「増資の登記なのに、なぜ株主全員の一覧のような書類を出すのですか」──商業登記の相談で、経営者からよくいただく疑問です。実はこの書類、会社が備え置く株主名簿そのものではなく「株主リスト」という、登記の添付書面としてまったく別の役割を持つ書類です。株主リストは、株主総会の決議や株主全員の同意が適法に成立したことを法務局に示すための証明書類であり、日常的に備え置く株主名簿とは作成目的も記載範囲も異なります。

この記事の要点

  • 株主リストは、登記すべき事項について株主総会(種類株主総会)の決議や株主全員の同意を要する場合に、添付書面として法務局へ提出する書類(商業登記規則61条2項・3項)
  • 会社が備え置く「株主名簿」(会社法121条)とは別の書類で、株主名簿を整備していれば提出を省略できるわけではない
  • 記載する株主の範囲は、原則として議決権数の上位10名、または議決権割合が3分の2に達するまでのいずれか少ない人数(株主総会決議の場合)
  • 役員変更や増資など、株主総会決議を経て行う登記の多くで必要になる
  • 記載内容に誤りがあると、登記申請が補正の対象になることがある

株主リストとは何か

一言でいうと、株主リストとは「その株主総会(または種類株主総会)の決議、あるいは株主全員の同意が、議決権を持つ株主によって適法に成立したこと」を法務局に証明するための書面です。平成28年10月1日以降、商業登記規則の改正により、一定の登記申請の際にこの書面の添付が義務付けられました。

株主総会議事録だけでは、その決議に賛成した株主が本当に議決権を持つ株主だったのか、法務局の窓口では確認できません。そこで、議決権数の多い株主を中心に一覧化した株主リストを添付させることで、決議の正当性を裏付ける仕組みになっています。

なぜ登記のたびに求められるのか

「前回の増資のときにも出したのに、また今回も出すのですか」という質問もよく受けます。株主リストは登記の申請ごとに、その申請の基礎となった決議・同意の内容に応じて作成し直す必要があります。会社にあらかじめ保管してあるものを使い回せる書類ではなく、その都度の株主総会(または同意)の内容を反映した最新の一覧でなければならないためです。

株主名簿とどう違うのか

株主リストとよく混同されるのが、会社が備え置く「株主名簿」(会社法121条)です。役割も作成目的もまったく異なります。

株主名簿 株主リスト
根拠条文 会社法121条 商業登記規則61条2項・3項
位置づけ 会社が備え置く帳簿(社内の管理台帳) 登記申請の添付書面(都度作成)
記載する株主 原則として全株主 議決権上位10名まで、または議決権割合3分の2に達するまで(総会決議の場合)/全員の同意が必要な場合は全株主
記載事項 氏名・住所、株式数、取得日、株券番号(株券発行会社) 氏名・住所、株式数、議決権数、議決権割合(議決権割合は総会決議の場合)

株主名簿を整備していれば株主リストが自動的にできあがる、というものではありません。株主名簿の情報をもとに、その登記の基礎となった決議の内容に合わせて議決権数・割合を計算し、あらためて作成する書類だと理解しておくと整理しやすくなります。

どんな登記で必要になるか

株主リストの添付が必要になるのは、大きく分けて次の2つの場面です。

  • 登記すべき事項について株主総会(種類株主総会)の決議を要する場合
  • 登記すべき事項について株主(種類株主)全員の同意を要する場合

具体的には、取締役や監査役の選任・解任にともなう役員変更登記募集株式の発行(増資)の登記、商号や事業目的の変更、本店移転にともなう定款変更など、株主総会決議を経て行う登記の多くが対象です。逆に、取締役会決議のみで足りる代表取締役の選定や、辞任届のみで足りる退任登記では、株主リストの添付は不要です。

誰の情報を記載するのか

株主リストに記載する株主の範囲は、決議の種類によって異なります。

  • 株主総会(種類株主総会)の決議による場合:議決権数の多い順に、上位10名、または議決権割合の合計が3分の2に達するまでの株主のうち、いずれか人数の少ない方
  • 株主(種類株主)全員の同意による場合:株主全員

中小企業では株主が数名程度というケースも多く、その場合は結果的に株主全員を記載することになりますが、これは「全員が対象だから」ではなく、「上位10名または3分の2に達するまで数えたら全員だった」という結果にすぎません。範囲の考え方自体は理解しておくと安心です。

まとめ

  • 株主リストは、株主総会決議・株主全員の同意が適法に成立したことを法務局に示す登記の添付書面(商業登記規則61条2項・3項)
  • 会社が備え置く株主名簿(会社法121条)とは根拠条文も記載範囲も異なる別の書類
  • 役員変更や増資など、株主総会決議を経て行う登記の多くで必要
  • 記載する株主の範囲は、議決権上位10名または議決権割合3分の2に達するまでのいずれか少ない方(全員の同意が必要な場合は全株主)
  • 作成方法や記載範囲に迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください

よくある質問

Q. 株主リストの作成に費用はかかりますか? 株主リスト自体は会社側で作成できる書類で、法務局への提出に別途の手数料はかかりません。ただし、株主の議決権数や割合の計算を誤ると補正の対象になることがあるため、司法書士に登記手続き全体を依頼する場合は、その報酬の中に株主リストの作成支援が含まれるのが一般的です。

Q. 株主リストの記載を誤ったまま登記申請するとどうなりますか? 記載する株主の範囲や議決権数に誤りがあると、法務局から補正を求められることがあります。決議の基礎となった株主名簿や議決権数の資料と突き合わせて、正確に作成することが重要です。

Q. 株主リストは自分で作成できますか? 株主名簿など会社側の資料が整っていれば、自分で作成すること自体は可能です。ただし、対象となる登記の種類や記載すべき株主の範囲の判断に迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】株主リストの添付要件をめぐる実務の整理

ご注意 以下は執筆時点(2026年07月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

証明書としての要件(商業登記規則61条3項)

株主総会(種類株主総会)の決議を要する登記の場合、株主リストには、議決権数の割合が高い順に、10名または議決権割合の合計が3分の2に達するまでの株主のうちいずれか少ない人数について、氏名または名称、住所、株式数(種類株式発行会社では種類ごとの数)、議決権数、議決権数の割合を記載し、代表取締役等が証明した書面として提出する必要があります(商業登記規則61条3項)。株主全員の同意を要する登記の場合は、同条2項により、全株主について氏名または名称、住所、株式数、議決権数を記載します(議決権数の割合は同条2項の記載事項に含まれていません)。

株主名簿との違い(会社法121条との関係)

株主名簿は、会社が株主に対する権利行使者を把握するために備え置く帳簿で、株主の氏名・住所、株式数、取得日、株券番号(株券発行会社の場合)を記載事項とします(会社法121条)。一方、株主リストは商業登記規則61条という登記手続き上の要請から生まれた書面で、記載事項は議決権数・議決権割合を中心に構成されている点が異なります。株主名簿の記載事項をそのまま転記しても株主リストとして完成しない場合がある点には注意が必要です。株主名簿を保管していない、あるいは記載事項が更新されていない会社では、株主リスト作成の前提として株主名簿自体の整備状況を確認しておく必要があります。

対象となる登記の種類

株主リストの添付が求められるのは、登記すべき事項について株主総会(種類株主総会)の決議、または株主(種類株主)全員の同意を要する場合です。役員の選任・解任にともなう変更登記、募集株式の発行(増資)、商号・目的の変更にともなう登記など、株主総会決議を経て行う登記の多くが該当します。反対に、取締役会決議のみで完結する代表取締役の選定・本店移転(定款の変更を要しない場合)、辞任届のみで足りる退任登記などでは、株主リストの添付は不要です。どの登記が対象になるかの判断に迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

記載を要する株主の範囲の考え方

株主総会決議による場合の「上位10名、または議決権割合3分の2に達するまでのいずれか少ない人数」という基準は、株主数が多い会社では実務上の作業量を抑える趣旨があります。株主数が少ない中小企業では、この基準を当てはめた結果として株主全員を記載することになるケースも珍しくありません。いずれの場合も、議決権数・割合の計算の基礎となる株主名簿や名義株の有無の確認を怠ると、記載内容に誤りが生じるおそれがあるため、決議の時点での正確な株主構成の把握が前提になります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年07月)。

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