「相続のことで司法書士に相談してみよう」と思っても、いざ予約の前になると「何を持っていけばいいの?」「お金はどれくらいかかるの?」「そもそも司法書士って何をしてくれる人なの?」と、わからないことだらけで足踏みしてしまう方は少なくありません。
この記事では、司法書士に相談する前に準備しておくとスムーズなものを、①そろえておくとよい書類、②費用のしくみ、③司法書士に頼めること・頼めないこと、の3つに分けて整理します。
最初にお伝えしておきたいのは、「全部そろってからでないと相談できない」わけではないということです。足りない書類があっても、何をどこで取ればよいかは相談の中で司法書士が案内してくれます。「準備が完璧でないから」と相談をためらう必要はありません。気負わず、手元にあるものだけでもまず持って行く、という気持ちで読んでいただければと思います。
① そろえておくとよい書類(チェックリスト)
相続の相談では、大きく分けて「不動産(土地・建物)に関する書類」「人(亡くなった方やご家族)に関する書類」「本人確認書類」「聞きたいことのメモ」の4種類があると話が早く進みます。
繰り返しになりますが、すべてそろわなくても大丈夫です。手元にあるものに、下のチェックを付けてみてください。
不動産に関する書類
- 権利証、または「登記識別情報の通知」 いわゆる「家や土地の権利を示す書類」です。昔は「権利証(登記済証)」という紙が交付されていましたが、現在は「登記識別情報の通知」という、12桁の英数字(数字とアルファベットの組み合わせ。パスワードのようなもの)が記載された書面に切り替わっています。お持ちの不動産によって、どちらか一方しかない場合もあります。 ※重要:登記識別情報の通知は、目隠しの袋とじやシール(はがすと番号が見える仕組み)をはがさずにお持ちください。この12桁の番号は、いわば不動産の「暗証番号」にあたるもので、第三者に見られない状態を保つことが大切です。
- 登記事項証明書(登記簿謄本) その不動産が今どう登記されているかを示す書類です。法務局(登記所)で取得できます。お持ちでなくても、相談の中で取り方を案内してもらえます。
- 固定資産税の課税明細書、または固定資産評価証明書 毎年春ごろに市区町村から届く「固定資産税の通知(納税通知書)」に同封されている明細書のことです。どの不動産を所有しているかの一覧として役立ちます。手元にない場合は、市区町村で「評価証明書」を取得する方法もあります。
人に関する書類
- 戸籍(戸籍謄本・除籍謄本など) 亡くなった方やご家族のつながりを示す書類です。相続では「誰が相続人になるか」を確認するために必要になりますが、どの範囲をそろえるかはケースによって変わります。まずは手元にあるものだけで構いません。
- 住民票(または住民票の除票) 住所を確認するための書類です。
- 印鑑証明書 実印が本物であることを市区町村が証明する書類です。手続きの種類によって必要になることがあります。
- 本人確認書類 運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど、ご相談に来られるご本人を確認できるものです。
聞きたいことのメモ
- 質問・気になっていることのメモ 「名義をどう変えればいいのか」「相続人が何人かいるが手続きはどう進むのか」「いつまでにやればいいのか」など、聞きたいことを箇条書きにしておくと、限られた相談時間を有効に使えます。
書類の要否や有効期限(取得から何か月以内のものが使えるか等)は、手続きの種類やご事情によって変わります。最終的な判断は個別の状況をふまえて行う必要がありますので、足りないものは無理にそろえようとせず、お近くの司法書士に確認しながら進めるのがおすすめです。
② 費用のしくみ──「三階建て」で考えるとわかりやすい
「司法書士に頼むといくらかかるの?」は、もっとも気になるところだと思います。費用の中身は、大きく3つの層(三階建て)に分けて考えると理解しやすくなります。具体的な金額は事案やご依頼内容によって変わるため、ここではしくみだけをご説明します。
一階:報酬(司法書士に支払う手数料)
司法書士の仕事に対して支払う費用です。報酬の額は事務所ごとに自由に設定できることになっており、一律の決まった金額があるわけではありません。そのため、同じような手続きでも事務所によって金額が異なることがあります。
二階:税金(登録免許税・印紙代など)
登記などの手続きには、国に納める税金(登録免許税など)や印紙代といった費用がかかる場面があります。これは司法書士の報酬とは別に、制度として必要になるお金です。
なお、**こうした税金が「いくらになるか」という具体的な計算や、軽減(安くなる特例)が使えるかどうかの判断は、税理士の業務(税理士法第52条)**にあたります。本記事では「そういう税金がかかるしくみがある」という制度の存在をお伝えするにとどめ、税額の計算には立ち入りません。具体的な税額や節税のご相談は、税理士にお尋ねください。
三階:実費(手続きにかかる実際の費用)
書類を取り寄せるための手数料、郵送代、交通費など、手続きを進めるうえで実際にかかる細かな費用です。
見積もりは「内訳」で確認を
相談の際に見積もりをもらうときは、「報酬」「税金」「実費」がそれぞれいくらなのか、内訳がわかる形で示してもらうと、何にいくらかかるのかが見通せて安心です。また、**相談自体が無料か有料か(初回相談の取り扱い)**も、予約のときにあわせて確認しておくとよいでしょう。事務所によって扱いが異なります。
③ 司法書士に頼めること・頼めないこと
司法書士には、法律で定められた業務の範囲があります。「相続のこと」とひとくちに言っても、内容によって相談先が変わります。あらかじめ知っておくと、相談がスムーズです。
司法書士に頼めること
- 登記の申請を代理してもらうこと 不動産の名義変更(相続登記など)を、ご本人に代わって法務局へ申請してもらえます。これは**司法書士の業務(司法書士法第3条)**です。
- 登記に必要な書類を作成してもらうこと 申請書や、相続人の間で取り決めた内容をまとめる書類(遺産分割協議書など)の作成をサポートしてもらえます。
司法書士には頼めない(他の専門家の役割)こと
- 税金の計算・節税の相談 → 税理士 相続税や登録免許税がいくらになるか、節税はできるかといった**税額に関する計算・判断は、税理士の業務(税理士法第52条)**です。
- 相続争い・もめ事の交渉や調停 → 弁護士 「遺産の分け方で家族の意見が割れている」「話し合いがまとまらず交渉や調停が必要」といった、**争いごとの解決は、原則として弁護士の業務(弁護士法第72条)**です。遺産の分け方をめぐって相手方と交渉したり、家庭裁判所の調停・審判を代理したりといった場面は、基本的に弁護士に依頼することになります。 (なお、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)は、争いごとの目的の価額が140万円を超えない一定の範囲で、交渉や簡易裁判所での手続きの代理ができる場合があります(司法書士法第3条第1項第6号・第7号)。ただし扱える範囲には金額などの制限があり、ご自分のケースが対象になるかどうかは個別の判断が必要です。)
つまり、「名義を変えたい・必要な書類を整えたい」という登記まわりの相談は司法書士、「税金がいくらかかるか」は税理士、「もめている・話し合いがつかない」は原則として弁護士、という整理を目安にすると、相談先選びで迷いにくくなります。ご自分のケースがどれに近いかを考えておくとよいでしょう。
なお、どこに相談すべきか自分では判断がつかないという場合でも、まずは身近な専門家に状況を話してみると、適切な相談先を案内してもらえることが多いです。相続の手続きでお困りのときは、お近くの司法書士にご相談ください。
動画でもわかりやすく解説しています
「持ち物・費用・頼めること」を、動画でも5分で整理しています。文章とあわせてご覧いただくと、相談前のイメージがつかみやすくなります。
司法書士に相談する前に知っておきたいこと|持ち物・費用・頼めることを5分で整理
【さらに深掘り】司法書士が代わりに取り寄せられる書類の範囲と、費用にあらわれる「税金」の線引き
ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
本文では「足りない書類は相談の中で取り方を案内してもらえる」とお伝えしました。ここでは一歩進んで、(A)司法書士がご本人に代わってどこまで書類を取り寄せられるのか、(B)費用にあらわれる「税金」は誰が何を担当するのか、という2つの観点から、もう少しくわしく整理します。「自分で取りに行かないといけない書類はどれだろう」という不安や、「税金の話はどこに聞けばいいのか」という疑問を、あらかじめ解消しておくための整理です。
(A)登記実務の観点──「取り寄せ方」が書類によって違う
相続登記の準備では、戸籍や住民票、評価証明書など、いくつもの書類を集める必要があります。実はこれらは、司法書士が代わりに取り寄せるときの根拠(よりどころ)が書類によって違うという、少し見えにくいしくみになっています。大きく分けると次の2つです。
1つ目は、戸籍や住民票です。 これらは、司法書士が受任した業務に必要な範囲であれば、「職務上請求」という専用の手続きでご本人に代わって取得できることがあります。職務上請求とは、司法書士や弁護士などの一定の資格者が、業務上必要な場合に限り、専用の請求書を使って戸籍や住民票を取り寄せられるしくみのことです(戸籍については戸籍法第10条の2、住民票については住民基本台帳法第12条の3などが根拠になります)。相続人が誰かを確定するために、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をたどる、といった作業は、この職務上請求の対象になりうる代表例です。
2つ目は、固定資産評価証明書や登記事項証明書です。 こちらは、上の「職務上請求」の対象ではありません。固定資産評価証明書をご本人に代わって取得する場合は、原則としてご本人からの委任状にもとづく代理取得という形になります。登記事項証明書は、そもそも誰でも手数料を払えば取得できる公開された証明書ですので、職務上請求という枠組みとは性質が異なります(登記事項証明書は、最寄りの法務局の窓口や郵送のほか、オンラインでも交付請求でき、他の法務局が管轄する不動産の分も取得できます)。
この違いは、一般の方にはなかなか見えにくいところですが、知っておくと「どの書類なら自分で取りに行かなくても任せられそうか」「委任状が必要になるのはどの場面か」のイメージがつかみやすくなります。実際の手続きでは、何をご本人に取得していただき、何を司法書士側で取り寄せるかを、最初の打ち合わせで役割分担として整理していくのが一般的です。登記審査の観点からは、集めた書類が「いつ時点のものか」「必要な範囲をカバーしているか」も確認のポイントになりますので、迷ったときは無理に全部そろえようとせず、お近くの司法書士に取得の役割分担を相談するのが安心です。
(B)税務の観点──費用の「税金」のうち、登記に直接かかる税と、税理士の領域
本文の「三階建て」の二階で、費用には「税金」が含まれる場面があるとお伝えしました。ここで一つ、混同しやすいポイントを整理しておきます。費用にあらわれる「税金」には、性質の違うものが混ざっているということです。
相続登記の場面で出てくる代表的な税金が登録免許税です。これは、登記そのものに対して国に納める税金で、登記の申請に直接ひもづいています。司法書士は登記の申請を代理する立場として、この登録免許税を登記費用の一部としてお預かりし、納付に関与することになります。見積書の「税金」の欄に登録免許税が並ぶのは、こうした理由からです。
一方で、相続税や贈与税は、相続や贈与という出来事そのものにかかる税金で、登記の申請とは別の制度です。そして、これらの**税額がいくらになるか、特例や控除が使えるか、どうすれば負担を抑えられるか、といった計算・判断は、税理士の業務(税理士法第52条)**にあたります。登録免許税についても、軽減措置が使えるかどうかの最終的な税額の判断は、税の専門家である税理士の領域です。
そのため本記事でも、具体的な税額・税率・控除額には立ち入っていません。「登記費用の見積もりに出てくる税金(登録免許税)は、登記の手続きと一体のものとして司法書士が納付に関与する」「一方で、相続税・贈与税の計算や節税の相談は税理士へ」という線引きを押さえておくと、見積書を見たときに「この税金は何の税金で、誰に聞けばいいのか」が整理しやすくなります。
税金の具体的な金額や有利・不利の判断が知りたい場合は税理士へ、もめ事の交渉や調停が必要な場合は弁護士へ、そして登記まわりの手続きや必要書類の整理については、お近くの司法書士にご相談ください。