第1問
問: 相続人Aが、債権者Bを害することを知りながら相続放棄をした場合、債権者Bは民法424条に基づき相続放棄を詐害行為として取り消すことができるか。
答: 取り消すことができない。
解説: 最判昭和49年9月20日(民集28巻6号1202頁)は、相続放棄は身分行為としての性格を持ち、相続するか否かは「もっぱら相続人の自由意思に委ねるべき」性質のものであるから、詐害行為取消(民法424条)の対象とはならないと判示している。
これと対比されるのが遺産分割協議の取扱いである。最判平成11年6月11日(民集53巻5号898頁)は、共同相続人間の遺産分割協議は財産権を目的とする法律行為であって、詐害行為取消の対象となりうるとした。
両者の区別は、相続放棄が「相続するか否か」という身分上の選択であるのに対し、遺産分割協議は「既に取得した相続財産の分配」という財産処分行為としての性格が強いことに由来する。中級者は、「相続放棄=対象外/遺産分割協議=対象」のセットで判例の射程を押さえておきたい。
第2問
問: 相続人Aは、被相続人Bの死亡(2024年4月1日)後、相続による所有権移転登記を申請せず、また他の相続人との遺産分割協議も成立しないまま2年が経過した。Aが過料を回避するためにとりうる登記法上の措置を述べよ。
答: 不動産登記法76条の3の「相続人である旨の申告」(相続人申告登記)を行えば、所有権移転登記の申請義務を履行したものとみなされる。
解説: 不動産登記法76条の2第1項は、相続による所有権の取得を知った日から3年以内に所有権移転登記の申請を義務付け、これに違反すると10万円以下の過料が科される(同法164条1項)。
ただし、遺産分割協議が成立しない等の事情があれば、不動産登記法76条の3の相続人申告登記を行うことで、申告者については申請義務を履行したものとみなされる(同条2項)。相続人申告登記は、
- 申告者単独で申請可能(共同相続人全員でなくてよい)
- 戸籍関係書類により被相続人の相続人であることを証すれば足りる
- 登録免許税は非課税
という特徴がある。施行日は令和6年(2024年)4月1日で、施行前に相続が開始した事案も対象になる点が経過措置の重要論点である(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条6項)。施行前相続については、施行日から3年以内、すなわち令和9年3月31日までの登記または相続人申告登記をすればよい。
第3問
問: 株式会社Aは、設立時の定款で取締役の任期を10年と定めていた。その後、Aは定款変更により株式の譲渡制限の定めを廃止し、公開会社となった。この場合、現在在任中の取締役の任期は当然に満了するか。
答: 当該定款変更の効力が生じた時点で、取締役の任期は満了する(会社法332条7項3号)。
解説: 会社法332条2項は、非公開会社(株式譲渡制限会社)に限り、定款で取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長できると定める。一方、公開会社では伸長は認められない(同条1項本文:原則2年)。
そのため、会社法332条7項は、
- 監査等委員会設置会社となった場合(1号)
- 指名委員会等設置会社となった場合(2号)
- 株式譲渡制限を廃止する定款変更をした場合(3号)
など、伸長された任期を許容できなくなる事由が生じたときは、その時点で在任中の取締役の任期は満了すると定めている。
商業登記実務上は、定款変更による「公開会社化」の効力発生と同時に、(1)取締役任期満了による退任登記、(2)新任取締役の選任・就任登記、をあわせて申請する必要がある。さらに、株式譲渡制限規定の廃止に伴う定款変更の登記(会社法911条3項7号)、機関設計変更(取締役会・監査役の必置化、会社法327条1項1号・2項)に伴う変更登記も同時に必要となる点を見落としやすい。
第4問
問: 占有移転禁止の仮処分が執行された不動産について、債務者Aから占有を承継した第三者Cがいる。債権者Bは、Aを被告とする本案の建物明渡訴訟で勝訴判決を得たが、Cに対しても同判決の執行文によって明渡しの強制執行をすることができるか。
答: Cが債務者Aから占有を承継した者である場合は、Cの善意・悪意を問わず、本案の債務名義に基づき承継執行することができる(民事保全法62条1項2号)。Cが占有承継人ではない第三者である場合は、執行を知って占有したCに対してのみ強制執行できる(同項1号)。
解説: 民事保全法62条1項は、占有移転禁止の仮処分命令の執行後について、
- 1号:その執行がされたことを知って当該係争物を占有した者
- 2号:その執行後にその執行がされたことを知らないで債務者の占有を承継した者
のいずれに対しても、債務者を被告とする本案の債務名義に基づき強制執行(明渡執行)ができる旨を定める。Cが占有承継人であれば、善意であっても1項2号により執行可能である点が、本制度の核心である。
さらに、占有移転禁止の仮処分命令の執行後に係争物を占有した者は、仮処分命令の執行を知って占有したものと推定される(民事保全法62条2項)。これにより、Cが占有承継人ではない第三者である場合でも、Cが「執行を知らずに占有取得した」ことを反証しなければ、1項1号により判決効が及ぶ。執行文付与にあたっては、債権者がAを被告とした明渡判決に対して、Cに対する承継執行文の付与を求めることになる(民事執行法27条2項)。
実務上は、占有移転禁止の仮処分には公示書による現地公示(民事保全規則44条)が伴うため、第三者の善意は実務上認められにくい。仮処分後の占有移転に対する判決効拡張は、本案判決の実効性確保のための重要制度として頻出論点である。
第5問
問: 賃借人Aは、賃貸人Bの死亡を知ったが、Bの相続人を過失なく確知することができない。Aが賃料を弁済供託する場合の根拠条文と、供託書の被供託者欄の記載方法を述べよ。
答: 根拠条文は民法494条2項(債権者不確知)。供託書の被供託者欄には「亡B相続人」と記載するのが実務である。
解説: 民法494条(令和2年4月1日施行・債権法改正後)は、弁済供託の要件として次の3類型を定める。
- 受領拒絶(同条1項1号):弁済の提供をしたが受領を拒まれたとき
- 受領不能(同条1項2号):債権者が弁済を受けることができないとき
- 債権者不確知(同条2項):弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき
本問のように相続人を確知できない事案は「債権者不確知」に該当し、494条2項により弁済供託ができる。なお、債権者不確知は「過失なく」確知できないことが要件である。被相続人の戸籍から相続人を辿る等の通常の調査を尽くさずに供託すると、過失ありとされ供託の効力が否定されうる点に注意。
供託先は債務履行地の供託所(民法495条1項)、すなわち持参債務である賃料の場合は債権者の住所地(賃貸人Bの最後の住所地)を管轄する供託所となる。
被供託者欄には「亡B相続人」と記載するのが実務の取扱いで、これにより、後に相続人が判明したときに、その相続人が還付請求(供託法8条1項、供託規則22条以下)をすることができる。
供託物払渡請求権の消滅時効は10年(供託法8条1項)。賃料の継続的供託の場合、各月ごとに時効が進行する点も実務では押さえておきたい。
出題分野の振り分け
| 問 | 科目 | 主な論点 | 主たる根拠 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 民法(相続・債権) | 相続放棄と詐害行為取消 | 民法424条/最判昭49.9.20/最判平11.6.11 |
| 第2問 | 不動産登記法 | 相続登記義務化と相続人申告登記 | 不登法76条の2・76条の3/令和3年法律24号附則5条6項 |
| 第3問 | 商業登記法・会社法 | 公開会社化と取締役任期の満了 | 会社法332条1項・2項・7項3号 |
| 第4問 | 民事保全法 | 占有移転禁止仮処分の判決効拡張 | 民保法62条1項1号・2号・2項/民執法27条2項 |
| 第5問 | 供託法・民法 | 債権者不確知による弁済供託 | 民法494条2項・495条1項/供託法8条1項 |