副業解禁の流れ、コロナ後の事業多角化、デジタル分野への参入──新規事業を始める中小企業が増えています。

そのときに意外と見落とされがちなのが、登記簿に記載されている会社の「事業目的」の確認です。「目的に書いていない事業を始めても大丈夫だろう」と思っていたら、許認可申請や融資審査の場面で足止めを食らうことがあります。

今回は、会社の事業目的の役割と、新規事業を始めるときに必要になる「目的変更」の手続きを整理します。

会社の「事業目的」とは

会社の登記簿(履歴事項全部証明書)には、その会社が何を行う会社なのかを示す「目的」欄があります。設立時に定款に書いた事業内容が、そのまま登記簿に反映されています。

事業目的には、おおまかに3つの役割があります。

  1. 会社が活動できる範囲を示す(権利能力の範囲)
  2. 取引先や金融機関に「この会社は何をしているか」を伝える
  3. 許認可の取得・取引先の審査で根拠資料となる

会社法は、株式会社の定款に必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)の一つとして「目的」を挙げています(会社法27条1号)。

目的に書かれていない事業をしたらどうなる?

民法では、法人は「法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内」で権利を有し義務を負う、と定められています(民法34条)。

ただし、判例実務では、目的の範囲はかなり柔軟に解釈されています。「目的そのもの」だけでなく、目的を遂行するために必要な行為まで含むと理解するのが一般的な考え方です。

そのため、登記された目的に書かれていない事業を始めても、それだけで契約や取引が無効になるわけではありません。

しかし、次のような場面では実害が出ます。

1. 許認可業種を始めるとき

古物商、建設業、宅地建物取引業、人材派遣業、産業廃棄物処理業など、行政の許可・登録が必要な業種では、申請時に登記簿謄本を添付します。

所管官庁は、登記簿の目的欄に該当事業が明記されているかを確認します。 目的に書かれていなければ、ほぼ確実に「目的に追加してから出し直してください」と求められます。

2. 金融機関の融資審査で求められたとき

新規事業のための融資申込みで、登記簿の目的欄にその事業が含まれていないと、審査が止まることがあります。審査担当者は「定款上は行えない事業」とみなすことがあるためです。

3. 取引先から登記簿を要求されたとき

大手企業や行政機関との取引で、相手方が会社の登記簿を確認することがあります。目的欄に取引対象の事業が記載されていないと、新規取引開始の障害になります。

「附帯関連事業」条項があれば追加不要?

設立時の定款には、たいてい最後の項目として「前各号に附帯または関連する一切の事業」という包括条項が入っています。

「これがあるから、何を始めても目的の範囲内では?」と思われがちですが、そう単純ではありません。この条項は、あくまで既に列挙された目的に附帯・関連する事業に限定して解釈されます。

たとえば、飲食店経営の会社が新たに不動産賃貸業を本格的に始めるような場合、既存の目的との関連性が薄いため、附帯関連条項ではカバーできず、目的の追加が必要になります。

「附帯関連条項があるから登記は不要」と判断する前に、新事業と既存目的との結びつきを冷静に見ることが大切です。

目的変更の手続きの流れ

事業目的を変更・追加するには、以下のステップを踏みます。

Step 1:株主総会の特別決議

事業目的の変更は定款変更に当たります。定款変更には株主総会の特別決議が必要です(会社法466条、309条2項)。

特別決議の要件は、

  • 議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)
  • 出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成

です。少人数の同族会社で全員一致なら問題ありませんが、株主が分散している会社では事前の調整が欠かせません。

Step 2:株主総会議事録の作成

株主総会で決議された内容を議事録にまとめます。議事録は変更登記の添付書類になります。

なお、役員変更登記と同様、目的変更登記でも「株主リスト」(議決権上位10名または議決権割合の3分の2に達するまでの株主を記載した書面)の添付が必要です(商業登記規則61条2項・3項)。これを忘れると登記が補正・却下になります。

Step 3:本店所在地への変更登記申請

本店所在地を管轄する法務局に、目的変更の登記申請を行います。

  • 申請期限:株主総会で決議された日から2週間以内(会社法915条1項)
  • 登録免許税3万円(登録免許税法別表第一第24号(1)ツ)
  • 添付書類:株主総会議事録、株主リスト など

期限を過ぎると、代表者に100万円以下の過料が科されることがあります(会社法976条1号)。

目的の書き方の3つのポイント

法務局の審査では、目的の文言について大まかに次の3つの観点が見られます。

1. 適法性

法令に違反する事業(無登録の金融業、無資格での独占業務など)は目的にできません。

2. 明確性

読んだ人がその会社の事業内容を理解できる程度に、具体的であることが求められます。「事業全般」「商業」のような抽象的すぎる文言は受理されません。

一方、現代の登記実務では、かつてほど厳格な明確性は求められなくなっており、ある程度幅のある書き方も認められています。

3. 営利性

営利目的の会社(株式会社・合同会社など)にふさわしい事業内容であることが必要です。寄付やボランティアそのものを目的とすることは想定されていません。

許認可業種は文言指定に注意

許認可業種では、所管官庁から事業目的の文言が指定されることがあります。 たとえば建設業許可では建設業法上の業種区分名(土木工事業・建築工事業など)で書くのが一般的です。

許認可申請を視野に入れる場合は、目的の文言を決める前に、所管官庁の記載例や手引きを確認しておくのが安全です。後から「許可申請のためにもう一度目的変更登記が必要」となれば、登録免許税3万円を再度支払うことになります。

まとめ

  • 会社の事業目的は、許認可・融資・取引の各場面で実害を生みやすいポイントです
  • 「附帯関連事業」条項があっても、本業から離れた新規事業はカバーできない場合があります
  • 目的変更には株主総会の特別決議と、決議から2週間以内の変更登記が必要です(登録免許税3万円)
  • 許認可業種は文言指定に要注意。許認可申請の手引きを先に確認しましょう

新規事業の立ち上げ前に登記簿を一度開いてみると、思わぬ落とし穴を防げます。手続きの段取りや目的文言の設計は会社ごとの事情によって判断が分かれるため、具体的な検討にあたってはお近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】事業目的変更の登記実務と定款条項の設計

ご注意 以下は執筆時点(2026年05月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

ここからは、目的変更登記を商業登記実務の観点から掘り下げ、申請書の組み立て、複数事項を一括で変更する場合の登録免許税の考え方、許認可業種の文言設計、旧商法時代の定款を放置している会社のリスクまでを整理します。

申請書と添付書類の組み立て

目的変更登記の申請書は、おおむね次の構成になります。

  • 登記の事由:「目的の変更」
  • 登記すべき事項:「目的」として、変更後の目的を新たに全部書き直して記載するのが実務の標準です。一部の項を追加するだけでも、目的欄全体が登記事項になるためです。
  • 登録免許税:金3万円
  • 添付書類
    • 株主総会議事録
    • 株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)
    • 委任状(代理人による申請の場合)

代表取締役の印鑑証明書や本人確認書類は、目的変更単独では不要です(役員変更を同時にしない限り)。

株主リストの作成で見落とされやすい点

平成28年10月から、株主総会決議を要する登記には株主リストの添付が必要になりました(商業登記規則61条2項・3項)。

記載内容は次のとおりです(同規則61条3項に対応)。

  • 議決権上位10名、または議決権割合が3分の2に達するまでの株主のうち、いずれか少ない人数の株主
  • 各株主の氏名又は名称、住所、株式数(種類株式発行会社では種類及び種類ごとの数)、議決権数、議決権数の総議決権に対する割合
  • 代表者の証明文言と記名押印

実務上の注意点として、以下が挙げられます。

  • 株主が1人や2〜3人の同族会社でも省略不可。1人会社は1人だけ書いて出す
  • 基準日は議決の時点。直近の株主名簿で確認し、名義変更の遅れがないかをチェック
  • 法人株主の場合は商号と本店所在地を記載
  • 種類株式発行会社は議決権の有無・行使可否を踏まえて算定
  • 議決権の不統一行使や議決権制限種類株式がある場合は、慎重な集計が必要

株主リストの不備は補正・却下の典型的な原因です。役員変更でも目的変更でも添付対象になる点を押さえておく必要があります。

複数事項を一括で変更する場合の登録免許税──区分課税の考え方

事業目的を変更するタイミングで、商号変更・本店移転・役員変更などを同時に行いたいケースは多くあります。このときの登録免許税の考え方は、登記事項ごとに区分された税額の合計になります(登録免許税法別表第一第24号)。

主な区分の概略は次のとおりです(株式会社の場合)。

変更事項 区分の概要 税額
目的、商号、公告方法、株式の譲渡制限の定めなど 「その他の登記事項の変更」((1)ツ) 3万円(同区分内で合算なし)
本店移転 本店・支店所在場所の移転 1件3万円(管轄外移転は新本店分も加算)
取締役、代表取締役、監査役などの変更 役員変更((1)カ) 資本金1億円超で3万円/1億円以下で1万円
支店設置・移転・廃止 支店関連 1件につき所定額
資本金の額の増加 資本金の額の増加 増加額の1000分の7(最低3万円)

ポイントは、同じ区分の事項を同時に変更しても税額は1区分分である点です。たとえば、

  • 目的変更 + 商号変更:どちらも(1)ツの区分に含まれる → 合計3万円
  • 目的変更 + 役員変更(資本金1億円以下):区分が異なる → 3万円+1万円=4万円
  • 目的変更 + 本店移転(管轄内):区分が異なる → 3万円+3万円=6万円

「どうせ同じ法務局に出すから安くなる」というイメージとは一致しないことがあるので、事前に登録免許税のシミュレーションをしておくのが安全です。同時に行うべき変更があるなら、まとめて1回で申請するほうが、議事録の作成や謄本取得の負担を抑えられます。

許認可業種で使われる目的の文言例

許認可業種では、所管官庁が想定する文言で書いておかないと、許認可申請の段階で目的変更のやり直しになります。代表的な業種の文言例は次のとおりです(あくまで一般的な例で、最終的には所管官庁の手引きに合わせます)。

業種 目的の文言例
建設業 「建設業」「土木工事業」「建築工事業」「とび・土工工事業」など建設業法上の29業種区分名
宅地建物取引業 「宅地建物取引業」「不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介」
古物商 「古物営業法に基づく古物商」「中古品の売買」
労働者派遣事業 「労働者派遣事業」
有料職業紹介事業 「有料職業紹介事業」
介護事業 「介護保険法に基づく居宅サービス事業」「訪問介護事業」
産業廃棄物処理業 「産業廃棄物の収集運搬業」「産業廃棄物の処分業」
一般貨物自動車運送事業 「一般貨物自動車運送事業」
飲食店業 「飲食店の経営」
旅館業 「旅館業」「ホテル及び旅館の経営」
酒類販売業 「酒類の販売」

許認可申請の根拠法令ごとに、推奨される文言が決まっていることが多いため、登記前に所管官庁の許可申請の手引き・記載例を確認しておくのが安全です。

包括条項「前各号に附帯または関連する一切の事業」の使い分けと限界

包括条項は、列挙した目的の遂行に関連する細かな付随取引(事務所賃借、什器備品調達、関連サービスの再販等)をカバーするための規定です。

しかし、次の場面では機能しないと考えるのが安全です。

  • 許認可申請:所管官庁は包括条項では事業実施の意思を確認できないため、原則として個別目的の明記を求めます
  • 金融機関の融資審査:本業から離れた新規事業を「附帯関連」と読み替えてくれることは多くありません
  • 行政機関や大手企業との取引:与信や入札資格の審査で、目的欄に明示されていることが要件になる場合があります

設計の方針としては、

  • 列挙する目的は、現在の事業+短中期で見込む事業を、やや幅をもって書く
  • 包括条項は最後に置くが、包括条項に頼って列挙を省く設計はしない
  • 大きな新規事業を始めるときは、迷わず目的追加の登記を行う

という整理になります。

旧商法時代の定款を放置している会社のチェック観点

会社法は平成18年5月1日に施行され、旧商法から大きく構成が変わりました。会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(会社法整備法)により、旧商法時代の定款の一部規定はみなし規定でカバーされていますが、すべての規定が現行会社法に整合した形で読み替えられているわけではありません

商業登記実務の観点で、特にチェックしたい論点は次のとおりです。

  • 公告方法:官報のみの記載で、電子公告・日刊新聞紙公告の選択肢を盛り込んでいないことが多い
  • 株式の譲渡制限:旧商法時代の「取締役会の承認」が、現行会社法上は「株主総会の承認」になる場合がある(取締役会非設置会社になっている会社は要注意)
  • 役員任期:旧商法では取締役2年・監査役3〜4年が一般的。現行会社法では非公開会社(譲渡制限会社)で最長10年まで定款で伸長可能
  • 機関設計:「取締役会・監査役」の組合せが当然のように書かれていても、現行会社法では取締役会非設置・監査役非設置の選択肢がある
  • 株主総会の招集通知期間:非公開会社では原則1週間前で足りるが、定款で短縮できる場合がある(会社法299条1項)
  • 募集株式の発行に関する規定:旧商法時代の「授権資本」概念と現行会社法の「発行可能株式総数」の整合
  • 目的の表現:旧商法時代の「営業」「営業所」が残っている定款は、現代的な「事業」表現に整理する余地がある

旧商法時代の定款のまま運用していても直ちに違法になるわけではありませんが、役員選任のタイミングで任期算定がずれる、株主総会の決議要件で混乱する、新しい登記事項を反映できないといった支障が出やすくなります。

事業目的の追加・変更を検討するタイミングは、定款全体を現行会社法と整合させる絶好の機会です。目的だけでなく、公告方法・役員任期・機関設計・株式譲渡承認機関などをまとめて見直すと、その後の運営がぐっとスムーズになります。

まとめ

  • 目的変更登記は申請書・株主リスト・株主総会議事録の3点セットが基本構成
  • 同時に複数事項を変更する場合は、登録免許税が区分ごとに合算される。同じ区分(目的+商号など)なら3万円のまま
  • 許認可業種は所管官庁の文言指定に合わせて目的を設計する
  • 包括条項は付随取引のためのもの。新規事業はきちんと目的追加登記を
  • 旧商法時代の定款は、この機会に全面的な見直しを検討する余地がある

事案ごとに必要な議事録の文面・添付書類の組み合わせは異なるため、具体的な進め方はお近くの司法書士にご相談ください。