株券発行会社のままになっていませんか──株券廃止の登記と相続・譲渡での不都合

この記事の要点 登記事項証明書に「株券を発行する旨の定め」が載っていれば、その会社は「株券発行会社」です。会社法の施行前からある会社は、実際に株券を使っていなくても、この定めが残っていることがあります 株券の定めの廃止は、株主総会の特別決議による定款変更で行います。株券を1枚でも発行していれば、効力が生じる日の2週間前までに公告と株主などへの個別の通知が必要で、全く発行していなければ通知(または公告)だけで足ります(会社法218条) 定款変更の効力が生じたら、2週間以内に本店の所在地で変更の登記をします(会社法915条1項)。登録免許税は1件3万円です 株券発行会社のままだと、株式の譲渡に株券の交付が必要になり、株券をなくしていると手続きに1年かかることもあります。相続の名義書換でも、株券のありかが問題になりやすくなります まずは登記事項証明書と、株券を実際に発行しているかどうかを確認するところから始めます 株券を発行する旨の定款の定めが残っていて、実際には株券を使っていない会社であれば、定めを廃止して登記まで済ませておくのが基本です。株券発行会社のままにしておくと、株式を譲るときや相続が起きたときに「株券」という紙が手続きの前提になり、事業承継の場面で思わぬ足止めになることがあるためです。 ...

2026年10月27日 · ひぐらしさとし

連絡の取れない株主がいる──「所在不明株主」の株式を売却・整理する制度

この記事の要点 会社からの通知・催告が5年以上続けて届かず、かつ5年間剰余金の配当も受け取っていない株主の株式は、会社が競売するか、裁判所の許可を得て売却(会社自身による買取りを含む)することができる(会社法197条) 売却の前には、異議を述べる機会を与えるための公告と、株主への個別の催告が必要で、異議を述べる期間は3か月以上(会社法198条1項) 一定の要件を満たす非上場の中小企業は、都道府県知事の認定を受けると「5年」を「1年」に短縮できる特例がある(経営承継円滑化法15条) 制度を使うには何年分もの通知と返送されてきた郵便物が必要になるため、まずは株主名簿の確認と記録の保管から始める 「昔からの株主のひとりと、もう何年も連絡がつかない」──創業から年月を経た中小企業では、こうした悩みを抱えることがあります。株主総会の招集通知を送っても「あて所に尋ねあたりません」で戻ってくる、配当の送金通知も返ってくる。そうした株主(いわゆる所在不明株主)の株式は、放っておくと会社の意思決定や事業承継の足かせになりかねません。 ...

2026年10月26日 · ひぐらしさとし

経営者の生前対策チェックリスト──遺言・株・保証・後継者・登記、年に一度見直す項目

この記事の要点 経営者の生前対策は「一度つくって終わり」ではありません。遺言を書いた後に株を贈与した、後継者の候補が変わった、借入が増えた──こうした変化で、つくった対策の前提が崩れることがあります。年に一度、決まった項目を点検するのが基本です 点検する分野は大きく6つ:①遺言 ②自社株と株主名簿 ③経営者保証 ④後継者と判断能力への備え ⑤会社と個人の財産の線引き ⑥会社の登記 会社の登記には期限があります。登記した事項に変更が生じたら2週間以内に変更の登記が必要で(会社法915条1項)、怠ると100万円以下の過料の対象になりえます(会社法976条1号) 項目ごとに確認先が違います。遺言の手続き・株主名簿の点検・登記は司法書士、株の評価や税金は税理士、保証は取引金融機関(必要に応じて弁護士)、労務・社会保険は社会保険労務士、もめごとは弁護士です 次の一歩は、登記事項証明書・定款・株主名簿・遺言の控え・借入と保証の一覧を、1か所にそろえることです 経営者の方に知っておいてほしいのは、生前対策で本当に怖いのは「何もしていないこと」だけではなく、「一度やったきり、見直していないこと」でもある、という点です。結論から言うと、毎年の決算や定時株主総会の時期に合わせて、この記事のチェックリストを1回通して見る習慣をつけるのがおすすめです。 ...

2026年10月25日 · ひぐらしさとし

後継者に株を生前贈与する──贈与契約・株主名簿の書換え・事業承継税制の入口(税理士へ)

この記事の要点 自社株の生前贈与は、①贈与契約(書面で残すのが基本)→②譲渡制限株式なら会社の譲渡承認→③株主名簿の名義書換、の順で進みます。株券発行会社では、株券が発行済みなら、それを渡さなければ株式を移す効力が生じません(会社法128条1項) 譲渡制限株式は、相続で取得した場合と違い、贈与で取得した場合は会社の承認がないと原則として名義書換を請求できません(会社法134条) 株主が誰かは登記簿に載りません。株式を贈与しても登記は不要ですが、名義書換をしないと、後継者は会社に「自分が株主だ」と主張できません(会社法130条) 名義書換は、原則として贈与した経営者と後継者が共同で請求します。経営者が元気なうちに、贈与とセットで済ませておくのが基本です 贈与税・株式の評価・事業承継税制は税理士、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)をめぐるもめごとは弁護士の領域です。贈与を実行する前に確認しておきましょう 経営者の方に知っておいてほしいのは、自社株の生前贈与は「贈与契約を結んで終わり」ではない、ということです。株式に譲渡制限(会社の承認がないと譲渡できない定め)がある会社では会社の承認を受け、最後に会社の株主名簿を書き換えて、はじめて後継者が会社に対して株主として扱われます。そして、この一連の動きは法務局の登記簿には現れません。 ...

2026年10月24日 · ひぐらしさとし

遺留分と事業承継の特例とは──自社株を後継者に集める「除外合意・固定合意」の入口

この記事の要点 自社株を生前贈与で後継者に集めると、相続のときにほかの相続人から遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を金銭で請求されるおそれがあります 中小企業の事業承継には、経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」があり、推定相続人全員と後継者の書面の合意で、贈与した自社株を遺留分の計算から外す(除外合意)か、その価額を合意の時点で固定する(固定合意)ことができます 合意の効力が生じるには、合意から1か月以内に後継者が経済産業大臣の確認を申請し、確認から1か月以内に家庭裁判所へ許可を申し立て、許可を受けることが必要です 対象は「生前贈与」で渡した株式等です。遺言で渡す株式は、この特例の対象ではありません 合意の内容づくりと家族間の調整は弁護士、税金は税理士、株主名簿・定款・登記は司法書士と、役割を分けて進めます 自社株を後継者1人に集中させたい経営者にとって、遺留分は「後から効いてくる」問題です。生前に株式を後継者へ贈与しておいても、経営者が亡くなったとき、ほかの相続人が遺留分を主張すれば、後継者はまとまったお金の支払いを求められることがあります。これに備える制度として、経営承継円滑化法(正式名称「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」)には「遺留分に関する民法の特例」が設けられています。 ...

2026年10月23日 · ひぐらしさとし

自社株を誰に遺すか──経営者の遺言の書き方と「相続させる」株式の名義書換

この記事の要点 自社株を特定の後継者に渡したいなら、遺言で「どの会社の、どの種類の株式を、何株(または全部)」と特定して書くのが出発点です 後継者が相続人なら「相続させる」と書く遺言が一般的です。この場合、株式に譲渡制限(会社の承認がないと譲渡できない定め)があっても、会社の承認を受けずに株主名簿の名義書換を請求できます(会社法134条4号) 遺言執行者(遺言の内容を実現する役目の人)を遺言で決めておくと、名義の書き換えなどの手続きを進める役を担える場面があります 株主名簿の名義書換は会社の中の手続きで、登記ではありません。亡くなった経営者が取締役・代表取締役だった場合は、役員の変更登記が別に必要です(2週間以内) 株の値段の評価や相続税は税理士、遺留分(最低限の取り分)をめぐるもめごとは弁護士、公正証書遺言の作成は公証人の役割です 経営者が遺言を残さずに亡くなると、自社株は相続人全員で共有する状態(「準共有」)になり、遺産分割がまとまるまで株主としての権利を使うことにも手間がかかります。これを避けるもっとも基本的な備えが、遺言で「誰に」「どの株式を」渡すかを決めておくことです。 ...

2026年10月22日 · ひぐらしさとし

経営者保証を外す・引き継がない準備──経営者保証ガイドラインの活用の入口

この記事の要点 経営者保証(社長個人が会社の借入の連帯保証人になること)は、「経営者保証に関するガイドライン」によって、一定の経営状態がそろえば保証なしの融資や既存の保証の見直しを金融機関が検討する枠組みが示されている。ただし法的拘束力はなく、「必ず外せる」ものではない ガイドラインが会社と経営者に求めるのは、①会社と経営者個人のお金・財産の区分・分離、②財務基盤の強化、③財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示、の3つ 事業承継のときは、別に公表された「特則」で、前経営者と後継者の双方から二重には保証を求めないことが原則とされている 準備は「平時(今から)」「事業承継の準備段階」「代表者交代のとき」の3段階で考えると整理しやすい 金融機関との保証解除の交渉や保証債務の整理は弁護士、財務の整え方は税理士・中小企業診断士、代表者交代の登記は司法書士が相談先 経営者の方に知っておいてほしいのは、経営者保証は「外せるかどうか」を運に任せるものではなく、金融機関が保証を求めるかどうかを検討するときの目安が公表された文書に書かれている、という点です。結論から言うと、まず目指すのは「経営者保証に関するガイドライン」が示す3つの経営状態に近づけることであり、事業承継を控えているなら、後継者が保証を当然に引き継ぐ前提で進めず、早めに金融機関に保証の扱いを相談しておくことが出発点になります。 ...

2026年10月21日 · ひぐらしさとし

会社名義と個人名義の不動産を整理する──社長個人の土地に会社の建物がある場合

この記事の要点 社長個人名義の土地に会社名義の建物がある場合、社長が亡くなると土地は相続人に引き継がれ、建物は会社の財産のまま残る。土地と建物の持ち主が「社長の相続人」と「会社」に分かれる 会社がその土地を使い続けられるかは、地代を払う「賃貸借」か、無償の「使用貸借」かで大きく変わる。建物を持つための土地の賃貸借は「借地権」として借地借家法の保護を受けるが、使用貸借にはその保護がない 土地を相続した人には、自分のために相続が開始したことと、その土地を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務がある(不動産登記法76条の2) 生前の整理方法には、①賃貸借契約を書面にする、②土地を会社に売る、③土地を会社に現物出資する、などがある。税金の扱いは税理士、相続人どうしの争いの見通しは弁護士の領域 最初の一歩は、土地と建物それぞれの登記事項証明書で名義を確かめ、会社が地代を払っているかどうかを確認すること 経営者の方に知っておいてほしいのは、「社長の土地の上に会社の建物が建っている」という状態は、社長がお元気なうちは何も問題が起きないように見えても、相続をきっかけに会社の足元が揺らぐことがある、という点です。結論から言うと、まず確認すべきは「会社がその土地をどういう権利で使っているのか」であり、あいまいなままなら、社長がお元気なうちに契約を書面にするか、土地の名義そのものを整理しておくことが考えられます。 ...

2026年10月20日 · ひぐらしさとし

社長が認知症になったら会社はどうなる──後見の審判の前に「会社が止まる」場面と、元気なうちの備え

この記事の要点 社長が認知症と診断されたり、判断能力が落ちたりしても、それだけで自動的に取締役・代表取締役を退任するわけではありません。判断能力の低下を理由に退任となるのは、家庭裁判所の「後見開始の審判」を受けたときです(会社法330条・民法653条3号) 本当に困りやすいのは審判の前です。肩書きは社長のままなのに、社長本人が契約や決議を確かな形で行えるかがはっきりせず、会社の手続きが止まりやすくなります とくに「取締役は社長1人・株主も社長1人(または社長が大株主)」の会社では、社長に代わって判断できる人が会社の中にいないため、取締役を選び直す株主総会も開けなくなるおそれがあります 備えの基本は、元気なうちに代表者・取締役・株式を社長1人に集中させないことです。任意後見や家族信託も選択肢ですが、会社の経営そのものを任せる仕組みではない点に注意が必要です 次の一歩として、会社の登記事項証明書・定款・株主名簿を手元に出し、「社長1人に集まっているもの」を書き出してみてください 経営者の方に知っておいてほしいのは、「社長が認知症になったら会社はどうなるか」という問いには、家庭裁判所の審判が出る前と後で、まったく別の答えがあるということです。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし

経営者の登記カレンダー──設立から承継・万一のときまで、節目ごとの一覧

この記事の要点 会社の登記は「設立したら終わり」ではなく、役員の任期満了・増資・本店移転・事業承継・社長の死亡・解散など、経営の節目ごとに必要になる 登記の内容に変更が生じたら、原則として2週間以内に変更登記をする(会社法915条1項)。怠ると代表者個人が100万円以下の過料の対象になりうる(会社法976条1号) 株式会社は、最後の登記から12年たつと「休眠会社」として解散したものとみなされることがある(会社法472条) この記事は節目ごとの一覧(目次)です。各手続きの中身は、リンク先の個別記事で確認してください 会社の登記は、会社の一生のあいだに何度も必要になります。設立のときに1回だけ行うものではなく、役員の任期が切れたとき、資本金や本店を変えたとき、社長が交代したとき、そして会社をたたむときまで、節目ごとに「その時点の会社の姿」を登記簿に反映させる仕組みです。 ...

2026年9月26日 · ひぐらしさとし