この記事の要点

  • 登記簿上の抵当権者である銀行の名前が今と違っていても、承継先さえ分かれば抵当権抹消登記はできる
  • 抹消登記の登録免許税は通常どおり不動産1個につき1,000円(完済より前に合併があった場合は、前提となる抵当権移転登記の分が別途かかる)。承継先の特定や書類収集に数週間〜数か月かかることがある
  • まずは登記事項証明書で抵当権者の名称を確認し、承継先を調べるところからスタート

住宅ローンを完済し、いざ抵当権抹消登記の手続きを、と登記事項証明書(登記簿謄本)を確認したら、そこに書かれている抵当権者の銀行名が、なんだか聞き覚えのない名前だった――。あるいは「この銀行、まだあったっけ?」と不安になった。そんな経験はないでしょうか。

結論から言うと、登記簿上の抵当権者である銀行の名前が今と違っていても、抵当権抹消登記ができなくなるわけではありません。多くの場合、その銀行は合併や統廃合によって名前を変えている(権利義務を引き継ぐ別の金融機関がいる)だけです。大切なのは、「今、誰がその抵当権の権利義務を引き継いでいるか」を確認することです。

抵当権抹消登記そのものの基本的な流れ(必要書類・登録免許税・法務局への申請など)は、別記事「住宅ローン完済、そのあとが肝心──抵当権抹消登記を忘れずに」で解説しています。今回はそこから一歩進んで、登記簿上の銀行がすでに合併・消滅していたとき、何をどこで確認すればよいかを、①承継先金融機関の調べ方、②閉鎖事項証明書の取得方法、③貸付先が清算結了しているケースの3つに分けて整理します。

まず登記簿で「今の抵当権者」を確認する

最初の一歩はどのケースでも共通です。法務局で不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、権利部(乙区)に記載されている抵当権者の名称を確認します。

住宅ローンが古い場合、そこに記載されているのが、都市銀行の合併前の名前だったり、地元の信用金庫・信用組合が統合される前の名前だったりすることがあります。「聞いたことのない銀行名」が出てきたら、まず合併や社名変更の可能性を疑ってみてください。

承継先の金融機関を調べる方法

登記簿の抵当権者名が今の金融機関と一致しない場合、次のような方法で承継先を確認できます。

  1. 金融機関自身のホームページを確認する:沿革ページや「よくあるご質問」に、合併・統合の経緯がまとまっていることが多くあります。
  2. 全国銀行協会の「銀行変遷史データベース」で調べる(銀行の場合):明治以降に設立された銀行の設立・合併・営業譲渡・解散・商号変更などの沿革を横断的に調べられる無料のデータベースです。銀行名や本店所在地、存続していた期間などから検索できます。信用金庫・信用組合・JAバンクなど銀行以外の金融機関はこのデータベースの対象外のため、各業態の中央機関(信金中央金庫、全国信用組合中央会など)や、当該金融機関自身の沿革情報を確認します。
  3. 登記情報提供サービスの「商業・法人」区分で登記情報を確認する:合併によって消滅した会社の登記記録は閉鎖されますが、閉鎖される前の記載には、いつ・どの会社と合併して解散したか(承継先の会社名)が記載されています。
  4. それでも分からなければ、承継したと思われる金融機関の窓口に問い合わせる:合併の経緯を伝えれば、担当部署を案内してもらえることがほとんどです。

なお、会社の合併は会社法上の手続きで、効力発生前には「合併公告」が官報に掲載されます。官報を遡って調べる方法もありますが、一般の方にはハードルが高いため、まずは上記1〜3の方法を試すのが現実的です。

閉鎖事項証明書を取得する

承継先の金融機関を調べる中で出てくるのが「閉鎖事項証明書」という書類です。会社が合併や解散・清算結了などで登記記録がまるごと閉じられた場合、その閉じられる前の記載内容を証明するのが閉鎖事項証明書です。

抵当権抹消登記を申請する際、抵当権者である銀行が合併で消滅している場合は、この閉鎖事項証明書(またはそれに代わる承継関係を示す書面)が、登記簿上の抵当権者と現在の申請人が法律上つながっていることを示す添付書類として必要になります。

なお、完済(弁済)と合併のどちらが先だったかで、手続きの組み立てが変わります。完済のほうが先であれば、承継先の金融機関を登記義務者として、承継関係を示す書面を添えてそのまま抹消登記を申請できます。一方、完済より前に合併が起きていた場合(完済時点で登記簿上の銀行名がすでに古い名前だった場合の多く)は、先に「合併による抵当権移転登記」をしたうえで抹消登記をするのが原則で、移転登記の分の登録免許税(債権額の1,000分の1)が別途かかります。どちらに当たるかの判断も含め、承継先の金融機関または司法書士に確認するのが確実です。

取得方法は、通常の登記事項証明書と同じです。法務局の窓口・郵送・オンライン請求(登記・供託オンライン申請システム)のいずれでも取得でき、費用も同じ手数料です(令和7年4月1日改定後の額で、書面請求600円、オンライン請求+郵送520円、オンライン請求+窓口受取490円)。合併が比較的最近であれば、全国どこの法務局窓口でも交付を請求できます。

実際には、承継後の金融機関に完済当時の契約内容を伝えて問い合わせると、閉鎖事項証明書を含む必要書類一式をまとめて用意してもらえることが多いですが、社内での記録照会に時間がかかり、1〜2か月程度みておくと安心です。書類が揃ったあとの申請書の書き方や登録免許税の計算など、抹消登記そのものの実務的な手順は、別記事「住宅ローン完済後の抵当権抹消登記を自分でやる方法」でも解説しています。

貸付先が清算結了している場合

ここまでは、銀行が「合併」で名前を変えたケースでした。もう一つ注意しておきたいのが、貸付先の金融機関そのものが解散し、清算の手続きを終えて消滅している「清算結了」のケースです。

合併と清算結了では、法的な扱いが大きく異なります。

  • 合併の場合:消滅する会社の権利・義務は、法律上当然に、存続する会社(または新しくできる会社)に引き継がれます。抵当権も例外ではなく、承継先の会社が新たな抵当権者として扱われます。
  • 清算結了の場合:会社が解散し、財産を整理する清算の手続きを終えると、その会社は消滅します。合併と違って、権利・義務を自動的に引き継ぐ会社は存在しません。

つまり、貸付先がすでに清算結了していると、抵当権が登記簿に残ったまま、通常の(抵当権者と共同で申請する)抹消登記の相手方が、登記の上では見当たらなくなります。

ただし、ここで手が尽きるわけではありません。会社法は、清算の目的の範囲内では、清算が終わるまで会社はなお存続しているものとして扱っています。抵当権の抹消という後始末が残っている間は、その限りでは清算はまだ終わっていない、という見方ができます。そこで、当時の清算人がいればその方と、清算人となる者がいなければ裁判所に清算人を選んでもらったうえでその方と、共同で申請する、という方法が考えられます。

このほかに、相手方の所在がどうしても分からない場合に、不動産の所有者側から単独で抵当権の抹消を申請できる制度(いわゆる休眠担保権抹消)も用意されています。ただし、被担保債権の弁済期から20年・30年といった長い期間が経っていることが条件になるため、近年ローンを完済した方の場合は使えないことが多い制度です。制度の詳しい内容や、利用できる条件は別記事「相続した土地に古い抵当権が残っていたら──「休眠担保権」の抹消という手続き」で解説していますので、あわせてご覧ください。

貸付先が清算結了しているかどうか、どの制度が使えるかは、登記簿の記載内容や解散・清算結了の時期によって判断が分かれます。ご自身での判断が難しい場合は、無理をせずお近くの司法書士にご相談ください。

まとめ

  • 登記簿上の銀行名が今と違っていても、抵当権抹消登記自体はできる。まずは承継先を確認するところから
  • 承継先は、金融機関の沿革ページ・全国銀行協会「銀行変遷史データベース」・登記情報(閉鎖事項証明書)などで調べられる
  • 貸付先が清算結了している場合は、清算人と共同で申請する方法(清算人となる者がいなければ裁判所に選んでもらう)や、休眠担保権抹消などの制度を検討することになる

登記簿に見覚えのない銀行名が残っていても、慌てる必要はありません。まずは今の承継先を確認するところから始めてみてください。手続きの進め方に迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 費用はどのくらいかかりますか? 抵当権抹消登記自体の登録免許税は、通常と同じく不動産1個につき1,000円です。完済より前に合併が起きていた場合は、前提となる合併による抵当権移転登記の登録免許税(債権額の1,000分の1)が別途かかります。これに加えて、閉鎖事項証明書などの取得費用(1通490〜600円。請求方法によって異なります)がかかります。司法書士に承継先の調査から依頼する場合は、別途報酬がかかります。

Q. 期限はありますか?放置するとどうなりますか? 抹消登記自体に法律上の期限はありません。ただし時間が経つほど、合併や統廃合が重なって承継関係をたどりにくくなったり、担当部署での記録照会に時間がかかったりします。書類が手元にあるうちに、早めに着手するのがおすすめです。

Q. 自分で調べられますか?どこに相談すればいいですか? 承継先の金融機関を特定するところまでは、沿革ページやデータベース、登記情報の確認である程度ご自身でも調べられます。ただし、閉鎖事項証明書の取得や、貸付先が清算結了しているケースへの対応は個別の事情によって判断が変わるため、迷ったらお近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】承継先金融機関の調べ方と清算結了した貸付先への対応

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

1. 承継先の特定:合併公告と商業登記記録

合併は会社法上の組織再編行為で、消滅会社・存続会社の双方が、債権者に異議を述べる機会を与えるための公告(合併公告)を行うことが義務付けられています(消滅会社側は会社法第789条、存続会社側は同法第799条)。債権者が異議を述べることができる期間は1か月を下ることができないため(第789条第2項第4号・同項ただし書)、結果として合併の効力発生日の1か月以上前に公告が行われることになります。この公告は必ず官報に掲載され、合併をする旨や商号・本店所在地などが記載されます。定款で電子公告などを定めている会社は、官報公告に加えてその方法でも公告することで債権者への各別の催告を省略できますが(同条第3項)、官報への掲載そのものを省略することはできません。

なお官報については、「官報の発行に関する法律」(令和5年法律第85号)の施行により、令和7年4月1日から官報発行サイトに掲載される電子データが正本となり、無料で閲覧できるようになりました。ただし無料公開されている令和7年3月31日以前の過去分は平成15年7月15日以降の法律・政令等が中心で、会社の合併公告のような公告類は含まれていません。官報発行サイトにキーワード検索機能もないため、古い合併公告を日付の見当なしに探し当てるには、国立印刷局の有料サービス「官報情報検索サービス」が必要です。官報から遡る方法のハードルが高いという事情は、電子化後も変わっていません。

銀行の合併については、会社法上の手続に加えて、銀行法第30条第1項に基づく認可を受けなければ効力が生じません。条文上の認可権者は内閣総理大臣ですが、同法第59条第1項により、この認可を含む権限は金融庁長官に委任されているため、実務上の窓口は金融庁になります。認可を要する重大な経営判断であることから、合併の経緯は当該金融機関のホームページ(沿革・IR情報)や、全国銀行協会が公開する「銀行変遷史データベース」で確認できることが多くあります。信用金庫・信用組合・JAバンクなど銀行以外の業態はこのデータベースの対象外のため、各業態の中央機関や当該金融機関自身の沿革情報での確認が必要です。

商業登記の記録上は、吸収合併により消滅する会社の登記記録は「合併による解散」を原因として閉鎖され、閉鎖前の記録に存続会社の商号・本店が記載されます。新設合併の場合は、消滅する会社双方の記録がそれぞれ閉鎖され、新設会社の登記記録が新たに作られる形になります。登記審査の観点からは、抵当権者名が現在と異なる場合、「吸収合併で消滅会社になった(→存続会社の登記記録・沿革を確認)」か「新設合併で消滅会社になった(→新設会社の登記記録を確認)」かの見極めが出発点になります。

2. 閉鎖事項証明書の取得実務

登記事項証明書の交付請求書には、通常「全部事項証明書(現在事項・履歴事項)」「一部事項証明書」「代表者事項証明書」などとあわせて「閉鎖事項証明書」という区分があります。対象の会社の登記記録がすでに閉鎖されている(会社として存在しない)場合は、この「閉鎖事項証明書」の区分で請求します。現存する会社の履歴の一部として過去の合併等が記載されている場合は、通常の履歴事項全部証明書でも確認できることがあります。

交付請求は、登記事項証明書と同様に、法務局の窓口・郵送・オンライン請求(登記・供託オンライン申請システム)のいずれでも可能です。コンピュータ化後の記録であれば、対象の会社の本店所在地にかかわらず、全国どの法務局窓口でも交付を請求できます。ただし、コンピュータ化以前の紙の登記簿(戦前・戦後間もない時期の合併など)は、当時の本店所在地を管轄していた法務局でなければ取得できない場合があるため、古い合併ほど早めの照会がおすすめです。手数料は通常の登記事項証明書と同じ体系で、令和7年4月1日の改定後は、書面請求600円、オンライン請求+送付520円、オンライン請求+窓口交付490円です(登記手数料令第2条・第3条、法務省「登記手数料について」)。この改定で書面請求の600円は据え置かれ、オンライン請求分の額のみが変わっています。

抵当権抹消登記の添付情報としては、閉鎖事項証明書(または現存する承継会社の登記事項証明書・会社法人等番号)によって、登記簿上の抵当権者と現在の申請人(義務者)が法律上同一の権利義務を承継した関係にあることを示す形になります。この形で申請できるのは、弁済により抵当権が消滅した後に合併があった場合です。登記義務者となるべき者に合併などの一般承継があったときは、承継人が、承継を証する情報を提供して登記を申請できます(不動産登記法第62条、不動産登記令第7条第1項第5号イ)。これに対し、弁済より前に合併があったときは、抵当権そのものがいったん存続会社に移転しているため、前提として合併による抵当権移転登記(登録免許税は債権金額の1,000分の1。登録免許税法別表第一・一(六)イ)をしたうえで、抹消登記を申請するのが原則です。実務上は、承継後の金融機関に完済当時の契約内容を伝えて問い合わせると、必要な証明書一式をまとめて用意してもらえることが多いですが、社内の記録照会に時間を要し、1〜2か月程度みておくのが安全です。

3. 清算結了した貸付先への対応の考え方

合併と異なり、貸付先の金融機関が解散し清算手続を経て清算結了に至っている場合は、権利義務を自動的に引き継ぐ承継会社が存在しません。商業登記の記録も清算結了によって閉鎖されているため、そのままでは、通常の抹消登記のように抵当権者側の協力を得て共同で申請する相手方が見当たらないことになります。

もっとも、清算結了の登記がされていることと、清算が実体として終わっていることとは、同じではありません。会社法第476条は、清算をする株式会社(清算株式会社)は「清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす」と定めています。条文が存続の終わりを画する基準として置いているのは「清算が結了するまで」であって、「清算結了の登記がされるまで」ではありません。清算結了の登記は、清算人が清算の終了を報告するために行う登記であり、その登記をしたこと自体で法人格が消える仕組みにはなっていません。したがって、なお処理すべき清算事務が現実に残っている場合には、清算結了の登記がされていても、その限度では法人はなお存続しているものとみなされることになります。ここまでは、条文の文言から素直に読み取れる範囲です。古い判例にも、清算結了の登記があっても実際に清算が結了していないときはその登記は実体上の効力を生じず、会社の財産に属する債権が残っている限り、会社が消滅したとはいえないと判断したものがあります(大審院大正5年3月17日判決)。

問題は、その次の段階、すなわち抵当権抹消登記への協力が、ここでいう「清算事務」に当たるといえるかどうかです。住宅ローンを完済していれば、抵当権は被担保債権に付従して実体上すでに消滅しており、登記簿に残っているのは実体を伴わない登記だけ、という状態になっています。それでも、その登記の名義人である以上、抹消登記の手続に応じる義務そのものは会社に残ります。会社法第481条第1号は清算人の職務として「現務の結了」を掲げており、会社が負っていたこの後始末の履行も、そこに含まれると考えられます。ただし、この当てはめを正面から定めた条文があるわけではなく、解釈による整理である点には注意が必要です。次に述べる清算人選任という道は、この整理を前提として初めて成り立つものですので、実際の事案でこの筋道を採れるかどうかは、必ずお近くの司法書士にご確認ください。

この整理を前提にすると、清算結了の登記がされていても、その会社の清算人と共同して抹消登記を申請する、という道が見えてきます。段取りは、清算人となる者がいるかどうかで分かれます。解散当時の清算人が健在で連絡もつくのであれば、まずはその方に協力を求めることになります。連絡先が分からない、すでに亡くなっているなどの事情で清算人となる者がいない場合に出てくるのが、裁判所による清算人の選任です。会社法第478条第2項は「前項の規定により清算人となる者がないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人を選任する」と定めています。抵当権の登記を抹消したい不動産の所有者は、共同申請の相手方となる清算人がいないために、実体に合わなくなった登記をいつまでも消せない立場に置かれますから、ここでいう「利害関係人」として申立てをすることが考えられます。登記実務の先例にも、清算結了の登記がされた株式会社を抵当権者とする抹消登記について、登記権利者が利害関係人として裁判所に清算人の選任を申し立て、選任された清算人と共同で抹消登記を申請できるとしたものがあり(昭和38年9月13日民事甲第2598号民事局長回答)、この先例は、裁判所の選任決定書を添付すれば、清算人就任の登記を経ていなくても申請を受理して差し支えないとしています。他方で、その前提として閉鎖された商業登記記録の回復(清算結了の登記の抹消)をあわせて要するとする説明もあり、実際の段取りには幅があります。この方法を採れるかどうかは事案によりますので、実際の適用はお近くの司法書士にご確認ください。

このほか、不動産登記法には、共同して抹消を申請すべき相手方の所在が知れない場合に、不動産の所有者側から単独で抹消を申請できる制度(いわゆる休眠担保権抹消)も用意されています。抵当権について主なルートは2つで、共同して申請すべき者の所在が知れないこと(同法第70条第1項に規定する場合であること)を前提に、被担保債権の弁済期から20年を経過し、その期間を経過した後に元本・利息・損害金の全額に相当する金銭を供託した場合の単独申請(同法第70条第4項後段)と、抵当権者が解散した法人である場合の単独申請(同法第70条の2)です。いずれも「相手方の所在は分かっているが協力してもらえない」という場面のための制度ではなく、所在が知れないことが出発点になっている点に注意が必要です。

このうち第70条の2は、令和3年の民法等改正(令和3年法律第24号)で新設され、令和5年4月1日から施行された比較的新しい制度です。法人の清算人の所在が判明しないことに加え、被担保債権の弁済期から30年、かつその法人の解散の日から30年の経過が要件となる一方、供託を要しない点が特徴です。施行日より前には存在しなかった制度ですので、以前に相談して「手がない」と言われた事案でも、現在は選択肢が増えている可能性があります。

ただし、この2つのルートは、いずれも20年・30年という長い期間の経過を要件としています。住宅ローンを近年完済したのに抵当権者が清算結了していた、という事案では期間要件を満たさないことが多く、その場合は、まず先に述べた清算人との共同申請(清算人となる者がいなければ、その選任を経たうえでの共同申請)ができないかを検討することになります。休眠担保権抹消は、期間要件を満たす古い担保権のための手当てであって、清算結了の事案すべてに使える制度ではない、という点は押さえておく必要があります。

制度の詳細な要件や利用できるルートの選択は、登記簿の記載内容や解散・清算結了の時期によって個別に判断が分かれるため、別記事「相続した土地に古い抵当権が残っていたら──「休眠担保権」の抹消という手続き」で紹介している内容もあわせてご確認ください。実際の適用可否は、最新の情報と個別の事情を踏まえて、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。本文中の大審院大正5年3月17日判決と昭和38年9月13日民事甲第2598号民事局長回答は、下記の法律事務所データベースに収録された全文転載により内容を確認したもので、掲載誌の原本(大審院民事判決録・民事月報等)には当たれていません。

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