この記事の要点
- 商業登記の懈怠に対する過料の根拠条文は会社法976条で、同条は第1号から第35号まで過料事由を列挙する包括規定であり、「登記を怠ったとき」は第1号に規定されている
- 過料の対象は「登記を怠ったとき」全般であり、商号変更・本店移転・目的変更・役員変更など、会社法915条1項が定める変更登記義務(原則2週間以内)を怠れば、いずれもこの条文の対象になり得る
- 過料の上限は百万円で、刑事罰ではなく行政上の秩序罰。対象になるのは会社そのものではなく、発起人・取締役・清算人など登記義務を負う個人
「役員変更登記を怠ると過料になる」という話は聞いたことがあっても、その根拠条文が何かまで意識する機会は少ないかもしれません。実はこの過料は役員変更に限った規定ではなく、商業登記全般にかかわる一本の条文(会社法976条)に根拠があります。今回は、条文の構造そのものを確認します。
会社法976条は過料事由を列挙する包括規定
会社法976条は、柱書で「発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人…(中略)…は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。」と定め、そのあとに第一号から第三十五号までの事由が列挙されています。
対象は会社という組織そのものではなく、発起人・取締役・清算人といった、登記や公告などの義務を実際に負う立場の個人です。条文の末尾の「刑を科すべきときは、この限りでない」は、同じ行為について刑罰が科されるときは過料を科さない、という趣旨です。過料は刑罰(罰金・拘禁刑等)ではなく行政上の制裁(秩序罰)とされ、前科にはなりません。
登記懈怠は第一号に規定されている
数ある事由のうち、登記に関する規定は第一号です。条文は「この法律の規定による登記をすることを怠ったとき」と定めています。この一文の対象は非常に広く、会社法が「登記しなければならない」と定めている登記が広く含まれます。
具体的にどの登記が対象になるかは、別の条文(会社法915条1項)が定めています。915条1項は「会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない」と定めており、株式会社の登記事項(商号、本店及び支店の所在場所、目的、役員に関する事項など、会社法911条3項に列挙された事項)に変更が生じた場合、原則として2週間以内の変更登記を義務づけています。
つまり、商号を変えたとき、本店を移転したとき、目的を追加・変更したとき、役員が交代・再任したとき──いずれも915条1項の「変更登記義務」の対象であり、これを怠れば976条1号の「登記を怠ったとき」に該当し、過料の対象になり得るという構造です。役員変更の過料だけが特別な規定なのではなく、商業登記の懈怠一般をカバーする条文のなかの一類型、というのが正確な位置づけになります。なお、役員の任期がいつ満了するかという実務的な数え方は取締役の任期、いつ満了か言えますかで、登記を長期間放置した場合に会社そのものがどうなるかは休眠会社のみなし解散で、それぞれ別に取り上げています。
過料は「上限」であって定額ではない
976条が定めるのは「百万円以下」という上限で、実際にいくらになるかは、裁判所が非訟事件手続として個別に決定します。条文が金額を定額で定めているわけではないので、「登記を怠ったら必ず百万円」という制裁ではありません。この点は976条に限らず、「……以下の過料」という形で上限を定める規定に共通する読み方です。
執筆時点(2026年08月)の法令に基づく一般的な解説です。
まとめ
商業登記の懈怠に対する過料の根拠は会社法976条1号「登記をすることを怠ったとき」であり、商号変更・本店移転・目的変更・役員変更など、会社法915条1項が定める変更登記義務(原則2週間以内)を怠れば、いずれもこの条文の対象になり得ます。上限は百万円ですが、実際の金額は個別事情により裁判所が判断します。ご自身の会社の登記が最新の状態か不安な場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月・いずれも一次情報です)。
- 会社法(平成十七年法律第八十六号)第911条第3項・第915条第1項・第976条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第119条・第120条(過料事件の管轄・過料についての裁判)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000051