この記事の要点
- 会社をまとめる「合併」と、事業の一部を切り出す「会社分割」は、いずれも登記が必要な組織再編の手続き
- 合併には吸収合併・新設合併、会社分割には吸収分割・新設分割があり、当事会社の数や登記の内容が異なる
- 株主総会の特別決議・債権者保護手続き(公告・催告)を経て、効力発生日から2週間以内に登記が必要
- 契約書の作成段階から法律・税務両面の検討が必要になるため、専門家の関与が実務上一般的
事業承継やグループ内の再編を検討する中小企業の経営者から、「会社をひとつにまとめたい」「事業の一部を切り離して別会社にしたい」という相談が増えています。こうした場面で使われるのが、会社法上の「合併」と「会社分割」という組織再編の手続きです。
いずれも効力発生とともに商業登記が必要になります。この記事では、合併・会社分割の登記手続きの流れを、一般的な仕組みとして整理します。
合併とは──会社をひとつにまとめる手続き
合併とは、2つ以上の会社がひとつの会社にまとまる手続きです。会社法上、2つの型があります。
- 吸収合併:一方の会社(存続会社)が、もう一方の会社(消滅会社)を吸収する。消滅会社は解散し、権利義務は存続会社に包括的に承継される
- 新設合併:合併するすべての会社が解散し、新しく設立する会社に権利義務を承継させる
実務では、許認可の引き継ぎや取引先との契約継続がしやすいことから、吸収合併が選ばれることが多いとされています。
会社分割とは──事業の一部を切り出す手続き
会社分割は、会社の事業(の全部または一部)を、他の会社に承継させる手続きです。こちらも2つの型があります。
- 吸収分割:既存の会社に事業を承継させる
- 新設分割:新しく設立する会社に事業を承継させる
グループ内で事業ごとに会社を分ける(持株会社化・事業部門の別会社化)といった場面でよく使われます。
手続きの大まかな流れ
合併・会社分割は、いずれもおおむね次のような流れで進みます。
- 合併契約書(または分割契約書・分割計画書)の作成
- 株主総会の特別決議による承認
- 債権者保護手続き(官報公告・個別催告)
- 効力発生日
- 効力発生日から2週間以内に登記申請
債権者保護手続きが必要な理由
合併・会社分割は、会社の財産・負債の構成が大きく変わる手続きのため、会社法は債権者を保護する手続きを求めています。官報での公告に加え、把握している債権者には個別の催告を行うのが原則です(一定の場合、公告方法を工夫することで個別催告を省略できる制度もあります)。この期間は一定の期間(1か月以上とされています)を確保する必要があり、全体のスケジュールを組むうえで起点になります。
登記は「効力発生日」から数える
合併・会社分割の登記は、契約書を作成した日ではなく、効力が発生した日から2週間以内に申請する必要があります。吸収合併・吸収分割では存続会社・承継会社側の変更登記と、消滅会社側の解散登記(または分割による変更登記)が同時に必要になります。新設合併・新設分割では、新しく設立する会社の設立登記が必要です。
似たしくみとして、会社の種類そのものを変える「組織変更」もありますが、こちらは複数の会社が関わらない点で合併・会社分割とは異なります。
まとめ
- 合併は会社をひとつにまとめる手続き(吸収合併・新設合併)
- 会社分割は事業の一部を切り出す手続き(吸収分割・新設分割)
- いずれも株主総会の特別決議・債権者保護手続きを経て、効力発生日から2週間以内に登記が必要
- 契約書の作成段階から専門家が関与するのが実務上一般的
事業承継やグループ再編を検討する際は、会社の状況によって最適な手法が変わります。判断に迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 合併・会社分割の登記費用はどれくらいですか?
登録免許税は、存続会社・承継会社側の資本金増加の有無や、消滅会社側の解散登記の有無によって計算が変わります。具体的な金額は個別の事案によって異なるため、法務局や司法書士に確認するのが確実です。なお、税務上のメリット・デメリットの試算は税理士の領域になります。
Q. 手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?放置するとどうなりますか?
債権者保護手続きの公告・催告期間として一定の期間が必要になるため、契約書の作成から登記完了まで、数か月程度を見込むのが一般的です。効力発生日から2週間以内という登記の期限を過ぎると過料の対象になり得るため、スケジュール管理が重要です。
Q. 自分で手続きできますか?
合併・会社分割は、契約書の作成、株主総会の決議、債権者保護手続き、登記申請と関わる書類・手続きが多く、当事会社双方の整理も必要になるため、専門家の関与が実務上一般的です。まずはお近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】合併・会社分割登記の実務ポイント
ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の会社法・商業登記実務に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
決定機関と簡易・略式手続き
合併・会社分割は、原則として株主総会の特別決議による契約(計画)の承認が必要とされる(吸収合併等の承認は会社法309条2項12号の特別決議による)。ただし、承継する資産・負債の規模が小さい場合(簡易組織再編)や、当事会社間に一定の支配関係がある場合(略式組織再編=相手方が議決権の90%以上を有する特別支配会社である場合)には、株主総会決議を省略できる特則があるとされる(消滅会社・分割会社側は会社法784条、存続会社・承継会社側は会社法796条)。この特則を利用できるかどうかは、対価の額・総資産額の比率など数値基準への当てはめが必要で、判断を誤ると決議の瑕疵につながりかねないため、慎重な確認が要る。
登記申請の実務
吸収合併の場合、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記は、同一の管轄登記所へ同時に申請するのが実務上一般的とされる(管轄が異なる場合は経由申請の扱いになる)。添付書類には、合併契約書、株主総会議事録(または決議省略の要件を証する書面)、債権者保護手続きを行ったことを証する書面(公告・催告を証する書面)などが必要とされる(事案により必要書類は異なるため、詳細は個別に確認を要する)。会社分割も同様に、分割契約書(吸収分割)・分割計画書(新設分割)に基づき、承継会社側の変更登記と分割会社側の変更登記(または新設分割の設立登記)を申請する。
登録免許税の区分
登録免許税法別表第一24号(一)により、合併・会社分割・解散の登記はそれぞれ異なる税率区分が適用される。
- 合併による資本金の増加登記(吸収合併の存続会社側・新設合併の設立):増加した資本金の額に対して原則1000分の1.5(消滅会社の合併直前の資本金の額として財務省令で定めるものを超える部分については1000分の7)。税額が3万円に満たないときは1件につき3万円
- 会社分割による資本金の増加登記(吸収分割の承継会社側・新設分割の設立):合併のような軽減はなく、増加した資本金の額に対して1000分の7。税額が3万円に満たないときは1件につき3万円
- 消滅会社側の解散登記:1件につき3万円(定額)
このように、合併は資本金増加分に軽減税率が適用されうるのに対し、会社分割には同様の軽減がない点が異なる。複数の登記区分にまたがる場合は合算されることもあるため、事前に登記申請書の記載区分を整理しておく必要がある。
労働契約承継への言及
会社分割で事業を承継させる場合、その事業に従事する労働者の労働契約を保護するための手続き(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律〔通称・労働契約承継法/平成12年法律第103号〕に基づく通知・異議手続き)が別途必要になるとされる(制度の詳細は本記事の対象外のため深入りせず、存在の紹介にとどめる)。労務面の対応は社会保険労務士・弁護士と連携すべき領域である。
許認可・契約上の地位の承継
合併では権利義務が包括的に承継されるため、許認可の多くはそのまま存続会社に引き継がれるとされるが、業種によっては許認可の性質上、再取得や届出が必要になる場合がある。会社分割では、承継される事業に付随する許認可・契約上の地位が、分割契約書・分割計画書に承継対象として明記されているかの確認が重要になる。取引先との契約書に「合併・会社分割の場合は相手方の承諾を要する」といった条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が定められているケースもあり、事前の契約書確認が実務上のポイントになる。