この記事の要点

  • 不動産の売買で司法書士を誰が選ぶかは、法律で決まっているわけではありません。一般には、買主側(不動産会社の紹介や、住宅ローンを組む金融機関の手配を含む)で決まることが多いとされています
  • 住宅ローンを使う場合、金融機関も抵当権の登記の当事者になるため、金融機関の手続きの都合が司法書士選びに関わります
  • 登記費用を誰が負担するかは「誰が選んだか」ではなく、売買契約書の取り決めで決まります。名義変更は買主、売主の抵当権の抹消は売主が負担する形が一般的とされています
  • 買主が自分で司法書士を選びたいときは、決済日が決まる前に、不動産会社と金融機関へ早めに伝えて相談しましょう

不動産を売り買いするとき、「司法書士は誰が頼むものなのか」「不動産会社に紹介された人に決まっているのか」と迷う方は少なくありません。

結論からいうと、誰が司法書士を選ぶかを定めた法律の決まりはなく、取引ごとの話し合いと慣行で決まります。一般には、買主側で手配されることが多く、住宅ローンを使う場合は金融機関の手続きの都合も関わってきます。

決済の日に司法書士が何をするのか、当日の流れについては不動産の売買で司法書士は何をしている?で整理しています。この記事では、その前の段階にあたる「誰が選ぶのか」「費用は誰が持つのか」「買主が自分で選べるのか」に絞って説明します。

売買の登記は、売主と買主が「一緒に」申請するもの

まず前提として、売買による名義変更(所有権移転登記)は、買主だけ、あるいは売主だけで申請するものではありません。不動産登記法60条は、権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者(登記によって直接に利益を受ける人=買主)と登記義務者(登記によって直接に不利益を受ける名義人=売主)が共同して行うと定めています。これを共同申請(きょうどうしんせい)といいます。

そのため、決済を担当する司法書士は、売主・買主の双方から登記の申請の依頼(委任)を受けるのが一般的とされています。この形をとる場合、どちらの側の紹介で決まった司法書士であっても、登記の申請については双方から依頼を受けた立場になり、売主の本人確認や売る意思の確認も行います。

なお、民法108条1項は、一人が当事者双方の代理人になること(双方代理)を原則として認めていません(ただし書で「債務の履行」と「本人があらかじめ許諾した行為」を除いています)。登記の申請については、最高裁の判例(最高裁昭和43年3月8日判決・民集22巻3号540頁)が、同一人が登記権利者・登記義務者双方の代理人となっても、双方代理を理由に無効にはならないと判断しています。これは2020年4月施行の改正前の民法108条についての判断で、判例が挙げた理由は、記事後半の【さらに深掘り】で整理しています。売買の登記の申請を売主・買主の双方から受ける扱いを考えるうえで、基本となる判例です。

一般に、誰が選ぶことが多いのか

取引の形によって異なりますが、一般的な傾向は次のとおりです。

取引の形 司法書士が決まる経路として多いもの
住宅ローンを使って買う 買主側。金融機関が手配する、または不動産会社の紹介した司法書士を金融機関が了承する形
現金で買う(ローンなし) 買主側。不動産会社の紹介によることが多い
新築マンション・建売住宅を分譲会社から買う 売主である分譲会社が手配していることがある

なぜ買主側で選ぶことが多いのか

買主側で手配されることが多い理由として、一般に次の点が挙げられます。

  • 登記で守られるのは主に買主だから:不動産を買っても、登記をしなければ原則として第三者に「自分のものだ」と主張できません(民法177条)。名義変更の登記によって立場が守られるのは主に買主です
  • 名義変更の費用を負担するのが一般に買主だから:後で触れるとおり、名義変更の登記費用は買主が負担する取り決めが一般的とされており、費用を負担する側が依頼先を決める流れになりやすいと考えられます
  • 住宅ローンの登記とセットで進むから:住宅ローンを使う場合、買主の名義変更と同じ日に、金融機関のための抵当権設定登記を申請します。同じ司法書士がまとめて扱う形が一般的とされています(抵当権設定登記のしくみは住宅ローンを組むと、登記簿に「抵当権」が加わりますをご覧ください)

住宅ローンを使う場合は金融機関の都合も関わる

抵当権設定登記では、金融機関が登記権利者、買主(借りる人)が登記義務者として、やはり共同で申請します。つまり金融機関も登記の申請の当事者であり、金融機関自身が「この司法書士に依頼する」と判断する立場にあります。

このため金融機関によっては、取引のある司法書士に依頼する扱いをしていたり、司法書士の手配まで金融機関側で進めたりすることがあります。金融機関が司法書士を手配するのは、融資したお金と引き換えに抵当権の登記を確実に行うためといった、手続き上の理由によるものと考えられます。取扱いは金融機関ごとに異なります。

売主側の登記は誰が担当するのか

売主の側でも、名義変更の前に済ませておくべき登記があることがあります。代表的なのは次の2つです。

  • 売主の住宅ローンの抵当権の抹消登記:売主が残ったローンを決済の日に返し、その抵当権を消す登記
  • 売主の住所・氏名の変更登記:登記簿の住所や氏名が今のものと違う場合に、先に直しておく登記

これらは、決済の日に買主側の司法書士が名義変更と続けてまとめて申請することもあれば、売主が別の司法書士に依頼することもあります。どちらの形をとるかは取引ごとに話し合って決めます。抵当権の抹消のしくみは住宅ローン完済、そのあとが肝心で詳しく説明しています。

なお、住所・氏名の変更登記は、売却の予定がなくても、2026年4月1日から申請が義務になっています。所有権の登記名義人の住所や氏名が変わったときは、変更があった日から2年以内に申請しなければならず(不動産登記法76条の5)、2026年4月1日より前の変更については、2028年3月31日までが期限です。詳しくは引っ越し・結婚したら登記も更新をで説明しています。

費用を誰が負担するかは「契約書」で決まる

司法書士を選んだ人が、そのまま費用を全部払うわけではありません。登記費用(登録免許税・実費・司法書士の報酬)を誰が負担するかは、売買契約書の取り決めで決まります。

不動産の売買契約書では、一般に次のような分担が定められることが多いとされています。

登記の種類 一般的な負担者
所有権移転登記(名義変更) 買主
抵当権設定登記(買主の住宅ローン) 買主
売主の抵当権の抹消登記 売主
売主の住所・氏名の変更登記 売主

たとえば、買主側の司法書士が売主の抵当権の抹消まであわせて扱った場合でも、抹消にかかる費用は売主に請求される、という形がよくみられます。ただし、これはあくまで一般的な分担で、実際の負担は契約書の条項によります。契約書の「費用負担」の条項と、司法書士の見積書の宛名・内訳を見比べておくと安心です。

登記費用の中身そのもの(登録免許税の軽減、実費、報酬の考え方)は家を買うときの登記費用の内訳で整理しています。

買主が自分で司法書士を選ぶことはできる?

買主が自分で探した司法書士に依頼したいと希望すること自体は、制度上さまたげられるものではありません。ただし、決済は売主・買主・金融機関・不動産会社が同じ日にそろって進める手続きなので、関係者の了承と段取りの調整が必要になります。

確かめておきたいのは、次のような点です。

  • 住宅ローンを使う場合:金融機関に、希望する司法書士に抵当権設定登記を依頼してもらえるかを確認します。金融機関も申請の当事者なので、金融機関側の取扱いや手続きの都合によって対応が分かれることがあります
  • 不動産会社への連絡:決済の日程や書類のやりとりは不動産会社を通じて進むことが多いため、早めに希望を伝えておきます
  • 売主側との調整:売主の抵当権の抹消をどの司法書士が扱うか、売主側の書類をいつ・どこへ渡すかを決めておく必要があります
  • 新築の分譲物件の場合:分譲会社が手配した司法書士を前提に手続きが組まれていることがあるため、契約前の段階で確認しておくと行き違いを防げます

いずれも、決済日が決まる前、できれば売買契約の前後の早い段階で相談するのがポイントです。決済の直前に依頼先を変えようとすると、書類の準備や本人確認の日程が間に合わなくなるおそれがあります。

まとめ

不動産の売買で司法書士を誰が選ぶかに、法律上の決まりはありません。一般には買主側で決まることが多く、住宅ローンを使う場合は、抵当権の登記の当事者である金融機関の手続きの都合も関わります。

  • 売買の登記は売主・買主の共同申請で、決済を担当する司法書士は双方から依頼を受けるのが一般的とされています
  • 登記費用の負担は「誰が選んだか」ではなく売買契約書の取り決めで決まり、名義変更は買主、売主の抵当権の抹消は売主が負担する形が一般的とされています
  • 自分で司法書士を選びたいときは、決済日が決まる前に不動産会社・金融機関へ伝えて相談しましょう

依頼先の選び方や、契約書の費用負担の読み方で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 司法書士の費用は、選んだ側が全部払うのですか?

いいえ。登記費用を誰が負担するかは、売買契約書の取り決めで決まります。一般には、名義変更と住宅ローンの抵当権設定は買主、売主の抵当権の抹消や住所変更は売主が負担する形が多いとされています。具体的な金額や内訳は、司法書士の見積書で確認しましょう。見積書の見方は司法書士の見積書の読み方も参考になります。

Q. 司法書士はいつまでに決めればよいですか?決めないままだとどうなりますか?

決済の日には、代金の支払いと同じ日に登記を申請するのが基本なので、それまでに司法書士が書類を確認し、本人確認を済ませておく必要があります。依頼先が決まらないままだと、決済の日程そのものを組めなくなるおそれがあります。また、登記をしないままでは原則として第三者に所有権を主張できない(民法177条)ため、決済と登記は切り離さずに進めることが大切です。

Q. 司法書士に頼まず、自分で登記することはできますか?どこに相談すればいいですか?

登記は本人が申請することも制度上は可能です。ただ、売買の決済では、代金の支払いと登記の書類の確認を同じ日に行う橋渡し役として司法書士が立ち会うのが一般的で、住宅ローンを使う場合は金融機関の手続きも関わります。依頼先の選び方や費用負担について迷ったら、不動産会社や金融機関に確認したうえで、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】決済日の連件申請──登記の順序と、双方から依頼を受けることの整理

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

決済の日には、1件の登記だけでなく、同じ不動産についていくつかの登記を決まった順番で続けて申請するのが通常です。これを実務では連件申請(れんけんしんせい)と呼びます。ここでは、その順番がなぜ入れ替えられないのか、なぜ一人の司法書士がまとめて扱う形が多いのかを、条文に沿って整理します。

典型的な申請の順番

住宅ローンを使って買い、売主にも住宅ローンが残っている場合、一般的な順番は次のとおりです。

順番 登記
1 前提となる売主側の登記(売主の住所・氏名の変更、売主の抵当権の抹消など、必要な場合)
2 売買による所有権移転登記
3 買主の住宅ローンの抵当権設定登記

順番が入れ替えられない3つの理由

① 売主の住所が登記簿と違うと、所有権移転は却下事由にあたる

不動産登記法25条7号は、申請情報の内容である登記義務者の氏名・名称または住所が登記記録と合致しないときは、登記の申請を却下しなければならないと定めています。所有権移転登記では売主が登記義務者なので、登記簿上の住所が引っ越し前のままだと、そのままでは所有権移転登記が通りません。売主の住所変更登記を所有権移転より前に申請するのは、このためです。

② 抵当権設定の登記義務者になれるのは登記名義人だけ

不動産登記法2条13号は、登記義務者を「権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人」と定義しています。買主の抵当権設定登記では買主が登記義務者になりますが、買主が登記名義人になるのは所有権移転登記がされてからです。そのため、所有権移転→抵当権設定という順番は入れ替えられません。

③ 抵当権の順位は「登記の前後」で決まる

同じ不動産に複数の抵当権がある場合、その順位は登記の前後によります(民法373条、不動産登記法4条1項)。売主の抵当権が残ったまま買主の抵当権を登記すると、買主側の抵当権は売主側の抵当権より後の順位になります。決済の日に売主の抵当権の抹消をあわせて申請するのは、この順位の関係とも結びついています。

「前後を明らかにして同時に」申請する意味

登記官は、同じ不動産について権利に関する登記の申請が二つ以上あるときは、受付番号の順序に従って登記をしなければなりません(不動産登記法19条3項・20条)。連件申請では、申請の前後を明らかにして提出することで、上の表の順番どおりに処理されます。

もう一つ、制度上の大事な仕組みがあります。共同申請では、登記義務者の登記識別情報(いわゆる権利証に代わる情報)を提供するのが原則です(不動産登記法22条)。ところが決済の日の買主は、所有権移転登記がまだ完了していないため、自分の登記識別情報を受け取っていません。この点について不動産登記規則67条は、前後を明らかにして同時に申請された場合に、前の登記で登記名義人となる人が後の登記の登記義務者となるときは、後の登記に必要な登記識別情報は提供されたものとみなすと定めています。所有権移転と抵当権設定を同じ日に連続して申請する段取りは、この規定に支えられています。

一人の司法書士がまとめて扱う形が多い背景

連件申請では、後の登記が前の登記を前提にしています。前の登記が通らなければ、後の登記が①②で見た要件を満たさなくなる場合があります(たとえば所有権移転登記が通らなければ、買主は登記名義人にならないため、抵当権設定登記の登記義務者になれません)。書類の確認から申請までを一人の司法書士が通して管理すれば、順番の組み立てや、売主側・買主側・金融機関側の書類の突き合わせを一貫して行えます。この点が、売主側の前提となる登記まで含めて一人の司法書士がまとめて扱う形が多い背景の一つと考えられます。売主側の登記を別の司法書士が担当する場合は、申請の順番・タイミング・書類の受け渡しを事前にすり合わせておくことが重要になります。

登記原因証明情報と、申請前の本人確認・意思確認

権利に関する登記の申請では、登記原因を証する情報(登記原因証明情報)を提供しなければならず(不動産登記法61条)、申請情報の内容がこれと合致しないときは却下事由になります(同法25条8号)。売買では、どのような売買があり、いつ所有権が移ったかがこの情報の中心になります。民法176条は、物権の移転は当事者の意思表示のみによって効力を生ずると定めています。ただ、この条文は所有権が「いつ」移るかを直接定めたものではなく、移転の時期については考え方が分かれる論点です。実際の売買契約では、「売買代金の全額を支払った時に所有権が移転する」といった、移転の時期を定める取り決めを置くことがあります。法務局が公開している所有権移転登記(売買)の申請書の記載例でも、登記原因の日付は、売買契約が成立した日(所有権の移転時期の留保の特約がある場合は、その特約の条件が成就した日)を記載するとされており、記載例の登記原因証明情報も、代金の支払いと受領があった日に所有権が移転した、という流れで書かれています。

一方、登記官による本人確認の調査は、申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由があると認めるときに行うものと定められています(不動産登記法24条1項)。条文の建て付けとしては、提供された申請情報や登記識別情報などの添付情報をもとに手続が進むことが前提になっています。だからこそ、申請の前の段階で、売主が本人であること・売る意思があること・登記原因証明情報の内容が実際の取引と一致していることを確かめておくことに、決済の日の司法書士による確認の意味があります。

双方から依頼を受けることの整理(民法108条)

本文で触れた最高裁昭和43年3月8日判決(民集22巻3号540頁)は、登記申請行為が公法上の行為であって民法にいう法律行為ではないこと、すでに効力を生じた権利変動の公示を申請する行為で登記義務者にとっては義務の履行にすぎないこと、代理人によって新たな利害関係がつくり出されるものではないことを理由に、同一人が登記権利者・登記義務者双方の代理人となっても民法108条本文とその法意に反せず、双方代理を理由に無効にはならないとしています(2020年4月施行の改正前の民法108条に関する判断です)。あわせて押さえておきたいのは、次の2点です。

  • 売主には、登記を備えさせる義務がある:民法560条は、売主は買主に対し、登記その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負うと定めています。上の判例は560条が設けられる前の判断なので、560条を根拠にしたものではありません。ただ、売主の側から見ると、所有権移転登記の申請は、現在は560条に明文で定められたこの義務を果たすための手続にあたり、判例のいう「登記義務者にとっては義務の履行にすぎない」という点を理解する手がかりになります
  • 現在の条文の建て付け:民法108条1項本文は、双方代理などにあたる行為を「代理権を有しない者がした行為とみなす」と定め、同項ただし書で「債務の履行」と「本人があらかじめ許諾した行為」を除いています。2項は、代理人と本人との利益が相反する行為も同様とし、本人があらかじめ許諾した行為を除いています。上の判例は改正前の条文についての判断なので、改正後の条文との関係は、この1項ただし書や2項の文言とあわせて確認しておく必要があります

なお、ここでの整理は、すでに合意された売買に基づく登記の申請手続についてのものです。売買の条件そのものを決める交渉のように、売主と買主の利害が向き合う場面で一方の立場に立つことは、別の問題として考える必要があります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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