この記事の要点

  • 自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自分の手で書き、印を押すのが法律の定める方式です(民法968条1項)。1つでも欠けると、遺言として効力が認められないおそれがあります
  • 失敗しやすいのは「日付」「押印」「書き間違いの訂正」「夫婦で1枚に書く」「本文をパソコンで作る」の5つです
  • 押印を不要にする改正法(令和8年法律第45号)は公布されていますが、2026年10月の執筆時点では施行されていません。今書くなら押印が必要です
  • 書き終えたら、方式どおりかどうかを第三者に確認してもらうと安心です

自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば自分ひとりで作れます。その手軽さの一方で、民法が決めた書き方(方式)を1つでも外すと、遺言として扱われないおそれがあります。民法960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定めているからです。

この記事は、これから自筆証書遺言を書く方に向けて、つまずきやすい5つの例を「なぜ方式を満たさないのか」「どう書けばよいのか」の順に整理します。自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶかについては、自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶべきかで比較しています。

なお、すでに書かれている遺言が有効かどうかは、書かれ方や作成時の事情によって判断が分かれます。この記事の例に似ているからといって、その遺言が無効と決まるわけではありません。遺言の効力をめぐって相続人の間で争いになっているときは、弁護士にご相談ください。

まず確認:自筆証書遺言の方式

民法968条が定める自筆証書遺言の方式は、次のとおりです(2026年10月時点の条文)。

項目 方式 条文
本文 全文を自分の手で書く(自書) 968条1項
日付 自分の手で書く 968条1項
氏名 自分の手で書く 968条1項
押印 印を押す 968条1項
財産目録 パソコン作成やコピーの添付も可。ただし毎ページ(パソコン作成など自書でない記載が両面にあるときは両面)に署名と押印 968条2項
書き間違いの訂正 場所を示し、変更した旨を書き添えて署名し、変更した場所に押印 968条3項

以下の5つの例は、いずれもこの表のどこかが欠けてしまうケースです。

失敗例1:日付を「○月吉日」や年月だけで書く

なぜ方式を満たさないのか

日付は、全文・氏名と並んで自書が必要な要素です(民法968条1項)。最高裁判所昭和54年5月31日判決(民集33巻4号445頁)は、日付を「昭和四拾壱年七月吉日」と書いた遺言書について、日付の記載を欠くものとして無効と判断しました。判決は、日付は暦の上の特定の日を示すように書くべきものであり、「吉日」と書いただけでは特定の日を示しているとはいえない、と理由を述べています。年と月だけで日を書かない場合も、特定の日を示していない点で同じ問題があります。

どう書けばよいか

  • 「2026年10月16日」「令和8年10月16日」のように、年・月・日まで書きます
  • 日付も自書が必要なので、日付印(スタンプ)で済ませず、手で書きます

また、全文を書いた日と押印した日が離れていたことが争われた事案もあります。最高裁判所令和3年1月18日判決(集民265号11頁)は、入院中に全文・日付・氏名を書き、退院して9日後に押印した事案について、遺言が成立した日は押印をして遺言書が完成した日であり、本来はその日の日付を書かなければならなかったとしたうえで、記載された日付が実際に遺言が成立した日と違っているからといって、直ちに無効になるものではないと判断しました。ただしこれは、その事案の事実関係のもとでの判断です。どの日の日付を書くべきかについては、学説上、遺言の本文を書き終えた日とする見解もありますが、遺言に必要な要件がすべてそろった日(遺言が完成した日)の日付を書くべきだとする見解が従来から多いとされています。裁判で争われること自体が相続人にとって大きな負担になるため、書き始めから押印までを同じ日に済ませ、その日の日付を書くのが無難です。

失敗例2:印を押さない、印の代わりにサインやしるしを書く

なぜ方式を満たさないのか

現在の民法968条1項は、全文・日付・氏名の自書に加えて「印を押さなければならない」と定めています。最高裁判所平成28年6月3日判決(民集70巻5号1263頁)は、いわゆる花押(かおう。印章を押す代わりに、氏名の下に書き記す符号)を書くことは、印章による押印と同じものとはいえず、押印の要件を満たさないと判断しました。この事案では、全文・日付・氏名を自書した氏名の下に花押が書かれていましたが、印章による押印はありませんでした。

一方で、最高裁判所平成元年2月16日判決(民集43巻2号45頁)は、自筆証書遺言の押印は指印(指に朱肉をつけて押すこと)でも足りると判断しています。

また、押印のない英文の遺言書を有効とした最高裁判所昭和49年12月24日判決(民集28巻10号2152頁)もあります。ただしこの事案は、遺言者が遺言書を作る約1年9か月前に日本に帰化した白系ロシア人で、主にロシア語や英語を使い、生活もヨーロッパの様式によっており、印章を使うのは官庁に出す書類など相手から押印を求められる場合に限られていた、などの事情のもとでの判断です(判決は「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては」有効とした原審の判断を是認しています)。サインをすれば印の代わりになると一般的に認めたものではありません。

どう書けばよいか

  • 氏名を書いたあとに、印鑑で押印します
  • 条文は印鑑の種類までは定めていません。指印は足りるとされていますが、花押のようなしるしは押印にあたらないとされています。後から疑問を持たれないよう、印鑑ではっきり押しておくのが無難です

押印を不要にする改正法が公布されています(執筆時点では未施行)

2026年(令和8年)6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、改正後の民法968条からは、本文・財産目録・訂正のいずれについても「印を押す」という要件が外れます。法務省はこの部分を「押印の任意化」と説明しています。

ただし、この部分の施行日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされており(同法附則1条2号)、2026年10月の執筆時点で、法務省の案内ページにもe-Gov法令検索にも施行日は示されていません。また、施行日より前にした遺言には、改正前のルールが適用されます(同法附則5条1項)。

つまり、施行日より前に書く遺言では、これまでどおり押印が必要です。今書くなら、必ず押印してください。

失敗例3:書き間違いを二重線や修正テープだけで直す

なぜ方式を満たさないのか

自筆証書遺言の書き間違いを直す(加除訂正。文字を加える・削る・書き換えること)ときは、民法968条3項の方式が必要です。具体的には、次の4つをすべて満たさなければなりません。

  1. 変更した場所を示す
  2. 変更した旨を書き添える(付記する)
  3. その付記に署名する
  4. 変更した場所に印を押す

この方式を守らないと、条文上、その変更は「効力を生じない」とされています。二重線で消して書き直しただけ、修正テープで消して上から書いただけでは、この方式を満たしません。

なお、最高裁判所昭和56年12月18日判決(民集35巻9号1337頁)は、証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正であれば、方式に違反があっても遺言の効力に影響しないと判断しています。ただし、これは「明らかな誤記」に限った判断です(当時の条文では968条2項。現在の3項にあたります)。これを当てにして訂正の方式を省くのは避けてください。

どう書けばよいか

方式どおりに訂正する場合は、例えば次のような形になります。

  • 間違えた文字に二重線を引き、正しい文字を書き加え、その場所に押印する
  • 本文の末尾などに「本遺言書3行目中、『○○』とあるのを『△△』と訂正した。」と書き添え、その下に氏名を自書する(法務局の遺言書保管制度を使う予定なら、用紙の決められた余白部分には訂正の記載も含めて何も書けないため、本文の中に収めます)

この書き方は、968条3項が求める4つ(場所の指示・変更した旨の付記・付記への署名・変更の場所への押印)を満たすための一例で、決まった文言があるわけではありません。

訂正の方式は細かく、1つ抜けると訂正が効力を持たないおそれがあります。訂正が必要になったら、はじめから書き直すのがいちばん確実です。財産目録の訂正にも同じ方式が必要です(968条3項は「前項の目録を含む」と定めています)。財産目録の作り方と訂正の注意点は、財産目録の作り方で詳しく扱っています。

失敗例4:夫婦で1枚の紙に連名で書く

なぜ方式を満たさないのか

民法975条は「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」と定めています(共同遺言の禁止)。夫婦で「夫婦2人の財産は…」と1枚の紙に連名で書くと、この禁止にふれます。

最高裁判所昭和56年9月11日判決(民集35巻6号1013頁)は、同一の証書に2人の遺言が書かれている場合、そのうち一方に氏名を自書していないという方式の違反があったとしても、民法975条で禁止された共同遺言にあたると判断しています。

どう書けばよいか

  • 夫と妻が、それぞれ別の紙に、1人1通ずつ書きます
  • 内容が似ていても、本文・日付・氏名・押印はそれぞれ自分で行います

失敗例5:本文をパソコンで作る、家族に代筆してもらう

なぜ方式を満たさないのか

民法968条1項は、遺言者本人が「全文」を自書することを求めています。本文をパソコンやワープロで作って印刷したもの、家族に代わりに書いてもらったものは、この自書の要件を満たしません。

自書できるのは本人の手で書いたものに限られます。手が不自由な方が他人に手を添えてもらって書いた事案について、最高裁判所昭和62年10月8日判決(民集41巻7号1471頁)は、本人が書く能力を持っていたうえで、添え手が手を用紙の正しい位置に導く程度にとどまるなど、添え手をした人の意思が筆の運びに入り込んだ形跡がないことが筆跡から判定できる場合には、自書の要件を満たすとしています。

どう書けばよいか

  • 遺言の本文(誰に何を相続させるか等)は、全文を自分の手で書きます
  • パソコンで作れるのは、本文に添付する財産目録だけです(968条2項)。その場合も、目録の毎ページに署名と押印が必要です
  • 自分で書くことが難しい場合は、公証人が作成する公正証書遺言という方法があります。手続きの流れは公正証書遺言の作り方で整理しています

書き終えたら確認したいチェックリスト

  • 本文は全文、自分の手で書いたか
  • 日付は年・月・日まで、自分の手で書いたか
  • 氏名を自分の手で書いたか
  • 印を押したか(改正法の施行前は必須)
  • 訂正した箇所はないか。あれば方式どおりか(迷ったら書き直す)
  • 夫婦それぞれ別の紙で、1人1通になっているか
  • 財産目録をパソコン等で作った場合、毎ページ(自書でない記載が両面にあるなら両面)に署名と押印をしたか

まとめ

自筆証書遺言は手軽に作れる反面、日付・押印・訂正・共同遺言・自書という方式のどれか1つを外すだけで、遺言として効力が認められなかったり、訂正が効力を持たなかったりするおそれがあります。これから書く方は、年月日まで書いた日付、氏名のあとの押印、訂正するなら書き直し、1人1通、本文は全文手書き、の5点を押さえてください。押印を不要にする改正法は公布されていますが、執筆時点では施行されていないため、今書く遺言には押印が必要です。書き方に不安がある場合や、書いた遺言が方式どおりか確認したい場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 自筆証書遺言を作るのに費用はかかりますか?

自筆証書遺言は、紙・ペン・印鑑があれば自分で作れるため、作成そのものに手数料はかかりません。法務局の遺言書保管制度を利用する場合や、専門家に方式や内容の確認を頼む場合は、別に費用がかかります。公正証書遺言にする場合は、公証人の手数料が必要です。

Q. いつまでに書けばいいですか?方式の不備に気づかないままだとどうなりますか?

遺言を書く期限はありませんが、遺言は、遺言をする時に遺言をする能力がなければ作れません(民法963条)。元気なうちに作っておくことが大切です。方式の不備に気づかないまま相続が始まると、遺言のとおりに手続きを進められないおそれがあります。遺言は、遺言の方式に従っていつでも撤回できる(民法1022条)ので、あらためて方式どおりに書き直すことができます。

Q. 自分で書いても大丈夫ですか?どこに相談すればいいですか?

自筆証書遺言は自分で書けます。ただ、方式のほかにも、不動産をどう特定して書くかなど、内容面で注意したい点があります。書き方や内容の確認は、お近くの司法書士にご相談ください。公正証書遺言にしたい場合は公証役場が窓口です。すでにある遺言の有効・無効をめぐって相続人の間で争いがある場合は、弁護士にご相談ください。


【さらに深掘り】押印要件の見直しの受け止め方と、遺言書保管制度で確認される範囲

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

押印要件の見直しは「遺言をした時期」で線が引かれる

令和8年法律第45号による改正後の民法968条は、1項で全文・日付・氏名の自書を、2項で財産目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合はその両面)への署名を、3項で変更の場所の指示・変更した旨の付記・署名を求めており、「印を押す」という文言はいずれの項からも外れています。

押さえておきたいのは、経過措置の基準です。同法附則5条1項は、附則1条2号の施行日「前にされた遺言」については、改正後の968条にかかわらず「なお従前の例による」と定めています。基準になるのは、相続が始まった時期ではなく、遺言をした時期です。条文の文言上、施行日より前にした遺言は、相続が施行日より後に始まったとしても、改正前の968条(押印が必要なルール)で方式が判断されることになります。

これから書く人にとっての意味は、次の2点です。

  • 施行日より前に書く遺言は、施行日が政令で示された後であっても、本文・財産目録・訂正のすべてで押印をする前提で作る
  • どちらのルールが適用されるかは遺言をした時期で決まるため、年・月・日まで正確に日付を書いておく意味は、改正後も変わらない(改正後の968条1項も日付の自書を求めています)

なお、全文を書いた日と押印した日が施行日をまたいだ場合に、いつ「遺言をした」ことになり、どちらのルールで判断されるのかは、条文の文言だけでは決まらず、断定できません。施行日の前後に書く場合も、失敗例1で触れたとおり、書き始めから押印までを同じ日に済ませておくのが無難です。

また、同じ改正法は、普通の方式の遺言に「保管証書」による遺言を加え(改正後の民法967条)、遺言者が遺言書保管官の前で遺言の全文を口述することなどを方式として定めています(改正後の民法968条の2)。これは自筆証書遺言とは別の方式で、施行日も「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」と、押印の見直しとは別に定められています(同法附則1条3号)。

遺言書保管制度で確認されること・されないこと

法務局の遺言書保管制度は、民法968条の自筆証書遺言を対象とする制度です(法務局における遺言書の保管等に関する法律1条)。保管の申請は遺言者本人が遺言書保管所に出頭して行い(同法4条6項)、本人確認を受けます(同法5条)。保管された遺言書は、家庭裁判所の検認が不要になります(同法11条)。制度の全体像は自筆の遺言書を法務局に預けられる——遺言書保管制度とはで解説しています。

方式の観点から注意したいのは、確認の範囲です。法務省の案内では、保管申請の際に、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて遺言書保管官の「外形的なチェック」が受けられるとする一方、遺言の内容についての相談には応じられないこと、本制度は保管された遺言書の有効性を保証するものではないことが明記されています。

本文の5つの例に当てはめると、日付を「吉日」とした遺言書や押印のない遺言書は、法務省の案内でも、要件を満たさないものとして預かれないとされています。このように紙面に表れる方式の欠けは、保管申請の段階で気づける可能性があります。一方で、本人が自分の手で書いたかどうか(家族の代筆や、添え手がどの程度だったか)や、遺言をする時に遺言能力があったか(民法963条)といった事情は、紙面の外形だけでは判断できません。保管されたことは「有効と確認された」ことを意味しない、という点が重要です。

また、保管制度には民法とは別の様式のルールがあります。法務省の案内では、省令の様式(法務局における遺言書の保管等に関する省令別記第1号様式)として、A4サイズの用紙、決められた幅の余白の確保、片面のみの記載、2枚以上にわたるときの各ページへのページ番号の記載などが求められています(2026年3月2日に公布・施行された省令改正〔令和8年法務省令第8号〕により、遺言書が1枚の場合はページ番号の記載が不要になりました)。さらに記載上の留意事項として、氏名はペンネーム等ではなく戸籍どおりに書く必要があるとされています。民法968条2項は両面に記載のある財産目録も想定していますが、保管制度では財産目録も片面のみとされています。保管制度を使うつもりなら、書き始める前にこの様式を確認しておくと、書き直しを避けやすくなります。

方式を満たしても、手続きで使いにくい書き方がある

方式は遺言が効力を持つかどうかの問題です。これに対して、相続が始まった後の手続きでは、書かれた内容から「どの財産を、誰に」が読み取れるかが問われます。たとえば相続登記などの権利に関する登記では、登記原因を証する情報の提供が必要とされており(不動産登記法61条)、遺言による登記では、遺言書の記載から対象の不動産を特定できるかが問題になります。

法務省の保管制度の案内も、財産の特定のためには財産目録を添付した方が確実であるとし、不動産については所在、地番・家屋番号等で物件が特定できれば、登記事項証明書の一部分やコピーを財産目録として添付してよいとしています。また、推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)以外の人には「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載するよう案内しています。「相続させる」と「遺贈する」の違いは「相続させる」と「遺贈する」はどう違う?、遺言書を使った相続登記の申請書と添付書類は遺言書で相続登記をするときで扱っています。

方式どおりに書くことと、相続が始まった後に手続きで使える書き方にすることは、別々に確認が必要な事柄です。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

  • 小野憲昭「自筆証書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって同証書による遺言が無効になるものではないとされた事例」北九州市立大学法政論集50巻1・2合併号(2022年): https://kitakyu.repo.nii.ac.jp/records/1037

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