この記事の要点

  • 非上場株式を相続しても会社の承認は不要だが、会社が定款で定めていれば「売渡請求」を受けることがある
  • 株主としての権利を会社に主張するには、株主名簿の名義書換(めいぎかきかえ)が必要
  • 配当も売却先もないまま少数株主になるケースは珍しくなく、対応は早めの整理が肝心

「親が中小企業の株を少し持っていた。相続財産の一覧に出てきたが、上場株のように証券会社に問い合わせれば済む話ではないらしい」──非上場株式(取引相場のない株式)の相続で、こうした戸惑いを抱える方は少なくありません。

非上場株式の相続というと、後継ぎとなる経営者側が事業を引き継ぐ場面(事業承継)がイメージされがちです。しかし実際には、経営に関わる予定のない方が、親族の遺産分割の結果として、まったく畑違いの会社の株式を数パーセントだけ相続し、そのまま少数株主になってしまうケースが数多くあります。この記事は、そうした「経営者ではない側」から見た非上場株式の相続を主な対象に、名義書換の仕組みと、少数株主として直面しやすい現実を整理します。

非上場株式の相続に会社の承認はいらない

中小企業の株式の多くには「譲渡制限」が付いています。株主が株式を他人に譲り渡すときに、会社(株主総会や取締役会)の承認を必要とする仕組みです(譲渡制限の詳しい内容はこちらの記事で解説しています)。

ここで誤解されやすいのが、「譲渡制限株式なら、相続のときも会社の承認がいるのでは」という点です。答えはいいえです。相続は、亡くなった方の財産上の地位を包括的に引き継ぐ「一般承継」であり、当事者の合意で行う「譲渡」とは法的性質が異なります。会社法の譲渡制限(会社法107条1項1号、108条1項4号)は、あくまで株主の意思による「譲渡」を対象とする制度であり、相続のような一般承継には及びません。したがって、譲渡制限株式であっても、相続によって株式を取得すること自体には、会社の承認は不要です。

株主名簿の名義書換──権利を主張するための手続き

会社の承認は不要でも、相続しただけで自動的に配当や議決権の案内が届くわけではありません。ここで登場するのが株主名簿の名義書換です。

会社法130条1項は、株式の譲渡について「株主名簿に記載・記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない」と定めています。相続は譲渡そのものではありませんが、実務上、会社に対して株主としての権利(議決権の行使、配当の請求など)を行使するには、株主名簿の名義を被相続人から相続人へ書き換えてもらう必要があります。名義書換をしないままでは、会社の側も「誰が正当な株主なのか」を把握できず、配当の案内すら届かない状態になりかねません。

非上場株式の多くは株券を発行しない「株券不発行会社」の株式です。この場合、名義書換には、被相続人が亡くなったことと、相続人が誰であるかを証明する戸籍謄本一式や、遺産分割協議書(協議で株式の取得者を決めた場合)などを会社に提出するのが一般的な流れになります。会社ごとに必要書類や様式が異なるため、まずは株式を発行している会社(または株主名簿管理人)に、相続による名義書換の手続きを問い合わせるところから始めることになります。

会社から「売り渡してほしい」と言われることがある──売渡請求(会社法174条)

非上場株式の相続で意外と知られていないのが、会社の側から株式の売渡しを求められる制度があるという点です。

会社法174条は、譲渡制限株式を発行する会社が、定款で定めることにより、相続その他の一般承継によってその株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すよう請求できる旨を規定しています。中小企業では、望まない第三者(あるいは経営に関与しない相続人)が株主として入り込むことを避けるため、この定めを置いている会社が少なくありません。

売渡請求には歯止めもあります。会社が売渡請求をするには、その都度、株主総会の特別決議が必要で(会社法175条1項)、対象となった相続人は、その決議において原則として議決権を行使できません(同条2項)。また、会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内でなければ、売渡請求をすることができません(会社法176条1項ただし書)。売買価格は当事者間の協議で決まるのが原則で、協議が調わないときは裁判所に価格の決定を申し立てる手続きが用意されています。

もっとも、この売渡請求は、会社の側の一方的な意思表示によって株式の売買が成立する性質のものと理解するのが一般的な考え方です。この理解によれば、相続人の側が「売りたくない」と言って請求そのものを拒むことは、原則としてできません。相続人が争う中心は価格の点になりますが、そもそも定款に売渡請求の定めがない、株主総会の決議の手続に問題がある、会社が相続を知った日から1年を過ぎているといった場合には、売渡請求それ自体の効力を争う余地も残ります。

つまり、「株を持ち続けるかどうか」を相続人だけの意思で決められるとは限らず、会社の定款次第では、会社側の意向で売渡しを求められる可能性がある、ということです。相続した株式が譲渡制限株式かどうか、会社の定款に売渡請求の定めがあるかどうかは、早い段階で確認しておきたいポイントです。

相続人が複数いるとき──「準共有」と権利行使者の指定

遺産分割協議がまとまるまでの間、非上場株式は相続人全員の共有(正確には準共有)の状態にあります。この間、会社に対してどう権利を行使すればよいのでしょうか。

会社法106条は、株式が2人以上の共有に属するときは、共有者は、その株式についての権利を行使する者を1人定めて会社に通知しなければ、原則としてその株式についての権利を行使できないと定めています。つまり、相続人が3人いる場合でも、勝手に3人それぞれが議決権を行使したり配当を請求したりすることはできず、まずは代表者を1人決めて会社に届け出る必要があります。

では、その代表者(権利行使者)は、相続人全員の同意がなければ決められないのでしょうか。この点は考え方が分かれていたところで、「全員の一致が必要だ」という見解もありますが、最高裁は、持分の価格に従いその過半数で決めることができるという立場をとっています(最判平成9年1月28日集民181号83頁)。一人でも反対すれば誰も権利行使できなくなってしまうと、会社の運営にも支障が生じるためです。

なお、会社法106条にはただし書があり、会社が同意した場合には、権利行使者の通知がなくても権利を行使できるとされています。ただし最高裁は、会社が同意した場合であっても、その権利行使が民法の共有に関する規定(原則として、持分の価格に従いその過半数で決めることになります)に従っていなければ、適法な権利行使とはいえないとしています(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)。会社が「どうぞ」と言いさえすれば相続人の誰か一人が自由に議決権を行使できる、という意味ではない点には注意が必要です。

遺産分割協議が長引いている間も、株主総会が開かれれば議決権行使の機会は発生します。代表者を決めないまま放置すると、会社側の重要な決定に相続人の意思がまったく反映されない、という事態にもなりかねません。遺産分割協議と並行して、権利行使者を誰にするかも早めに話し合っておくことが大切です。

配当も売却先もない──少数株主になったときの現実

事業承継の視点から語られることの多い非上場株式ですが、経営に関与しない立場で相続した少数株主にとっては、次のような現実に直面することが少なくありません。

  • 配当が出ない、または少額……中小企業の多くは配当よりも内部留保や再投資を優先しており、配当がまったく出ない会社も珍しくありません
  • 売却先が見つからない……非上場株式には証券取引所のような公開の市場がなく、買いたいという第三者を自分で見つけるのは容易ではありません
  • 議決権を持っていても実質的な発言力は乏しい……少数の持株比率では、株主総会での意思決定に影響を及ぼすのは難しいのが実情です

このような状況から、「相続はしたものの、財産としてどう扱えばよいのか分からない」という悩みが生じやすいところです。取れる選択肢としては、主に次のようなものがあります。

  1. そのまま保有を続ける……配当や将来的な会社の状況変化を見込んで、株主であり続ける選択です
  2. 会社(発行会社自身)や他の株主に買い取ってもらえないか打診する……非上場株式では会社自身や既存株主が実質的な引受先になる場合があります。ただし、買取りの条件をめぐって利害が対立しやすい交渉になりますので、価格や進め方について迷ったときは、ご自身だけで交渉を進めず、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします
  3. 前述の売渡請求など、会社側の制度による整理を待つ……定款に売渡請求の定めがある会社では、会社側からの手続きが動く可能性もあります

いずれの道を選ぶにしても、まずは「自分がどんな会社の、どれくらいの割合の株式を、どんな条件(譲渡制限の有無、売渡請求条項の有無など)で保有しているのか」を正確に把握することが出発点になります。この点は、事業承継の当事者(後継ぎとなる経営者)が会社の将来を設計する視点とは異なり、事業承継で必要になる手続きの全体像で扱うような会社運営側の話とは切り離して考える必要があります。

まとめ

非上場株式を相続しても、会社の承認なしに株式そのものは取得できます。ただし、株主としての権利を実際に行使するには株主名簿の名義書換が必要で、会社によっては相続を機に売渡請求を受ける可能性もあります。相続人が複数いる間は権利行使者を1人定めて会社に通知する必要がある点も見落としやすいポイントです。配当も売却先もないまま少数株主になってしまうケースも多く、保有を続けるか、手放す方向を探るか、早めに方向性を整理しておくことが大切です。相続財産に非上場株式が含まれていることが分かったら、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 非上場株式の名義書換に費用はかかりますか? 名義書換そのものは会社の内部手続きであり、不動産登記のような登録免許税はかかりません。会社によっては事務手数料を定めている場合がありますので、まずは発行会社に確認するのが確実です。手続きに必要な戸籍の収集や遺産分割協議書の作成についてご不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

Q. 名義書換をしないで放置すると、どんなリスクがありますか? 不動産の相続登記のような法律上の申請義務はありませんが、名義書換をしないままだと、配当の案内が届かない、株主総会の招集通知が来ない、いざというときに議決権を行使できないといった不利益が生じます。また、会社が売渡請求の制度を使っている場合、相続の事実を知らないうちに手続きが進んでいた、という事態も考えられます。早めに発行会社へ連絡を取ることをお勧めします。

Q. 自分で名義書換の手続きはできますか?どこに相談すればいいですか? 戸籍を集めて発行会社に提出するだけであれば、相続人自身で進められることも多い手続きです。ただし、遺産分割協議が難航している場合や、会社から売渡請求を受けて価格交渉が必要になった場合は、専門家の関与が有益です。相続人の範囲確定や必要書類の整理については、お近くの司法書士にご相談ください。価格交渉など利害が対立する場面では弁護士への相談もあわせてご検討ください。


【さらに深掘り】株主名簿の名義書換と商業登記実務の接点

ご注意 以下は執筆時点(2026年08月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

株主名簿の名義書換は、商業登記簿には反映されない

株主名簿の名義書換と聞くと、「登記簿の記載も変わるのでは」と思われる方がいますが、両者は別の制度です。商業登記簿(会社の登記事項証明書)に記載されるのは、会社名・本店・目的・発行済株式の総数・資本金額・役員(取締役、代表取締役、監査役など)といった事項であり、個々の株主の氏名は登記事項ではありません。そのため、相続によって株主が交代しても、それだけで会社の登記に変動が生じることはなく、名義書換の手続きも法務局ではなく発行会社(または株主名簿管理人)に対して行います。

ただし、相続によって株式を取得した相続人が、その会社の取締役や監査役といった役員に就任する場合は話が別です。役員の氏名は会社法911条3項に基づく登記事項であり、就任にあわせて役員変更登記(商業登記法54条)が必要になります。なお、相続人が代表取締役に就任する場合は、氏名だけでなく住所も登記事項になりますが(会社法911条3項14号)、令和6年10月1日施行の商業登記規則31条の3により、所定の書面を添えて申し出れば、登記事項証明書に記載される住所を行政区画までにとどめる「代表取締役等住所非表示措置」を求めることができます。株式の名義書換自体は登記を要しない私的な手続きですが、相続をきっかけに相続人が経営に加わる場面では、名義書換と役員変更登記という性質の異なる二つの手続きが同時に発生することになります。

名義書換が未了のまま総会を迎えるケースの注意点

相続後、遺産分割協議が長引くなどして名義書換が済まないうちに株主総会の招集時期を迎えることは、実務上珍しくありません。この場合、会社の株主名簿上は亡くなった被相続人の氏名が株主として残ったままになります。

株主総会の決議事項を法務局に登記する際は、会社の規模を問わず、株主総会議事録に加えて「株主リスト」(商業登記規則61条2項・3項、株主の氏名・住所・議決権数等を証する書面)の添付が求められます。株主名簿の名義書換が未了のまま作成された株主リストに、既に死亡している被相続人の氏名がそのまま記載されていると、登記申請の際に補正を求められる、あるいは相続人からの権利行使者の届出(会社法106条)の有無を確認されるといった対応が生じることがあります。名義書換の遅れは、単に配当や招集通知が届かないという相続人側の不利益にとどまらず、会社側の登記実務にも影響しうる点は、あまり知られていません。

売渡請求を行使する際の株主総会議事録の作成・保存

会社が会社法174条の売渡請求を行使するには、株主総会の特別決議が必要です(会社法175条1項)。この決議に基づいて会社が相続人から株式を買い取っても、それだけで直ちに登記事項が変わるわけではありません。会社が取得した株式を自己株式として保有し続ける限り、発行済株式総数に変動はなく、登記も発生しません。

登記が必要になるのは、会社が取得した株式を消却(会社法178条)する場合です。この場合は発行済株式総数が減少するため、変更登記(会社法911条3項9号)が必要になります。逆にいえば、売渡請求そのものは登記に直結する場面が限られているため、「登記されていないから会社が売渡請求を行使していない」とは限りません。だからこそ、売渡請求の決議が適法に行われたことを示す株主総会議事録は、登記の有無にかかわらず、会社法318条に基づき本店に10年間備え置く義務のある重要な記録として、正確に作成・保存しておく必要があります。なお、売買価格そのものは株主総会で決める事項ではなく、前述のとおり当事者間の協議、調わなければ裁判所の決定で定まりますので、価格交渉の経過は議事録とは別に記録を残しておくことになります。

定款の売渡請求条項は、登記簿を見ただけでは分からない

売渡請求ができるかどうかは、会社の定款に売渡請求に関する定めがあるかどうかで決まります(会社法174条)。ここで見落とされがちなのが、定款は商業登記簿の記載事項ではないという点です。登記事項証明書をいくら取り寄せても、その会社が売渡請求の定めを置いているかどうかは分かりません。

定款の内容を確認するには、会社に直接開示を求めるほかありません。株主であれば、会社法31条2項に基づき、営業時間内はいつでも定款の閲覧や、その謄本・抄本の交付を請求できます(謄本・抄本の交付を求めるときは、会社の定めた費用を支払う必要があります)。ただし、この閲覧請求権はあくまで「株主」に認められた権利です。前述のとおり、名義書換が済むまでは会社に対して株主であることを主張しにくい立場に置かれますので、名義書換前の相続人が同じ根拠で当然に請求できるとは限りません。相続の早い段階で名義書換の手続きを進めておくことは、配当や議決権行使のためだけでなく、定款など会社の内部情報にアクセスする根拠を得るという意味でも実務上の意義があります。


参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年08月)。

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