会社を設立したとき、なんとなく「取締役会」を置き、「監査役」も選んだ──。中小企業ではよくある形です。

ところが何年か経つと、「役員のなり手がいない」「身内だけの会社なのに会議体は大げさだ」「監査役を頼んでいた親戚が高齢になった」といった事情が出てきます。そんなとき、会社の機関(役員の構成や会議体)を、いまの実態に合わせてスリムにするという選択肢があります。

今回は、中小企業でニーズの多い「取締役会の廃止」「監査役の廃止」を例に、機関設計を見直すときの手続きと登記を整理します。

そもそも「機関設計」とは

「機関設計」とは、株主総会のほかに、会社にどんな役員や会議体(機関)を置くかという会社の骨組みのことです。代表的な機関には、次のようなものがあります。

  • 取締役……会社の業務を決め、実行する人
  • 取締役会……取締役3人以上で構成する会議体。重要な決定をここで行う
  • 監査役……取締役の仕事をチェックする人
  • 会計参与・会計監査人……計算書類などに関わる専門家(中小企業ではあまり置かれません)

どの機関を置くかは、定款(会社の基本ルールを定めた書類)の定めで決まります(会社法326条2項)。設立時に「取締役会設置会社」「監査役設置会社」として作った会社が、後からこの設計を変えることもできます。

中小企業で「見直し」が起きる典型パターン

機関設計の見直しが話題になるのは、たとえばこんな場面です。

  • 役員が減って、取締役を3人そろえるのが難しくなった
  • 監査役を頼んでいた人が退任し、後任が見つからない
  • 実態は社長ひとりで回しているのに、形だけの会議体が残っている
  • 株式譲渡や事業承継の準備として、会社の体制を整理したい

いずれも「会社を小さくする」のではなく、ルール(定款)と実態を一致させるための見直しです。

取締役会をやめると、何が変わる?

取締役会を置くかどうかは定款で決められるので、取締役会を廃止することもできます。ただし、取締役会には他の機関とつながったルールがあるため、廃止すると次のような点が「連動して」変わります。ここが一番のポイントです。

(1) 取締役は1人でもよくなる 取締役会を置く会社は、取締役が3人以上必要です(会社法331条5項)。取締役会を廃止すれば、この縛りがなくなり、取締役1人の会社にすることもできます。

(2) 監査役を置く義務がなくなる(非公開会社の場合) 取締役会設置会社は、原則として監査役を置かなければなりません(会社法327条2項)。取締役会を廃止すると、この義務の前提自体がなくなります。

(3) 代表取締役の「選び方」が変わる 取締役会設置会社では、代表取締役は取締役会で選びます(会社法362条3項)。取締役会を廃止すると、代表取締役は定款・株主総会の決議・取締役の互選などで定めることになります(会社法349条)。誰が代表になるかを、定款でどう決めるかの整理が必要です。

(4) 株式の譲渡を「誰が承認するか」が変わる 株式に譲渡制限を付けている会社(多くの中小企業がそうです)では、株式を譲渡するときの承認を取締役会で行う設計が一般的です。取締役会を廃止すると、この承認機関を株主総会などに変える必要があります(会社法139条1項)。ここを直し忘れると、後で株式を動かすときに困ります。

監査役をやめるには

監査役の設置も定款で定めるものなので、定款を変更すれば廃止できます。監査役を廃止する定款変更が効力を生じると、監査役は退任し、その旨の登記をすることになります。

ただし注意点があります。先ほど触れたとおり、取締役会設置会社のまま監査役だけをなくすことは、原則としてできません(会社法327条2項)。「監査役を外したい」という相談は、実際には「取締役会も含めて設計を見直す」という話につながることが多いのです。

手続きの流れ

機関設計の見直しは、おおむね次の流れで進みます。

  1. 定款変更案を作る……取締役会の廃止、監査役の廃止、代表取締役の選び方、譲渡承認機関など、連動する条文をまとめて整理します。
  2. 株主総会の特別決議……定款変更には、特別決議が必要です(会社法466条、309条2項11号)。特別決議とは、おおまかにいうと出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な、重い決議です。
  3. 必要な役員の選び直し……体制が変わることで、代表取締役の選定などが必要になる場合があります。
  4. 登記の申請……変更が生じてから2週間以内に登記しなければなりません(会社法915条1項)。

費用(登録免許税)は、機関に関する登記の変更で3万円が基本です。これに役員の変更などが伴うと、その分が加算されることがあります。

そして見落としがちなのが期限です。登記を2週間以内にしないと、過料(罰金のようなもの)の対象になり得ます(会社法976条1号)。決議をしたら、早めに登記まで済ませることが大切です。

まとめ

  • 「取締役会」「監査役」を置くかどうかは定款で決まり、後から見直せます
  • 取締役会を廃止すると、取締役の人数・監査役の要否・代表取締役の選び方・株式の譲渡承認機関が連動して変わります。直すべき条文を一つでも漏らすと、後でトラブルになりがちです。
  • 手続きは株主総会の特別決議→2週間以内の登記が基本。登録免許税は3万円が目安です。

機関設計の見直しは、一見シンプルでも「連動の罠」があり、定款のどこを直すべきかの見極めが肝心です。自社の登記簿と定款を見比べて「いまの実態に合っているかな」と思ったら、お近くの司法書士にご相談ください


【さらに深掘り】機関設計変更の「連動」と、定款・議事録で押さえる実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

機関設計の変更は、「取締役会をやめる」という一つの決定が、登記簿のあちこちに波及します。商業登記の実務では、変更すべき登記事項と直すべき定款条項を一覧化し、漏れなく一回の決議・申請に束ねることが肝心です。

取締役会の廃止に「連動」して動く登記事項

取締役会設置会社(非公開・監査役設置)が、取締役会と監査役の両方を廃止して取締役1人の会社になる、という典型例で整理します。一度の登記で次の事項が動きます。

動く登記事項 内容 主な根拠
取締役会設置会社である旨 廃止(抹消) 会社法326条2項・911条3項15号
監査役設置会社である旨/監査役 廃止・監査役の退任 会社法327条2項・911条3項17号
株式の譲渡制限に関する規定 承認機関を「取締役会」→「株主総会」等へ変更 会社法139条1項・107条1項1号
代表取締役 選定方法の変更に伴う選定(必要に応じ) 会社法349条・362条3項

ポイントは、**監査役の退任と譲渡承認機関の変更が「自動的には直らない」**ことです。とくに譲渡制限の承認機関(多くの定款で「当会社の承認(取締役会の承認)を要する」と書かれている部分)は、取締役会がなくなった以上、株主総会など別の機関に置き換えなければ条文として宙に浮きます。ここの直し忘れが、後日の株式譲渡承認の場面で実務上のつまずきになります。

定款変更でセットで直す条項

定款変更案(株主総会特別決議)では、次のような条項をまとめて整理します。

  • 取締役会に関する章の削除(招集・決議方法など)
  • 監査役に関する条項の削除
  • 取締役の員数……「3人以上」→「1人以上」等へ(取締役会設置会社は3人以上=会社法331条5項)
  • 代表取締役の選定方法……取締役会非設置会社では、定款・定款の定めに基づく取締役の互選・株主総会決議のいずれで定めるかを規定(会社法349条3項)
  • 株式の譲渡承認機関……「株主総会の承認を要する」等へ
  • 株主総会の招集通知期間……取締役会非設置会社(書面・電子投票を定めない非公開会社)は、定款で1週間を下回る期間に短縮することも可能(会社法299条1項かっこ書)

役員の任期にも触れておくと、非公開会社は定款で取締役の任期を最長10年まで伸ばせます(会社法332条2項)。機関設計の見直しは、任期設計を併せて再検討する好機でもあります。

議事録・添付書類のチェックリスト

  • 株主総会議事録(特別決議。定足数・賛成要件は会社法309条2項柱書=議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上)
  • 株主リスト(商業登記規則61条3項。議決権数上位等の要件)
  • 代表取締役を新たに選定した場合……選定を証する書面(定款の定めに基づく互選書・株主総会議事録等)、就任承諾書
  • 印鑑関係……代表取締役が交代する場合の印鑑(改印)の手当て

監査役の退任は、定款変更(監査役設置の定めの廃止)が効力を生じた時点で退任となるため、原則として議事録で足り、別途の退任届までは要しないのが通例です(事案により異なります)。

登録免許税の「区分合算」に注意

機関に関する登記事項の変更(取締役会設置の定めの廃止、監査役設置の定めの廃止、譲渡制限規定の変更など)は、登記事項の変更等として区分(登録免許税法別表第一24号(1)ツ)=3万円で扱われ、これら複数が同じ区分にまとまる限り合わせて3万円です。

一方、**代表取締役の変更など「役員変更」の区分(同24号(1)カ)=1万円(資本金1億円超は3万円)**が伴う場合は、区分が異なるため合算されます(登録免許税法18条)。つまり「機関設計の変更3万円+役員変更1万円=4万円」となるケースがある、という整理になります。具体的な区分の当てはめは、動かす登記事項の組み合わせで変わるため、申請前に必ず確認します。

まとめ(実務のキモ)

機関設計変更は、①動く登記事項の洗い出し → ②直す定款条項の特定 → ③一回の特別決議に束ねる → ④2週間以内に登記、という段取りに尽きます。一番の落とし穴は「取締役会を消したのに、譲渡承認機関や代表取締役の選定方法を直し忘れる」連動漏れです。自社の現行定款と登記簿を突き合わせる作業は専門的な見極めを要するため、お近くの司法書士にご相談ください。