親の判断能力が落ちてきたと感じたら──使える制度を時間軸で並べる(見守り・委任・後見・信託)

この記事の要点 見守り契約・財産管理等委任契約・任意後見契約・家族信託・銀行の代理人の届出は、どれも親本人が内容を理解して自分で決めることが前提の「契約による備え」です。判断能力が落ちるほど、新しく始めるのは難しくなります 判断能力が落ちてきた時期に新しく使い始められる仕組みとして、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業や、法定後見のうちの「補助」があります 契約の内容を理解するのが難しくなった後は、元気なうちに用意してあった備えを動かすか、家庭裁判所の法定後見を使うか、が基本の選択肢になります 親がいまどの段階にあるかを医学的に判断するのは医師です。家族の見立てだけで決めつけないことが大切です 迷ったら、介護や暮らしのことは地域包括支援センター、制度や手続きのことはお近くの司法書士にご相談ください 親の物忘れが増えた、通帳の置き場所が分からなくなることがある──そう感じたとき、子の立場で知っておきたいのは、「どの制度が、親のどの段階まで使えるのか」です。結論から言うと、契約で結ぶ備えの多くは、親本人が内容を理解して決められるうちでなければ新しく始められません。逆に、その時期を過ぎても使える仕組み(法定後見など)もあり、早めに用意しておいた備えには、判断能力が落ちてきたときに初めて動き出すものもあります。 ...

2026年10月27日 · ひぐらしさとし

経営者の生前対策チェックリスト──遺言・株・保証・後継者・登記、年に一度見直す項目

この記事の要点 経営者の生前対策は「一度つくって終わり」ではありません。遺言を書いた後に株を贈与した、後継者の候補が変わった、借入が増えた──こうした変化で、つくった対策の前提が崩れることがあります。年に一度、決まった項目を点検するのが基本です 点検する分野は大きく6つ:①遺言 ②自社株と株主名簿 ③経営者保証 ④後継者と判断能力への備え ⑤会社と個人の財産の線引き ⑥会社の登記 会社の登記には期限があります。登記した事項に変更が生じたら2週間以内に変更の登記が必要で(会社法915条1項)、怠ると100万円以下の過料の対象になりえます(会社法976条1号) 項目ごとに確認先が違います。遺言の手続き・株主名簿の点検・登記は司法書士、株の評価や税金は税理士、保証は取引金融機関(必要に応じて弁護士)、労務・社会保険は社会保険労務士、もめごとは弁護士です 次の一歩は、登記事項証明書・定款・株主名簿・遺言の控え・借入と保証の一覧を、1か所にそろえることです 経営者の方に知っておいてほしいのは、生前対策で本当に怖いのは「何もしていないこと」だけではなく、「一度やったきり、見直していないこと」でもある、という点です。結論から言うと、毎年の決算や定時株主総会の時期に合わせて、この記事のチェックリストを1回通して見る習慣をつけるのがおすすめです。 ...

2026年10月25日 · ひぐらしさとし

遺留分と事業承継の特例とは──自社株を後継者に集める「除外合意・固定合意」の入口

この記事の要点 自社株を生前贈与で後継者に集めると、相続のときにほかの相続人から遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を金銭で請求されるおそれがあります 中小企業の事業承継には、経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」があり、推定相続人全員と後継者の書面の合意で、贈与した自社株を遺留分の計算から外す(除外合意)か、その価額を合意の時点で固定する(固定合意)ことができます 合意の効力が生じるには、合意から1か月以内に後継者が経済産業大臣の確認を申請し、確認から1か月以内に家庭裁判所へ許可を申し立て、許可を受けることが必要です 対象は「生前贈与」で渡した株式等です。遺言で渡す株式は、この特例の対象ではありません 合意の内容づくりと家族間の調整は弁護士、税金は税理士、株主名簿・定款・登記は司法書士と、役割を分けて進めます 自社株を後継者1人に集中させたい経営者にとって、遺留分は「後から効いてくる」問題です。生前に株式を後継者へ贈与しておいても、経営者が亡くなったとき、ほかの相続人が遺留分を主張すれば、後継者はまとまったお金の支払いを求められることがあります。これに備える制度として、経営承継円滑化法(正式名称「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)には「遺留分に関する民法の特例」が設けられています。 ...

2026年10月23日 · ひぐらしさとし

認知症でも遺言は書ける?──遺言能力と「あとで争われない」ための備え

この記事の要点 認知症と診断されたことだけで、遺言が一律にできなくなるわけではありません。問われるのは「遺言をする時に、その内容を理解して判断できる能力(遺言能力)があったか」です(民法963条) 遺言をした時に遺言能力がなかったとされると、その遺言は無効と解されています。診断名や検査の点数だけで有効・無効が自動的に決まる仕組みは、民法には定められていません 成年後見を受けている方(成年被後見人)でも、判断能力が一時的に回復した時に、医師2人以上の立会いのもとで遺言をすることができます(民法973条) あとで争われにくくする備えの柱は、①公正証書で作る、②作成時期に近い医師の診断書などを残す、③作成のいきさつを記録しておく、の3つです 個別の遺言が有効か無効かの見通しや、争いになった場合の対応は弁護士へ、判断能力の医学的な評価は医師へ相談します 「親が認知症と診断されたけれど、今からでも遺言を作れるのだろうか」「作っても、あとで兄弟から『無効だ』と言われないだろうか」。こうした不安を持つご家族は少なくありません。結論からいうと、認知症の診断があっても、遺言をする時に遺言能力があれば、遺言をすることはできます。ただし、本人が亡くなった後に「あの時はもう判断できなかったはずだ」と争われるおそれがあるため、作り方と記録の残し方に工夫が必要です。この記事では、遺言能力の考え方と、争われにくくするための備えを整理します。 ...

2026年10月21日 · ひぐらしさとし

遺贈寄付とは──財産の一部を団体に遺す方法と、不動産を寄付するときの注意

この記事の要点 遺贈寄付とは、遺言で「遺贈」という方法を使い、亡くなったあとに財産の全部または一部を団体などに寄付することを指す呼び方です 遺贈には、財産を割合で渡す「包括遺贈」と、特定の財産を指定して渡す「特定遺贈」があり(民法964条)、受け取る団体にとっての負担が大きく違います 団体は遺贈を断ることができ(民法986条)、とくに不動産は受け入れていない団体もあるため、遺言を作る前に受け取る側への確認が欠かせません 不動産や株式などを法人に遺贈すると、値上がり分に所得税がかかる「みなし譲渡所得課税」の対象になることがあり(所得税法59条)、その申告は相続人が行うことになります。税金の判断は税理士に確認しましょう 遺贈を確実に実現するために、遺言で遺言執行者を決めておくことが大切です 遺贈寄付とは、遺言によって、自分が亡くなったあとに財産の全部または一部を、公益的な活動をしている団体などに渡すことです。「遺贈寄付」は法律の条文にある言葉ではなく、遺言による「遺贈」という仕組みを使った寄付を、一般にこう呼んでいます。 ...

2026年10月18日 · ひぐらしさとし

生前対策は何から始める?──遺言・贈与・家族信託・後見の全体マップ

この記事の要点 生前対策は「制度」から選ぶのではなく、「何が心配か・何をしたいか」から入ると迷いにくい 財産の行き先を決めたいなら遺言、元気なうちに渡したいなら生前贈与、判断能力が下がったときの備えなら任意後見・家族信託、体が弱ったときや亡くなった後の事務なら見守り契約・財産管理委任契約・死後事務委任契約が入口になる 遺言・任意後見・家族信託などは、本人に判断能力があるうちでなければ準備できない。生前対策そのものに法律上の期限はないが、「元気なうち」が実質的な期限になる 制度は組み合わせて使うこともできるが、どう組み合わせるかは家族構成や財産の内容によって変わるため、一律の正解はない 下の一覧表で自分の心配ごとに近い行を探し、詳しくはそれぞれの記事へ進んでください 「生前対策をしたほうがいいとは聞くけれど、何から始めればいいのか分からない」──そう感じたときは、まず「何が心配か」を一つ決めて、その心配に対応する制度の記事から読むのが近道です。遺言・生前贈与・家族信託・任意後見といった制度は、それぞれ得意な場面が違うため、心配ごとが決まれば読むべき記事もおのずと絞られます。 ...

2026年9月26日 · ひぐらしさとし

公益信託とは──2026年4月スタートの新制度で、財産を社会貢献に活かす

この記事の要点 公益信託とは、自分の財産を奨学金・助成・文化振興などの「公益目的」のために使ってもらう信託の仕組みです 2026年(令和8年)4月1日に新しい「公益信託に関する法律」が施行され、約100年ぶりに制度が全面的に生まれ変わりました 行政庁(内閣総理大臣または都道府県知事)の認可制になり、公益法人やNPO法人なども受託者(財産を託される側)になれることが明確になりました 信託財産は金銭だけでなく、不動産や美術品なども託せるようになりました 財団法人を作るほどの規模ではないけれど社会貢献に財産を役立てたい、という方の新しい選択肢です 公益信託とは、ひとことで言えば「自分の財産を、特定の誰かのためではなく、社会のために使ってもらう信託」です。たとえば「亡くなった後、遺産の一部を地元の学生の奨学金に役立ててほしい」「長年集めた美術品を文化振興のために活かしてほしい」──そんな希望を形にするための制度で、2026年(令和8年)4月1日から新しい法律のもとで運用が始まっています。 ...

2026年9月1日 · ひぐらしさとし

後継者を決めないまま亡くなると何が起きるか──株式分散の実例と生前にできること

この記事の要点 会社に後継者がいないまま経営者が死亡すると、株式が複数の相続人に分散し、取締役の選任すら決議できなくなることがある 一人会社では取締役がゼロになり、経営者保証・役員貸付金・死亡退職金といった「お金」の整理も同時に降りかかる 生前にできる備えとして、遺言での株式承継先の指定・計画的な生前贈与・種類株式の活用があり、事業承継税制という税の優遇制度も存在する(適用可否は税理士へ) 株式分散の実例は一般化した典型パターンの紹介にとどめる。個別の紛争解決は専門家への相談が必要 「後継者を決めないまま社長に万一のことがあったら、会社はどうなるのか」──多くの中小企業経営者が漠然と抱えながら、後回しにしがちな問いです。 ...

2026年8月30日 · ひぐらしさとし

ペットに財産は残せる?──負担付遺贈とペット信託の入口

この記事の要点 ペットは法律上「物」として扱われ、相続人にも受遺者(遺贈を受ける人)にもなれない ペットの世話をお願いしながら財産を渡す方法には、負担付遺贈・負担付死因贈与・ペット信託の3つがある どの方法も「元気なうちに」お世話をお願いする人・団体と話し合い、書面で内容を確定しておくことが前提になる 結論から言うと、ペットに直接財産を残すことはできません。ペットは法律上「物(動産)」として扱われ、財産を受け取る権利の主体にはなれないためです。もっとも、「自分が亡くなった後もペットの世話を続けてほしい」という希望をかなえる仕組み自体は複数用意されています。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。 ...

2026年8月16日 · ひぐらしさとし

帰省したら親と話したい「実家の話」──相続の話し合いの始め方

この記事の要点 お盆で家族が顔をそろえるこの時期は、実家の将来を話し合う数少ない機会 いきなり「相続」と切り出さなくてよい。「実家、この先どうする?」くらいの軽い一言で十分 話し合いを先延ばしにすると、判断能力の低下や急な入院で身動きが取れなくなることがある 今回のゴールは結論を出すことではなく、「家族で話す場を持てたこと」でよい お盆で実家に帰省し、親やきょうだいと顔を合わせる機会があるなら、それは実家の将来や相続について話し合いを始める貴重なタイミングです。とはいえ「相続の話」と聞くと身構えてしまう方も多いはず。結論から言えば、最初から結論を出す必要はありません。まずは「実家、この先どうする?」というくらいの軽い一言から始めれば十分です。 ...

2026年8月10日 · ひぐらしさとし