相続した実家や土地を売りたいとき、いきなり売買契約に進むことはできません。まず亡くなった方の名義を相続人へ書き換える「相続登記」を済ませることが、売却のスタートラインになります。

先に要点だけまとめます。

  • 登記簿上の所有者でなければ、買主への名義変更(所有権移転登記)ができないため、売却の前提として相続登記が必要です。
  • 亡くなった方から買主へ直接名義を移す「飛ばし登記」は原則できません。いったん相続人名義にしてから売るのが基本です。
  • 売って代金を分ける方法(換価分割)か、共有のまま全員で売るかで、相続登記の入れ方が変わります
  • 売却で利益が出ると 譲渡所得税 がかかることがあります(税額の計算は税理士の分野です)。

この記事では、相続した不動産を売るまでの流れと、つまずきやすいポイントを順番に整理します。


なぜ「売る前に相続登記」なのか

不動産を売買すると、最後に法務局で 買主への所有権移転登記(名義変更)を行います。このとき、売主は「登記簿に載っている所有者」である必要があります。

ところが相続した不動産は、登記簿の名義がまだ 亡くなった方(被相続人)のまま です。亡くなった方は売買契約の当事者になれませんし、登記の名義人でもあり続けています。そのため、

被相続人 → 相続人 → 買主

という順番で名義を動かす必要があり、その最初の一段が相続登記です。被相続人から買主へ一気に名義を移す「中間を飛ばした登記」は、原則として認められていません。

さらに、2024年(令和6年)4月から 相続登記は3年以内の申請が義務 になりました(不動産登記法第76条の2)。施行日より前に相続が発生していた場合も対象で、2027年(令和9年)3月末までの申請が必要です。売却するかどうかにかかわらず、相続登記はいずれ必要になる手続きです。

あわせて、相続登記そのものの進め方は 亡くなった父名義の家、どうやって名義変更する?相続登記の流れ で詳しく解説しています。


売却までの全体の流れ

おおまかには、次の順番で進みます。

  1. 相続人を確定する(戸籍を集める)
  2. 遺産分割協議で、その不動産を「誰の名義にして売るか」を決める
  3. 相続登記を申請して、相続人名義にする
  4. 不動産会社に売却を依頼する(媒介契約。買主を探す・契約条件をまとめるのは不動産会社の役割です)
  5. 売買契約・引渡しを行い、買主への所有権移転登記をする
  6. 利益が出ていれば、翌年に 譲渡所得の確定申告をする(税額計算・申告は税理士へ)

「誰を売主にするか」は2の遺産分割の段階で決めておくと、その後の登記がスムーズです。


「誰の名義にして売るか」で登記が変わる

相続した不動産を売るときの名義の入れ方には、大きく3つのパターンがあります。

① 代表者1人の名義にして売る(換価分割)

相続人のうち1人の名義に相続登記をして、その人が売却し、手取りのお金を相続人で分ける方法です。これを「換価分割(かんかぶんかつ)」と言います。

売却の窓口が1人になるため、契約や決済の手続きがシンプルになります。ただし、

  • 遺産分割協議書に「換価分割のために便宜上◯◯名義とする」旨をはっきり書いておくこと
  • そうしないと、後で分けたお金が「◯◯さんからの贈与」と受け取られ、贈与税の問題が生じるおそれがあること

に注意が必要です(協議書の書き方は深掘りで触れます)。

② 相続人全員の共有名義にして売る

法定相続分などに従って 相続人全員の共有名義 に相続登記をし、売るときは 共有者全員が売主 になる方法です。代金は持分に応じて各自が直接受け取ります。

公平でわかりやすい一方、契約・決済の場に全員が関与する必要があり、遠方の方や多人数だと日程調整が大変になります。

③ 特定の1人が相続し、その人が売る

遺産分割で「この不動産は長男が相続する」と決め、長男名義に相続登記したうえで、長男が自分の不動産として売る、というシンプルな形です。代金はその人のものになります。


注意したいポイント

  • 相続人申告登記では売れません。 期限に間に合わせる応急策として相続人申告登記という制度がありますが、これは「私は相続人です」と申し出るだけのもので、正式な名義変更ではありません。売却の前提にはならず、結局は本来の相続登記が必要です。
  • 遺産分割がまとまらないと売れません。 共有のまま一部の相続人だけで売ることはできず、全員の合意が要ります。話し合いが難航するときの進め方は相続人が5〜6人いて遺産分割がまとまらないときも参考にしてください。
  • 売却益には税金がかかることがあります。 詳しくは後半の深掘りで触れますが、税額の計算や申告は税理士の分野です。

お近くの司法書士へ

相続した不動産の売却は、「相続登記(司法書士)」「売買の仲介(不動産会社)」「税金(税理士)」と、複数の専門家が関わる場面です。なかでも 売却の前提となる相続登記 は、戸籍の収集や遺産分割協議書の作り方を含め、つまずきやすいところです。

  • 相続人が多い、戦前の戸籍までさかのぼる
  • 換価分割で、贈与税の問題が出ないように協議書を整えたい
  • 売却を急いでいて、登記を確実に・早く済ませたい

このような場合は、無理をせず お近くの司法書士にご相談ください。


まとめ

  • 相続した不動産は、売る前にまず相続登記 をして相続人名義にする必要があります。
  • 名義の入れ方は「①代表者1人(換価分割)」「②全員の共有」「③特定の1人が相続」の3パターン。
  • 相続人申告登記では売れません。
  • 売却益には 譲渡所得税 がかかることがあり、計算・申告は税理士の分野です。
  • 迷ったら お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】売却を見据えた相続登記の入れ方

ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

1. 換価分割と「便宜上の単独名義」

換価分割では、売却の便宜のために相続人の1人を登記名義人とすることが多くあります。このとき、遺産分割協議書には次のような趣旨を明記しておくのが実務上の定石です。

1. 次の不動産は、これを換価し、その売却代金から売却に要する費用を控除した
   残額を、相続人◯◯及び△△が各2分の1の割合で取得する。
2. 前項の換価のため、本件不動産は相続人◯◯が単独で相続し、その名義に
   相続登記をする。

このように「換価して分けることが目的で、登記名義は便宜上のもの」と示しておけば、売却後に他の相続人へ代金を渡す行為は遺産分割の実行であって、贈与ではないと整理できます。逆にこの記載がないと、形式上は「単独で相続した人が、他の人にお金を贈与した」ようにも見えてしまい、贈与税の問題に発展しかねません。記載の有無で税務上の評価が分かれ得る点に注意が必要です。

2. 共有名義での売却は「登記義務者が複数」になる

共有のまま売る場合、買主への所有権移転登記では 共有者全員が登記義務者 となります。決済の場面で全員の意思確認・必要書類(登記識別情報、印鑑証明書など)が必要になり、1人でも欠けると登記が進みません。遠方の相続人がいる場合は、司法書士への委任のしかたを含め、事前の段取りが重要になります。

3. 中間省略登記は原則できない

「被相続人 → 買主」へ直接移転登記をすれば登録免許税が一度で済む、と考えたくなりますが、現在の登記実務では、相続を原因とする中間省略登記(相続人名義を飛ばすこと)は原則として認められていません。いったん相続人名義の相続登記を経てから、売買による移転登記をするのが基本です。相続登記分の登録免許税(固定資産税評価額×0.4%)と、売買による移転登記分の登録免許税(本則は固定資産税評価額×2.0%。ただし土地の売買については当分の間1.5%に軽減されているほか、一定の住宅にも軽減措置があります)は、それぞれ別にかかります。

名義変更は原因によって必要書類も税率も変わります。不動産の名義変更──売買・贈与・相続・財産分与で何が変わる も参考にしてください。


【さらに深掘り】売却にかかる税金の基本(計算・申告は税理士へ)

ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の税法・通達に基づく一般的な解説です。税額の計算・申告の要否の判断は税理士の業務であり、個別の試算は提携税理士・お近くの税理士にご相談ください。

相続した不動産を売って利益(譲渡益)が出ると、その利益に対して 譲渡所得税・住民税 がかかります。仕組みの大枠だけ押さえておきましょう。

1. 譲渡所得のおおまかな計算

譲渡所得は、ざっくり次の式で考えます。

売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除

「取得費」は、その不動産を 買ったときの値段+取得にかかった費用 です。古い実家などで取得費が分からない場合は、売った金額の5%を取得費とみなす「概算取得費」が使われることがあります。

2. 取得費・取得時期は「亡くなった方の分」を引き継ぐ

相続で取得した不動産を売る場合、取得費も取得した時期も、亡くなった方(被相続人)のものを引き継ぐのが原則です(所得税法第60条第1項)。

これは税額に大きく関わります。譲渡所得は、その不動産の所有期間が 5年を超えるか(長期)/5年以下か(短期) で税率が変わりますが、この所有期間は 相続した日からではなく、亡くなった方が買った日から数える ことになります。親が何十年も前から所有していた実家であれば、相続後すぐに売っても長期譲渡として扱われるのが通常です。

3. 知っておきたい2つの特例(適用の可否は税理士へ)

相続した不動産の売却では、次の特例が使えることがあります。いずれも 要件が細かく定められており、適用できるかどうかの判断は税理士の分野です。存在だけ知っておきましょう。

  • 相続税の取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)……相続税を納めた人が、相続税の申告期限の翌日以後3年以内(おおむね相続開始から3年10か月以内)に売却した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得を圧縮できる制度です。
  • 被相続人の居住用財産(空き家)の特別控除(租税特別措置法第35条第3項)……亡くなった方が一人暮らしだった家を相続し、一定の要件を満たして売却した場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。相続人が3人以上のときは1人あたり2,000万円に縮減され、適用期限は2027年(令和9年)12月末までの譲渡とされています。耐震基準や売却期限など要件が厳格です。

これらは「使えれば税負担が大きく変わる」一方、要件を1つでも外すと適用できません。売却を考え始めた段階で、早めに税理士に相談しておくことをおすすめします。


最後に

相続した不動産の売却は、「登記 → 売買 → 税金」という流れの中で、それぞれ別の専門家が関わります。出発点となる相続登記でつまずくと、その後の売却スケジュール全体に影響します。「売りたいけれど名義がまだ亡くなった親のまま」という段階で、まずは登記の見通しを立てておくと安心です。

ご自身で進めて迷ったときは、無理せず お近くの司法書士にご相談ください。

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