この記事の要点

  • 種類株式とは、剰余金の配当や議決権など「権利の内容が違う株式」を、1つの会社の中で複数のタイプ発行できるしくみです。
  • 事業承継の場面では、重要事項に「待った」をかけられる拒否権付株式(通称・黄金株)や、議決権のない株式がよく話題になります。
  • 導入するには定款を変更する必要があり、原則として株主総会の特別決議と、2週間以内の変更登記が必要です。
  • 拒否権付株式には、持っている人の判断能力が下がったときや、相続で株式が分散したときに、会社の意思決定が止まってしまうという裏側のリスクがあります。
  • どの種類株式をどう組み合わせるかは会社ごとの事情で大きく変わります。検討する段階で、お近くの司法書士にご相談ください。

種類株式とは──「権利の中身が違う株式」を作れる制度

種類株式とは、権利の内容が異なる2つ以上のタイプの株式を発行できるしくみのことです。

ふつう「株式」というと、どれも同じ権利を持っていると考えがちです。1株につき1個の議決権があり、配当も株数に応じて平等に受け取る。それが原則です。

しかし会社法は、定款で定めることによって、**「配当は多めにもらえるが、株主総会では議決権がない株式」「特定の事項については、この株式を持つ人の同意がなければ決められない株式」**といった、中身の違う株式を作ることを認めています。この、中身の違う株式のそれぞれを「種類株式」と呼び、種類株式を発行している会社を「種類株式発行会社」といいます。

会社法108条1項は、内容を変えられる事項として次のようなものを挙げています(一部を抜き出したものです)。

変えられる事項 イメージ
剰余金の配当(1項1号) 配当を優先して受け取れる/後回しになる
株主総会で議決権を行使できる事項(1項3号) 議決権が全くない、または一部の議題にしかない
譲渡による取得について会社の承認を要すること 勝手に第三者へ売れないようにする
株主総会の決議のほかに、その種類の株主による種類株主総会の決議も必要とすること(1項8号) いわゆる拒否権付株式(黄金株)
種類株主総会で取締役・監査役を選任すること(1項9号) 特定のグループから役員を出せる

このうち、株式を勝手に第三者へ売られないようにする定めは、種類株式を作らなくても会社の株式全部について設定できます。この点は株式の譲渡制限の設定・変更と登記で詳しく整理しています。

事業承継で話題になりやすいのは「拒否権付株式」と「議決権制限株式」

種類株式が中小企業で話題にのぼる場面の多くは、会社を後継者に引き継ぐときです。理由は単純で、株式には「財産としての価値」と「会社を動かす権利」という2つの顔があり、この2つを分けて渡したいという場面があるからです。

拒否権付株式(いわゆる黄金株)

会社法108条1項8号の株式は、株主総会(取締役会を置く会社では、取締役会で決めるべき事項も対象にできます)で決まったことでも、その種類の株式を持つ株主による種類株主総会の決議がなければ効力が生じないという内容の株式です。会社法323条は、こうした定めがある場合、定款の定めに従った種類株主総会の決議がなければその事項は効力を生じない、と定めています。

たとえば「取締役の選任」「定款の変更」「重要な財産の処分」といった事項を対象にしておけば、その種類の株式を持つ株主は、対象事項について事実上の拒否権を持つことになります。株式の大部分を後継者に譲った後も、一定の重要事項については歯止めを残しておきたい、という発想から検討されるものです。

なお「1株あれば足りる」と説明されることがありますが、それはその種類の株式を1株しか発行しない場合の話です。同じ種類の株式が複数の人に分かれて発行されていれば、種類株主総会でその人の意向が通るかどうかは、その種類の中での持株数しだいになります。

なお「黄金株」は法律上の用語ではなく、通称です。登記や定款には「拒否権付株式」という言葉ではなく、対象となる事項と種類株主総会が必要である旨を、具体的に書き込むことになります。

議決権制限株式

会社法108条1項3号の株式は、株主総会で議決権を行使できる事項を制限した株式です。議決権を全くなくすこともできますし、一部の議題に限ることもできます。

後継者以外の相続人にも株式という財産は渡したいけれど、経営判断のたびに全員の賛否を問うのは現実的でない、という悩みに対して検討されることがあります。ただし、議決権のない株式であっても、株主としての他の権利まで一律になくなるわけではありません。

拒否権付株式の「裏側」──必ず知っておきたいリスク

拒否権付株式は、紹介されるときに利点ばかりが強調されがちです。しかし実際には、強い権利であるがゆえの副作用があります。導入を検討する前に、次の点を必ず押さえてください。

1. 持っている人の判断能力が下がると、会社が動かなくなる

拒否権付株式は、種類株主総会での決議があってはじめて対象事項が効力を生じる、という構造です。裏を返せば、その種類株主総会を開けない状態になると、対象にした事項は決められなくなります

保有者が高齢になり、認知症などで判断能力が下がった場合がまさにそれです。議決権の行使に必要な判断ができない状態になると、取締役の選任も定款変更も前に進まない、という事態が起こりえます。会社の意思決定が止まると、金融機関との取引や許認可の更新にも影響が及びます。

2. 相続で拒否権が分散する

株式は財産ですから、保有者が亡くなれば相続の対象になります。拒否権付株式も例外ではなく、相続人に承継されます

その結果、会社の経営に関わっていない相続人が拒否権を持つ、複数の相続人に分かれて権利関係が複雑になる、といった状況が生じることがあります。経営を安定させるために導入した株式が、時間の経過とともにかえって不安定要因になりかねない、という点にこの制度の難しさがあります。

こうした事態への備えとして、一定の事由が生じたときに会社が株式を取得できる内容(取得条項)を組み合わせる、相続で株式を取得した人に対して会社が売渡しを請求できる定款の定めを置く、といった制度が会社法には用意されています。ただし、どの制度をどう組み合わせるかは会社の株主構成・後継者の状況によって結論が変わりますので、必ずお近くの司法書士にご確認ください。

3. 外部からは「扱いにくい会社」に見えることがある

拒否権付株式が登記されていると、その内容は登記事項証明書(会社の登記簿の写し)を通じて誰でも確認できます。将来、会社を第三者に譲渡する場面や、外部からの出資を受ける場面で、拒否権の存在が交渉のハードルになることがあります。

4. 株価や税金の話は税理士の領域です

種類株式を発行したときに株式の評価がどうなるか、贈与や相続の場面で税金がどうかかるかは、税理士の職域です。この記事では扱いません。税務の取扱いは税理士にご確認ください。

導入するときの手続きと登記

種類株式を発行するには、まず定款を変更する必要があります。会社法466条は「株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる」と定めており、定款変更は原則として株主総会の特別決議(会社法309条2項11号)によります。特別決議とは、原則として、議決権の過半数を持つ株主が出席したうえで、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要になる、通常より重い決議のことです(定款で、出席の割合を3分の1まで軽くしたり、賛成の割合を3分の2より重くしたりしている会社もあります)。

なお、すでに発行済みの株式の内容を後から変えるような場合には、これに加えて、影響を受ける株主による種類株主総会の決議や、株主の個別の同意が必要になることがあります。ここは会社の現状によって必要な手続きが変わる部分ですので、事前の確認が欠かせません。

登記が必要な事項と期限

種類株式を発行する会社では、発行可能種類株式総数および発行する各種類の株式の内容が登記事項になります(会社法911条3項7号)。

登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。この期限を過ぎても登記自体はできますが、登記を怠ったときは100万円以下の過料の対象となる定めがあります(会社法976条1号)。

主な添付書面

一般的には、次のような書面を添付して申請します(事案により異なります)。

  • 株主総会議事録(定款変更の特別決議をしたもの)
  • 株主リスト
  • 種類株主総会の決議が必要な場合は、その議事録
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

登記される「株式の内容」は、定款に定めた文言がほぼそのまま反映されます。**どの事項を拒否権の対象にするのか、種類株主総会の招集手続をどうするのかといった書きぶりが曖昧だと、後から解釈で揉める原因になります。**定款の文言づくりの段階から、登記まで見通して検討することをおすすめします。

まとめ

種類株式とは、配当や議決権といった権利の中身が違う株式を、同じ会社の中で複数のタイプ発行できる制度です。事業承継の場面では、重要事項に歯止めをかける拒否権付株式(黄金株)や、財産としての価値だけを渡す議決権制限株式が話題になります。

一方で、拒否権付株式には、保有者の判断能力が下がったときに会社の意思決定が止まる、相続で拒否権が分散する、といった無視できないリスクがあります。利点と副作用はセットで考える必要があります。

導入には定款変更(原則として株主総会の特別決議)と、2週間以内の変更登記が必要です。どの種類株式が自社に合うか、定款にどう書き込むかは、株主構成・後継者の状況・将来の出口まで含めて判断する必要がありますので、検討の入口の段階で、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 種類株式を導入するのに、どのくらい費用がかかりますか。

定款変更に伴う変更の登記には、登録免許税がかかります。種類株式の内容などの登記は、登録免許税法別表第一24号(1)ツ「登記事項の変更、消滅又は廃止の登記」にあたり、申請件数1件につき3万円です(2026年8月時点)。同じ申請で役員変更など別の区分にあたる登記もあわせてする場合は、その区分の分が加算されます。このほかに、登記事項証明書の取得費用と、司法書士に依頼する場合は報酬がかかります。報酬額は事務所ごとに異なりますので、見積りを取って確認してください。

Q. 登記をしないまま放置すると、どうなりますか。

登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければならないと会社法915条1項が定めており、これを怠った場合には100万円以下の過料の対象となる定めがあります(会社法976条1号)。また、登記していない内容は、原則として第三者に対して「決まっていること」として主張しづらくなります。金融機関の融資審査や取引先の与信確認では登記事項証明書が確認されますので、実際の会社の姿と登記の内容がずれている状態は避けるべきです。

Q. 自分で手続きできますか。どこに相談すればよいですか。

制度上、株主総会の運営も登記申請も会社自身で行うことはできます。ただし種類株式は、定款の文言そのものが将来の権利関係を左右するため、ひな型をそのまま使うと想定外の結果になりやすい分野です。定款の文言づくりと登記手続きは司法書士、株式の評価や税金は税理士、株主間の争いが現に生じている場合は弁護士、というのが職域の分かれ目です。まずはお近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】種類株式の定款の定め方・登記事項と、廃止までを見据えた設計

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

定款に何を書き、登記簿に何が出るか

種類株式を発行する場合、定款には発行可能種類株式総数と、各号ごとに定められた事項を書かなければならないとされています(会社法108条2項柱書)。拒否権付株式であれば、同項8号が定めるとおり、イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項ロ その決議を必要とする条件を定めるときはその条件が、定款の記載事項になります。

登記事項は、会社法911条3項7号が「発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)」と定めています。つまり、定款に書いた「どの事項について種類株主総会の決議を要するか」という文言が、そのまま登記簿の「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」欄に反映されることになります。誰でも取得できる登記事項証明書に、拒否権の対象事項まで具体的に載るという意味です。

なお、2024年10月1日から、代表取締役等の住所について、登記事項証明書に行政区画より細かい部分を記載しない措置を申し出ることができるようになりました(商業登記規則31条の3)。ただしこれは代表取締役・代表執行役・代表清算人の住所に限った制度であり、株式の内容を登記事項証明書に載せない、という扱いは用意されていません。登記される以上は公開されることを前提に、定款の文言を考える必要があります。

見落とされやすいのが会社法911条3項9号です。ここは「発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数」と定められており、種類株式発行会社になると、発行済株式総数の登記も「普通株式○株、A種種類株式○株」という種類ごとの内訳を伴う形に変わります。種類株式を1株だけ作った場合でも、以後の増資や自己株式の取得のたびに、この内訳の登記を意識する必要があります。

なお会社法108条3項は、同条2項各号に定める事項のうち剰余金の配当に関する事項など法務省令で定めるものに限り、内容の要綱だけを定款に定め、残りはその種類の株式を初めて発行する時までに株主総会等の決議で定めるという方式を認めています。この「法務省令で定める事項」を定める会社法施行規則20条1項は、拒否権付株式については「会社法108条2項8号イに掲げる事項以外の事項」と定めています(同規則20条1項8号)。イに掲げる事項とは、種類株主総会の決議があることを必要とする事項、つまり拒否権の対象事項そのものです。したがって、どの事項を拒否権の対象にするかについて、この方式は使えません。対象事項は、導入の時点で定款に確定的に定める必要があります。

「新しい種類を作る」のと「今ある株式の内容を変える」のは別の手続き

どちらも定款変更(会社法466条、決議要件は同法309条2項11号)が出発点である点は共通ですが、上乗せで必要になる手続きが違います。

会社法322条1項1号は、イ 株式の種類の追加ロ 株式の内容の変更ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加についての定款変更を行う場合に、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類株主総会の決議がなければ効力を生じない、と定めています。この種類株主総会は特別決議によります(同法324条2項4号)。「新規に作る」のか「既にある株式の内容を書き換える」のかで、同号のイに当たるかロに当たるかが変わります。

ここで注意が必要なのは、「損害を及ぼすおそれ」があるかどうかの判断基準について、確立した解釈が定まっていないことです。従来は、それぞれの種類の株主が持つ権利の割合を抽象的に見て、変更の前より不利になる場合をいうという理解が一般的とされてきました(相対的利益侵害基準)。これに対し、少なくとも組織再編の場面では、株主価値が増えたか減ったかという絶対的な不利益を基準にすべきだという見解も有力に主張されています(絶対的利益侵害基準)。どちらの考え方をとるかで、種類株主総会が必要かどうかの結論が変わりうる場面があります。

また、会社法322条1項は「次に掲げる行為をする場合において」と定めているため、条文の文言上は各号に挙がった行為に限られると読めます。もっとも学説には、列挙されていない行為であっても種類株主の間で利害の調整が必要になる場合には同項を類推して適用すべきだとする見解があり、これが有力とされる一方、それでは種類株主総会の要否を検討すべき行為が際限なく広がって予測がつかなくなる、として反対する見解もあります。この論点は決着していません。条文に挙がっていないから当然に不要、と決めてかからないことが大切です。

さらに、内容によっては特則が働きます。会社法111条1項は、種類株式発行会社が発行後に定款を変更して、その種類の株式の内容として取得条項(同法108条1項6号)の定めを設けるなどの場合には、当該種類の株式を有する株主全員の同意を得なければならないと定めています。同条2項は、譲渡制限(同法108条1項4号)や全部取得条項(同項7号)の定めを設ける場合の種類株主総会について定めており、その決議要件は会社法324条3項1号・2項1号にそれぞれ規定されています。

登記の添付書面もこれに対応します。商業登記規則61条2項は、登記すべき事項について株主全員または種類株主全員の同意を要する場合に、その全員の氏名・住所・株式数・議決権数を証する書面の添付を求めています。同条3項は、株主総会または種類株主総会の決議を要する場合の株主リストについて定めており、種類株主総会の決議を要する場合はその種類の株式の総株主の議決権を基準に作成するとされています。株主総会の株主リストがあるからといって、種類株主総会分を兼ねられるわけではありません。

種類株主総会を欠いたとき、登記はどうなるか

会社法322条1項も323条も、条文上の効果は「その効力を生じない」です。決議を欠いたまま定款変更をしても、その変更は効力を生じていないことになります。

登記の審査は、申請書と添付書面に基づく形式的な審査です。必要な議事録が添付されていない申請は、補正を求められ、補正に応じなければ却下されます(商業登記法24条7号、補正について同条柱書ただし書)。もっとも、この審査が書面の形式に着目したものである以上、添付書面の体裁が整っていれば、実体として必要な決議を欠いたまま登記が完了してしまうことも、理屈のうえでは起こりえます。その場合でも実体上の瑕疵は残ったままです。登記簿に載っていることが実体の有効性を保証するわけではない、という点は押さえておくべき観点です。

負担を減らす仕組みも用意されています。会社法322条2項は、ある種類の株式の内容として、同条1項の種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることを認めています。ただし同条3項ただし書により、1号の定款変更(単元株式数についてのものを除く)を行う場合には、この定めがあっても種類株主総会が必要とされます。また同条4項は、株式の発行後にこの定めを設けようとするときは当該種類の種類株主全員の同意を要すると定めています。後から入れるのは容易ではありません。

なお、種類株主総会には株主総会に関する規定が準用され(会社法325条)、書面等による全員の同意で決議があったものとみなす決議の省略(同法319条)も利用できます。株主が実質的に少人数の会社では、この形をとることもあります。

出口を考えずに導入すると、やめるときに詰まる

拒否権付株式でとりわけ注意を要するのが、廃止する場面です。

廃止は「株式の内容の変更」にあたる定款変更ですから、株主総会の決議(会社法466条・309条2項11号)に加えて、会社法322条1項1号ロの種類株主総会が問題になります。それだけではありません。拒否権の対象事項に「定款の変更」が含まれていれば、会社法323条により、その定款変更(=拒否権付株式の廃止)自体についても当該種類株主総会の決議がなければ効力を生じないことになります。拒否権を持つ本人が反対すれば、定款変更によってその拒否権を外すことはできない、という構造です。

会社が株式そのものを買い取る道もありますが、これも簡単ではありません。株主との合意による有償取得には、あらかじめ株主総会の決議で取得する株式の数・対価の内容と総額・取得期間を定める必要があり(会社法156条1項)、特定の株主から取得する場合はその旨も同じ株主総会で定めます(同法160条1項)。この決議は特別決議であり(同法309条2項2号)、他の株主には、原則として、自分も売主に加えるよう請求する権利があり(同法160条3項)、対象となる特定の株主はその決議で議決権を行使できません(同条4項)。さらに、交付する金銭等の総額は分配可能額を超えられません(同法461条1項)。相手が売るつもりのない株式を、会社の側から一方的に回収することは想定されていない仕組みです。なお、売主追加請求権に「原則として」と付けたのは、この請求権を排除する定款の定めが認められているためです(会社法164条1項)。ただし、株式の発行後にこの定めを設けるには、その株式を有する株主全員の同意が必要です(同条2項)。ここでも「後から入れるのは容易ではない」という構図は同じです。

そこで設計段階の選択肢として、一定の事由が生じたら会社が取得できる取得条項(会社法108条1項6号)をあらかじめ組み込んでおく方法が挙げられます。ただし前述のとおり、これを後から付け加えるには当該種類株主全員の同意が必要です(同法111条1項)。「困ってから取得条項を足す」ことは実際上難しく、導入時に出口を織り込んでおかないと選択肢が狭まります。

相続による分散への備えとしては、会社法174条が、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対して売渡しを請求できる旨を定款で定めることを認めています。この請求をするには、その都度、株主総会の決議で請求する株式の数と相手方を定める必要があり(同法175条1項。同法309条2項3号により特別決議)、請求は一般承継があったことを知った日から1年以内に限られます(同法176条1項ただし書)。もっとも、会社法175条2項により相手方となる株主はこの決議で議決権を行使できないため、株主構成によっては、売渡請求の制度が意図しない側に主導権を与えかねないとの指摘があります。この指摘は制度が設けられた当初から複数の論者によってされてきたもので、排除される側が法的にどう対抗できるかについては、見解が分かれています。取締役の義務違反を理由に株主総会の招集の差止めを求める、あるいは決議の取消しを求めるといった対抗手段を認めるべきだとする見解がある一方で、この制度はもともと一般承継で株主になった人以外の株主の利益を守るための仕組みであるから、そうした解釈で歯止めをかけるのは難しいとする見解もあります。**後から争えばよい、と考えて設計するのは危険です。**前提となる株式に譲渡制限が付いていることも要件ですので、株式の譲渡制限の設定・変更と登記とあわせて確認しておくべき部分です。

こうした制度をどう組み合わせるかは、株主構成・後継者の状況によって適否が変わります。株式の評価や税金の取扱いは税理士へ、株主間に現に争いがある場合は弁護士へという職域の切り分けも含め、定款の文言を確定する前の段階で、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

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