株主総会に出られない株主──議決権の代理行使・書面投票と議事録への書き方

この記事の要点 株主総会に出られない株主が議決権を使う方法は、主に2つです。代理人に委任状を渡して出席してもらう方法(会社法310条)と、議決権行使書面に賛否を書いて会社に出す方法(書面投票。会社法311条)です。 代理人に任せるときは、代理権を証明する書面(委任状)を会社に出し、その授権は株主総会ごとに行う必要があります(会社法310条1項・2項)。 書面投票は、株主が自由に選べるものではなく、会社が招集のときに「書面で議決権を行使できる」と決めた場合に使えるしくみです(会社法298条1項3号)。 書面投票で行使された議決権は、出席した株主の議決権の数に算入されます(会社法311条2項)。議事録の出席株主数・議決権数もこの前提で数えます。 次の一歩:①自社の定款に代理人の資格や人数の定めがあるか確認 → ②書面投票を採用するかを招集の段階で決める → ③議事録で出席の内訳が読み取れるように書く。 株主総会の日に、どうしても都合がつかない株主はいます。遠方に住んでいる、入院している、仕事で動けない──中小企業でも珍しいことではありません。 ...

2026年10月31日 · ひぐらしさとし

社長が認知症になったら会社はどうなる──後見の審判の前に「会社が止まる」場面と、元気なうちの備え

この記事の要点 社長が認知症と診断されたり、判断能力が落ちたりしても、それだけで自動的に取締役・代表取締役を退任するわけではありません。判断能力の低下を理由に退任となるのは、家庭裁判所の「後見開始の審判」を受けたときです(会社法330条・民法653条3号) 本当に困りやすいのは審判の前です。肩書きは社長のままなのに、社長本人が契約や決議を確かな形で行えるかがはっきりせず、会社の手続きが止まりやすくなります とくに「取締役は社長1人・株主も社長1人(または社長が大株主)」の会社では、社長に代わって判断できる人が会社の中にいないため、取締役を選び直す株主総会も開けなくなるおそれがあります 備えの基本は、元気なうちに代表者・取締役・株式を社長1人に集中させないことです。任意後見や家族信託も選択肢ですが、会社の経営そのものを任せる仕組みではない点に注意が必要です 次の一歩として、会社の登記事項証明書・定款・株主名簿を手元に出し、「社長1人に集まっているもの」を書き出してみてください 経営者の方に知っておいてほしいのは、「社長が認知症になったら会社はどうなるか」という問いには、家庭裁判所の審判が出る前と後で、まったく別の答えがあるということです。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし

取締役になれない人とは?──会社法の欠格事由と、在任中に成年後見が始まった取締役の扱い

この記事の要点 取締役になれない人(欠格事由)は会社法331条1項に定められています。現在の条文に挙がっているのは「法人」と「一定の罪を犯して刑に処せられた人」で、成年被後見人・被保佐人は含まれていません 成年被後見人が取締役に就任するには、成年後見人が本人の同意を得たうえで、本人に代わって就任を承諾する必要があります(会社法331条の2第1項) 一方、在任中の取締役が後見開始の審判を受けると、会社との委任の関係が終わり、取締役を退任します(会社法330条・民法653条3号)。保佐・補助の開始では退任しません 退任したら2週間以内に退任の登記が必要です(会社法915条1項)。この退任は「後任が決まるまで務め続ける」仕組みの対象外なので、人数が足りなくなるなら後任選びを急ぐ必要があります 成年後見制度を見直す改正法が公布されていますが、成年後見の見直しの部分は2026年10月時点では未施行です。この記事は現在の条文で説明しています 経営者の方に知っておいてほしいのは、「取締役になれない人」と「取締役を続けられなくなる場面」は、条文上は別の話だということです。 ...

2026年10月13日 · ひぐらしさとし

平取締役が亡くなった──死亡による退任登記と、員数が足りなくなるとき

この記事の要点 代表取締役ではない取締役(いわゆる平取締役)が亡くなったときも、会社は死亡による退任の登記を、変更が生じてから2週間以内に申請する必要がある(会社法915条1項) 添付するのは死亡の事実を証する書面。法務局の記載例では、ご遺族などから会社にあてた「死亡届」か、法定相続情報一覧図の写しが挙げられている 登録免許税は資本金1億円以下の会社で1万円、1億円を超える会社で3万円。後任の就任の登記とあわせて申請すれば1件分で済む 辞任や任期満了と違い、死亡の場合は「後任が就任するまで前の取締役が権利義務を持ち続ける」仕組み(会社法346条1項)が働かない。取締役の人数が足りなくなれば、その時点で欠員になる 欠員になったら、株主総会で後任を選ぶのが基本。すぐに選べないときの裁判所への申立ては別記事で整理している 代表取締役ではない取締役が亡くなったときも、会社は2週間以内に「死亡による退任」の登記を申請しなければなりません。あわせて確認したいのが、亡くなったことで取締役の人数が、法律や定款で決めた最低人数(員数=いんずう)を下回っていないかという点です。下回った場合、辞任のときのように「後任が決まるまで前の取締役が役目を続ける」仕組みは働かないため、会社が自分で欠員を埋める必要があります。 ...

2026年10月10日 · ひぐらしさとし

取締役が結婚して姓が変わった──役員の氏名変更登記と「旧氏の併記」

この記事の要点 取締役・監査役などの氏(姓)が結婚で変わったら、会社は変わった日から2週間以内に役員の氏名変更登記を申請します(会社法915条1項) 法務局の記載例では、添付書類は代理人に頼むときの委任状だけ。登録免許税は資本金1億円以下の会社で1万円、1億円を超える会社で3万円です 婚姻前の氏(旧氏)を登記簿に併記したいときは、会社の代表者から「旧氏の記録の申出」ができます。申し出るかどうかは任意で、登記の申請と同時でも、後から単独でも申し出られます 併記をやめたいときは「旧氏の記録を希望しない旨の申出」をします 経営者の方に知っておいてほしいのは、役員が結婚して姓が変わったときも、会社の登記を直す必要があるという点です。役員の顔ぶれが変わっていなくても、登記簿に載っている「氏名」が変わった以上、変更の登記が必要になります。 ...

2026年10月8日 · ひぐらしさとし

印鑑カードを紛失したら?──会社の印鑑証明書の取り方と、廃止届・再発行・改印の手続き

この記事の要点 会社の印鑑証明書は、法務局が発行する「印鑑カード」がないと取れません(窓口・郵送・証明書発行請求機ではカードを使い、オンライン請求で窓口受取を選んだ場合も受取時に提示します。オンライン請求で送付を選ぶ場合は、カードの提示に代えて印鑑カード番号を送信します) 印鑑カードを紛失したら、本店所在地を管轄する法務局へ「印鑑カードの廃止届」と「新しい印鑑カードの交付申請」を出します。カードそのものの再発行という手続きはありません 代表者印(会社の実印)を変える・なくしたときは「改印届」。代表者個人の実印と、市区町村が発行した作成後3か月以内の印鑑証明書が必要です 印鑑証明書の手数料は、書面請求で1通500円、オンライン請求なら送付450円・窓口受取420円です(令和7年4月1日改定) 窓口では、印鑑カードがあれば委任状なしで代理人でも印鑑証明書を請求できるしくみのため、紛失に気づいたら早めに廃止の届出をしておくのが安全です 会社の印鑑証明書を取るときに欠かせないのが、法務局(登記所)が発行する印鑑カードです。結論からいうと、印鑑カードを紛失したときは「廃止届」と「新しいカードの交付申請」をセットで、本店所在地を管轄する法務局に出すのが基本の流れです。代表者印そのものを変える・なくした場合は、これとは別に改印届が必要になります。 ...

2026年10月5日 · ひぐらしさとし

一人会社の社長が亡くなったら──後継者がいない会社はどうなる?

この記事の要点 取締役1名・株主1名の「一人会社」で社長が亡くなると、会社には取締役も代表者も誰もいない状態が生じる 緊急の対応策として、裁判所に一時取締役・一時代表取締役の選任を申し立てる方法がある(会社法346条2項・351条2項)。申立ての代理は弁護士、裁判所へ提出する書類の作成は司法書士という役割分担がある 株式は相続人に引き継がれるため、相続人が株主として新しい取締役を選ぶ道筋もある 誰も引き継がない場合は解散・清算という選択肢になるが、清算人も自動的には決まらない点に注意が必要 放置すると役員変更登記の懈怠で過料の対象になり、最終的には休眠会社として強制的に解散させられることもある 「社長がすべてを兼ねている」会社は、中小企業では珍しくありません。取締役が1人だけで、その人がほぼ全部の株式も持っている──いわゆる一人会社です。効率的に経営できる反面、その1人に万一のことがあったとき、会社の意思決定を担う人が文字どおり誰もいなくなるという弱点を抱えています。 ...

2026年8月26日 · ひぐらしさとし

代表取締役が亡くなったときの登記──会社が最初にすべき手続きの順番

この記事の要点 代表取締役が亡くなったときは、「登記の書類をそろえる」より先に後任を決められる状態をつくることが出発点になる 後任の決め方は機関設計(取締役会があるか)で変わり、取締役の人数が足りなくなった場合は裁判所に一時取締役・一時代表取締役の選任を申し立てる方法がある(会社法346条2項・351条2項) 亡くなった方が株主でもあった場合、その株式について議決権を行使してもらうには、原則として相続人側で権利を行使する人を決めてもらう必要がある 登記に必要な書類と2週間の期限は別記事にまとめてあるので、この記事は順番と段取りに絞る 代表取締役が亡くなると、会社には「登記」と「日々の意思決定」の二つの課題が同時に降ってきます。ただ、実際に困るのは書類の名前ではなく、何から手をつけるのかという順番のほうです。 ...

2026年8月24日 · ひぐらしさとし

商業登記を放置するとどうなるか──「過料」の根拠条文(会社法976条)を確認する

この記事の要点 商業登記の懈怠に対する過料の根拠条文は会社法976条で、同条は第1号から第35号まで過料事由を列挙する包括規定であり、「登記を怠ったとき」は第1号に規定されている 過料の対象は「登記を怠ったとき」全般であり、商号変更・本店移転・目的変更・役員変更など、会社法915条1項が定める変更登記義務(原則2週間以内)を怠れば、いずれもこの条文の対象になり得る 過料の上限は百万円で、刑事罰ではなく行政上の秩序罰。対象になるのは会社そのものではなく、発起人・取締役・清算人など登記義務を負う個人 「役員変更登記を怠ると過料になる」という話は聞いたことがあっても、その根拠条文が何かまで意識する機会は少ないかもしれません。実はこの過料は役員変更に限った規定ではなく、商業登記全般にかかわる一本の条文(会社法976条)に根拠があります。今回は、条文の構造そのものを確認します。 ...

2026年8月15日 · ひぐらしさとし

株主総会議事録の作り方──登記で使える議事録の要件と記載例

この記事の要点 株主総会の議事録は、会社が自分で作る社内の文書です。作成に資格は要りません。 何を書くかは法律で決まっています。会社法318条1項が作成義務を定め、具体的な記載事項は会社法施行規則72条3項が6つ挙げています。 登記の場面では、登記すべき事項について株主総会の決議が必要なとき、申請書に議事録を添付します(商業登記法46条2項)。 議事録だけでは足りず、株主リストなど別の書面も必要になる場合があります。 議事録は株主総会の日から10年間、本店に備え置く義務があります(会社法318条2項)。 次の一歩:①決議の内容と定款を確認 → ②6つの記載事項を漏れなく書く → ③その登記に必要な添付書面をあわせて確認する。 この記事が扱う範囲 株主総会の議事録には、いろいろな役割があります。社内の記録として残す、株主や取引先に説明する、後から決議の内容を確認する——どれも大切ですが、この記事は「登記の添付書面として使えるか」という一点に絞って、書き方を整理します。 ...

2026年8月8日 · ひぐらしさとし