「会社をつくりたい」と思ったとき、最後の総仕上げになるのが**設立登記(せつりつとうき。会社の存在を公の帳簿に記録する手続き)**です。実は、株式会社は登記をして初めて誕生します。
ここでは、もっとも一般的な**発起設立(ほっきせつりつ。会社をつくる人=発起人だけが出資して会社を立ち上げる方法)**を例に、設立登記までの全体の流れ・必要な書類・費用の目安を、起業をお考えの方に向けて整理します。
なお、定款(ていかん。会社の基本ルールを定めた書類)を公証人に認証してもらう手続きの最近の見直しについては別の記事で扱っていますので、ここでは流れの中の一工程として要点に絞って触れます。
1. 会社設立登記とは──会社は「登記」で生まれる
会社をつくる準備が整っても、それだけでは会社はまだ存在しません。
会社法では、株式会社は本店の所在地で設立の登記をすることによって成立すると定められています(会社法49条)。つまり、登記が会社の「誕生日」を決める、という仕組みです。
契約書を交わしたときでも、出資のお金を払い込んだときでもなく、登記の申請をした日が会社の成立日になります(この点は後ほど改めて触れます)。
2. 設立までの全体の流れ
発起設立の大まかな流れは、次のとおりです。一つずつ順番に進めていきます。
- 定款の作成 … 会社名(商号)・本店の場所・事業の目的・資本金などを決め、定款にまとめます。
- 公証人による定款の認証 … 作成した定款を公証人(こうしょうにん。法律で定められた公務を行う人)にチェック・認証してもらいます。株式会社では必要な手続きです。
- 出資の履行(払込み) … 発起人が、決めた金額のお金を口座に払い込みます。これが資本金のもとになります。
- 設立時取締役などの選任・調査 … 会社の最初の役員を決め、選ばれた人が「手続きにきちんと不備がないか」を調べます(会社法46条の調査)。
- 設立登記の申請 … 必要書類をそろえて、本店所在地を管轄する法務局へ登記を申請します。
この5番目の「登記の申請」をした日が、会社の成立日になります。
3. 必要書類の主なもの
発起設立の登記でよく必要になる書類は、おおむね次のとおりです。会社の機関設計(取締役だけか、取締役会を置くか等)によって増減します。
- 定款 … 公証人の認証を受けたもの。
- 発起人の同意書・決定書 … 本店の具体的な所在場所や、設立時に発行する株式に関する事項などを発起人が決めたことを示す書類。
- 設立時取締役の就任承諾書 … 役員に選ばれた人が「就任を承諾します」と表明する書類。
- 印鑑証明書 … 設立時取締役(取締役会を置かない会社の場合)などについて必要になります。
- 払込みがあったことを証する書面 … 出資のお金が実際に払い込まれたことを示す書類。通帳の写しなどを添えて作成します。
- 資本金の額の計上に関する証明書 … 計上した資本金の額が会社法のルールに沿っていることを示す書類。
- 登記申請書 … 登記の申請そのものの書面。会社の商号・本店・目的・資本金・役員などを記載します。
- 印鑑届書(いんかんとどけしょ) … 会社の実印(会社代表印)を法務局に届け出る書面。
書類の様式や添付の要否は会社の形態によって変わります。手続きの具体的な進め方は、お近くの司法書士にご相談ください。
4. 費用の目安
設立登記そのものにかかる主な公的費用は、**登録免許税(とうろくめんきょぜい。登記の際に国に納める税金)**です。
株式会社の設立登記の登録免許税は、次のように計算します。
- 資本金の額 × 1000分の7
- ただし、この計算額が15万円に満たないときは15万円
たとえば資本金が300万円なら「300万円 × 0.7% = 2万1000円」ですが、15万円に届かないため登録免許税は15万円になります。資本金が約2143万円を超えるあたりから、計算額が15万円を上回っていきます。
このほか、設立までには次のような費用も見込んでおきます。
- 定款認証の手数料(資本金の規模に応じた区分があります)
- 電子定款でない場合の印紙代
- 登記完了後の**登記事項証明書(とうきじこうしょうめいしょ。会社の登記内容を証明する書類)**の発行手数料 など
なお、設立後の法人税・消費税の負担や、資本金の額が将来の税金にどう影響するかといった税金面の損得は、司法書士の業務範囲ではありません。税額の試算や有利不利の判断は、税理士にご相談ください。
5. 会社の成立日は「登記を申請した日」
意外と誤解が多いのが、会社の成立日です。
会社の成立日は、登記が完了した日ではなく、法務局に登記を申請した日です(会社法49条)。法務局の審査には数日から場合により10日前後かかることもありますが、登記が完了すると、登記簿には申請した日が会社の成立日として記録されます。
そのため、「○月○日を会社の誕生日にしたい」という希望があるときは、その日に登記を申請できるよう、書類の準備を逆算して進めることになります。
6. よくある注意点──商号・本店・目的・資本金の決め方
最後に、つまずきやすいポイントを4つ挙げます。
商号(しょうごう。会社名) 使える文字には決まりがあります。また、同じ住所に同一の商号がある場合は登記できません。似た有名企業の名前などは、別の法律上の問題が生じることもあるため慎重に。
本店の場所 登記事項なので、後で移すと変更登記の費用がかかります。最初にどこを本店にするかは、ある程度先を見て決めると安心です。
事業の目的 定款に書いた目的の範囲でしか事業はできません。許認可が必要な業種(建設業・古物商など)は、目的の書き方しだいで許認可の取得に影響することがあります。許認可そのものの手続きは行政書士などの分野になります。
資本金の決め方 資本金は1円からでも設立できますが、金額は会社の信用や取引・融資の場面で見られることがあります。また、資本金の額は登録免許税のほか税金にも関わるため、金額の決め方は税理士にも相談しながら進めるのがおすすめです。
会社設立は、決めること・そろえる書類が多く、順番も大切です。一つひとつは難しくありませんが、抜けや順序の取り違えがあると、やり直しや費用の追加につながります。手続き全体を見通して進めたいときは、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】発起設立と募集設立の違い・資本金の決め方と登録免許税
ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
発起設立と募集設立の違い
株式会社の設立には、会社法上、二つの方法があります。
- 発起設立 … 設立時に発行する株式の全部を発起人が引き受ける方法(会社法25条1項1号)。
- 募集設立 … 発起人が一部を引き受け、残りの株式を引き受ける人を外部から募集する方法(会社法25条1項2号)。
商業登記実務では、設立の大多数が発起設立です。募集設立は、設立時の株主を広く集める設計になるぶん、創立総会(そうりつそうかい。設立時の株主が開く会議)の開催など手続きが重くなります。一人または少人数で立ち上げる中小規模の会社では、手続きの簡明な発起設立が選ばれるのが通例です。
添付書類の面でも違いがあります。募集設立では、株式の引受けの申込みや払込みに関する書面、創立総会の議事録などが加わるため、発起設立より用意する書類が増えます。
現物出資と検査役の調査
出資は、現金だけでなく**現物出資(げんぶつしゅっし。お金の代わりに物や権利を出資すること)**も可能です。たとえばパソコンや車、不動産などを出資して、その価値の分だけ株式を受け取る形です。
ただし、現物出資には価額が適正かどうかという問題があります。会社法では、原則として裁判所が選ぶ検査役(けんさやく)の調査が必要とされています(会社法33条)。もっとも、次のような場合には検査役の調査が不要とされる例外が定められています(会社法33条10項)。
- 現物出資する財産の総額が500万円を超えないとき
- 市場価格のある有価証券で、定款に定めた価額が市場価格を超えないとき
- 価額が相当であることについて、弁護士・税理士・公認会計士などの証明(不動産は加えて不動産鑑定士の鑑定評価)を受けたとき
実務では、検査役調査は時間も費用もかかるため、500万円以下に収める、または専門家証明を用いる形で進められることが多くなっています。
資本金1円設立の実務上の留意
会社法では資本金の最低額の定めがなく、資本金1円でも株式会社を設立できます。起業のハードルを下げる制度ですが、実務では次の点に注意が必要です。
- 対外的な信用 … 取引先や金融機関が登記事項証明書で資本金を確認する場面があり、極端に少額だと信用面で不利に働くことがあります。
- 当面の運転資金 … 資本金は会社の最初の元手でもあります。設立直後の支払いに足りる程度は確保しておくのが現実的です。
- 登録免許税は減らない … 後述のとおり登録免許税には最低額があるため、資本金を小さくしても設立登記の税負担が比例して下がるわけではありません。
なお、資本金の額によって法人税や消費税の取扱いが変わる場面があります。最適な金額の判断には税務の視点が欠かせないため、金額の設計は税理士にご相談ください。
登録免許税の計算
株式会社の設立登記の登録免許税は、登録免許税法の別表に基づき、次のとおり計算します。
- 課税標準=資本金の額
- 税率=1000分の7(0.7%)
- 計算額が15万円に満たないときは、最低額の15万円
具体例で確認します。
- 資本金100万円 → 100万円 × 0.7% = 7000円 → 最低額により15万円
- 資本金1000万円 → 1000万円 × 0.7% = 7万円 → 最低額により15万円
- 資本金3000万円 → 3000万円 × 0.7% = 21万円 → 計算額が上回るため21万円
このように、資本金が約2143万円までは登録免許税は15万円で頭打ちとなり、それを超える部分から税額が増えていきます。資本金を小さくしても登録免許税の負担は最低15万円から下がらない、という点が実務上のポイントです。
印鑑届のオンライン化の動向
従来、会社の代表印(会社実印)は、設立登記の際に印鑑届書を提出して法務局に登録するのが原則でした。
近年は登記手続全体のオンライン化が進み、オンラインで設立登記を申請する場合には、一定の要件のもとで印鑑の届出を任意とする取扱いが導入されています。書面で申請する場合や、会社実印を使う場面が想定される場合には、引き続き印鑑の登録をしておくのが実務的です。会社実印の要否や届出の方法は、申請の形態によって変わるため、最新の取扱いを確認しながら進めるのが安全です。
会社設立は、方法の選択(発起設立か募集設立か)、出資の形(現金か現物か)、資本金の額の設計まで、最初の決定が後々の手続きと費用に影響します。全体を見通して進めたいときは、お近くの司法書士にご相談ください。