この記事の要点
- 借地に建てた自分の家でも、土地を使う権利は「地上権」または「賃借権」として区別され、扱いが異なる
- 実務では賃借権が大半で、土地の賃借権そのものを登記しなくても、建物の登記があれば第三者に対抗できる(借地借家法10条)
- 借地権付きの建物を相続するときは地主の承諾は不要だが、売却(譲渡)するときは原則として地主の承諾が必要
- 借地契約の内容(普通借地権か定期借地権か等)によって将来の選択肢が変わるため、契約書の確認が重要
「実家の土地は、実は借りている土地だった」「登記簿を見たら、土地の欄に自分の名前がない」——相続や売却の場面で、こうした戸惑いに出会う方は少なくありません。日本では、建物は自分のものでも、その下の土地は地主から借りている、という「借地」の家がまだ多く存在します。
この記事では、借地に建物を持つときに関わる「借地権(しゃくちけん)」の登記の仕組みを、できるだけやさしく整理します。
借地権とは何か
借地権とは、建物を所有する目的で他人の土地を使う権利のことです。マイホームや店舗の建物を建てるために、地主から土地を借りて対価(地代)を払う、という契約が土台になっています。
この借地権には、法律上2つの種類があります。
- 地上権(ちじょうけん):土地そのものを直接使用できる「物権」。地主の承諾なしに譲渡・転貸できるのが原則で、土地に対する権利としては強いものです。
- 賃借権(ちんしゃくけん):土地の賃貸借契約に基づく「債権」。譲渡や転貸には原則として地主の承諾が必要です(民法612条)。
実務上、住宅地の借地はほとんどが賃借権です。地上権は地主にとって権利が弱くなるため、設定されるケースは多くありません。
登記簿にはどう記録されるか
地上権を設定した場合は、土地の登記簿(登記事項証明書)の権利部(乙区)に「地上権設定」として記録されます。
一方、賃借権は登記できる権利ではありますが、実際に土地の賃借権そのものが登記されているケースは多くありません。理由は、賃借権の設定登記には地主の協力(共同申請)が必要で、地主にとって義務ではなく、応じてもらえないことが多いためです。
では、賃借権の登記がなければ、借地人は土地に対する権利を第三者に主張できないのでしょうか。ここで重要になるのが次のルールです。
建物の登記があれば、土地の賃借権登記がなくても対抗できる
借地借家法10条1項は、借地権者がその土地の上に登記されている建物を所有していれば、土地の賃借権自体の登記がなくても、第三者(土地を買った新しい地主など)に借地権を対抗できると定めています。
つまり実務上は、
- 土地の賃借権そのものの登記 → 省略されることが多い
- 建物の所有権登記 → これがあれば借地権を守れる
という形で運用されています。借地に家を建てたら、まず建物の登記(表題登記・所有権保存登記)を済ませておくことが、借地権を守るうえでの実質的なポイントになります。
借地の建物を相続するとき
借地権付きの建物を相続する場合、借地権も相続財産の一部として、当然に相続人へ引き継がれます。相続は法律上の「譲渡」には当たらないため、地主の承諾は不要です。
ただし、次の点には注意が必要です。
- 建物の名義(登記)は、相続人へ変更する登記(相続登記)が必要
- 地代の支払いは、相続人がそのまま引き継ぐ
- 契約書に「相続人への承継には通知が必要」といった条項がある場合は、契約内容の確認が必要
地主への相続の報告自体は法律上の義務ではありませんが、今後の関係を考えると、相続が発生した旨を伝えておくと安心です。
借地の建物を売却するとき
相続とは異なり、借地権付きの建物を第三者に売却(譲渡)する場合は、原則として地主の承諾が必要です(民法612条)。無断で譲渡すると、地主から契約を解除されるリスクがあります(ただし、地主との信頼関係を壊すとまではいえない特段の事情がある場合は、解除が認められないこともあるとされています)。
実務では、承諾を得る際に「承諾料(名義書換料)」を地主に支払う慣行があるケースが多く見られます。相場は借地権価格の一定割合とされることが多いですが、地域や契約内容によって差があります。
地主がどうしても承諾しない場合には、裁判所の関与する手続き(借地非訟手続)で承諾に代わる許可を得る道も用意されています。ただし、この手続きの要否や進め方は個別の事情により大きく異なるため、実際に直面した場合は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
まとめ
- 借地権には「地上権」と「賃借権」があり、住宅地では賃借権が大半
- 土地の賃借権登記がなくても、建物の登記があれば借地権を第三者に対抗できる(借地借家法10条1項)
- 相続では地主の承諾は不要だが、建物の相続登記は必要
- 売却(譲渡)には原則として地主の承諾が必要
借地の建物を相続した、あるいはこれから売却を考えている場合は、契約内容や登記の状況によって進め方が変わります。判断に迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 借地権の登記にかかる費用はどれくらいですか?
地上権や賃借権の設定登記をする場合、登録免許税は土地の固定資産税評価額をもとに計算されます(軽減措置の有無で税率が変わることがあります)。実際には賃借権の登記自体を行わず、建物の登記だけで対抗力を確保しているケースが多いため、費用が発生する場面は契約内容によって異なります。具体的な金額は法務局や司法書士に確認するのが確実です。
Q. 借地契約の期限が来たらどうなりますか?放置するとまずいですか?
借地には、正当な事由がない限り更新が続く「普通借地権」と、更新のない「定期借地権」があります。契約の種類によって期間満了時の扱いが大きく異なるため、まず自分の借地契約がどちらに当たるかを契約書で確認することが大切です。更新料の支払いや通知への対応を放置すると、契約解除や更新拒絶のリスクにつながることがあります。
Q. 借地の相続登記は自分でできますか?
建物の相続登記自体は、書類が揃っていれば自分で申請することも可能です。ただし借地権が絡む場合は、契約内容の確認や地主とのやり取りが必要になることが多く、判断に迷う場面も出てきます。不安があれば、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】借地権登記の実務ポイント
ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・登記実務に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
地上権・賃借権設定登記の申請実務
地上権設定登記・賃借権設定登記は、いずれも土地の所有者(設定者=義務者)と借地権者(地上権者・賃借人=権利者)の共同申請で行う。登記事項は、地上権であれば地代・存続期間・目的(工作物または竹木の所有等)、賃借権であれば賃料・支払時期・存続期間のほか、譲渡・転貸を認める特約の有無などが記録される(不動産登記法所定の登記事項)。登録免許税は、地上権・賃借権の設定登記のいずれも、本則では不動産の価額に1000分の10の税率を乗じて算出する(登録免許税法別表第一)。ただし個別の軽減措置の適用可否や期限は事案・時期により異なるため、実際の税額は最新の税率を確認したうえで判断する必要がある。
建物が滅失したときの対抗力維持(借地借家法10条2項)
本文で触れた「建物の登記があれば土地の賃借権登記がなくても対抗できる」という対抗力は、その建物が火災や取り壊しで滅失すると、原則として失われる。もっとも借地借家法10条2項は、借地権者が、建物を特定するために必要な事項・滅失があった日・新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示すれば、なお対抗力を維持できると定めている。ただし、滅失があった日から2年を経過した後は、その前に建物を新たに築造し、かつその建物について登記した場合に限られる(掲示すべき具体的な様式・運用は法令に定めがなく、実務の取扱いによる)。この2年の期間内に建物を再築して登記をしないと対抗力を失う点は、古い借地の建物を相続・購入する場面で見落とされやすい注意点である。
相続時の前提登記と契約書の確認
借地権付き建物の相続では、まず建物の相続登記(所有権移転登記)が前提となる。あわせて、借地契約書(賃貸借契約書・公正証書等)に相続時の通知義務や承諾条項が定められていないかの確認が実務上のポイントになる。契約書の原本所在が分からない場合は、地主側に契約内容の確認を求めることも選択肢になる。
地主が譲渡を承諾しないときの裁判所手続(借地非訟)
地主が借地権の譲渡を承諾しない場合に備え、借地借家法には、借地権者が裁判所に承諾に代わる許可を求める手続(いわゆる借地非訟手続。借地借家法19条)が用意されている。この手続では、地主の側から自ら建物・借地権を譲り受ける旨を申し出る制度(介入権。同19条3項)も認められている。借地上の建物が競売・公売により第三者に取得された場合の同様の許可手続についても規定がある(同20条)。これらは裁判所が関与する非訟手続であり、具体的な申立ての要否・進め方は弁護士と連携すべき領域であるため、本記事では制度の存在を紹介するにとどめる。
定期借地権の登記実務上の留意点
一般定期借地権(借地借家法22条)・事業用定期借地権(同23条)・建物譲渡特約付借地権(同24条)といった「更新のない」定期借地権も存在する。登記実務上は、賃借権設定登記の特約欄に契約類型や期間満了時の取扱いを記載することがある。事業用定期借地権は、その設定を目的とする契約を公正証書によってしなければならないとされており(借地借家法23条3項)、書面によればよい一般定期借地権とは異なり公正証書が効力要件となる点が、通常の借地契約と異なる注意点である。