「家や土地の名義を変えたい」──そう一言でいっても、その「理由」によって手続きの中身は大きく変わります。家を売却して買主に引き渡した、子どもに贈与した、親が亡くなって受け継いだ、離婚で財産分与を受けた。どれも登記簿上は「所有権移転登記」ですが、必要な書類も、税金も、進め方も別物です。
このコラムでは、よくある 4つの名義変更パターン(売買・贈与・相続・財産分与)を一覧にして比べてみます。「自分のケースはどれだろう」と当てはめながら読んでみてください。
そもそも「名義変更」とは
不動産(土地や建物)の所有者は、法務局にある「登記簿」に記録されています。これが世間でいう「名義」です。
家を売っても、誰かにあげても、相続で受け継いでも、登記簿の名義は自動では変わりません。新しい所有者の名前に書き換える手続きが必要で、それが「所有権移転登記」です。
そして、登記には必ず「なぜ名義が変わるのか」という理由(登記原因といいます)が記録されます。この登記原因が違うと、
- 必要な書類
- 登録免許税(登記を申請するときに国に納める税金)
- 手続きの相手方(誰と一緒に申請するか)
がガラッと変わります。
4類型の早見表
まずは全体像から。細かい話は次の章で順に見ていきますが、まずはこの表で「自分はどこに当てはまるか」だけ押さえてください。
| 登記原因 | どんな場面 | 登録免許税(土地) | 登録免許税(建物) | 申請方法 |
|---|---|---|---|---|
| 売買 | 家や土地を売り買いした | 1000分の15(軽減)/本則1000分の20 | 1000分の20(住宅用家屋の特例で1000分の3になる場合あり) | 売主と買主の共同申請 |
| 贈与 | タダで譲った/もらった | 1000分の20 | 1000分の20 | 贈与者と受贈者の共同申請 |
| 相続 | 亡くなった人から受け継いだ | 1000分の4 | 1000分の4 | 相続人の単独申請 |
| 財産分与 | 離婚に伴い分けた | 1000分の20 | 1000分の20 | 元配偶者同士の共同申請 |
※ 税率は本記事執筆時点(2026年5月)のものです。軽減措置には期限・要件があるため、申請時の最新情報を確認してください。
ぱっと見て分かるとおり、相続だけが税率1000分の4と圧倒的に安く、単独で申請できる点が特徴です。逆に、売買・贈与・財産分与は「相手方と一緒に申請する(共同申請)」という共通点があります。
① 売買による名義変更
どんな場面か
不動産を売り買いしたケースです。マイホームを売却した、中古住宅を購入した、土地を売って現金化した──どれも売買です。
登録免許税
- 土地:本則は固定資産評価額の1000分の20ですが、租税特別措置法72条による軽減で1000分の15になります(令和8年度税制改正により、適用期限が令和11年3月31日まで3年延長されました。それ以降は再延長の有無を申請時に確認してください)
- 建物:本則1000分の20。ただし、自分が住むための新築・中古住宅で一定要件を満たす場合は、住宅用家屋証明書を市区町村役場で取得することで1000分の3まで下がる特例があります
たとえば固定資産評価額1000万円の土地なら、1000分の15で15万円が登録免許税の目安です。
必要書類のざっくり感
- 売主側:登記識別情報(または権利証)、印鑑証明書(3か月以内)、本人確認資料、登記簿上の住所と現住所が違うときは住所変更登記
- 買主側:住民票
- 両者共通:売買契約書(または登記原因証明情報)、固定資産評価証明書
売主の住所が登記簿の住所と違うときは、先に住所変更登記を済ませてから所有権移転登記を行うのが原則です。これを忘れると、決済当日に法務局で止まる──というのは典型的な事例です。
進め方
通常は、買主・売主・金融機関(住宅ローンを使うとき)・司法書士が 同じ日(決済日)に一斉に動きます。
- 売買代金の支払い
- 鍵の引渡し
- 抵当権抹消登記(売主のローンを消す)
- 所有権移転登記(買主に名義を移す)
- 抵当権設定登記(買主が住宅ローンを組むとき)
これらを同日に同時並行で進めるのが「決済」と呼ばれる場面です。司法書士は、書類を当日その場でそろえ、すぐに法務局に申請を出すことで「お金は払ったのに名義は他人のまま」という事態を防ぐ役割を担います。
② 贈与による名義変更
どんな場面か
「子に家をあげた」「親から土地を譲り受けた」など、対価をもらわずに名義を移すケースです。
登録免許税
- 土地・建物とも、固定資産評価額の1000分の20
軽減措置は基本的にありません(特殊な制度を除く)。売買より割高になることが多いです。
必要書類
- 贈与者側:登記識別情報(権利証)、印鑑証明書(3か月以内)
- 受贈者側:住民票
- 共通:贈与契約書(または登記原因証明情報)、固定資産評価証明書
注意点:「贈与税」と「登録免許税」は別物
ここはとても誤解されやすい点です。
- 登録免許税:登記を申請するときに国(法務局)に納める税金
- 贈与税:もらった人に課される税金(毎年1月1日〜12月31日にもらった財産の合計が110万円を超えた場合に発生)
不動産の贈与は評価額が大きくなりやすく、贈与税のほうが登録免許税よりはるかに高額になるケースがほとんどです。「親から名義をもらった」だけのつもりでも、翌年に贈与税の申告が必要になる場合があるため、登記の前に税理士に相談してから動くのが安全です。
③ 相続による名義変更(相続登記)
どんな場面か
不動産の所有者が亡くなり、相続人が受け継ぐケースです。令和6年(2024年)4月1日からは「相続登記の申請義務化」がスタートし、相続で不動産を取得したことを知ってから3年以内に申請する義務が課されています(不動産登記法76条の2、令和3年法律第24号による改正)。
登録免許税
- 土地・建物とも、固定資産評価額の1000分の4
4類型のなかでいちばん安い税率です。たとえば評価額1000万円の土地なら4万円が目安。
さらに、
- 土地で評価額100万円以下の場合、登録免許税が免税になる特例(租税特別措置法84条の2の2第2項、令和9年3月31日までの予定。2026年4月1日の税制改正により従前の「84条の2の3」から条文番号が変更)
- 相続人がすでに亡くなっている数次相続で、中間の登記を省略して最終相続人名義に直接移す場合も一定要件で免税(同条第1項)
があります。
必要書類
相続登記は「亡くなった人ひとりが申請できない」分、集める書類がいちばん重いのが特徴です。
- 被相続人(亡くなった方)の 出生から死亡までの戸籍一式
- 相続人全員の現在戸籍
- 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
- 相続人全員の住民票
- 遺産分割協議書(遺産分割協議で決めた場合。相続人全員の実印と印鑑証明書を添付)
- 相続関係説明図
- 固定資産評価証明書
または、これらの戸籍に代えて「法定相続情報一覧図の写し」を使う方法もあります(法務局で事前に作っておくと、銀行・証券会社などでも使い回せて便利です)。
単独申請でよい
相続登記は 相続人の単独申請 でできます(不動産登記法63条2項)。亡くなった人が「申請に協力する」ことはできませんから、共同申請を要求するのは制度として無理だからです。
ただし、共同相続人が複数いて誰の名義にするかを決めるには、遺産分割協議(相続人全員の合意)が必要です。誰の名義にするかが決まらないと、登記そのものは「法定相続分どおりの共有名義」での申請になります。
「相続させる」と書かれた遺言がある場合
遺言で「○○に××を相続させる」と書かれているケースは、特定財産承継遺言(民法1014条2項)にあたり、その相続人の単独申請で名義変更ができます。
これに対して、相続人以外の人(たとえばお世話になった方)への遺贈の場合は、相続登記とは扱いが異なります。
④ 財産分与による名義変更
どんな場面か
離婚にあたって、夫婦で築いた財産を分けるケースです。「自宅を妻名義に変える」「マンションを夫が引き取る代わりに頭金分を妻に渡す」などの場面で、不動産の名義変更が必要になります。
登録免許税
- 土地・建物とも、固定資産評価額の1000分の20
贈与と同じ税率です。
必要書類
- 離婚を証する書類(戸籍謄本、離婚届受理証明書など)
- 財産分与協議書(または公正証書、調停調書、判決など)
- 引き渡す側の登記識別情報(権利証)、印鑑証明書
- 受け取る側の住民票
- 固定資産評価証明書
タイミング:離婚届「後」が原則
財産分与は、離婚が成立してから初めて発生する権利です。そのため、登記原因日付(登記簿に記録される日付)も離婚成立日以後になります。
「離婚届を出す前に名義を移しておきたい」という相談はよく聞きますが、その状態で名義を移すと贈与扱いになり、贈与税の対象になりかねません。順番を間違えないことが大事です。
なお、財産分与でも贈与税は原則かかりませんが、分与額が婚姻中に築いた財産の額として不相応に多い場合や、税金逃れと認められる場合は課税されることがあります。
4類型の共通注意点
最後に、どの類型でも共通して気をつけたい論点をまとめておきます。
1. 登記簿上の住所と現住所がズレていないか
引っ越しを繰り返していると、登記簿の住所が古いまま残っていることがあります。所有権移転登記の前に住所変更登記を先に済ませるのが原則です。
なお、住所変更登記は 令和8年(2026年)4月1日から義務化 されており、住所を変えてから2年以内に登記しないと過料の対象となります(不動産登記法76条の5、令和3年法律第24号)。
2. 固定資産評価証明書は最新年度のものを
登録免許税は その年度の固定資産評価額を基準に計算します。4月1日をまたぐと年度が切り替わるため、申請する時点の年度の評価証明書が必要です。
3. 共同申請の相手方と連絡が取れるか
売買・贈与・財産分与は 共同申請 が原則です。相手方の協力(印鑑証明書の用意、書類への押印など)が得られないと、登記そのものが進みません。離婚後に連絡が取りにくい、贈与した親と疎遠になっている、というケースは早めに動くのが安全です。
4. 抵当権が付いたままになっていないか
住宅ローンを完済しても、抵当権抹消登記をしないと登記簿に抵当権の記録が残り続けます。名義変更の前に抹消を済ませる必要がある場合が多いので、登記簿の現状確認は早めに行いましょう。
まとめ
| 知っておきたいポイント | ひとこと |
|---|---|
| 名義変更は「理由」で別物になる | 売買・贈与・相続・財産分与でルールが変わる |
| 登録免許税は相続がいちばん安い | 1000分の4。次が売買土地(軽減1000分の15)、贈与と財産分与は1000分の20 |
| 共同申請か単独申請か | 相続だけ単独。他は相手方が必要 |
| 税金は登録免許税だけではない | 贈与税・譲渡所得税・不動産取得税が別途絡む。登記を動かす前に税金の試算を済ませる |
| 期限のあるものに注意 | 相続登記は3年以内、住所変更登記は2年以内が義務 |
不動産の名義変更は、登記簿の見た目こそ似ていますが、入口の「理由」が違えば必要書類も税金も全く違うルートを通ります。「自分のケースは何の名義変更にあたるのか」を見極めるところから始まります。
具体的な書類のそろえ方、税金の試算、いつ動くべきかの判断は、ケースによって細かく分かれます。実際に進めるときは、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】4類型の所有権移転登記に共通する添付情報と、補正の出やすい論点
ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
ここでは、4類型の所有権移転登記が実務上どこで分かれるか、そして法務局でどのような補正(書類の不備による訂正指示)が出やすいかを、添付情報と申請方法の観点から整理します。
1. 登記原因証明情報の組み立てが、最初の分岐点
不動産登記令7条1項5号ロは、権利に関する登記の申請に「登記原因を証する情報」の提供を求めています。この情報をどう組み立てるかが、4類型でいちばん大きく違う部分です。
- 売買:売買契約書を登記原因証明情報として使うこともありますが、契約書には登記に不要な情報(手付、瑕疵担保、違約金など)が混在するため、実務では「登記原因証明情報」と題する別書面(登記に必要な事実関係に絞ったもの)を作成し、売主・買主の記名押印で済ませる方法が一般的です。
- 贈与:贈与契約書または登記原因証明情報を作成。「無償で所有権を移転する意思の合致」が読み取れる体裁が必要です。
- 相続:契約書という形のものは存在しません。その代わり、戸籍類で「死亡の事実」と「相続人の範囲」を立証し、遺産分割協議書または遺言書で「誰が承継するか」を示すという二段構えで登記原因を証明します。
- 財産分与:財産分与協議書(私署証書)、公正証書、家庭裁判所の調停調書・審判書・判決書のいずれかが登記原因証明情報になります。協議書の場合、財産分与の合意内容と離婚成立日の特定が要点です。
2. 印鑑証明書「3か月以内」のルールはどこから来ているか
売買・贈与・財産分与(共同申請型)では、登記義務者(名義を渡す側)の印鑑証明書を添付します。「作成後3か月以内のもの」という縛りは、不動産登記令16条3項に根拠があります。
期限切れになった印鑑証明書を抱えたまま手続きが長引くと、申請日までに再取得が必要になります。「決済の3週間前に取った印鑑証明書を、決済が延びて4か月後の申請でそのまま使った」というのは典型的な補正事由です。
なお、相続登記の場合は、相続人全員が登記権利者の立場で単独申請するので、登記義務者側の印鑑証明書は不要です。代わりに、遺産分割協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書が必要になります(こちらは原則「3か月以内」の制限はありませんが、金融機関の手続き等で揃える証明書の有効期限と整合させて運用する場合があります)。
3. 登記識別情報(権利証)を出せないときの3つのルート
売買・贈与・財産分与のような共同申請では、登記義務者が登記識別情報(または昔の「登記済証=権利証」)を提供するのが原則です(不動産登記法22条本文)。これを紛失した、見当たらない、というときには次の3つのルートが用意されています(同条ただし書、同法23条)。
- 事前通知:法務局が登記義務者宛に「申請が出ています、間違いありませんか」という通知を書留で送り、登記義務者が2週間以内に回答書を返送して本人確認とする方法。
- 資格者代理人による本人確認情報:司法書士が登記義務者と面談・身分証確認を行い、「本人に間違いありません」という本人確認情報を作成・添付する方法。
- 公証人の認証:公証人が登記義務者に面談して認証する方法。
実務では2の本人確認情報を使うケースが多く、決済日当日に登記識別情報の紛失が発覚しても進められるよう、決済前に必ず登記識別情報の所在を確認します。
4. 「決済日」に何件もの登記が同時に動く理由
売買決済の場面では、しばしば次のような複数の登記申請が同じ日に走ります。
- 売主の 抵当権抹消登記(残ローンを完済して抵当権を消す)
- 売主から買主への 所有権移転登記
- 買主の 抵当権設定登記(新たな住宅ローンに伴う)
この3件は、法務局に同時に申請して連件処理するのが原則です。受付番号が連番になることで、「移転は完了したのに新しい抵当権がついていない(または前の抵当権が残ったまま)」という空白が生じないようにする運用です。
司法書士は、当日の銀行決済の場(金融機関の応接室など)で書類を完備し、その場で法務局へ電子申請する流れが一般的です。決済が午後早めに終わる時間帯設定になっているのは、当日の法務局受付時間内に申請を完了させる必要があるからです。
5. オンライン申請の浸透と、相続登記の事情
不動産登記法18条はオンライン申請を認めており、現在は司法書士が代理する案件のほとんどがオンライン申請です。ただし、
- 売買・贈与・財産分与:当事者の電子委任状+司法書士の電子署名で、完全オンライン申請が可能
- 相続:戸籍の電子化対応が段階的に進んでいる過渡期で、戸籍類は紙で原本還付請求する「半オンライン申請」(オンライン申請+紙原本の追完)が現在の主流です
法定相続情報一覧図の写しを使うと、戸籍を毎回原本還付させる手間が省ける場面があります。
6. 4類型ごとの「補正が出やすいポイント」
法務局の審査で補正(不備の訂正指示)が出やすい論点は、類型ごとに傾向があります。
| 類型 | 出やすい補正 |
|---|---|
| 売買 | 登記原因日付の誤り(契約日と引渡日のどちらにすべきか)、印鑑証明書の3か月超過、登記簿上の住所と現住所のズレ |
| 贈与 | 登記原因証明情報での贈与の意思の記載不足、登記原因日付と贈与税申告の基準日の不整合 |
| 相続 | 戸籍の連続性の欠落(特に転籍をまたぐ古い戸籍)、遺産分割協議書の押印・印鑑証明書の不備、相続関係説明図の記載漏れ |
| 財産分与 | 登記原因日付が離婚成立日より前になっている、財産分与協議書の物件の特定不足(地番・家屋番号の表示誤り) |
これらは申請前の点検で防げる類のものですが、書類が増えるほど見落としが起きやすくなります。
7. 登録免許税の納付方法
登録免許税は、現金納付(領収証書添付)が原則です(登録免許税法21条)。3万円以下の場合は収入印紙による納付も法律上認められており(同法22条)、不動産登記の実務では3万円を超える場合についても収入印紙による納付が広く運用されています。オンライン申請の場合は、**電子納付(インターネットバンキング・ATM)**が広く使われています。
なお、登録免許税の計算根拠となる固定資産評価額は、毎年4月1日からの年度で切り替わるため、3月末から4月初めにかけては、申請日が年度をまたぐかどうかで税額が変わる場合があります。
4類型はいずれも「所有権移転登記」というラベルですが、登記原因証明情報の組み立て・添付情報・申請方法のいずれも、別物として扱う必要があります。書類1点の欠落で申請が止まり、決済全体に影響することもあるため、進め方が固まりきらないうちから、お近くの司法書士にご相談ください。