この記事の要点
- 住宅ローンを完済しても、登記簿上の抵当権は自動では消えず、抵当権抹消登記の申請が必要
- 登録免許税は不動産1個につき1,000円
- 銀行から届く書類は失くさないうちに、完済直後に手続きするのが一番スムーズ
長年返してきた住宅ローンを完済。銀行から「書類一式」が届いて、一段落──と思ったら、まだやることが残っています。
それが 抵当権抹消登記。 「ローンを完済しました」という事実を、登記簿から正式に消す手続きです。
抵当権とは何か
住宅ローンを組むと、銀行は万が一返済が滞ったときのために、家と土地に抵当権を設定します。登記簿にも「○○銀行の抵当権」として記録されます。
完済しても、登記簿上の抵当権は自動では消えません。銀行が「もう返してもらいました」と言ってくれるだけでは不十分で、自分で(または司法書士に依頼して)登記の手続きをする必要があるのです。
放っておくとどうなるか
抵当権の抹消自体に法律上の期限はありません。でも、放置すると後で困ることがあります。
- 売却しようとしたら、買主から「抹消してから売ってほしい」と言われる → 売却スケジュールが遅れる
- 銀行が合併・統廃合されていると、手続きが面倒 → 何十年も前の銀行が今はない…ということもある
- 書類を失くす → 登記識別情報(登記済証)は再発行されないため、手続きの手間が増える
つまり、完済直後が一番ラクなのです。
銀行から届く「書類一式」とは
完済時に銀行から渡される(または郵送される)主なものは次のとおりです。
- 登記識別情報(または登記済証)
- 抵当権解除証書(または弁済証書)
- 銀行の委任状
- 銀行の会社法人等番号(または代表者事項証明書)
これらが抵当権抹消登記を申請するためのパスポートです。失くさないうちに、早めに手続きに進むことをおすすめします。
手続きのながれ
- 銀行から完済書類を受け取る
- 自分で申請する、または司法書士に依頼する
- 法務局へ申請(不動産の所在地を管轄する法務局)
- 登記が完了すると、登記簿に抵当権の抹消が記録される(完了までの日数は法務局や時期によって異なります)
費用のめやす
| 項目 | 金額のめやす |
|---|---|
| 登録免許税 | 不動産1個につき 1,000円(土地と建物なら2,000円) |
| 司法書士報酬 | 事務所により異なります |
ご自身でも申請できます。「平日に法務局へ行く時間が取れない」「書類に不安がある」という方は、専門家に頼むこともできます。
まとめ
住宅ローンを完済された方、本当にお疲れさまでした。最後の仕上げとして、抵当権抹消登記までをセットの手続きと考えていただければ安心です。
銀行から封筒が届いたときも、古い書類が後から出てきたときも、まずは書類の内容を確認するところから始められます。手続きに不安があれば、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 銀行からの書類を失くしてしまいました A. まずは完済した銀行に相談してください。なお、登記識別情報(登記済証)は再発行されませんが、失くした場合でも別の方法で申請することはできます。
Q. 完済から何年も経っています。もう手遅れですか? A. いいえ、いつでも手続きは可能です。ただし書類が揃っているうちに進めるのが一番スムーズです。
Q. 銀行が合併して、今は別の銀行になっています A. 今の銀行に相談してください。合併の経緯がわかる書類が追加で必要になることがあります。
【さらに深掘り】抹消書類の落とし穴と銀行統廃合への対応
ご注意 以下は執筆時点(2026年4月)の登記実務に基づく一般的な解説です。金融機関ごとに書式・取扱いは異なり、個別事案で追加対応が必要なことがあります。実務でのご判断は最新の運用と個別事情を確認のうえ、専門家にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
1. 抹消書類4点セットの正体
完済時に銀行から渡される書類を、登記実務の視点で整理します。
| 書類 | 登記上の役割 | 注意点 |
|---|---|---|
| 登記識別情報通知(登記済証) | 抵当権設定時に金融機関へ発行された権利証 | 再発行不可、紛失時は事前通知制度等 |
| 抵当権解除証書(弁済証書) | 登記原因証明情報 | 不動産・抵当権の表示が登記簿と一致している必要 |
| 委任状 | 申請代理権の授与 | 銀行の押印があるか確認 |
| 会社法人等番号(または代表者事項証明書) | 申請人(金融機関)の代表者の資格の確認 | 証明書で代える場合は発行から3ヶ月以内 |
2. 会社法人等番号の扱い
平成27年以降、申請書には会社法人等番号を記載するのが原則で、代表者事項証明書は不要。なお、
- 銀行から渡される書類に番号記載がない → 銀行に確認するか、銀行の登記事項証明書で確認
3. 解散・合併銀行の承継証明
完済から年数が経過したケースで問題になることがあります。
例:旧東海銀行で借りた住宅ローン
- 旧東海銀行 → UFJ銀行 → 三菱東京UFJ銀行 → 三菱UFJ銀行 と承継
- 解除証書が「旧東海銀行」名義で残っている場合
- 承継関係がわかる書類が必要になることがある
4. 登記識別情報の紛失対応
紛失時の3つの選択肢:
| 方法 | 内容 | 費用・期間 |
|---|---|---|
| 事前通知 | 法務局から金融機関へ意思確認 | 無料、2週間程度の遅延 |
| 本人確認情報 | 司法書士が本人確認情報を作成 | 報酬は事務所により異なる |
| 公証人認証 | 公証人による認証 | 原則1万1,000円、公証役場訪問必要 |
事前通知で済ませるのが比較的シンプルです。
5. 共同担保(複数不動産)の一括処理
土地+建物+自宅敷地に共同抵当が設定されている場合、
- 1件の申請で全不動産を抹消可
- 登録免許税は不動産個数×1,000円(同一の申請書で20個を超える不動産を抹消するときは一律2万円)
- 管轄が異なる場合は管轄ごとに分けて申請
土地1つと建物1つなら「2,000円」ですが、マンションでは敷地権の土地も1つずつ数えるため、計算が変わることがあります。
6. 抹消後に出てくる「忘れられた抵当権」
完済から何十年も経って売却時に発覚する「債権者不明・解放できない抵当権」。
- 休眠担保権として、不動産登記法70条による単独抹消手続が可能
- 弁済期から20年経過+元本・利息・遅延損害金の全額に相当する金銭の供託で抹消可
- 公示催告手続による除権決定ルートもあり
ただし時間も費用もかかるため、完済したら早めに抹消しておくのが経済的です。
7. 申請書の標準形
登記の目的 ○番抵当権抹消
原 因 令和○年○月○日 弁済
権 利 者 (住所)(氏名)
義 務 者 (住所)株式会社○○銀行
代表取締役○○
添付情報 登記原因証明情報、登記識別情報、
会社法人等番号○○○○○○○○○○○○、代理権限証明情報
登録免許税 金2,000円(不動産2個)
不動産の表示 (土地・建物の表示)
権利者・義務者の表示は登記簿の現在事項と一致させる。引っ越し後で住所相違があれば、先に住所変更登記が必要です。
8. 参考条文
- 不動産登記法60条(共同申請)、70条(除権決定による登記の抹消等・休眠担保権の単独抹消)
- 不動産登記令7条(添付情報)
- 登録免許税法9条・別表第一
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年7月)。
- 不動産登記法59条・60条・70条(2026年10月に6条・21条・22条・23条・25条を追加確認)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令4条・7条・17条(2026年10月に別表26項を追加確認)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則36条(2026年10月に70条・72条を追加確認)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 登録免許税法9条・別表第一(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 法務省「不動産登記令等の改正に伴う添付情報の変更について」(平成27年11月2日施行): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00232.html
- 法務局「登記識別情報を紛失したのですが,どうしたらよいのですか?」(情報番号1311): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/000130972.pdf
- 公証人手数料令34条(e-Gov法令検索)(2026年10月追加確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/405CO0000000224
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」3-1 抵当権抹消登記申請書 記載例(PDF)(2026年10月追加確認): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365914.pdf
- 法務局 抵当権抹消(敷地権付き区分建物)記載例(PDF)(2026年10月追加確認): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365917.pdf
- 法務局「抵当権の抹消の登記の申請に必要な書類とその入手先等」(PDF)(2026年10月追加確認): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001392662.pdf
- 法務局「住宅ローン等を完済した方へ(抵当権の登記の抹消手続のご案内)」(2026年10月追加確認): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/info-net_00001.html
- 法務局「登記識別情報を紛失した場合は,再度通知してもらうことはできるのですか?」(情報番号1326)(2026年10月追加確認): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/000130987.pdf