この記事の要点
- 遺言書で不動産を受け取ったときの申請書は、遺言の書き方で様式が分かれます。「相続させる」なら原因は「相続」、相続人への「遺贈する」なら原因は「遺贈」で、どちらも受け取る相続人が1人で申請できます。
- 原因に書く日付は、どちらも遺言書を書いた日ではなく、原則として亡くなった方が亡くなった日です。
- 添付する遺言書は種類で変わります。公正証書遺言はそのまま、自宅などで保管されていた自筆証書遺言は家庭裁判所の検認済証明書付き、法務局に預けられていた遺言書は「遺言書情報証明書」を使います。
- 登録免許税は、「相続させる」でも相続人への遺贈でも不動産の価額の1000分の4です。相続人以外の人への遺贈は1000分の20で、申請も共同で行います。
- 2026年10月5日以降の申請では、「国籍等」の欄が加わった新しい様式を使います。迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
遺言書があって、不動産を受け取る人が決まっているときは、遺産分割協議をしなくても相続登記を申請できます。ただ、申請書の書き方と添付書類は、遺言に「相続させる」と書かれているか「遺贈する」と書かれているか、そして遺言書がどの種類かによって変わります。
この記事では、遺言書で相続登記をするときの申請書の各欄の書き方と添付書類に絞って整理します。「相続させる」と「遺贈する」がそもそもどう違うのかは、「相続させる」と「遺贈する」はどう違う?と相続人への遺贈は一人で登記できるで説明していますので、ここでは繰り返しません。
なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度と、法務局が公開している様式・記載例に基づく一般的な解説です。
まず、遺言の書き方で「使う様式」が決まる
申請書の様式と記載例は、法務局のホームページ「不動産登記の申請書様式について」の「2-1 相続」から入手できます。遺言書で相続登記をする場合に使う様式は、次のとおりです(2026年10月3日に確認)。
| 遺言の書き方と受け取る人 | 法務局の様式 | 登記原因 |
|---|---|---|
| 「相続させる」(相続人へ)・公正証書遺言 | 所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言) | 相続 |
| 「相続させる」(相続人へ)・自筆証書遺言 | 所有権移転登記申請書(相続・自筆証書遺言) | 相続 |
| 「遺贈する」(相続人へ) | 所有権移転登記申請書(相続人に対する遺贈・単独申請) | 遺贈 |
| 「遺贈する」(相続人以外の人へ) | 「2-1 相続」の欄には掲載されていません | 遺贈 |
いずれの様式にも、「R8.10.5以降に申請する場合」の様式と記載例(令和8年9月11日更新)が別に掲載されています。不動産登記規則の改正(令和8年法務省令第23号・2026年10月5日施行)により、10月5日以降は、登記名義人となる方の国籍等を申請書で申し出ることになったためです(同規則158条の39第1項6号)。この記事の公開日(10月3日)の時点ではまだ改正前ですが、これから申請書を作る方は、10月5日以降の版を使ってください(新しい記載例の申請日の例も「令和8年10月5日」です)。10月5日以降の申請で国籍等が書かれていない場合、法務局は補正を求めることとされています(令和8年9月4日付け法務省民二第872号通達)。国籍等の申出のしくみは、住所変更登記義務化の「検索用情報の申出」とはで解説しています。
「相続させる」でも相続人への「遺贈する」でも、受け取る相続人が1人で申請できる点は同じです(不動産登記法63条2項・3項)。違いが出るのは、原因の書き方と、申請人の欄の形です。
申請書の書き方:「相続させる」と相続人への「遺贈する」の違い
記載例1:「長男に自宅を相続させる」と書かれた遺言の場合
父が亡くなり、遺言書に「自宅の土地と建物を長男に相続させる」と書かれていた場面を想定します。氏名・住所・番号などはすべて架空のものです。
登 記 申 請 書
登記の目的 所有権移転
原 因 令和8年5月10日相続
相 続 人 (被相続人 甲 野 太 郎)
○○県○○市○○町二丁目3番4号
(申請人) 甲 野 一 郎 印
氏名ふりがな こうの いちろう
生年月日 昭和○年○月○日
国籍等 日本
メールアドレス [email protected]
連絡先の電話番号 000-0000-0000
添付情報
登記原因証明情報 住所証明情報 国籍等を証する情報
□登記識別情報の通知を希望しません。
令和8年10月○日申請 ○○地方法務局○○支局
課税価格 金20,000,000円
登録免許税 金80,000円
不動産の表示(省略)
記載例2:「長男に自宅を遺贈する」と書かれた遺言の場合
同じ場面で、遺言書の文言が「遺贈する」だった場合です。法務局の記載例(相続人に対する遺贈・単独申請)にならうと、次のようになります。
登 記 申 請 書
登記の目的 所有権移転
原 因 令和8年5月10日遺贈
権 利 者 ○○県○○市○○町二丁目3番4号
(申請人) 甲 野 一 郎 印
氏名ふりがな こうの いちろう
生年月日 昭和○年○月○日
国籍等 日本
メールアドレス [email protected]
連絡先の電話番号 000-0000-0000
義 務 者 ○○県○○市○○町五丁目6番7号
甲 野 太 郎
添付情報
登記原因証明情報 住所証明情報 国籍等を証する情報
□登記識別情報の通知を希望しません。
令和8年10月○日申請 ○○地方法務局○○支局
課税価格 金20,000,000円
登録免許税 金80,000円
不動産の表示(省略)
欄ごとの違いを比べる
| 欄 | 「相続させる」(記載例1) | 相続人への「遺贈する」(記載例2) |
|---|---|---|
| 登記の目的 | 所有権移転 | 所有権移転 |
| 原因 | 「年月日相続」 | 「年月日遺贈」 |
| 原因の日付 | 原則として亡くなった日(戸籍上の死亡日) | 遺贈の効力が生じた日=原則として亡くなった日(戸籍上の死亡日) |
| 申請人の欄 | 「相続人」として、かっこ書きで被相続人の氏名、続けて受け取る相続人の住所・氏名 | 「権利者」として受け取る相続人の住所・氏名、別に「義務者」として亡くなった方の住所・氏名 |
| 押印 | 受け取る相続人(認印で可) | 権利者である相続人(認印で可)。記載例では、義務者の欄は住所・氏名のみで押印はない |
| 添付情報の欄 | 登記原因証明情報・住所証明情報・国籍等を証する情報 | 同じ |
| 登録免許税 | 不動産の価額の1000分の4 | 不動産の価額の1000分の4 |
ポイントを補足します。
- 原因の日付:法務局の記載例は、どちらについても「遺言書が書かれた日ではなく」亡くなった日を書くよう注意しています。遺言書の日付を書いてしまわないよう気をつけてください。なお、遺言に停止条件が付いていて、その条件が亡くなった後に満たされた場合は、遺言の効力が生じるのは条件が満たされた時です(民法985条2項)。このように効力の生じる日が亡くなった日と異なりそうな場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
- 義務者の欄:遺贈の記載例では、義務者として亡くなった方(遺贈者)の住所・氏名を書きます。この住所・氏名が登記記録上の住所・氏名と違う場合や、本籍が登記記録上の住所と違う場合は、登記記録上の所有者と同じ人であることがわかる住民票の除票の写しや戸籍の附票の写しなどが必要になります。
- 2人以上で受け取る場合:「相続させる」の記載例には、子2人がそれぞれ2分の1ずつ受け取る例が載っています。この場合は相続人ごとに持分を書き、その持分は遺言書に書かれている持分と一致している必要があるとされています。
- そのほかの欄(申請人の氏名ふりがな・生年月日・メールアドレス、住民票コード、課税価格、不動産の表示、契印など)の書き方は、遺産分割の場合と共通です。相続登記申請書の書き方で欄ごとに解説しています。
添付書類:どの遺言でも共通するもの
「相続させる」でも相続人への遺贈でも、法務局の記載例が示す添付書類の骨格は同じです。
| 欄に書く名前 | 中身 |
|---|---|
| 登記原因証明情報 | ①遺言書(種類ごとの扱いは次の章)/②亡くなった方の死亡がわかる戸籍の証明書(除籍の証明書など)/③受け取る人が亡くなった方の相続人であることがわかる、その人の戸籍の証明書(亡くなった日以後の証明日のもの) |
| 住所証明情報 | 受け取る相続人の住民票の写し(マイナンバーの記載がないもの)。申請書に住民票コードを書けば省略できる |
| 国籍等を証する情報(10月5日以降) | 日本国籍の方は、相続人であることがわかる戸籍の証明書で足り、重ねて出す必要はないとされています。外国籍の方は、国籍等が記載された住民票の写しや、旅券の写し(日本語訳文を付けます)、在留カードの写しなどが該当するとされています |
遺産分割協議で相続した場合と比べると、戸籍の集め方が違う点に気づくはずです。法務局の「相続による所有権の移転の登記の申請に必要な書類とその入手先等」では、遺産分割協議の場合、亡くなった方の戸籍は「出生から死亡まで、在籍していた全ての戸籍・除籍謄本が必要」とされています。これに対し、遺言書による登記の記載例では、亡くなった方の戸籍として求められているのは「死亡した事実が分かる」ものです。ただし、同じ法務局の案内は、配偶者または子以外の人(兄弟姉妹、孫など)が新しい所有者になる場合には、その人が法定相続人であることを確認できる戸籍・除籍の証明書も必要になるとしています。また、遺言書に書かれていない不動産があれば、その不動産については遺産分割協議などが別に必要になり、戸籍の集め方も変わります。
このほか、次の点も記載例やご案内に書かれています。
- 法定相続情報一覧図の写しを出すか、申請書に法定相続情報番号を書けば、②と③の戸籍の証明書に代えることができます。
- 亡くなった方の死亡がわかる戸籍の証明書と、相続人であることがわかる戸籍の証明書が重複する場合は、重ねて出す必要はありません。
- 課税価格を計算するために、申請する年度の固定資産課税明細書(毎年4月ごろ市区町村から届くもの)を用意しておきます。
添付書類:遺言書の種類ごとの違い
遺言書は登記原因証明情報の中心になる書類ですが、どの形で出すかは遺言書の種類で変わります。
| 遺言書の種類 | 登記に出すもの | 家庭裁判所の検認 |
|---|---|---|
| 公正証書遺言 | 公正証書遺言 | 不要(民法1004条2項) |
| 自筆証書遺言(自宅などで保管されていたもの) | 家庭裁判所の検認済証明書が付いた遺言書 | 必要(民法1004条1項) |
| 自筆証書遺言(法務局の自筆証書遺言書保管制度で保管されていたもの) | 遺言書情報証明書 | 不要(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条) |
なお、2026年6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、遺言制度の見直し(自筆証書遺言の押印の任意化や、法務局で保管する「保管証書遺言」の創設など)が予定されています。施行日は、改正の内容に応じて、公布の日から1年以内、2年6か月以内または3年以内の、それぞれ政令で定める日とされています。改正後は、検認を定める民法1004条の文言が改められるほか、遺言書保管法の条文の組み立ても変わる予定です。この記事の条文番号は、執筆時点で施行されているものです。
公正証書遺言
公証役場で作った遺言書は、家庭裁判所の検認を受けずに、そのまま登記に使えます。
自宅などで保管されていた自筆証書遺言
法務局の記載例は、自筆証書遺言(法務局に保管されているものを除く)を登記所に提出するときは、「家庭裁判所の検認済証明書付きのものであることを要します」としています。遺贈の記載例でも、公正証書遺言と法務局保管の遺言書以外の遺言書には、同じく検認済証明書が必要とされています。
検認がまだなら、登記の前に家庭裁判所での手続きが必要です。封のある遺言書を家庭裁判所の外で開封したり、検認を経ずに遺言を執行したりすると、5万円以下の過料の対象になります(民法1005条)。検認の流れは自筆の遺言書を見つけたら勝手に開けてはいけない──家庭裁判所の「検認」とはで解説しています。
法務局に預けられていた自筆証書遺言
法務局(遺言書保管所)に預けられていた遺言書は、原本が法務局に保管されているため、手元にはありません。遺言者が亡くなった後、相続人などは、遺言書の画像などが記録された「遺言書情報証明書」の交付を請求できます(法務局における遺言書の保管等に関する法律9条)。法務省は、この証明書を、これまで遺言書の原本を使っていた手続で、その代わりに添付して使うことを想定していると案内しています。手数料は1通1,400円です(東京法務局の案内・2026年2月2日更新)。
この遺言書には検認の規定が適用されないため(同法11条)、家庭裁判所の手続きを待たずに登記の準備に進めます。制度のしくみは自筆の遺言書を法務局に預けられる——遺言書保管制度とはをご覧ください。
遺言書の原本を返してもらいたいとき
戸籍の証明書は、「相続関係説明図」を一緒に出せば、登記の調査が終わった後に原本を返してもらえます。ただし法務局の記載例は、遺言書については「別にその謄本を提出する必要があります」としています。法務省のご案内(遺贈編)では、原本の還付を受けたい書類のコピーに「原本に相違ありません」と書き、申請書に押印した申請人がそのコピーに署名(記名)押印して、原本と一緒に提出する方法が案内されています。
相続人以外の人への遺贈は「共同申請」になる
遺言で、孫(相続人でない場合)や長男の妻など、相続人ではない人に「遺贈する」とされていた場合は、ここまでの記載例とは手続きの形が大きく変わります。
- 申請の形:相続人以外への遺贈は、不動産登記法63条3項の単独申請の対象外です。権利に関する登記の原則どおり、登記権利者(受け取る人)と登記義務者が共同で申請します(不動産登記法60条)。遺言執行者がいる場合、遺贈の履行は遺言執行者だけが行うことができるとされています(民法1012条2項)。
- 書類が増える:共同で申請する登記では、登記義務者の登記識別情報を提供するのが原則です(不動産登記法22条)。また、登記義務者の側で申請書に記名押印する人(遺言執行者など)の印鑑証明書で、作成後3か月以内のものを添付するのが原則です(不動産登記令16条2項・3項)。代理人が申請する場合は、その権限を証する情報も必要です(同令7条1項2号)。
- 登録免許税:不動産の価額の1000分の20です(登録免許税法別表第一第一号(二)ハ)。
- 申請義務:相続登記の申請義務(3年以内)の対象は、相続と相続人に対する遺贈です(不動産登記法76条の2第1項)。相続人以外への遺贈は、この条文の対象に含まれていません。
関わる人が増え、書類の組み立ても売買や贈与の登記に近くなるため、相続人以外への遺贈の登記は、ご自身で進める前にお近くの司法書士に相談することをおすすめします。
登録免許税と、不動産取得税の扱い
登録免許税
登録免許税法の別表第一では、所有権の移転の登記の税率は、相続による移転が1000分の4、その他の原因による移転が1000分の20とされています。法務局の記載例は、相続人に対する遺贈の登記の登録免許税について、「不動産の価額の1,000分の4」とし、計算した額が1,000円未満のときは1,000円としています。整理すると次のとおりです。
| 遺言の書き方と受け取る人 | 税率 |
|---|---|
| 「相続させる」(相続人へ) | 1000分の4 |
| 「遺贈する」(相続人へ) | 1000分の4 |
| 「遺贈する」(相続人以外の人へ) | 1000分の20 |
法務局の記載例では、課税価格2,000万円の場合の登録免許税は8万円です。課税価格と税額の端数の扱いは、相続登記申請書の書き方の「課税価格」「登録免許税」の項で説明しています。
また、2027年3月31日までの間、一定の土地について相続登記の登録免許税を免税とする措置があり、国税庁の案内では、この「相続」には相続人に対する遺贈も含むとされています。この免税の根拠条文は、2026年4月1日施行の改正(所得税法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第12号〕)で「租税特別措置法第84条の2の3」から「第84条の2の2」に番号が変わっており、法務局は、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」などと記載するよう案内しています(記載がないと免税措置は受けられません)。対象になる土地と申請書への書き方は、相続登記の登録免許税が『ゼロ』になる土地をご覧ください。
不動産取得税(一般的な扱い)
不動産取得税は、都道府県が課す税金です。地方税法は、相続(包括遺贈と、被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む)による不動産の取得には不動産取得税を課することができない、としています(地方税法73条の7第1号)。したがって、「相続させる」遺言や相続人への遺贈で取得した場合は非課税の扱いです。一方、相続人以外の人への特定の不動産の遺贈は、この非課税の範囲に含まれていないため、課税の対象になることがあります。個別の扱いは、不動産のある都道府県の税事務所などでご確認ください。
申請書を書き始める前に確認しておきたいこと
- 遺言の文言が「相続させる」か「遺贈する」か:どちらの様式を使うか、原因を「相続」と「遺贈」のどちらにするかが決まります。文言がどちらとも読めない書き方になっている場合は、自己判断で様式を選ばず、お近くの司法書士にご相談ください。
- 受け取る人が相続人かどうか:相続人への遺贈は単独申請・1000分の4、相続人以外への遺贈は共同申請・1000分の20と、大きく変わります。
- 遺言書の種類と検認の要否:自宅などで保管されていた自筆証書遺言なら、先に家庭裁判所の検認が必要です。
- 遺言書に書かれていない不動産がないか:遺言書で行き先が決まっていない不動産は、この記事の様式では登記できません。遺産分割協議で決める場合の申請書は相続登記申請書の書き方で解説しています。
- 登記記録上の所有者が亡くなった方のままか:登記事項証明書の権利部(甲区)で確認しておきます。
なお、遺言が有効かどうかや、遺言の解釈をめぐって相続人の間で争いがある場合、遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)が問題になりそうな場合は、登記の手続きとは別の問題として、弁護士にご相談ください。
まとめ
- 遺言書で相続登記をするときは、遺言の文言と遺言書の種類に応じて、法務局の様式(相続・公正証書遺言/相続・自筆証書遺言/相続人に対する遺贈・単独申請)を選びます。2026年10月5日以降は、国籍等の欄が加わった新しい版を使います。
- 「相続させる」なら原因は「年月日相続」、相続人への「遺贈する」なら「年月日遺贈」。日付はどちらも原則として亡くなった日です。遺贈の場合は、申請人の欄が「権利者」と「義務者」に分かれます。
- 添付書類の骨格は、遺言書・亡くなった方の死亡がわかる戸籍・受け取る人が相続人であることがわかる戸籍・住民票の写しです。
- 遺言書は、公正証書遺言ならそのまま、自宅などで保管されていた自筆証書遺言なら検認済証明書付きで、法務局保管の遺言書なら遺言書情報証明書を使います。
- 登録免許税は「相続させる」も相続人への遺贈も1000分の4。相続人以外への遺贈は1000分の20で、共同申請になります。
遺言書の文言の読み方や、受け取る人が相続人に当たるかどうかなど、ご自身で進めてよいか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 遺言書で相続登記をすると、費用はどのくらいかかりますか?
主な費用は登録免許税で、「相続させる」遺言でも相続人への遺贈でも、課税価格(固定資産課税台帳の価格)の1000分の4です。このほか、戸籍の証明書・住民票の写し・登記事項証明書などの取得手数料がかかり、法務局に預けられていた遺言書を使う場合は遺言書情報証明書の手数料(1通1,400円)がかかります。司法書士に依頼する場合は別に報酬がかかり、金額は事務所ごとに異なります。
Q. 遺言書があれば、登記はいつでもいいのですか?
いいえ。相続や相続人に対する遺贈で不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項)。2024年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、まだ登記をしていないものは、2027年3月31日までに申請する必要があります(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則5条6項)。正当な理由がないのに申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)。
Q. 自分で申請できますか? わからないときはどこに相談すればいいですか?
「相続させる」遺言や相続人への遺贈であれば、受け取る相続人が1人で申請でき、法務局も様式と記載例を公開しています。ただし、自宅で見つかった自筆証書遺言は検認が先に必要ですし、相続人以外への遺贈は共同申請で書類も増えます。遺言書の文言がはっきりしない場合や、書類の集め方で迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】遺言執行者の権限と、共同申請になる遺贈の添付書類
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
相続人以外への遺贈で「登記義務者の側」に立つのはだれか
相続人以外への遺贈は共同申請です(不動産登記法60条)。ところが、登記義務者である遺贈者(登記記録上の所有者)はすでに亡くなっています。そのため、登記義務者の側で申請手続をする人は、遺言執行者がいるかどうかで分かれます。
| 場面 | 登記義務者の側で申請する人 | 根拠 |
|---|---|---|
| 遺言執行者がいる | 遺言執行者 | 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる(民法1012条2項)。遺言執行者がその権限内で遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接に効力を生じる(民法1015条) |
| 遺言執行者がいない | 遺贈者の相続人(登記義務者の相続人として申請する) | 不動産登記法62条 |
法務省の通達(令和元年6月27日付け法務省民二第68号)は、遺言執行者は一般に法定代理人であると解されており、これは平成30年の民法改正の前後で変わらない、としています。遺言で遺言執行者が指定されていないときや、指定された人がいなくなったときは、利害関係人の請求によって家庭裁判所が遺言執行者を選任することができます(民法1010条)。
遺言執行者であることの証明について、法務局が公開している「配偶者居住権設定(遺贈(遺言執行者あり))」の記載例は、遺言執行者として指定されたことを証する遺言書(遺言者の死亡を証する戸籍の証明書も必要)か、家庭裁判所で選任されたことを証する書面等を添付するとしています。同じ記載例は、遺言執行者の印鑑証明書について、3か月以内に作成されたものを添付するとしています。所有権移転の遺贈(相続人以外への遺贈)の様式は「2-1 相続」の欄に掲載されていないため、遺言執行者の資格を示す書類の考え方は、この記載例が手がかりになります。
印鑑証明書が要るかどうかは、令16条と規則47条・48条の組み合わせで決まる
本文で、相続人以外への遺贈では登記義務者の側で記名押印する人の印鑑証明書が必要と書いた根拠を、条文の流れで整理します。
- 書面で申請する場合、申請人(またはその代表者・代理人)は申請書に記名押印し(不動産登記令16条1項)、記名押印した人(委任による代理人を除く)の印鑑証明書を添付します(同条2項)。印鑑証明書は作成後3か月以内のものに限られます(同条3項)。
- ただし、法務省令で定める場合は印鑑証明書が要りません(同条2項)。その場合を定めるのが不動産登記規則48条で、申請人が規則47条3号ホ(不動産登記法21条本文により登記識別情報の通知を受けることとなる申請人)に当たる場合(48条4号)や、申請人が規則47条3号イからニまでのいずれにも当たらない場合(48条5号)などが挙げられています。
- 規則47条3号イ(1)は、「所有権の登記名義人」であって、その登記名義人が登記義務者となる権利に関する登記を申請するものを掲げています。
これを当てはめると、次のようになります。
- 相続人以外への遺贈(共同申請):登記義務者は所有権の登記名義人である遺贈者で、規則47条3号イ(1)が掲げる、所有権の登記名義人が登記義務者となる権利に関する登記の場面に当たるため、48条5号の例外は使えないと考えられます。前掲の通達は、遺言執行者は一般に法定代理人であると解されているとしており、遺言執行者は「委任による代理人」には当たらないため、遺言執行者が申請書に記名押印するときは、原則としてその印鑑証明書(作成後3か月以内)が必要になります。前掲の配偶者居住権設定の記載例が遺言執行者の印鑑証明書を求めていることも参考になりますが、この記載例は、登記の種類が所有権移転ではなく配偶者居住権の設定であり、登記義務者も遺言者本人ではなく相続などで所有権を引き継いだ建物の所有者で、遺言執行者は権利者の代理人を兼ねて押印しているなど、ここでの場面とは異なり、同じ場面の記載例ではありません。
- 「相続させる」遺言・相続人への遺贈(単独申請):登記識別情報の通知を受ける通常の場合、申請人は登記識別情報の通知を受けることとなる登記権利者(規則47条3号ホ)なので、印鑑証明書は要りません(規則48条4号)。一方で、規則47条3号ホに当たるため、申請人が署名するだけで記名押印に代える扱い(規則47条3号)は使えません。法務局の記載例が、申請人の押印を「認印で可」としているのは、この組み立てと整合します。なお、登記識別情報の通知を希望しない旨を申し出た場合は、申請人は「通知を受けることとなる申請人」(規則47条3号ホ)に当たらなくなるため(不動産登記法21条ただし書)、印鑑証明書が要らない根拠は規則48条5号のほうになります。この場合も、記載例どおり申請書に記名押印(認印で可)しておけば足ります。
司法書士などに申請を委任する場合は、申請書ではなく委任状への記名押印と印鑑証明書の問題になります。不動産登記令18条は、代理人の権限を証する書面への記名押印と、記名押印した人(委任による代理人を除く)の印鑑証明書(作成後3か月以内)の添付を定めています。その例外を定める規則49条2項4号は、条文上「前条第一項第四号及び第五号に掲げる場合」を挙げています。規則48条は項が一つだけの条文なので、これは規則48条4号・5号の場合を指します。そのため、委任状の場面でも「相続人以外への遺贈では、原則として遺言執行者の印鑑証明書が要る」という結論は変わりません。
登記識別情報(権利証)を提供できないとき
共同申請では、登記義務者の登記識別情報を提供するのが原則です(不動産登記法22条本文)。遺贈者が不動産を取得した時期によっては、登記識別情報ではなく登記済証(いわゆる権利証)が交付されていることがあります。この登記済証を提出して申請したときは、登記識別情報が提供されたものとみなして扱う規定があります(不動産登記法附則7条)。
遺品から登記識別情報も登記済証も見つからないときは、提供できないことに正当な理由がある場合として申請できます(不動産登記法22条ただし書)。ただし、その場合は次のいずれかの手当てが必要です。
| 方法 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 事前通知 | 登記官が登記義務者に、申請があったことと、内容が真実なら一定の期間内に申し出るべきことを通知する。期間内に申出がなければ登記はされない | 不動産登記法23条1項 |
| 資格者代理人による本人確認情報 | 登記の申請の代理を業とすることができる代理人(司法書士など)が、申請人が登記義務者であることを確認するための情報を提供し、登記官がその内容を相当と認めたとき | 同条4項1号 |
| 公証人の認証 | 申請情報(委任の場合は委任状)について、申請人が登記義務者であることを確認するための公証人の認証を受け、登記官がその内容を相当と認めたとき | 同条4項2号 |
法務局の記載例(遺言執行者ありの配偶者居住権設定)にも、申請書に「登記識別情報を提供することができない理由」として「不通知」「失効」「失念」などをチェックする欄があります。なお、「相続させる」遺言や相続人への遺贈の単独申請では、法務局の記載例の添付情報欄に登記識別情報は挙げられていません。
「相続させる」遺言と遺言執行者──民法1014条2項
遺産の分割の方法の指定として、特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言を「特定財産承継遺言」といいます(民法1014条2項)。いわゆる「相続させる」遺言がこれに当たります。特定財産承継遺言があったときは、遺言執行者は、その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます(同項)。ただし、遺言で別段の意思が示されていれば、それに従います(同条4項)。
前掲の法務省通達は、不動産を目的とする特定財産承継遺言がされた場合、遺言執行者は、遺言で別段の意思が示されているときを除き、単独で、法定代理人として、相続による権利の移転の登記を申請することができることとなる、としています。あわせて、相続人が自分で対抗要件を備えることは遺言の執行の妨害行為(民法1013条1項)に当たらないため、その相続人が単独で相続登記を申請できることは従前のとおりである、としています。
注意したいのは適用の時期です。通達は、この改正後の規定は、改正法の施行日(令和元年7月1日)より前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者による執行には適用しない(改正法附則8条2項)、としています。遺言執行者が「相続させる」遺言にもとづいて登記を申請しようとするときは、まず遺言書の作成日を確認する必要があります。
遺言書の記載と登記記録を照らし合わせる
遺言書は登記原因証明情報の中心になる書類です。不動産登記法25条は、登記官が申請を却下しなければならない場合として、申請情報の内容である不動産が登記記録と合致しないとき(6号)、登記義務者の氏名・住所が登記記録と合致しないとき(7号)、申請情報の内容が登記原因を証する情報の内容と合致しないとき(8号)などを挙げています。ただし、補正できる不備を、登記官が定めた相当の期間内に補正したときは、却下されません(同条ただし書)。
このため、申請書を書く前に、次の点を登記事項証明書と遺言書で照らし合わせておくのが安全です。
- 遺言書に書かれた不動産の所在・地番・家屋番号が、現在の登記記録と一致しているか(遺言を書いた後に分筆・合筆などがされていないか)
- 遺言書に書かれた持分と、申請書に書く持分が一致しているか(法務局の記載例は、持分は遺言書に記載されている持分と一致している必要があるとしています)
- 遺贈者の最後の住所・氏名が登記記録と一致しているか(違う場合は、本文で触れた住民票の除票の写しや戸籍の附票の写しなどでつながりを示します)
遺言書の記載だけでは対象の不動産がはっきりしない場合に、どう読むかは遺言の解釈の問題になります。相続人の間で読み方が分かれているときは、登記の手続きとは別の問題として、弁護士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第985条・第1004条・第1005条・第1010条・第1012条〜第1015条、および令和8年法律第45号による改正の公布日・施行時期(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第21条〜第23条・第25条・第60条・第62条・第63条・第76条の2・第164条・附則第7条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第7条・第16条・第18条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第47条〜第49条・第158条の39(令和8年法務省令第23号による改正後・2026年10月5日施行版を含む)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律 第9条・第11条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000073
- 登録免許税法 別表第一(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 租税特別措置法 第84条の2の2(令和8年法律第12号による改正前の第84条の2の3を含む)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 地方税法 第73条の7(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
- 法務局 記載例「所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)」(R8.10.5以降に申請する場合): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001470102.pdf
- 法務局 記載例「所有権移転登記申請書(相続・自筆証書遺言)」(R8.10.5以降に申請する場合): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001470106.pdf
- 法務局 記載例「所有権移転登記申請書(相続人に対する遺贈・単独申請)」(R8.10.5以降に申請する場合): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001470110.pdf
- 法務局 記載例「配偶者居住権設定(遺贈(遺言執行者あり))の場合」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001469923.pdf
- 法務局「登記申請手続のご案内(遺贈による所有権移転登記/相続人に対する遺贈編)」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001437206.pdf
- 法務局「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」(様式ページでのリンク名は「相続による所有権の移転の登記の申請に必要な書類とその入手先等」): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001393744.pdf
- 法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000017.html
- 法務省民事局長通達 令和元年6月27日付け法務省民二第68号「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」: https://www.moj.go.jp/content/001378574.pdf
- 法務省民事局長通達 令和8年9月4日付け法務省民二第872号「不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて」: https://www.moj.go.jp/content/001470076.pdf
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度 05 証明書について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/05.html
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度 09 手数料」: https://www.moj.go.jp/MINJI/09.html
- 東京法務局「遺言者が亡くなられた後に行う手続」: https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000001_00638.html
- 国税庁 タックスアンサー「No.7191 登録免許税の税額表」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm