「相続登記をすると登録免許税がいくらかかるんですか?」というご質問は、相続登記義務化(令和6年4月施行)以降、いっそう増えています。

通常、相続による所有権移転登記の登録免許税は 不動産の価額の0.4%(1000分の4) です。たとえば評価額1,000万円の土地なら4万円。決して安くない金額です。

ただ、あまり知られていないのですが、一定の条件を満たす土地については、この登録免許税が「ゼロ」になる免税措置があります。「えっ、そんな制度があるの?」と驚かれることが多いのですが、れっきとした法律上の特例(租税特別措置法第84条の2の2)です。

条文番号変更にご注意 本特例の条文番号は、令和8年(2026年)4月1日施行の条文整理により、「租税特別措置法第84条の2の3」から「第84条の2の2」に変更 されています。それ以前に作成された解説・申請書サンプルでは旧番号で記載されていることが多いのですが、内容は同じ規定を指します。現時点で新しく相続登記を申請する場合は、新しい条文番号「第84条の2の2」で記載してください。

今回は、相続登記義務化で改めて注目されているこの免税措置について、対象になる土地・適用期間・申請書の書き方まで整理します。

1. どんな制度か──2種類の免税が用意されている

租税特別措置法84条の2の2は、相続登記の登録免許税を免税にする規定で、大きく分けて次の2種類があります。

区分 対象 根拠
A. 中間省略型免税 相続人が登記をしないまま亡くなった場合の中間の相続登記 84条の2の2第1項
B. 100万円以下の土地の免税 価額100万円以下の土地の相続登記 84条の2の2第2項

どちらも、令和9年(2027年)3月31日までの期間限定の措置です。

ここからは、より使う機会が多い「B. 100万円以下の土地の免税」を中心に見ていきます。

2. 100万円以下の土地はどう判定するか

「100万円以下の土地」と聞くと、つい「売買価格が100万円以下の土地?」と思いがちですが、ここでいう価額は 固定資産税評価額 で判定します。

  • 市区町村役場が交付する 固定資産評価証明書 に書かれている「価格」欄の金額
  • 路線価でも、不動産業者の査定額でもない

地方の山林・原野・田畑、過疎地の宅地、都市部の旗竿地の細い私道部分、共有持分のごくわずかな割合……これらは固定資産税評価額が100万円を下回ることが珍しくありません。

共有持分の場合

共有名義の土地を相続するときは、登録免許税の課税標準が 共有持分の価額(不動産の価額×持分)となるため、免税判定もこの持分価額を基準にするのが実務上の運用です。たとえば、評価額300万円の土地を3分の1の持分で相続する場合、持分価額は100万円となり、原則としてこの免税の対象に含まれます(「100万円以下」には100万円ちょうども含まれます)。

1筆ずつ判定する

複数の土地をまとめて相続する場合でも、1筆ごとに判定します。

  • 1筆目:80万円 → 免税
  • 2筆目:120万円 → 課税(120万円×0.4%=4,800円)
  • 3筆目:50万円 → 免税

このように、同じ申請書に複数の土地を載せても、土地ごとに免税かどうかが分かれます。

3. 対象は「土地」だけ──建物は対象外

ここは見落とされがちなのですが、この免税措置は 「土地」の相続登記 だけが対象です。

  • ❌ 建物の相続登記(評価額が100万円以下でも対象外)
  • ❌ 借地権(賃借権)の相続による移転登記(条文の対象は所有権の登記であり、賃借権の登記は対象外)
  • ⭕ 土地の相続登記(100万円以下のもの)
  • ⭕ 表題部所有者の相続人としてする所有権の保存登記(100万円以下のもの)

「建物だけ古くて評価額が低い」というケースでも、建物分には登録免許税がかかります。

4. 「中間省略型免税」(第1項)も知っておくと便利

もう一方の A. 中間省略型免税 は、いわゆる「数次相続」と呼ばれる場面で活躍します。

たとえば──

祖父名義の土地が放置されたまま、父も亡くなった。父は相続登記をしないまま亡くなったので、本来は「祖父→父」「父→自分」と2回に分けて相続登記が必要。

この「祖父→父」の中間の登記──言い換えれば、亡き父を登記名義人とするための登記──には、価額の制限なく登録免許税が免税になります(土地のみ。建物は対象外)。

放っておくほど世代をまたいでしまい、登録免許税の負担も雪だるま式に増えていきますが、この特例を使えば、中間の登記分は何件あっても登録免許税がかかりません。

「気づいたら親も亡くなって、世代をまたいだまま放置されていた土地がある」というご家庭にとっては、相続登記義務化の機会に整理する追い風になります。

5. 自動では適用されない──申請書への記載が必須

この免税措置は、申請書に「免税の根拠条文」を書かないと適用されません。書き忘れると本則どおり課税されてしまいます。

申請書の「課税価格」「登録免許税」欄の付近に、たとえば次のような一文を入れます。

登録免許税 租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税

中間省略型免税であれば「第1項」と書きます。

申請を司法書士に依頼する場合は通常、この記載は司法書士側で漏れなく対応しますが、ご自身で申請する方は要注意のポイントです。

6. 相続登記義務化との関係──過料との合わせ技で考える

令和6年4月から、相続登記は3年以内に申請しないと過料10万円以下 という義務が課されています(不動産登記法76条の2、164条1項)。

「登録免許税がもったいないから後回しに……」と思っている方も多いのですが、この免税措置を活用すれば、実は登録免許税はゼロで義務を果たせる土地もあることになります。

特に、

  • 過疎地の山林・原野
  • 共有持分のごく一部
  • 都市部の私道持分

などは、固定資産税評価額が100万円以下に収まっていることが多く、「コストゼロで義務を果たせる土地」 が眠っているかもしれません。

7. 期限は令和9年3月31日──早めの確認を

両方の免税措置とも、令和9年(2027年)3月31日までの期間限定です。

実はこの特例は、令和7年度税制改正 で大きく見直されました。具体的には、第2項の対象がそれまでの「法務大臣が指定する一定地域内の土地」から「全国の土地」へ拡充(市街化区域内の土地も含む)された上で、適用期限も延長されています。これにより、都市部の私道持分や、市街化区域に取り込まれた小さな雑種地・農地でも、評価額が100万円以下であれば免税の対象になります。

再延長されるかどうかは今後の税制改正の議論次第ですが、期限内に登記してしまうのが確実です。

まとめ

  • 100万円以下の土地 の相続登記は、登録免許税が 免税(令和9年3月31日まで)
  • 数次相続の中間の登記 も、土地に限り価額制限なく 免税(令和9年3月31日まで)
  • どちらも 申請書に根拠条文を書かないと適用されない
  • 判定は 固定資産税評価額、共有持分は持分価額、複数筆は1筆ごと
  • 建物は対象外。土地 のみ

「うちの土地は対象になるかな?」と思った方は、まずは固定資産評価証明書を取り寄せて、評価額を確認してみてください。評価額が小さい土地ほど見落とされやすく、また義務化のタイミングを逃しやすいので、相続が発生したら早めに整理することをおすすめします。

制度の使い方や数次相続の整理は判断が分かれる場面も多いので、迷ったときはお近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】免税措置を取りこぼさないための登記実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

本文では制度の全体像を整理しました。以下では、登記実務の観点から、申請書類の準備・記載・還付の可否といった「取りこぼしを防ぐためのポイント」をもう一段掘り下げます。

1. 「100万円以下」の判定──固定資産税評価額のどこを見るか

本則となる登録免許税の課税標準は、「不動産の価額」(登録免許税法10条1項)として固定資産税評価額が用いられるのが実務運用です。租税特別措置法84条の2の2第2項の判定もこの価額を基準とします。注意点をいくつか挙げます。

  • 「価格」と「課税標準額」を取り違えない:固定資産評価証明書には「価格(評価額)」と「課税標準額(住宅用地特例等を反映後の額)」が並んで記載されます。免税判定で用いるのは 「価格」 です。住宅用地の特例で課税標準額が下がっていても、評価額自体は100万円を超えていれば免税は適用されません。
  • 評価証明書は申請年度のものを取得する:固定資産税の評価額は毎年4月1日に基準日が更新されます(地方税法359条)。年度をまたいだ古い証明書をそのまま使うと、申請時点で評価額が変わっている可能性があり、補正のリスクが残ります。申請する年度の証明書を取り直すのが基本です。
  • 公衆用道路(私道)の評価:固定資産税が非課税の私道は評価証明書に評価額が記載されないことがあります。この場合、登記実務では 近傍宅地の評価額に一定割合(通例30%程度)を乗じる 等の方法で価額を算出するのが一般的で、市区町村窓口に「登録免許税算定用」として近傍宅地価格の証明を依頼します。当該額が100万円以下であれば免税対象です。
  • 山林・原野・雑種地で評価がほぼゼロの土地:評価額が0円や1万円台にとどまることがあり、書類さえ揃えれば免税で確実に登記できます。むしろ過疎地ほど活用機会が多い特例です。

2. 申請書記載──書き漏れと補正、そして「事後の還付」のハードル

免税の適用を受けるためには、申請書に 根拠条文を明示した記載 が必須です(同条新設・改正に伴う法務省民事局の運用通達による)。

登録免許税 金 〇〇〇〇円
      (内訳)
      租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税

ここで実務上よくある事故が、書き忘れて本則どおり登録免許税を納付して登記が完了してしまったケースです。

登録免許税法31条には過誤納金の還付請求の制度があり、登記等を受けた日から5年以内であれば、登記官に申し出て還付通知請求ができる、という枠組みは整っています。ただし、「本来は免税要件を満たしていたのに、申請書に根拠条文を記載しなかった」というケース で還付が認められるかは、実務上ハードルが高いと考えるべきです。

なぜなら、租税特別措置法第84条の2の2の免税は 申請書への根拠条文の記載自体を要件のひとつ としていると解されるため、記載がないまま完了した登記は要件を欠いており、本則どおりの課税で登記された結果が「過誤納」と評価されにくい、という整理になりやすいからです。

つまり、書き忘れた場合の救済は不確実であり、申請前のチェックが命取りになります。電子申請でも書面申請でも同じです。司法書士に依頼する場合は、評価証明書を提示した段階で100万円以下の土地が含まれているかを確認するのが定石です。

3. 数次相続(第1項)の申請書記載例と「中間者の死亡」の立証

第1項の中間省略型免税は、よく次のような事案で活用されます。

  • 祖父Aが死亡(一次相続)、子Bが相続したが登記未了のまま死亡(二次相続)、孫Cが最終的に相続。
  • 本来は「A→B」「B→C」の2件の登記が必要。第1項は「A→B」の中間登記の登録免許税を免税にする。

申請書には次のように記載するのが一般的です。

(A→Bの相続登記の申請書において)
登録免許税 租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税

添付書類としては、通常の相続登記の書類一式(被相続人A・中間者Bそれぞれの出生から死亡までの戸籍、相続関係説明図、評価証明書、住民票除票等)に加え、中間者Bが登記をしないまま死亡したことが戸籍上明確であること が必要です。法定相続情報一覧図を活用すると、関係者の死亡時期が一覧で示せて、申請書類の整理がしやすくなります(法定相続情報証明制度。平成29年5月29日運用開始、法務省民事局通達による)。

なお、第1項の免税には金額制限がありません。評価額の高い土地の中間登記でも、要件を満たせば登録免許税は0円です。世代をまたいだ未了登記が複数筆ある家ほど、節約できる金額は大きくなります。

4. 表題部所有者の相続人としてする保存登記での適用

意外と知られていない適用場面が、不動産登記法74条1項1号 に基づく所有権保存登記(表題部所有者の相続人その他の一般承継人による保存登記)です。

たとえば、表題登記しか入っていない(権利の登記が未了の)建物・土地で、表題部所有者がすでに死亡している場合、その相続人は自分名義で直接「保存登記」をします。この保存登記についても、土地で価額100万円以下であれば、第2項の免税が適用されます。

旧家の蔵・離れ・倉庫、相続前から放置されていた山林などで時々見かけるパターンで、こうした土地の整理を進める追い風になります。

5. 私道持分・地番不詳土地を取りこぼさない

相続登記義務化への対応で問題になりやすいのが、主たる宅地に付随する私道持分 や、地番不詳の小さな土地 の漏れです。

  • 私道持分:旗竿地の進入路、開発分譲地のアプローチ部分などは、登記簿上は別地番の土地として共有持分で所有していることがあります。母屋の登記識別情報通知だけでは把握できないことが多く、毎年送られてくる固定資産税納税通知書の課税明細や、市区町村窓口で交付される「名寄帳」で全筆を確認する必要があります。
  • 令和8年(2026年)2月2日施行の所有不動産記録証明制度(不動産登記法119条の2):本制度を使えば、被相続人名義の不動産を全国一括で照会できるため、私道持分や地番不詳の土地の発見漏れを大きく減らせる見込みです。施行後は相続登記準備の入口でこの制度を活用するのが基本になっていく可能性があります。

私道持分の評価額は単独では極めて低額(数万円〜数十万円)であることが多く、第2項の免税対象に該当する筆が複数含まれるケースが少なくありません。母屋(建物)には課税されても、付随する私道持分は登録免許税ゼロで整理できる、ということが起こります。

6. 相続関係説明図と原本還付の実務

通常の相続登記と同じく、戸籍類の原本還付を受けたい場合は 相続関係説明図 を添付します(昭和39年11月21日付 民事甲第3749号通達)。法定相続情報一覧図の写しを使えば戸籍類自体の添付を省略できるため、書類整理が大幅に簡略化されます。免税申請のときも書類運用は同じです。

ただし、第1項(数次相続中間省略型)の場合は、中間者の死亡時期と相続関係を一覧で示すために、法定相続情報一覧図を「数次」分まとめて作成しておくと、登記官の審査もスムーズになり補正リスクが下がります。


「100万円以下」「中間省略型」と聞くと小ぶりな話に見えますが、実際には 過疎地・地方都市・古い分譲地・世代をまたいだ家 で大きな効果が出る特例です。相続登記義務化と組み合わせて、評価証明書をひととおり取り寄せた段階で「免税対象筆がいくつあるか」を一度棚卸しすると、相続全体の手続コストの見通しが立てやすくなります。判断に迷うケースや書き漏れを避けたい場合は、お近くの司法書士にご相談ください。