事業承継のタイミングで先代から受け継いだ社名を一新したい、事業内容が当初と大きく変わったので会社のイメージを新しくしたい、グループ会社で名称をそろえたい──中小企業から「社名(商号)を変えたい」というご相談は意外と多くあります。

商号変更の手続きそのものはシンプルで、株主総会で定款を変更し、2週間以内に登記すれば完了します。ただ、登記を終えただけでは終わりません。銀行口座・契約書・許認可・税務署や社会保険など、商号変更にともなって動かさなければならない手続きが思いのほか多いため、全体像を最初に押さえておくことが大切です。

今回は、商号変更の登記の流れと、経営者の方が見落としやすいポイントを整理します。

「商号」とは何か

会社の商号とは、いわゆる「会社名」のことです。

商号は、設立時に定款に書き、登記簿(履歴事項全部証明書)にも記載されます。会社法は、株式会社の定款に必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)の一つとして「商号」を挙げています(会社法27条2号)。

商号には、会社の種類に応じて、次のような決まりがあります。

  • 株式会社は、商号の中に「株式会社」の文字を入れなければならない(会社法6条2項)
  • 合同会社・合名会社・合資会社も、それぞれ会社の種類を商号に入れる必要がある(同条同項)
  • 会社の名称はその商号とされており(会社法6条1項)、一個の会社が複数の商号を使い分けることは予定されていません

つまり、「○○商事株式会社」「株式会社△△」というように、「株式会社」を前か後ろにつけて使う必要があります。

商号変更のよくあるきっかけ

商号変更のご相談で多いきっかけを並べると、おおむね次のような場面です。

  1. 事業承継で代替わりした際に、新代表の方針として社名を変える
  2. 事業内容の変化で、設立当初の社名と実態がずれてしまった
  3. グループ再編で、ホールディングス傘下のグループ会社の名称をそろえる
  4. ブランド再構築で、対外的なイメージを刷新したい
  5. 同業他社との混同を避けたい(類似商号の問題)

特に1〜3は中小企業でよく見られるパターンで、経営判断と一体で商号変更の必要性が出てきます。

商号変更の手続きの流れ

商号変更は、次の流れで進みます。

1. 新しい商号を決める

新商号を決める段階で、いくつかチェックすべきことがあります。

  • 「株式会社」の文字を入れているか(株式会社の場合)
  • 使える文字の範囲に収まっているか(漢字・かな・カタカナ・ローマ字・アラビア数字、一部の記号)
  • 同じ住所に同一商号の会社がないか(後述)
  • 不正競争防止法に抵触するような著名な他社の名称ではないか

2. 株主総会の特別決議で定款を変更する

商号は定款の絶対的記載事項なので、商号変更には定款の変更が必要です。定款の変更は、株主総会の特別決議で行います(会社法466条、309条2項11号)。

特別決議とは、議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合まで引き下げることは可能)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決される決議です。

株主が少人数の中小企業では、書面決議の方法で行うこともできます(会社法319条)。

3. 2週間以内に変更登記をする

定款変更が決議されたら、その日から2週間以内に本店所在地で商号変更の登記を申請します(会社法915条1項)。

登記期間を過ぎても登記自体は可能ですが、期間徒過は会社法上の過料の対象になり得ます(会社法976条1号)。早めに登記を完了させることが大切です。

期間と費用

商号変更の登記にかかる費用と期間の目安は次のとおりです。

項目 内容
登録免許税 30,000円(登録免許税法別表第一第二十四号(一)ツ)
司法書士報酬 事務所により異なります(数万円程度)
株主総会から登記完了までの期間 法務局の混雑状況にもよりますが、書類提出から1〜2週間程度
登記期限 株主総会決議の日から2週間以内(会社法915条1項)

商号変更で見落としやすい5つのポイント

ここからが、経営者の方に特に意識しておいてほしい部分です。商号変更の登記は終わっただけで安心せず、次の手続きを並行で進める必要があります。

1. 同じ住所に同じ商号の会社がないか

同一の住所に同一の商号の会社がある場合、その商号での登記は受理されません(商業登記法27条)。

事前に法務局のオンラインサービス等で類似商号を確認しておくと、登記が差し戻されるリスクを下げられます。

なお、2006年の会社法施行で「類似商号規制」(旧商法19条)は廃止されたため、同一住所でなければ、同じ業種でも似たような商号で登記すること自体は可能です。ただし、後述する不正競争防止法の問題は別途残ります。

2. 不正競争防止法・商標との関係

著名な他社の名称と同じ・紛らわしい商号を使うと、不正競争防止法上の問題(不正競争防止法2条1項1号・2号)になる可能性があります。

また、新しい商号と同じ名称が商標登録されている場合、商標権侵害のリスクも考えなければなりません。新しい商号を決める段階で、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)等で商標登録の有無を確認しておくと安心です。

3. 銀行口座・契約書・印鑑への波及

商号変更を登記すると、次のような実務対応が一気に必要になります。

  • 銀行口座の名義変更(登記事項証明書を金融機関に提出)
  • 既存の契約書は名義変更の通知(必要に応じて覚書)
  • **会社の印鑑(角印・社判)**の作り直し
  • **代表者印(実印)**は、改印届を法務局に提出するか、従前の印を継続使用するかを判断
  • 請求書・領収書・名刺・封筒・看板・ウェブサイト等の差し替え

代表者印については、印影自体が変わらなければ改印届は不要ですが、商号入りの印を使っている場合は新しい印を作って改印届を出す必要があります。

4. 許認可の名義変更

建設業許可、宅地建物取引業免許、産業廃棄物処理業許可、人材派遣事業許可など、業種ごとの許認可は、商号変更にともない別途名義変更の届出が必要です。

許認可ごとに届出先・期限・添付書類が異なります(多くは「変更の日から○日以内」と決められています)。許認可をお持ちの会社は、商号変更の段取りを組む段階で、許認可の所管行政庁にも事前確認しておくと、後の動きがスムーズになります。

5. 税務署・年金事務所・労働基準監督署等への変更届

商号変更の登記後、次の役所等への変更届も必要です。

  • 税務署(異動届出書)
  • 都道府県税事務所・市区町村(地方税の異動届)
  • 年金事務所(健康保険・厚生年金保険事業所関係変更届)
  • 労働基準監督署・公共職業安定所(ハローワーク)(労働保険・雇用保険の名称変更届)

提出期限はいずれも変更日から比較的短い期間(おおむね数日〜2週間以内)で設定されているものが多いため、登記完了後すみやかに動く必要があります。

まとめ

商号変更の登記そのものは、株主総会の特別決議と2週間以内の登記申請という、シンプルな流れで完了します。

ただ、登記の前後でやるべき作業は次のように広範囲にわたります。

  • 新商号の選定(株式会社の文字・使える文字・同一住所同一商号・不正競争防止法・商標)
  • 株主総会の特別決議による定款変更
  • 2週間以内の登記申請
  • 銀行・契約書・印鑑・許認可・税務署・社会保険等の名義変更

「思ったより手続きが多い」と感じたら、登記とそれに付随する周辺手続きの段取りも含めて、お近くの司法書士にご相談ください。許認可関係は行政書士、税務関係は税理士、社会保険・労務関係は社会保険労務士と、それぞれ専門の士業との連携が必要になる場面もあるため、全体の段取りを早めに整理しておくと安心です。


【さらに深掘り】商号変更登記の申請書作成と実務上の留意点

ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください

ここからは、商号変更の登記申請をする際の実務上の留意点を整理します。

株主総会議事録の記載

商号変更の登記申請には、定款変更を決議した株主総会議事録の添付が必要です(商業登記法46条2項)。議事録には、次の事項を明記します。

  • 株主総会の日時・場所
  • 出席株主の議決権数(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、定足数を満たしたこと。会社法309条2項柱書)
  • 議案として「商号変更の件(定款第○条の改正)」が提出されたこと
  • 出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決されたこと(同項本文)
  • 議長の氏名(会社法施行規則72条3項5号)及び議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名(同項6号)。実務上は商業登記の添付書面として、これらの者の記名押印が求められます

書面決議(会社法319条)による場合は、議決権を行使することができる株主の全員が書面または電磁的記録により決議事項に同意したことを証する書面(同意書等)の添付が必要です(商業登記法46条3項)。

議事録は、会社法318条2項により、株主総会の日から10年間、本店に備え置く義務があります。

同一住所同一商号のチェック

商業登記法27条は、「同一の所在場所において、同一の商号の登記をすることができない」と定めています。

ここでいう「同一」は、文字どおり完全に一致するかどうかで判断されます。漢字・かな・カタカナの違い、株式会社の前後の違いなどがあれば同一とは扱われません。

なお、同一住所でなければ同一商号でも登記は可能ですが、これは「登記としては受理される」というだけで、不正競争防止法や商標法上の問題は別途検討する必要があります。

商号で使用できる文字

商号には、漢字・ひらがな・カタカナを用いることができるほか、商業登記規則50条が定める一定の符号も使えます。具体的には次の範囲です。

  • 漢字・ひらがな・カタカナ(商号の基本的な文字)
  • ローマ字(大文字・小文字)(商業登記規則50条1号)
  • アラビヤ数字(同条2号)
  • アンパサンド「&」、アポストロフィー「’」、コンマ「,」、ハイフン「-」、ピリオド「.」、中点「・」の符号(同条3号)

これら以外の文字や記号(@、!、♡等)は商号としては使用できません。ローマ字の社名でも、登記の段階で表記の整理が必要になる場合があります。

登記申請書の主な記載事項

商号変更の登記申請書には、次の事項を記載します。

  • 商号(旧商号と新商号)
  • 本店所在地
  • 登記の事由(「商号変更」)
  • 登記すべき事項(変更後の商号、変更年月日)
  • 登録免許税額(定額3万円)
  • 添付書類(株主総会議事録、株主リスト、代理申請の場合は委任状)
  • 申請人(会社代表者)の記名押印(書面申請の場合)または電子署名(オンライン申請の場合)

商号変更登記の登録免許税は1件3万円の定額課税のため、登記申請書に「課税標準金額」を記載する必要はありません。

添付書類のうち、株主リストは、平成28年10月の商業登記規則改正により、登記すべき事項が株主総会の決議を要する場合の登記申請では原則として添付が必要になりました(商業登記規則61条2項・3項)。

株主リストには、次の事項を記載します。

  • 議決権数上位10名の株主、又は議決権割合が3分の2に達するまでの株主(いずれか少ない方)
  • 各株主の氏名又は名称・住所
  • 各株主の保有株式数・議決権数・議決権割合
  • 代表者(代表取締役等)による証明

申請はオンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)でも書面申請でも可能ですが、近年はオンライン申請の利用が一般化しています。

代表者印の改印を併せて行う場合

商号変更にあわせて代表者印(法務局に届け出ている印鑑)を新調する場合、印鑑届書を商号変更登記の申請とあわせて提出します。

代表者印の改印そのものは登録免許税の対象ではありませんが、印鑑カードを再発行する場合は別途手続きが必要です。

なお、令和3年2月15日施行の商業登記法改正で、印鑑提出義務を定めていた商業登記法20条が削除され、オンライン申請を選択する場合には会社代表者の印鑑提出は任意となりました。ただし、実務では引き続き印鑑を提出している会社が大半です。印鑑提出を行わない選択をする場合は、契約書等での実印代わりの取扱いをどうするか、別途検討が必要になります。

商号変更登記後の登記事項証明書の準備

登記が完了したら、銀行・取引先・許認可窓口等に提示するための**登記事項証明書(履歴事項全部証明書)**を必要部数取得しておきます。

登記事項証明書は、変更前の旧商号も「変更年月日」と併せて記載されるため、商号が変わったことが1通でわかる形になります。名義変更手続きを並行で進める際に重宝します。

登記完了予定日と周辺手続きの段取り

法務局に申請を出してから登記が完了するまでの日数は、管轄法務局の混雑状況や時期によって異なります。多くの法務局は申請から1〜2週間程度で完了しますが、繁忙期はもう少しかかることもあります。

申請時に登記完了予定日(法務局窓口での目安、または管轄法務局のホームページで確認可能)を確認しておくと、銀行・許認可窓口・税務署等への変更届の段取りが組みやすくなります。

特に許認可関係は「商号変更の事実を証する書面」として登記事項証明書を求められることが多いため、登記完了→登記事項証明書取得→各種変更届という順序で動く必要があります。期限のある変更届を抱えている場合は、株主総会の日程設定の段階で全体スケジュールを逆算しておくと安心です。