「役員は前と同じ顔ぶれだから、登記は何もしなくていい」──これは誤解です。
取締役や監査役には任期があり、任期が満了するたびに、たとえ同じ人がそのまま続投する場合でも「重任(じゅうにん)」という役員変更の登記が必要になります。この登記は変更が生じてから2週間以内に行わなければならず(会社法915条1項)、怠ると過料(100万円以下)の対象になることがあります(会社法976条1号)。さらに長期間放置すると、会社が強制的に解散させられる「みなし解散」につながることもあります。
まず要点を整理します。
- 取締役の任期は原則2年、監査役は原則4年(会社法332条1項・336条1項)。
- 株式を売るのに会社の承認が必要な会社(多くの中小企業がこれにあたります)は、定款で任期を最長10年まで延ばせる(取締役は会社法332条2項、監査役は336条2項)。ただし指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社など一部の特別な会社では、取締役の10年への延長はできない(会社法332条2項の括弧書き)。
- 同じ人が続けても、任期が満了して再び就任すれば「重任」の登記が必要。
- 登記は変更から2週間以内(会社法915条1項)。
- 登録免許税は申請1件につき資本金1億円以下なら1万円、1億円超なら3万円。
- 放置すると過料(会社法976条1号)、長期放置でみなし解散(会社法472条)の対象に。
以下、順に見ていきます。
役員には「任期」がある
会社の取締役や監査役は、一度選ばれたらずっとその地位が続くわけではありません。法律で任期が決まっています。
- 取締役:原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法332条1項)。ざっくり言うと「およそ2年」です。
- 監査役:原則として、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法336条1項)。こちらは「およそ4年」です。
ここでいう「定時株主総会の終結の時」とは、毎年の決算後に開く株主総会が終わったタイミングを指します。つまり任期はぴったり2年・4年というより、定時株主総会で区切られる点に注意が必要です。
中小企業は「最長10年」に延ばせることが多い
株式を自由に売買できない会社(株式を譲渡するのに会社の承認が必要な会社。「公開会社でない株式会社」と呼ばれます)は、定款を変更することで、取締役・監査役の任期を最長10年まで延ばすことができます(取締役は会社法332条2項、監査役は336条2項)。家族経営の会社など、多くの中小企業がこれにあたります。
ただし、指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社という特別な仕組みを採っている会社は、取締役の任期を10年に延ばすことはできません(会社法332条2項の括弧書き)。これらは主に大企業で見られる特別な機関設計で、家族経営など一般的な中小企業はまず該当しません。心当たりがなければ、気にしなくて大丈夫です。
任期を10年にしておけば、その間は重任登記の回数を減らせるというメリットがあります。一方で、「10年に1度しか手続きをしない」と、かえって登記の時期を忘れてしまうリスクもあります。任期が長いほど油断しやすい、という面は知っておいてよいでしょう。
「重任」とは──同じ人が続けるときの登記
ここが一番の誤解ポイントです。
重任とは、役員の任期が満了するのと同時に、その同じ人がふたたび役員に選ばれて就任することをいいます。たとえば、ある取締役の任期が定時株主総会で満了し、その総会で改めて同じ人が取締役に選ばれた──このとき、登記簿の上では「いったん退任して、また就任した」という扱いになります。
役員の顔ぶれにまったく変化がなくても、任期が一区切りついた以上、その事実を登記しなければならないのです。「変わっていないのだから登記は不要」という感覚は、ここで通用しません。
いつまでに登記する?──2週間以内
役員に変更(重任・就任・退任・辞任など)が生じたときは、その変更が生じた時から2週間以内に、本店の所在地で登記をしなければなりません(会社法915条1項)。
重任の場合、「変更が生じた時」は通常、再び選任された定時株主総会が終結した日です。決算後の定時株主総会で役員を選び直したら、その日から2週間以内に手続きを進める、という流れになります。
費用の目安──登録免許税
役員変更の登記には、登録免許税という税金がかかります。金額は申請1件につき次のとおりです(登録免許税法 別表第一・24(一)カ)。
- 資本金の額が1億円以下の会社 …… 1万円
- 資本金の額が1億円を超える会社 …… 3万円
中小企業の多くは資本金1億円以下なので、1件あたり1万円が目安になります。司法書士に手続きを依頼する場合は、これに別途報酬が加わります。
どんな書類が必要?──添付書類のあらまし
重任登記の際に法務局へ提出する書類は、おおむね次のようなものです(ケースにより異なります)。
- 株主総会議事録(役員を選任したことがわかる書類)
- 就任承諾書(選ばれた人が「引き受けます」と承諾したことを示す書類)
- 場合により本人確認証明書(住民票の写しなど)
どのような書類がいるかは、新たに就任する人がいるかどうか、機関設計などによって変わります。就任にあたって必要となる書類の具体的な中身については、株式会社をつくるときの登記の流れ・費用・必要書類の記事で、設立時を例にくわしく取り上げています。
放置するとどうなる?
「2週間を過ぎても、まとめて後でやればいい」と考えるのは危険です。
過料の対象になることがある
役員変更の登記を期間内にしなかった場合、過料(行政上の制裁としての金銭の支払い)が科されることがあります(会社法976条1号。100万円以下)。これは会社ではなく、役員個人に科されます(実務上は代表取締役が問われることが多いですが、登記の義務を負う取締役などが対象です)。「うっかり忘れていた」でも対象になりうる点に注意が必要です。
長期放置は「みなし解散」につながる
登記を長く放置することの最も深刻なリスクが、みなし解散です。最後の登記から12年が経過した株式会社は、法務大臣の官報公告のあと、「まだ事業を廃止していない」旨の届出を2か月以内にしないと、その期間が満了した時に解散したものとみなされてしまいます(会社法472条1項)。届出をすれば解散は避けられますが、公告に気づかずそのまま放置すると、法務局の職権で解散の登記がされてしまいます。
実は、このみなし解散の引き金になるケースで非常に多いのが、役員変更(重任)登記の見落としです。「事業は続けているのに、登記だけが12年間止まっていた」という会社が、ある日突然解散させられてしまう──そういうことが現実に起こります。
みなし解散の仕組みと、解散とみなされてしまった後に会社を元に戻す手続きについては、次の記事でくわしく解説しています。
【さらに深掘り】重任登記をめぐる手続き上の論点
ご注意 以下は執筆時点(2026年7月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
ここからは、重任をはじめとする役員変更の登記について、もう少し踏み込んだ手続き上のポイントを整理します。
「選任懈怠」と「登記懈怠」は別の問題
ひとくちに「役員の手続きを放置した」といっても、実は性質の異なる2つの懈怠(けたい。なすべきことを怠ること)が区別されます。
- 選任懈怠……任期が満了したのに、株主総会で後任(同じ人を選び直す場合を含む)を選ばないまま放置している状態。役員が法律や定款で定めた人数を欠いたまま、その選任の手続きを怠ることが問題になります(会社法976条22号)。
- 登記懈怠……選任そのものは行ったのに、その結果を2週間以内に登記しなかった状態(会社法976条1号)。
つまり、「総会で選び直したが登記を忘れていた」のは登記懈怠、「総会で選び直すこと自体をしていなかった」のは選任懈怠です。実際には、定時株主総会で役員を選び直す手続きを失念していると、選任懈怠と登記懈怠が重なって生じていることもあります。いずれも会社法976条によって過料(100万円以下)の対象となりうる点は共通です。
なお、任期が満了しても後任が選ばれないなどの事情がある場合には、注意が必要です。任期が切れて辞めるはずの人でも、後任が決まるまでは役員としての責任を負い続けることがあります(この状態の人を「権利義務取締役」「権利義務監査役」などと呼びます。会社法346条1項)。つまり、放置しても“きれいに辞められる”わけではありません。人数が満たされていない状態を放置してよいわけではない、という点に注意してください。
添付書類は「だれが・どう就任するか」で変わる
役員変更登記の添付書類は一律ではなく、新たに就任する人がいるか、機関設計、本人確認のための制度などによって組み合わせが変わります。代表的な書類について、実務上の留意点を整理します。
- 株主総会議事録……役員を選任したことを示す中心的な書類です。だれを・いつ選んだかが読み取れる内容になっている必要があります。
- 就任承諾書……選ばれた人が役員になることを引き受けた、という意思を示す書類です。重任の場合でも、改めて選任され就任する以上、原則として承諾の事実を示す書類が求められます。議事録の記載で就任承諾があったことを兼ねさせる扱いがとられることもあります。
- 本人確認証明書(住民票の写し・運転免許証の写しなど)……新たに就任する取締役・監査役などについて、その人の実在を確認するために求められる書類です。再任(重任)にすぎず、すでに登記されている人がそのまま続く場合には、原則として求められません。
- 印鑑証明書……主に代表取締役を新たに選ぶ場面などで、選定にかかわる手続きの真正を担保するために必要になります。代表取締役に変更がなく、平取締役の重任だけであれば、印鑑証明書までは求められないのが通常です。一方で、取締役会を置かない会社で取締役が代表者を兼ねる構成など、機関設計によって扱いが異なります。
このように、**本人確認証明書は「新任者がいるか」、印鑑証明書は「代表者の選定がからむか」**が、要否を分けるおおまかな目安になります。ただし会社の機関設計や個別事情によって例外があるため、自社のケースで何が必要かは個別に確認するのが安全です。
登録免許税の「区分」と、同時申請のときの数え方
登録免許税は、登記の種類ごとのグループ分け(これを「区分」といいます)ごとに金額が定められています。役員変更(取締役・監査役・代表取締役などの変更)は、まとめてひとつの区分として扱われ、その区分について次の金額がかかります(登録免許税法 別表第一・24(一)カ)。
- 資本金の額が1億円以下 …… 1万円
- 資本金の額が1億円を超える …… 3万円
ここで押さえておきたいのは、同じ役員変更の区分であれば、何人分をまとめて申請しても金額は1万円(または3万円)のままだという点です。たとえば取締役3人と監査役1人を同じ定時株主総会で重任した場合でも、役員変更という区分は1つなので、その分の登録免許税は1万円(資本金1億円以下の場合)で足ります。
一方で、役員変更と別の区分の登記を同時に申請するときは、区分ごとに金額が積み上がります。たとえば、定時株主総会の機会に「本店移転」や「目的(事業内容)の変更」を一緒に行う場合、本店移転は別の区分、目的変更も別の区分として、それぞれに定められた登録免許税が加算されます。「同じ申請書にまとめたから1件分で済む」とはならないため、複数の変更を同時に行うときは、どの区分がいくつ生じるかを事前に把握しておくと費用の見通しが立てやすくなります。
任期管理を仕組みにする
重任登記をめぐるトラブルの多くは、難しい法律論ではなく、単純な任期の見落としから生じます。とくに任期を10年に設定した会社では、前回の手続きから次の手続きまでの間隔が長く、社内で実務を担う方が替わったり記憶が薄れたりして時期を逃しやすくなります。
任期到来を取りこぼさないために、次のような備えが考えられます。
- 定款を確認し、現在の任期(2年・4年・10年など)を把握しておく。
- **役員ごとの「就任日」と「任期満了で重任が必要になる定時株主総会」**を一覧にして記録しておく。
- 次に手続きが必要になる年(およその時期)をカレンダーや管理表に控えておく。
- 決算・定時株主総会の準備をするタイミングで、その年が役員の重任の年にあたらないかを毎年チェックする習慣にする。
任期が満了する定時株主総会では、決算の承認とあわせて役員の選び直し(重任)も議題に上げることになります。決算スケジュールと役員任期をひとつの流れとして管理することが、登記懈怠・選任懈怠の双方を防ぐ近道です。手続きの時期や必要書類に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。
おわりに
役員変更の登記は、「人が入れ替わったとき」だけのものではありません。同じ人が続けるときでも、任期が満了すれば「重任」の登記が必要──ここを押さえておくことが、過料やみなし解散を避ける第一歩です。
まずは、自社の定款で取締役・監査役の任期が何年に設定されているかを確認し、次の手続き時期をカレンダーに控えておくとよいでしょう。手続きに不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
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