この記事の要点
- 借地権(土地を借りて建物を建てる権利)は相続財産として当然に引き継がれ、地主の承諾は不要。承諾料(名義書換料)を支払う法律上の義務もない
- 土地の名義変更は不要だが、建物の相続登記は必要。相続で取得を知った日から3年以内の申請が義務(怠ると10万円以下の過料の対象)
- 地代の支払いはそのまま相続人が引き継ぐ。滞納すると契約解除のリスクがあるので、支払方法の確認を最優先に
- 借地契約書を探して、契約の種類(普通借地権か定期借地権か)と特約を確認する
- 売却や建て替えなど「次の一手」には地主の承諾が必要になる場面がある。もめたときの交渉・紛争対応は弁護士の分野
親が亡くなり、実家の登記簿(登記事項証明書)を取ってみたら、土地の所有者欄に知らない人の名前が載っていた——。実は、実家は「借地」の上に建っていた、というケースは珍しくありません。
結論から言うと、慌てる必要はありません。土地を借りて建物を持つ権利(借地権)は、預貯金や建物と同じ相続財産の一つとして、法律上当然に相続人へ引き継がれます。地主の承諾はいりませんし、この記事で紹介する手順どおりに進めれば大丈夫です。
この記事では、「相続した実家が借地だった」と分かったときに何をすればよいかを、順を追って解説します。借地権そのものの登記の仕組み(地上権と賃借権の違いなど)は、別の記事で詳しく解説しています。
「実は借地だった」に気づくきっかけ
相続の場面で借地だと判明するきっかけは、だいたい次のどれかです。
- 登記事項証明書を取ったら、土地の所有者が親ではなかった(建物だけが親名義)
- 親の通帳に、毎月・毎年の「地代」の支払いが記録されていた
- 遺品整理で土地賃貸借契約書が出てきた
- 固定資産税の納税通知書に建物しか載っていない(土地の固定資産税は地主が払うため)
「土地も実家のものだと思っていた」という思い込みは意外と多く、相続手続きを進める中で初めて気づく方が少なくありません。
借地権も相続財産──地主の承諾はいらない
借地権のほとんどは、法律上「賃借権(ちんしゃくけん)」という土地を借りる権利です。賃借権を他人に譲渡(売却など)するときは地主の承諾が必要ですが(民法612条)、相続は譲渡には当たりません。亡くなった方の権利義務は、相続によって包括的に(まるごと)相続人へ引き継がれるためです(民法896条)。
したがって、
- 相続にあたって地主の承諾は不要
- 地主から「名義書換料(承諾料)を払ってほしい」と言われても、相続を理由に支払う法律上の義務はない
- 地主が「相続なら契約は終わり。土地を返して」と言うこともできない
というのが基本です。ただし、今後も地代を払い続ける相手ですから、関係を良好に保つために相続した旨をひと言連絡しておくのが実務上は望ましい対応です(連絡自体は法律上の義務ではありません)。
まずやること3つ
1. 借地契約書を探す
土地賃貸借契約書(古い場合は「土地賃貸借契約証書」など)を探し、次の点を確認します。
- 地代の額と支払方法(振込先・支払時期)
- 契約期間と契約の種類(更新のある普通借地権か、更新のない定期借地権か)
- 特約の有無(増改築には承諾が必要、といった条項がよくあります)
契約書が見つからない場合でも、借地権がなくなるわけではありません。地主に連絡して契約内容を確認させてもらいましょう。
2. 地代の支払いを止めない
地代の支払義務は相続人がそのまま引き継ぎます。亡くなった方の口座は凍結されて自動引き落としが止まることがあるため、支払いが途切れないようにすることが最優先です。地代の滞納が続くと、契約を解除されるリスクがあります。
3. 建物の相続登記をする
土地は地主のものなので、土地について相続人が登記をする必要はありません。しかし建物は亡くなった方の名義のままですから、相続人への名義変更(相続登記)が必要です。
相続登記は2024年4月から義務化されており、自分が相続で建物を取得したと知った日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(詳しくは相続登記の義務化と過料の記事をご覧ください)。
注意したいのは、義務化より前(2024年3月以前)に発生した相続も対象になることです。この場合の申請期限は2027年3月31日とされており、期限が近づいています。「親の代に相続したまま、建物の名義が祖父母のままになっている」という借地上の実家は、まさにこのケースに当たります。
なお、土地を借りる権利(賃借権)そのものは、登記されていないのが普通です。それでも、登記された建物を所有していれば借地権を第三者に主張できる仕組みになっているため(借地借家法10条1項)、建物の相続登記をきちんとしておくことが、借地権を守ることに直結します。
誰が引き継ぐか──遺産分割での注意点
相続人が複数いる場合、遺産分割協議で「建物と借地権を誰が取得するか」を決めます。このとき注意したいのは、借地権にも財産価値があるということです。
都市部では、借地権の価値が更地価格の6〜7割程度と評価される地域もあり、「土地は借り物だから実家はほぼ無価値」と考えて遺産分割をすると、後で不公平が問題になりかねません。借地権付き建物も一つの財産として、他の遺産(預貯金など)とのバランスを考えて分け方を決めましょう。
遺産分割協議がまとまったら、その内容を遺産分割協議書にまとめ、建物の相続登記を申請します。
住み続けない場合の選択肢
相続した借地上の実家に誰も住まない場合、主な選択肢は次のとおりです。
- 売却する:借地権付き建物として第三者に売ることができますが、相続と違って売却(譲渡)には地主の承諾が必要です(民法612条)。承諾の際に承諾料(名義書換料)を支払う慣行が広く見られます。地主がどうしても承諾しない場合に、裁判所の許可で代える手続き(借地非訟)もあります
- 地主に買い取ってもらう・借地権を返す:地主との合意によります。長年の借地権には財産価値があるため、無償で返す前に価値を確認するのが賢明です
- 建て替えて活用する:契約に増改築禁止特約があれば地主の承諾が必要です
いずれも地主との話し合いが必要になる場面です。条件面でもめたとき、話し合いがこじれたときの交渉・紛争対応は弁護士の分野ですので、早めに弁護士へ相談してください。
まとめ
相続した実家が借地の上に建っていても、借地権は相続財産として当然に引き継がれ、地主の承諾も承諾料も原則不要です。やるべきことは、①借地契約書の確認、②地代の支払いの継続、③3年以内の建物の相続登記、の3つが柱になります。借地権には財産価値があるため、遺産分割でも軽視しないことが大切です。
借地が絡む相続登記は、契約内容の確認や地主とのやり取りが加わるぶん、通常の相続登記より確認事項が多くなります。進め方に迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 借地上の実家の相続手続きには、費用がどれくらいかかりますか?
建物の相続登記には、登録免許税(建物の固定資産税評価額の0.4%)と、戸籍謄本などの書類取得費がかかります。司法書士に依頼する場合は別途報酬がかかります。土地は地主名義のままなので、土地についての登録免許税はかかりません。また、相続を理由に地主へ名義書換料を支払う法律上の義務はありません。
Q. 手続きに期限はありますか?放置するとどうなりますか?
建物の相続登記は、相続で取得したと知った日から3年以内の申請が義務で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。義務化前(2024年3月以前)の相続も対象で、その場合の期限は2027年3月31日です。また、地代の支払いが滞ると借地契約を解除されるリスクがあり、建物が亡くなった方の名義のままでは売却などの次の一手も打てません。早めの対応をおすすめします。
Q. 手続きは自分でできますか?どこに相談すればよいですか?
建物の相続登記自体は、書類が揃えば自分で申請することも可能です。ただし借地の場合、契約書の確認や地主への連絡、遺産分割での借地権の扱いなど、判断に迷う場面が通常より多くなります。登記や手続き全般はお近くの司法書士へ、地主との交渉がこじれた場合は弁護士へ、相続税の評価・申告は税理士へ、それぞれ相談してください。
【さらに深掘り】借地権付き建物の相続──登記実務と税務の論点
ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
不動産登記実務の観点
遺産分割協議書における借地権の特定。 借地上の建物を特定の相続人に取得させる場合、協議書には建物を登記事項(所在・家屋番号・種類・構造・床面積)どおり記載したうえで、あわせて「同建物の敷地に係る借地権(賃借権)」を同一の相続人が取得する旨を明記しておくのが実務上望ましい。賃借権は登記されていないことが多く、登記記録では特定できないため、協議書上で建物と借地権の帰属を一体で明らかにしておくことが、後日の紛争予防と対地主関係の整理に役立つ。
登録免許税。 相続による建物の所有権移転登記の登録免許税は、建物の固定資産税評価額に1000分の4を乗じた額である(登録免許税法別表第一)。敷地は地主所有のため、土地についての移転登記は生じない。
建物が未登記だった場合。 古い借地上の建物では、表題登記すらされていないことがある。この場合、まず建物の表題登記(土地家屋調査士の業務分野)を行い、そのうえで相続人名義の所有権保存登記を申請する。表題部所有者の相続人は、直接自己名義で所有権保存登記を申請できる(不動産登記法74条1項1号)。未登記のままでは借地借家法10条1項の対抗力も働かないため、放置は避けたい。
遺贈による取得との違い。 本文で述べた「承諾不要」は相続(法定相続・遺産分割による承継)の場合である。遺言による遺贈で借地権付き建物を取得する場合、特定遺贈は賃借権の「譲渡」に当たり地主の承諾が必要とするのが一般的な理解である。他方、包括遺贈の場合は、包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ことから承諾不要と解する見解が有力である。もっとも、この点を明確に判断した裁判例は見当たらないとの指摘もあり、実務では念のため地主の承諾を得ておく対応もみられる。遺言の文言によって扱いが変わり得る論点のため、借地上の建物を遺言で承継させる場合は文案段階からの検討が必要になる。
税務上の観点
借地権も相続税の課税対象になる。 借地権は相続税の計算上も財産として評価される。評価方法は、その土地を自分の土地として評価した額(自用地評価額)に、地域ごとに定められた借地権割合を乗じるのが原則である(財産評価基本通達27)。借地権割合は国税庁の路線価図・評価倍率表に表示されており、住宅地では30〜70%程度、都心部では90%に達する地域もある。建物は固定資産税評価額により評価される。
小規模宅地等の特例。 被相続人の居住の用に供されていた宅地等には、借地権のような「宅地の上に存する権利」も含まれる。要件を満たせば、特定居住用宅地等として330㎡まで評価額の80%を減額できる可能性がある(租税特別措置法69条の4)。ただし、取得者が配偶者か、同居親族か、いわゆる「家なき子」かによって要件が細かく分かれる。
これらの評価・特例適用の可否は個別事情によって大きく変わるため、具体的な相続税の評価・申告は税理士に相談してほしい。司法書士が扱えるのは登記と一般的な制度説明までである。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 民法 第612条・第896条・第990条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 借地借家法 第10条・第19条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 不動産登記法 第74条・第76条の2・第164条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 登録免許税法 別表第一(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 租税特別措置法 第69条の4(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 法務省「相続登記の申請義務化について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
- 国税庁 財産評価基本通達(借地権の評価): https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/06.htm
- 国税庁 路線価図の説明(借地権割合): https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_prcf.htm
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 三井住友トラスト不動産「借地権付き建物の遺贈と賃貸人の承諾」: https://smtrc.jp/useful/knowledge/introduction-sell-law/2024_09.html