この記事の要点
- 相続した空き家を売って利益が出たとき、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります(通称「空き家の3,000万円特別控除」、租税特別措置法35条3項)
- 耐震改修や取り壊し、売却の期限、自治体の確認書など複数の要件があり、当てはまるかどうかの判定・控除額の計算・申告は税理士の分野です
- 制度を使うかどうかにかかわらず、売る前にはまず相続登記(名義を相続人へ移す手続き)が前提になります
- 制度の詳しい要件確認や申告については、お近くの税理士にご相談ください
実家などを相続したものの誰も住まず、「そろそろ売却を考えたい」というとき、税金の話でよく耳にするのが「空き家の3,000万円特別控除」です。この記事では、制度がどのようなものかという大枠と、売却に進む前に押さえておきたいポイントを整理します。**要件に当てはまるかどうかの個別判定や、控除額・税額の計算は行いません。**それらは税理士の専門分野であり、実際に売却を検討する段階で必ず税理士にご確認ください。
この制度は何のためにあるのか
亡くなった方が一人で住んでいた家を相続した相続人が、その家(または取り壊した後の土地)を売却して利益が出た場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得の計算上、最大3,000万円を控除できる制度があります。正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といい、根拠は租税特別措置法35条3項です。
相続した家がそのまま放置されると、老朽化して周辺に危険や迷惑を及ぼす「空き家問題」につながります。この制度は、そうした空き家の発生を防ぐ観点から、相続人が早めに売却しやすくなるよう税負担を軽くする趣旨で設けられています。
制度の大枠(外形だけを整理します)
この制度には、いくつかの要件が定められています。以下は制度の外形(どのような枠組みになっているか)の紹介にとどめ、個々のケースがどの要件に当てはまるかの判定はしません。
- 対象となるのは、相続または遺贈によって取得した、亡くなった方が一人で住んでいた家とその敷地です(区分所有建物を除くなど、対象になる家屋にも条件があります)
- 家屋には建築時期に関する条件(旧耐震基準で建てられた古い家屋であることなど)があります
- 売却にあたっては、現行の耐震基準を満たすよう耐震改修を行うか、家屋を取り壊して土地だけを譲渡することが求められます
- 2024年(令和6年)1月1日以後の売却からは、売った後、その売った年の翌年2月15日までに耐震改修または取り壊しがされた場合も対象に含まれるよう要件が広がっています(買主の側で改修や取り壊しを行うケースを想定した見直しです)
- 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までという売却の期限があります
- 売却代金の額についても上限が定められています
- 適用を受けるには、自治体(市区町村)が発行する確認書など、所定の書類の提出が必要です
- この特例には適用期限があり、2026年8月時点の条文では2027年(令和9年)12月31日までの譲渡が対象とされています(租税特別措置法35条3項)
- 2024年(令和6年)1月1日以後の売却では、相続人が3人以上いる場合に控除額の扱いが1人あたり縮減される仕組みになっています
ここまでに挙げた内容は2026年8月時点で確認できる制度の外形です。税制の要件は毎年のように見直されるため、実際に売却を検討する時点での最新の要件は、国税庁ホームページまたは税理士にご確認ください。
要件が複数あり、それぞれに細かな条件が付いているため、「うちの実家は使えるのか」「いくら控除できるのか」といった個別の判断は、この記事の範囲を超えます。必ず税理士にご相談ください。
売る前にまず「相続登記」
この制度が使えるかどうかにかかわらず、相続した空き家を売却するためには、まず**亡くなった方の名義から相続人の名義へ変更する「相続登記」**を済ませておく必要があります。登記簿上の所有者でなければ、買主への名義変更ができないためです。
相続登記の流れそのものは、亡くなった父名義の家、どうやって名義変更する?相続登記の流れ で詳しく解説しています。また、相続した実家を売却するまでの全体の流れ(名義の入れ方のパターンや、譲渡所得・取得費の基本的な考え方)は 相続した実家を売りたいとき──売る前にまず「相続登記」、そして知っておきたい税金の話 にまとめていますので、あわせてご覧ください。
「持ち続ける」場合とは別の論点です
相続した空き家をめぐっては、「売る」以外に「持ち続ける(放置してしまう)」場合のリスクもあります。空き家を放置すると、空家等対策特別措置法にもとづき「特定空家」や「管理不全空家」に指定されることがあり、さらに市区町村から勧告を受けると、固定資産税の軽減(住宅用地の特例)が受けられなくなるなどの影響が生じます。この点は 空き家を相続したら──『特定空家』に指定される前に知っておくこと で整理していますので、売却か、それとも当面持ち続けるかを考えるときは、両方の記事をあわせてご確認ください。
まとめ
- 相続した空き家を売って利益が出たとき、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります(空き家の3,000万円特別控除・租税特別措置法35条3項)
- 耐震改修・取り壊し・売却期限・自治体の確認書など複数の要件があり、当てはまるかどうかの判定・控除額の計算・申告は税理士の分野です
- 制度を使うかどうかにかかわらず、売却にはまず相続登記が必要です
- 制度の詳しい適用可否や申告については、お近くの税理士にご相談ください。相続登記の手続きでお困りの場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. この制度を使うのに費用はかかりますか? 制度そのものの利用に手数料はかかりませんが、要件を満たすための耐震改修や家屋の取り壊しには当然費用がかかります。また、自治体が発行する確認書の取得や、適用可否の判定・確定申告を税理士に依頼する場合は、別途費用が発生することがあります。具体的な費用感は税理士にご相談ください。
Q. 期限はありますか?売却せず放置するとどうなりますか? この特別控除には、相続開始からの売却期限と、制度自体の適用期限(2026年8月時点の条文では2027年〈令和9年〉12月31日までの譲渡が対象)があります。期限を過ぎると使えなくなる可能性があるため、売却を考えているなら早めの相談が安心です。なお、売却せずに空き家のまま放置すると、別の問題として「特定空家」等に指定されるリスクが生じます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
Q. 自分で申告できますか?どこに相談すればいいですか? 要件に当てはまるかどうかの判定や控除額の計算、確定申告の手続きは税理士の専門分野です。まずは税理士にご相談ください。一方、売却の前提となる相続登記の手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】相続登記の完了と特例適用──登記実務からの留意点
ご注意 以下は執筆時点(2026年08月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
相続登記が未了だと、申告の土台となる書類も揃わない 本文で触れたとおり、この特例を使うかどうかにかかわらず、空き家を売却するには亡くなった方の名義から相続人の名義への相続登記が前提になります。これは売買による所有権移転登記が受け付けられるかという登記手続き上の制約であると同時に、確定申告の添付書類の面でも同じ制約が生じます。この特例の適用を受けるための確定申告では、対象の家屋・敷地を相続によって取得したことを示す登記事項証明書等の提出が求められるのが通例です。相続登記が完了していなければ、被相続人名義のままの登記事項証明書しか取得できず、相続人が取得した事実を示す書類が揃いません。売却の話が具体化してから相続登記に着手すると、遺産分割協議や必要書類(戸籍一式など)の収集に時間がかかり、自治体の確認書取得や売却期限との兼ね合いで日程が窮屈になることがあります。相続登記は早めに済ませておくに越したことはありません。
なお、2024年(令和6年)4月1日からは相続登記の申請が義務化されており、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならないとされています(不動産登記法76条の2第1項)。起算点は「相続が始まったことを知った」だけでも「不動産を取得した」だけでも足りず、その両方を知った日から数えます。この「3年」と、この特例の売却期限である「相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」は、数え方の起算点も満了日も異なります。登記の義務の期限に合わせて動いていたところ、売却の期限のほうが先に来ていた、という行き違いが起こり得るため、売却を視野に入れているのであれば、登記の期限と売却の期限は別々に管理しておくのが安全です。
共有名義で相続登記をした場合の実務上の留意点 相続人が複数いて、遺産分割協議の結果、実家を共有名義で相続登記することもあります。この特例は、適用を受けるかどうかや控除額が相続人(共有者)ごとに判定される仕組みとされており、本文で触れたとおり相続人が3人以上になると控除額の扱いが1人あたり縮減される仕組みも用意されています(家屋の建築時期など、家屋・敷地の側に付された条件は共有者に共通します)。登記実務の観点からは、共有名義にすると、その後の売買契約・所有権移転登記のいずれも共有者全員の関与が必要になる点に注意が必要です。特例の適用を検討する共有者とそうでない共有者が混在する場合、それぞれの事情(自治体への確認書申請、必要書類の準備状況など)によって手続きの進み方にばらつきが生じやすく、共有者間の連携が売却全体のスケジュールに影響します。共有名義にするか、遺産分割の段階で単独名義を選ぶかも含め、登記の進め方は早い段階で司法書士に相談しておくと、後の手続きがスムーズになります。
このように、特例の適用可否や控除額の判定そのものは税理士の専門分野ですが、その前提となる相続登記の完了時期や、共有名義にした場合の手続き上の負担は登記実務の観点から先読みできる部分です。売却を具体的に検討し始めた段階で、税理士への相談とあわせて、登記の進め方についてもお近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月・いずれも一次情報です)。
- 租税特別措置法 第35条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)(衆議院・制定法律本文): https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/21120230331003.htm
- 不動産登記法 第76条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 空家等対策の推進に関する特別措置法 第13条・第22条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000127
- 地方税法 第349条の3の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm