この記事の要点

  • ペットは法律上「物」として扱われ、相続人にも受遺者(遺贈を受ける人)にもなれない
  • ペットの世話をお願いしながら財産を渡す方法には、負担付遺贈・負担付死因贈与・ペット信託の3つがある
  • どの方法も「元気なうちに」お世話をお願いする人・団体と話し合い、書面で内容を確定しておくことが前提になる

結論から言うと、ペットに直接財産を残すことはできません。ペットは法律上「物(動産)」として扱われ、財産を受け取る権利の主体にはなれないためです。もっとも、「自分が亡くなった後もペットの世話を続けてほしい」という希望をかなえる仕組み自体は複数用意されています。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。

なぜペットは相続人になれないのか

相続人になれるのは、配偶者や子・親・兄弟姉妹など「人」に限られます。ペットは民法上「物」の一種である動産として位置づけられており、財産を承継する側(権利義務の主体)にはなれません。「愛犬に自宅を相続させる」「愛猫を受遺者にする」といった内容の遺言を書いても、ペット自身が財産の名義人になることはできない、という点がまず出発点になります。

そこで実務上は、「ペットに直接残す」のではなく、「ペットの世話を引き受けてくれる人に、世話をすることを条件として財産を渡す」という形が取られます。その方法として代表的なのが、次の3つです。

方法1:負担付遺贈

遺言で「この財産を渡す代わりに、ペットの世話をしてほしい」という条件(負担)を付ける方法です。民法1002条1項は、負担付遺贈を受けた人は、遺贈された財産の価額を超えない範囲でのみ、その負担した義務を履行する責任を負うと定めています。

遺言だけで完結できる手軽さがある一方、制度上の限界も知られています。遺贈は遺言者の一方的な意思表示であるため、受け取る側(受遺者)は遺贈を放棄することができます。また、いったん受け取った後に世話の負担が実際に果たされているかどうかを、亡くなった本人が確認することはできません。

もっとも、負担が果たされなかった場合については、民法1027条に手当てが置かれています。負担付遺贈を受けた人がその負担した義務を履行しないときは、相続人は相当の期間を定めてその履行の催告をすることができ、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる、という仕組みです。「何の手当てもない」わけではない、という点はおさえておいてよいと思います。

ただし、条文はあくまで「催告をすることができる」「請求することができる」と定めるものであり、放置していても自動的に是正される仕組みではありません。誰が世話の状況を確認し、必要になったときに実際に催告や請求をする役割を誰が担うのか、といった点まで含めて考えておく必要があります。この設計は個別の事情によって変わってきますので、実際に負担付遺贈を検討する際は、お近くの司法書士にご相談ください。

方法2:負担付死因贈与

「自分が亡くなったら財産を渡す」という贈与契約を、生前に受け取る側と結んでおく方法です。死因贈与は遺贈とどう違うのかという点でいうと、遺贈と違い贈与契約であるため、あらかじめ受け取る側の合意(受諾)を得たうえで内容を確定できる点が特徴です。契約という双方の合意に基づく点で、遺言による一方的な負担付遺贈とは性質が異なります。

死因贈与にも民法上の遺贈に関する規定の一部が準用されるとされており、内容の設計には遺贈と共通する検討事項があります。契約書の作成段階から、想定する負担の内容や引き渡し方法を具体的に詰めておくことが重要です。

方法3:ペット信託

信託の仕組みを使い、ペットの世話にあてる財産をあらかじめ切り分けて管理する方法です。財産を託す人(委託者)が、財産の管理を任せる人(受託者)との間で信託契約を結び、その財産から生じる利益がペットの世話をする人(飼育者)に世話の対価として渡るよう設計します。飼育者への財産の直接的な引き渡しではなく、信託契約に基づいて世話の実施に応じた形で財産が使われる仕組みにできる点が、負担付遺贈・負担付死因贈与とは異なります。

信託契約書の設計そのものは、家族信託(民事信託)の応用として司法書士が関与できる業務の範囲に含まれます。誰を受託者にするか、飼育者への支払い方法をどう設計するか、信託の終了条件をどう定めるかなど、検討事項は多岐にわたります。

まとめ

ペットは法律上「物」であり、相続人にも受遺者にもなれません。ペットの世話を条件に財産を残す方法としては、遺言による負担付遺贈、生前の契約による負担付死因贈与、財産管理の仕組みを使うペット信託の3つがあります。それぞれ効力の発生時期や履行確保の仕組みが異なるため、どの方法が自分の状況に合うかは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 費用はどれくらいかかりますか? 遺言書の作成、死因贈与契約書の作成、信託契約書の作成のいずれも、公正証書にする場合は公証人の手数料がかかるほか、専門家に依頼する場合は別途費用がかかります。方法や財産の内容によって金額は大きく変わるため、具体的な見積もりはお近くの司法書士にご相談ください。

Q. 何も決めずに亡くなった場合、ペットはどうなりますか? 何の取り決めもないまま亡くなると、残された家族や周囲の人が事実上ペットを引き取る形で対応することが多くなります。ですが、誰が世話をするか、そのための費用をどう賄うかが決まっていないと、ペットの世話が滞ったり、引き取り手が見つからなかったりするおそれがあります。元気なうちに方法を決めておくことが、ペットのためにも重要です。

Q. 自分たちだけで進められますか? 負担付遺贈・負担付死因贈与・ペット信託のいずれも、内容の設計を誤ると、負担が実際に履行されない・財産の使い道をめぐって争いになるといった事態につながりやすい分野です。書面のひな型はインターネット上にも存在しますが、ご自身の財産状況やお世話をお願いしたい相手との関係に合わせた設計が必要になるため、お近くの司法書士にご相談されることをおすすめします。

【さらに深掘り】ペット信託の契約設計にみる実務上の分かれ目

ご注意 以下は執筆時点(2026年08月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

ペット信託は、財産を託す人(委託者)と、財産の管理を任される人(受託者)との間で信託契約(信託法3条1号)を結ぶことで成立します。信託契約は委託者と受託者の合意によって効力を生じるため、負担付遺贈のように「遺言者の一方的な意思表示」ではなく、受託者になる人が内容を了解したうえで契約を結ぶ点が出発点になります。

設計上の分かれ目になりやすいのが、財産を管理する人(受託者)と、実際にペットの世話をする人(飼育者)を分けられるという点です。受託者は必ずしも自分でペットを世話する必要はなく、信託契約の中で「飼育費用をどのタイミング・どういう条件で飼育者に渡すか」「飼育状況をどう確認・報告してもらうか」を具体的に定めることで、財産の管理と日々の世話を役割分担する設計にできます。受託者には信託財産を自分の財産と分けて管理する義務(信託法34条)や、委託者・受益者から求められたときに信託事務の処理の状況を報告する義務(同法36条)が課されるため、これらの義務をどう果たしてもらうかが契約書作成の実務上の検討事項になります。

負担付遺贈との使い分けは、次のような軸で検討されることが多い論点です。

  • 手続きの軽さと確実性のどちらを優先するか:負担付遺贈は遺言のみで完結できる手軽さがある一方、受遺者は遺贈を放棄でき、世話の履行を遺言者本人が生前に確認しておく形にはなりません。ペット信託は契約段階で受託者・飼育者・費用の使途を具体的に取り決められる分、契約書の作成に相応の検討時間とコストがかかります。
  • 世話が想定される期間の長さ:短期間の引き渡しで済む見込みか、ペットの寿命まで継続的な財産管理が必要かによって、単発の負担付遺贈で足りるか、期間を通じた財産の分別管理を前提とするペット信託が向くかが変わってきます。
  • 受託者を引き受けてくれる人・法人があるか:ペット信託は受託者の存在が前提になるため、信頼できる受託者候補がいるかどうかが設計の出発点になります。

どちらの方法を選ぶ場合も、財産を渡す相手・世話をお願いする相手との事前の話し合いと、書面での取り決めが欠かせません。信託契約書の具体的な条項設計は、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】負担付遺贈・負担付死因贈与でペットの世話を託す場合の税務上の論点

ご注意 以下は執筆時点(2026年08月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

負担付遺贈・負担付死因贈与によってペットの世話を条件に財産を受け取る人(受遺者・受贈者)は、その財産について通常の相続税の課税対象になります。相続税法1条の3第1項1号は、相続税の納税義務者となる「遺贈」に死因贈与を含める扱いを定めており、負担付死因贈与で財産を受け取る場合も、負担付遺贈と同様に相続税の枠組みで扱われるのが一般的な理解です。財産そのものの評価は、通常の相続税評価(財産評価基本通達に基づく評価)の考え方によることになります。

一方、負担付遺贈があった場合の課税価格について、相続税法基本通達11の2-7は、負担付遺贈により取得した財産の価額を、負担がないものとした場合の財産の価額から負担額(遺贈のあった時において確実と認められる金額に限る)を控除した価額によるものとしています。ペットの世話という負担をこの「確実と認められる金額」としてどう金銭的に評価できるかは、負担の内容や財産の性質によって判断が分かれやすい論点です。また、ペット信託を利用する場合は、信託の受益者を誰に設定するかによって課税関係の考え方が変わってきます。委託者自身が受益者となる設計であれば信託設定時点で新たな課税関係が生じにくい一方、委託者以外の人を受益者とする設計にする場合は、信託受益権の取得にかかる贈与税の問題(相続税法9条の2)が論点として出てくることがあります。

これらはいずれも、どの制度を使うか・どう設計するかによって当てはめが変わる論点であり、この記事では一般的な整理にとどめます。**具体的な相続税評価額の算定や申告の要否、負担付遺贈とペット信託のどちらが税務上有利かといった個別の試算・比較は、税理士法52条により司法書士が行うことはできません。**実際に検討する際は、財産の内容と設計案を整理したうえで、税理士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい