号に定義があり、登記は不動産登記法16条1項で「当事者の申請」によるとされている 「届出」は、役所に一定の事項を知らせる行為で、役所の応答を求めるものではない(行政手続法2条7号)。死亡届(戸籍法86条)が代表例。「申立て」は、裁判所に審判などの判断を求める働きかけで、家事事件手続法49条1項が「家事審判の申立て」の方式を定める 「請求」は、相手に対して権利の内容を求める言葉で、相手が役所や裁判所とは限らない。遺留分侵害額の請求(民法1046条1項)が例。ただし民法には、家庭裁判所への働きかけを「請求」と書く条文もあり(民法915条1項ただし書など)、法令ごとに言葉の使い方が違う点に注意が必要 役所や裁判所に何かをしてもらうとき、法律の条文は「申請」「申立て」「届出」「請求」といった言葉を使い分けています。結論から言うと、**登記所(法務局)に登記を求めるのは「申請」、裁判所に判断を求めるのは「申立て」、役所に事実を知らせるだけなら「届出」、相手に権利の内容を求めるのが「請求」**というのが、おおまかな整理です。ただしこれは原則にすぎず、法令ごとに例外や別の言葉(「申出」「申述」「嘱託」など)もあります。以下は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月2日 · ひぐらしさとし

「さかのぼって効力を生ずる」とは──遺産分割・相続放棄・取消しの条文で読む遡及効

この記事の要点 「〜の時にさかのぼってその効力を生ずる」「初めから〜とみなす」は、あとから起きた出来事の効力を、過去の時点から生じていたものとして扱う定め(遡及効〔そきゅうこう〕) 民法909条(遺産分割)は「相続開始の時にさかのぼって」、939条(相続放棄)は「初めから相続人とならなかったものとみなす」、121条(取消し)は「初めから無効であったものとみなす」と、それぞれ書き方が違う さかのぼるといっても万能ではなく、909条のように「第三者の権利を害することはできない」というただし書で限界が置かれている条文がある 執筆時点(2026年9月)の条文に基づく一般的な解説です。 ...

2026年9月28日 · ひぐらしさとし

「以前・以後」と「前・後」の違い──その日を含むかどうかで読み分ける【民法・不動産登記法の条文で解説】

この記事の要点 「以前」「以後」は、基準となる日(時点)そのものを含む 「前」「後」は、基準となる日を含まない 「以降」も意味は「以後」と同じくその日を含むが、法令の条文では「以後」が基本形 法律の条文には、「〜以前」「〜以後」「〜前」「〜後」といった時間の区切りがよく出てきます。日常会話では「以前」も「前」もほとんど同じ意味で使いますが、条文では基準となる日や時点そのものを含むかどうかが、きっちり書き分けられています。結論から言うと、「以前」「以後」は基準の日を含み、「前」「後」は含みません。 ...

2026年9月24日 · ひぐらしさとし

「〜の規定にかかわらず」と「〜を妨げない」の違い──条文が「別ルール」と「両立」を示す言い回し【相続の条文で解説】

この記事の要点 「〜の規定にかかわらず」は、別の条文が定めた原則を脇に置いて、この条文の決め方に切り替える言い回しです。ただし書が同じ項の中で例外を作るのに対し、こちらは別の規定を名指しして、その原則を上書きします 同じ「かかわらず」でも、「〜かどうかにかかわらず」は上書きではなく「どちらであっても区別しない」という意味で、読み方が変わります 「〜を妨げない」は、この条文の定めがあっても、別の権利や手続きはそのまま使える、という両立の確認です。「〜できる」と新しく権利を与える文とは役割が違います 条文の一つの項の中にある「本文」と「ただし書」の関係は、「ただし書」「本文」「前段・後段」「柱書」とはで整理しました。今回は、別の規定を名指しして原則と例外の関係を示す言い回しを取り上げます。相続と登記の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です)。 ...

2026年9月12日 · ひぐらしさとし

「しなければならない」「することができる」「ものとする」の違い──条文の語尾で義務か任意かを読み分ける【相続登記の条文で解説】

この記事の要点 「〜しなければならない」は義務を課す書き方。相続登記の申請(不動産登記法76条の2第1項)のように、怠ると過料などの不利益がつながっていることがある 「〜することができる」は、するかどうかを本人が選べる(権利や裁量がある)書き方。相続人申告登記の申出(同法76条の3第1項)が例 「〜ものとする」は法律の中に定義がなく、原則や方針の宣言、行政側への義務付け、念押し、読み替えの指示など、いくつかの使われ方がある。読むときは「誰が主語か」「何を定めているか」を条文ごとに確かめる 法律の条文は、同じ「する」という動作でも、語尾の書き方で意味が大きく変わります。結論から言うと、「しなければならない」は義務、「することができる」は権利や選択の余地、「ものとする」は原則の宣言や念押しなどの複数の顔を持つ言い回しです。この3つを読み分けられると、「これは必ずやらなければいけないのか、やってもやらなくてもよいのか」が条文から直接読み取れるようになります。以下は、執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年9月8日 · ひぐらしさとし