この記事の要点
- 内縁の妻・事実婚のパートナーには、法律上の相続権が一切ない(民法890条の「配偶者」は法律上の婚姻届を出した夫婦に限られる)
- 何も対策をしないまま亡くなると、財産は法律上の相続人(子・親・兄弟姉妹など)に渡り、内縁パートナーには当然には一切渡らない
- 遺言(遺贈)・死因贈与契約・生命保険の受取人指定・生前贈与など、生前にできる備えは複数ある
- どの方法にも一長一短があり、ほかの相続人の遺留分や税負担も考えたうえで選ぶ必要がある
- まずは今の家族関係を整理し、お近くの司法書士に相談して備えを検討するのが第一歩
長年連れ添っていても、婚姻届を出していない「内縁の妻・夫」「事実婚のパートナー」には、法律上の相続権がありません。これは、同居期間の長さや生計をともにしてきた実態とは関係なく決まるルールです。
この記事では、内縁関係・事実婚のパートナーに相続権がない理由と、財産を渡すために生前にできる対策を整理します。なお、この記事が扱うのは内縁関係にある方が亡くなった後の財産の承継についてです。内縁関係を解消するときの財産分与や慰謝料請求は、これとは別の問題であり、この記事の対象外です。そうしたお悩みがある場合は、お近くの弁護士にご相談ください。
内縁の妻・事実婚のパートナーには、法律上の相続権がありません
まず押さえておきたい結論は、内縁の妻・事実婚のパートナーは、法定相続人にはならないということです。
民法は「被相続人の配偶者は、常に相続人となる」と定めています(民法890条)。ここでいう「配偶者」は、婚姻届を提出して法律上の婚姻関係にある夫婦を指すというのが確立した考え方です。婚姻届を出していない内縁関係・事実婚のパートナーは、この「配偶者」には含まれません。
法定相続分の基本を整理した記事でも触れたとおり、法定相続人になるのは、法律上の配偶者と、子・親・兄弟姉妹など一定の血族関係にある人に限られます。内縁関係は、どれだけ実態が夫婦同然であっても、この血族関係にも当たりません。結果として、内縁の妻・事実婚のパートナーには、遺産分割協議に参加する権利も、法定相続分も、遺留分(一定の相続人に最低限保障される取り分)も生じません。
対策をしないまま亡くなると、何が起こるか
内縁のパートナーが何の対策もしないまま亡くなった場合、何が起こるのかを整理します。
- 財産は法定相続人に渡ります。 亡くなった方に子がいれば子へ、子も親などの直系尊属もいなければ兄弟姉妹へと、民法が定める順位にしたがって相続人が決まります(民法887条・889条)。内縁パートナーは、この順位にまったく登場しません。
- 同居していた自宅も対象になります。 自宅の名義が亡くなった方単独のものであった場合、その自宅も相続財産として法定相続人に引き継がれます。長年一緒に暮らしていた内縁パートナーであっても、当然に住み続ける権利が保障されるわけではありません。
- 相続人が誰もいない場合に限り、例外的な救済がある。 法定相続人が一人もいないことが確定した場合に限り、家庭裁判所に対して「被相続人と生計を同じくしていた者」などが財産の分与を求める「特別縁故者に対する相続財産の分与」という制度があります(民法958条の2)。ただし、この制度は相続人が一人でも存在する場合には使えず、家庭裁判所が「相当と認めるとき」に限って認められるものです。あらかじめ確実に財産を得られる保障ではありません。
つまり、内縁関係・事実婚を続けているだけでは、パートナーに財産を残すことはできません。財産を渡したいという意思があるなら、生前のうちに何らかの手段を用意しておく必要があります。
生前にできる主な対策
内縁パートナーに財産を渡すための代表的な方法を、4つ整理します。
1. 遺言(遺贈)
遺言によって、法定相続人以外の人にも財産を渡すことができます。これを「遺贈」といいます(民法964条)。遺言は、遺言者が一人で作成できる「単独行為」で、遺贈を受ける人(受遺者)の同意は要りません。
遺言には、全文・日付・氏名を自分で書いて押印する自筆証書遺言(民法968条)と、公証人が作成する公正証書遺言(民法969条)があります。それぞれ要件や証拠としての確実さ、費用、遺言者が亡くなった後の家庭裁判所の「検認」手続きの要否などが異なります。どちらの方式を選ぶかは、自筆証書遺言と公正証書遺言の比較で詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。
遺言はいつでも書き直せる一方、方式を誤ると無効になるリスクがあるため、内容を確実に実現したい場合は公正証書遺言を選ぶ方が多い、というのが実務の傾向です。
2. 死因贈与契約
死因贈与は、「自分が死んだら、この財産をあなたに渡す」という、あげる人ともらう人の合意による契約です(民法554条)。遺贈が遺言者一人の意思で成立するのに対し、死因贈与は契約なので、パートナー双方の合意のもとで内容を決められる点が特徴です。
法律で定められた決まった形式はありませんが、口約束だけでは後で「言った・言わない」の争いになりやすいため、契約書を作成し、できれば公正証書にしておくことが実務上は勧められます。死因贈与と遺贈の違いは、死因贈与と遺贈はどう違う?の記事で詳しく比較していますので、あわせてご確認ください。
3. 生命保険の受取人指定
生命保険の死亡保険金は、受取人として指定された人固有の権利として支払われるものであり、遺産分割の対象になる「相続財産」そのものではないと考えられています。そのため、内縁パートナーを受取人に指定しておけば、遺言の有効性や遺産分割の結果に左右されず、比較的スムーズに保険金を受け取ってもらうことができます。
ただし、保険会社によっては受取人を配偶者や一定の親族に限定している場合があり、内縁関係にあることを証明する書類(住民票の続柄や、一定期間の同居実態を示す資料など)の提出を求められることがあります。指定できるかどうかは、加入している(または検討している)保険会社に個別に確認する必要があります。
4. 生前贈与
亡くなるのを待たず、生きているうちに財産を贈与する方法です。財産が確実に相手の手に渡るという安心感がある一方、贈与税がかかる場合があり、相続税より税負担が重くなることもあります。また、生前贈与のうちの一部は、後述する遺留分の計算に算入される場合があります。遺言と生前贈与、どちらが向いているかはケースによって異なります。
(参考)養子縁組という選択肢もある
やや大きな決断になりますが、内縁パートナーを自分の養子にするという方法もあります。養子縁組をすると、養子は縁組の日から実子と同じ「嫡出子」の身分を得て(民法809条)、法律上の相続人になります。ただし、養親となるには20歳に達している必要があり(民法792条)、戸籍上の親子関係が生じるなど影響が大きい方法です。この選択肢については、後半の深掘りで詳しく整理します。
対策を選ぶときに気をつけたいこと
- ほかの相続人の遺留分に配慮する。 亡くなった方に子や親がいる場合、その人たちには遺留分という最低限の取り分が保障されています(民法1042条)。内縁パートナーへの遺贈・死因贈与・生前贈与がこの遺留分を侵害すると、遺留分権利者から金銭の支払いを求められること(遺留分侵害額請求。民法1046条)があります。全財産を渡す内容にする前に、遺留分を侵害しないかを確認しておくことが大切です。
- 複数の方法を組み合わせることが多い。 実際には、「自宅は遺言で遺贈し、預金の一部は生命保険の受取人指定で渡す」というように、複数の手段を組み合わせて備えるケースが少なくありません。
- 税負担も方法によって変わります。 詳しくは後半の深掘りで解説しますが、内縁パートナーが財産を受け取る場合、法律上の配偶者とは税務上の扱いが異なります。
まとめ
内縁の妻・事実婚のパートナーには、法律上の相続権がありません。何も対策をしないまま亡くなると、財産は法定相続人に渡り、内縁パートナーには当然には渡りません。財産を残したいという意思があるなら、遺言(遺贈)・死因贈与契約・生命保険の受取人指定・生前贈与など、生前にできる対策を組み合わせて備えておく必要があります。どの方法が自分たちに合っているかは、家族構成や財産の内容によって変わります。お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 遺言や死因贈与契約を用意するのに、費用はどれくらいかかりますか? 自筆証書遺言はご自身で作成すれば紙代程度で済みますが、内容に不備があると無効になるリスクがあります。公正証書遺言は公証役場の手数料がかかり、財産額に応じて変動します(一般的には数万円〜十数万円程度が目安とされますが、財産の内容や額によって変わります)。死因贈与契約を公正証書にする場合も同様に公証役場の手数料がかかります。専門家に文案の相談や作成のサポートを依頼する場合は、別途費用がかかります。正確な見積もりは、お近くの司法書士にご確認ください。
Q. 対策をしないまま亡くなったら、内縁パートナーは本当に何も受け取れないのですか? 原則として、遺産分割協議に加わることも、法定相続分を受け取ることもできません。例外は、法定相続人が一人もいないことが確定した場合に限り、家庭裁判所への申立てにより「特別縁故者」として財産の分与を受けられる可能性がある、という限定的な制度だけです(民法958条の2)。相続人が一人でもいる場合はこの制度は使えないため、確実な備えにはなりません。生前の対策なしに内縁パートナーへ財産を残すことは、基本的にできないと考えておくべきです。
Q. 自分たちで遺言や死因贈与契約を用意できますか? どこに相談すればよいですか? 自筆証書遺言はご自身で作成すること自体は可能ですが、方式を誤ると無効になるおそれがあるため注意が必要です。公正証書遺言や死因贈与契約の公正証書化は公証役場での手続きが必要です。どの方法が適しているか、ほかの相続人の遺留分との関係をどう整理するかなど、判断に迷う点が多い分野ですので、お近くの司法書士にご相談いただくことをおすすめします。
【さらに深掘り】内縁パートナーへの財産承継──設計手法の比較
ご注意 以下は執筆時点(2026年07月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
内縁パートナーへ財産を渡す手法にはそれぞれ性質の違いがあり、目的に応じて選ぶ・組み合わせることが重要です。主な手法を整理します。
| 手法 | 根拠 | 性質 | 主な留意点 |
|---|---|---|---|
| 遺言(遺贈) | 民法964条、968条(自筆証書)、969条(公正証書) | 遺言者単独の意思表示。いつでも撤回可能 | 方式不備で無効になるリスク。遺留分に配慮が必要 |
| 死因贈与契約 | 民法554条 | あげる人ともらう人の合意による契約 | 原則撤回可能(負担付きの場合は制限されうる)。書面化・公正証書化が望ましい |
| 生命保険受取人指定 | (保険法・保険約款) | 受取人固有の権利。遺産分割の対象外 | 保険会社ごとに指定可能な範囲の制約がありうる |
| 養子縁組 | 民法792条(養親の年齢)、809条(嫡出子の身分取得) | 法律上の親子関係を新たに創設する身分行為 | 戸籍・氏に影響。ほかの推定相続人の相続分・遺留分にも影響が及ぶ |
遺言と死因贈与の使い分け
遺言は遺言者一人の意思で足りるため、パートナーに知らせずに準備できる点が特徴です。一方、死因贈与は契約であるため、パートナーと内容をすり合わせながら進められ、負担付き(たとえば「介護を条件に」など)の設計もしやすいという違いがあります。ただし負担付き死因贈与の撤回には制限がかかる場合があります。判例は、受贈者が負担の全部(またはこれに近い程度)を履行した後は、贈与者は原則として撤回できないという立場をとっています。もっとも、負担が一部しか履行されていない場合など、この撤回制限がどこまで及ぶかについては学説上も議論のある論点であり、契約内容の設計には注意が必要です。
養子縁組は「相続人化」できる強い手法だが、影響も大きい
養子縁組をすると、内縁パートナーは養親の嫡出子の身分を取得し(民法809条)、法定相続人・遺留分権利者になります。婚姻という選択肢が使えない事情がある場合の対応策として検討されることがありますが、次のような影響がある点に注意が必要です。
- 養親となるには20歳に達している必要があります(民法792条)。
- 養子になると戸籍・氏の扱いが変わります。
- 実子がいる場合、養子縁組によって相続人が1人増えることになり、実子の法定相続分・遺留分の割合が変動します。
- 縁組を解消(離縁)するには、原則として当事者双方の協議または家庭裁判所の手続きが必要になり、遺言や死因贈与契約のように一方的に撤回することはできません。
このように、養子縁組は法律上もっとも強い効果を持つ反面、後戻りしにくい手法でもあります。安易に選ばず、家族全体への影響を踏まえて検討することが大切です。
家族信託(民事信託)という選択肢
信託法上、信託は契約・遺言・自己信託のいずれかの方法で設定できます(信託法3条)。たとえば、財産を管理する仕組みを契約であらかじめ作っておき、財産を渡す相手(受益者)に内縁パートナーを指定する、といった設計が考えられます。また、「自分が生きている間は自分が受益者、亡くなったら内縁パートナーが受益者になる」というように、受益者が順次代わる設計(受益者連続型信託。信託法91条)を利用することもできます。
もっとも、信託を使えば税務や遺留分の問題が消えるわけではありません。とくに受益者連続型信託と遺留分との関係(遺留分がどの範囲まで及ぶか、遺留分制度を潜脱するとみられる設計が無効とされないかなど)は、裁判例・学説とも見解が固まっていない未解決の論点を含みます。遺言・死因贈与と組み合わせた設計の検討も必要になる、専門性の高い分野ですので、導入を検討する場合は、司法書士に相談しながら進めることをおすすめします。
【さらに深掘り】内縁パートナーへの財産承継と税務
ご注意 以下は執筆時点(2026年07月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
内縁パートナーが財産を受け取る場合、税務上は法律上の配偶者と大きく異なる扱いを受けます。ここでは一般的な論点を整理します。個別の税額計算・申告は税理士の業務であり、この記事では行いません。
配偶者の税額軽減は使えない
相続税には、被相続人の配偶者が財産を取得した場合に大きな税額軽減を認める制度があります(相続税法19条の2)。これは、配偶者が取得した遺産のうち、法定相続分に相当する額または1億6000万円のいずれか多い金額までは相続税がかからないという特例です。
しかし、この特例が対象とする「配偶者」も、民法上の法律婚の配偶者に限られると解されています。内縁関係・事実婚のパートナーは、たとえ遺言や死因贈与によって財産を取得しても、この配偶者の税額軽減の対象にはなりません。
相続税額の2割加算の対象になる
相続税には、被相続人の一親等の血族(および代襲相続人となった直系卑属)と配偶者以外の人が財産を取得した場合、通常の相続税額に2割を加算するという規定があります(相続税法18条)。
内縁パートナーは、被相続人の血族でも法律上の配偶者でもないため、遺贈や死因贈与によって財産を取得すると、この2割加算の対象になります。同じ金額を受け取る場合でも、法律上の配偶者や子が受け取るときより税負担が重くなる、という点は押さえておく必要があります。
生命保険金の非課税枠も使えない
死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」までを相続税の課税価格に算入しない非課税枠がありますが、これは相続人が取得した保険金に限って適用されるものです(相続税法12条1項6号)。内縁パートナーは相続人ではないため、受取人として保険金を受け取っても、この非課税枠の適用はありません。受け取った保険金の全額が、相続税の課税対象として扱われます。
基礎控除の「法定相続人の数」にも入らない
相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を計算する際の「法定相続人の数」にも、内縁パートナーは含まれません。養子縁組をすれば法定相続人として数えられるようになりますが、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか算入できないという制限があります(相続税法15条2項)。
まとめ──税負担も含めて検討する
このように、内縁パートナーへの財産承継は、法律上の相続権がないことに加えて、税務上も配偶者控除が使えず、2割加算や非課税枠の対象外になるなど、法律上の配偶者・子に比べて不利な扱いを受ける場面が多くあります。どの方法で、どれだけの財産を渡すかを検討する際は、法的な手段の選択とあわせて、税負担の見通しも早めに確認しておくことが大切です。具体的な税額の計算・申告は税理士に、財産を渡す方法の選択や手続き全般については、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月・いずれも一次情報です)。
- 民法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(第554条・第792条・第809条・第887条・第889条・第890条・第900条・第958条の2・第964条・第968条・第969条・第985条・第1042条・第1046条)
- 相続税法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073(第12条第1項第6号・第15条第1項・第15条第2項・第18条・第19条の2)
- 信託法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108(第3条・第91条)
- 最高裁判所第二小法廷判決 昭和57年4月30日・民集36巻4号763頁(裁判所ウェブサイト 裁判例検索): https://www.courts.go.jp/hanrei/54266/detail2/index.html