この記事の要点

  • 家庭裁判所で相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、相続登記の申請書の相続人欄には書きません。
  • 申請書の添付情報欄に、相続放棄のための特別な項目はありません。2026年10月5日以降の様式どおり「登記原因証明情報 住所証明情報 国籍等を証する情報」と書き、放棄があったことを示す書面を、相続を証明する書類と一緒に添付します。
  • 放棄を示す書面として、法務局の案内が入手を求めているのは「相続放棄申述受理証明書」です。受理通知書で代えられるかを明示した法務局・法務省の公開資料は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。通知書で済ませたいときは、申請前に管轄の法務局へ確認してください。
  • 法定相続情報一覧図には、放棄した人も載ります。一覧図を使う場合でも、受理証明書は別に必要です。
  • 放棄によって次の順位の人が相続人になると、申請書に書く人も、集める戸籍も変わります。迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

相続人の中に、家庭裁判所で相続放棄をした人がいる場合の相続登記について、申請書の書き方に絞って説明します。相続放棄の手続きそのものは相続放棄の基本で、申請書の各欄の一般的な書き方(原因の日付、課税価格、不動産の表示など)は相続登記申請書の書き方で説明していますので、ここでは繰り返しません。

なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度と、法務局・法務省が公開している様式・案内に基づく一般的な解説です。

結論:放棄した人は「書かない」、放棄したことは「書面で示す」

相続放棄があるときの申請書のポイントは、次の二つです。

  1. 申請書には、放棄した人を相続人として書きません。 民法939条は、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定めています。登記の上でも、放棄した人は相続人ではない扱いになります。
  2. 放棄があったことは、添付書類で示します。 戸籍だけを見ると、放棄した人も相続人の一人に見えます。そこで、放棄したことを示す書面を添付し、「戸籍上は相続人にあたる人が、なぜ申請書に出てこないのか」を説明できるようにします。

ここでいう相続放棄は、家庭裁判所に申述して受理されたものです(民法938条)。他の相続人に「何もいらない」と伝えたり、遺産分割協議で何も受け取らないことにしたりしただけの場合は、法律上の相続放棄ではなく、その人は相続人のままです(詳しくは相続放棄の基本をご覧ください)。この場合、その人が不動産を取得しない形で登記をするには、その人も遺産分割協議の当事者として協議書に署名押印し、印鑑証明書を用意するのが一般的です(このほか、その人に相続分がないことを書面で示す方法がとられることもあり、どの方法によるかは事情によって異なります)。この記事は、家庭裁判所で放棄が受理された人がいる場合の話です。

申請書の書き方:放棄があっても変わらない欄、変わる欄

変わらない欄:登記の目的・原因

  • 登記の目的:「所有権移転」です。
  • 原因:「令和○年○月○日相続」で、日付は被相続人(亡くなった方)が亡くなった日です。

相続放棄があっても、相続が始まったのは被相続人が亡くなった時です。放棄が受理された日を原因の日付に書くわけではありません。後で説明するとおり、すでに法定相続分で登記がされた後に放棄があった場合は、放棄が受理された日を使う別の形の登記になりますが、それは登記記録上の名義が亡くなった方のままでない場合の話です。

変わる欄:相続人欄

相続人欄に書くのは、放棄した人を除いた相続人のうち、不動産を取得する人です。

ここでは、法務局の記載例にならい、「父が亡くなり、相続人は母・長男・長女の3人。このうち長女が家庭裁判所で相続放棄をした」という場面を想定します(氏名・住所などはすべて架空です)。

(1) 残った2人で、法定相続分どおりに登記する場合

放棄した長女は初めから相続人でなかったことになるので、相続人は母と長男の2人です。子と配偶者が相続人のときの相続分は各2分の1で(民法900条1号)、子が長男1人になるため、持分は母2分の1、長男2分の1になります。

登記の目的  所有権移転

原   因  令和8年2月10日相続

相 続 人  (被相続人 甲 野 太 郎)
(申請人)  ○○県○○市○○町二丁目3番4号
        持分2分の1 甲 野 花 子  印
        氏名ふりがな こうの はなこ
        生年月日 昭和○年○月○日
        国籍等 日本
        メールアドレス [email protected]
       ○○県○○市○○町五丁目6番7号
        持分2分の1 甲 野 一 郎

長女の名前は、どこにも出てきません。もし長女が放棄していなければ、持分は母2分の1、長男4分の1、長女4分の1になるところです(民法900条1号・4号)。放棄があると、持分の計算そのものが変わる点に注意してください。法定相続分どおりの登記の申請書の書き方(申請人の書き方、一人で全員分を申請できる理由など)は、法定相続分どおりに登記するときの申請書で説明しています。

(2) 残った2人の遺産分割協議で、長男が取得する場合

遺産分割協議は、共同相続人がするものです(民法907条1項)。放棄した長女は相続人ではないので、協議に加わりません。協議は母と長男の2人で行い、協議書に署名押印するのも、印鑑証明書を用意するのも、母と長男です。

申請書の相続人欄には、不動産を取得した長男だけを書きます。この形は、放棄がない場合の遺産分割の申請書と同じです(相続登記申請書の書き方の記載例をご覧ください)。違いは、協議書の当事者から長女が外れることと、次に説明する添付書類です。

放棄した人について書かない欄:氏名ふりがな・生年月日・国籍等・メールアドレス

2026年10月5日以降の様式では、相続人欄に「氏名ふりがな」「生年月日」「国籍等」「メールアドレス」を書きます。法務局の記載例では、これらを書くのは申請人である相続人で、申請人でない相続人は書かなくてよいとされています。放棄した人は相続人欄にそもそも出てこないので、これらの項目も書きません。

添付情報欄:放棄のための特別な項目はない

添付情報欄は、放棄がある場合も、2026年10月5日以降の様式のとおり次のように書きます。

添付情報
  登記原因証明情報 住所証明情報 国籍等を証する情報

「国籍等を証する情報」について、法務局の記載例は、日本国籍の相続人であれば、相続人であることが分かる戸籍の証明書で足り、重ねて提出する必要はないと説明しています。

法務局の様式には、相続放棄のための別の項目は設けられていません。放棄があったことを示す書面は、亡くなった方や相続人の戸籍の証明書などと一緒に、「登記原因証明情報」(登記の原因となった相続の内容を示す書類)の一部として添付する、と整理できます。

この整理の手がかりは次の二つです。

  • 不動産登記令の別表22の項は、相続による権利の移転の登記の添付情報として、「相続……を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報」と「その他の登記原因を証する情報」を挙げています。受理証明書は、家庭裁判所の裁判所書記官が作成する書面です。
  • 法務省民事局長の通達(令和5年3月28日付け法務省民二第538号)は、法定相続分で登記した後に放棄があった場合の登記(後で説明します)について、登記原因証明情報として「相続放棄申述受理証明書及び相続を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報」を挙げています。

通常の相続登記で受理証明書をどの区分に入れるかを、法務局の記載例が直接書いているわけではないため、ここは条文と通達からの読みです。

添付する書類:何を付けるか

放棄を示す書面は「相続放棄申述受理証明書」が基本

東京ブロック管内の法務局が公開している「相続登記ガイドブック」は、必要書類の確認のフローの中で、「相続放棄」をする人がいる場合、家庭裁判所に申し立てた後、裁判所書記官から「相続放棄申述受理証明書」を入手するよう案内しています。同じガイドブックの資料編に載っている受理証明書の見本には、事件番号、申述人の氏名、被相続人の氏名、本籍、申述を受理した日が書かれています(裁判所によってフォーマットは多少異なる、と注記されています)。

受け取ったら、被相続人の氏名と本籍が、登記をする相続の被相続人と一致しているかを確認しておきましょう。

受理証明書は、放棄した本人が申請するほか、利害関係を示した他の相続人なども申請できます。申請先、手数料、本人以外が申請するときの注意点は、相続放棄の受理通知書と受理証明書の違いで説明しています。放棄した人が複数いる場合は、その人数分の証明書が必要になる点も確認しておいてください。

受理通知書で代えられるか:管轄の法務局に確認する

相続放棄が受理されると、家庭裁判所から放棄した人に「相続放棄申述受理通知書」が届きます。手元にあるこの通知書を、受理証明書の代わりに添付できないか、と考える方もいるでしょう。

この点について、今回確認した法務局・法務省の公開資料は、次のとおりでした。

  • 東京ブロック管内の法務局の「相続登記ガイドブック」(概要編・Q&A編・資料編)は、入手する書面として受理証明書を挙げています。受理通知書についての記載は見当たりませんでした。
  • 前記の通達(法務省民二第538号)も、登記原因証明情報として挙げているのは受理証明書です。
  • 法務局の相続登記の申請書の記載例(遺産分割・法定相続)には、相続放棄についての記載がありませんでした。

つまり、受理通知書で足りるかどうかを明示した公開資料は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。法務局の案内どおり受理証明書を用意するのが確実です。どうしても通知書で済ませたい事情があるときは、申請前に、不動産の所在地を管轄する法務局に確認してください。

放棄した人の戸籍は、場合によって不要

相続人の戸籍は、原則として相続人全員の分が必要です。東京ブロック管内の法務局のQ&A(Q60)は、遺産分割で不動産を相続しない子についても、遺産分割が正当にされているかを判断するため、法定相続人全員の戸籍謄本が必要だとしています。

一方、放棄した人については、同じQ&A(Q61)が、被相続人の除籍謄本と相続放棄申述受理証明書でその人が相続人であることが分かる場合は、その人の戸籍の謄抄本は不要だとしています。分からない場合は、放棄した人の戸籍も必要になると考えられますので、手元の書類で足りるかは管轄の法務局で確認してください。

法定相続情報一覧図を使う場合も、受理証明書は別に必要

戸籍の束の代わりに使える法定相続情報一覧図の写しには、放棄した人も載ります。法務局は、相続放棄や遺産分割協議の結果によって実際には相続人とならない人がいる場合も、一覧図にはその人の氏名等が記載されると説明しています。一覧図の写しの見本にも、「相続放棄に関しては、本書面に記載されない」という注記があります。

そのため、法務局は、遺産分割や相続放棄を伴う場合などでは、別途これらの事項を証する書面の添付等が必要となることがある、と案内しています(「法定相続情報番号の提供による相続登記等における法定相続情報一覧図の写しの添付省略について」)。一覧図を使う場合も、受理証明書は別に用意してください。一覧図の制度は法定相続情報証明制度をやさしく解説で説明しています。

必要書類のまとめ(長女が放棄した例)

書類 (1) 法定相続分どおり (2) 遺産分割協議で長男が取得
父の出生から死亡までの戸籍・除籍 要 要
相続人の戸籍 母・長男(長女の分は上記Q61の場合は不要) 同左
長女の相続放棄申述受理証明書 要 要
遺産分割協議書 不要 要(母と長男で作成)
印鑑証明書 不要 要(母・長男の分。誰の分まで要るかの資料による書き方の違いは申請書の書き方参照)
住民票の写し 母・長男 長男

このほかに必要になる書類(固定資産課税明細書など)は、相続登記の添付書類チェックリストをご覧ください。法務局の資料にも「上記以外にも必要な書類がある場合があります」と書かれており、この表は一般的な例です。

放棄で次の順位の人に相続が移る場合

申請書に書く人が入れ替わる

子が全員相続放棄をすると、子はいなかったことになり、相続人の順位が繰り下がります。民法889条1項は、子(とその代襲者)として相続人となるべき者がない場合に、①直系尊属(父母・祖父母など)、②兄弟姉妹の順で相続人になると定めています。配偶者は、これらの人と並んで相続人になります。

たとえば、父が亡くなり、母は放棄せず、子である長男と長女の2人がともに放棄した場合で、父の直系尊属(父の両親や、その上の祖父母など)が全員すでに亡くなっているときは、相続人は母と、父の兄弟姉妹になります。法定相続分は、配偶者4分の3、兄弟姉妹が合わせて4分の1です(民法900条3号)。申請書の相続人欄に書く人の顔ぶれが、まったく変わることになります。

放棄した人の子は、代わりに相続人にならない

子が親より先に亡くなっていた場合などは、その子の子(孫)が代わりに相続人になります(代襲相続)。しかし、民法887条2項が代襲相続の原因として挙げているのは、相続の開始以前の死亡、相続欠格(891条)、廃除で、相続放棄は挙がっていません。そのため、放棄した子の子が、代わりに相続人になることはありません。代襲相続のしくみは代襲相続の解説をご覧ください。

集める戸籍と受理証明書が増える

次の順位の人が相続人になると、その人たちが相続人であることを戸籍で示す必要があります。兄弟姉妹が相続人になる場合は、父母の戸籍まで集めることになり、手間が大きく増えます(兄弟姉妹が相続人になるときをご覧ください)。

あわせて、先の順位で放棄した人それぞれの受理証明書を用意することになります。戸籍だけでは、放棄した先の順位の人も相続人にあたるように見えます。放棄した人それぞれについて放棄を書面で示さなければ、先の順位に相続人がいないこと、つまり次の順位の人が相続人であることを示せないためです(この理由づけは、民法889条1項と939条の仕組みからの推論です)。

全員が放棄して、相続人がいなくなった場合

相続人となる人が全員放棄すると、相続人がいない状態になることがあります。東京ブロック管内の法務局のQ&A(Q18)も、相続人の存在・不存在が明らかでない場合の例として、「法定相続人全員が相続放棄した場合」を挙げています。この場合、相続財産は法人となり(民法951条)、家庭裁判所が選任する相続財産の清算人が管理や清算をします(民法952条1項。2023年4月に施行された改正の前は「相続財産の管理人」と定められており、法務局のQ&Aも「相続財産管理人」の名称で説明しています)。相続登記を申請する相続人がいなくなるため、この記事で説明した申請書の書き方は当てはまりません。制度の概要は相続人がいない場合、財産はどうなる?で説明しています。

放棄の時期によって、登記の形が変わる場面

すでに法定相続分で登記がされた後に放棄が受理された場合

法定相続分での相続登記は、相続人の一人から全員分を申請できるため、ある相続人が放棄の手続きをしている間に、その人も含めた共有名義の登記がされてしまうことがあります。

この場合について、前記の通達(法務省民二第538号)は、法定相続分での相続登記がされている場合に、他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記をするときは、所有権の更正の登記によることができ、登記権利者が単独で申請できるとしています(令和5年4月1日以後の申請から)。同通達によると、次の点が、この記事の前半で説明した申請書と異なります。

  • 登記の形:もとの相続登記に付記する「所有権更正」の登記です。
  • 原因とその日付:「年月日相続放棄」とし、日付は相続の放棄の申述が受理された日です。
  • 登記原因証明情報:相続放棄申述受理証明書と、相続を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(戸籍の証明書など)です。
  • 第三者の承諾:登記上の利害関係を有する第三者がいる場合は、その承諾がなければ申請できないことなどは従前のとおりとされています。

どちらの形になるかは、申請する時点の登記記録で決まります。申請書を書き始める前に、登記事項証明書の権利部(甲区)で、所有者がまだ亡くなった方の名義のままかを確認してください。

相続が重なっていて、途中の相続で放棄があった場合

祖父が亡くなり、その登記をしないうちに父も亡くなった、というように相続が重なっている場合(数次相続)について、東京ブロック管内の法務局のQ&A(Q28)は、最初の相続が単独相続である場合(遺産分割、相続放棄または他の相続人に相続分のないことによる単独相続を含む)に限り、登記原因とその日付を連記したうえで、登記名義人から最終の相続人名義に直接相続登記を申請できる、としています。途中の相続で放棄があったことで相続人が一人になった場合は、この形をとれる可能性があります。数次相続の注意点は数次相続の落とし穴をご覧ください。

なお、放棄が有効かどうかや、3か月の期限を過ぎていたかどうかについて争いがあるときは、登記の前に、その争いを解決する必要があります。争いがある場合は弁護士にご相談ください。

まとめ

  • 家庭裁判所で相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされるため、申請書の相続人欄には書きません。法定相続分どおりに登記するときは、残った相続人で持分を計算し直します。
  • 遺産分割協議をするときは、放棄した人は協議に加わりません。協議書の署名押印と印鑑証明書は、残った相続人の分を用意します。
  • 添付情報欄は、2026年10月5日以降の様式どおり「登記原因証明情報 住所証明情報 国籍等を証する情報」と書きます。放棄を示す書面は、戸籍の証明書などと一緒に添付します。
  • 放棄を示す書面は、法務局の案内どおり相続放棄申述受理証明書を用意するのが確実です。受理通知書で代えたいときは、申請前に管轄の法務局に確認してください。法定相続情報一覧図を使う場合も、受理証明書は別に必要です。
  • 放棄によって次の順位の人が相続人になる場合や、すでに法定相続分で登記がされた後に放棄が受理された場合は、申請書の書き方そのものが変わります。

誰が相続人になるのか、どの形の登記で申請するのかで迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 相続放棄した人がいる相続登記は、費用が増えますか?

相続による所有権移転の登記の登録免許税は、放棄の有無にかかわらず、課税価格(固定資産課税台帳の価格)の1000分の4です(法務局「登録免許税の計算」)。放棄がある場合は、これに加えて、放棄した人ごとの受理証明書の手数料と、郵送で取り寄せる場合の郵便料金がかかります。次の順位の人が相続人になる場合は、集める戸籍が増える分、取得手数料も増えます。司法書士に依頼する場合は別に報酬がかかり、金額は事務所ごとに異なります。

Q. 放棄の手続きを待っている間に、相続登記の期限が過ぎてしまいませんか?

相続登記の申請義務は、相続で不動産の所有権を取得した人が、自分のために相続が始まったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請するものです(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由がないのに怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)。放棄によって新たに相続人になった次の順位の人についても、条文の文言に沿えば、自分のために相続が始まったこと(先の順位の人の放棄で自分が相続人になったこと)を知り、かつ不動産を取得したことを知った日が基準になると読めます(この部分は条文の文言からの読みです)。いつから数えるかは事情によって変わるため、早めに状況を整理しておきましょう。

Q. 自分で申請できますか? どこに相談すればいいですか?

法務局は様式と記載例を公開しており、ご自身で申請することもできます。ただし、記載例は相続放棄がない場面のものなので、放棄がある場合の書類の組み立て(誰が相続人になるか、受理証明書を何通用意するか)は、ご自身で整理する必要があります。書類の取扱いは管轄の法務局に確認してください。次の順位の人が相続人になる場合や、すでに登記がされている場合など、判断に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】法定相続分の登記の後に放棄があったときの所有権更正登記の組み立て

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、法定相続分で相続登記がされた後に相続放棄が受理された場合は「所有権更正」の登記になることを紹介しました。ここでは、その申請を組み立てるときに押さえておきたい点を、法務省民事局長の通達(令和5年3月28日付け法務省民二第538号。以下「538号通達」)の第3の1と、不動産登記法・不動産登記令の条文に沿って整理します。

対象になるのは「法定相続分での相続登記」がされている場合

538号通達が対象にしているのは、「民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされた相続による所有権の移転の登記」がされている場合です(第3の1(1))。遺産分割の結果に基づく登記など、法定相続分と異なる持分で登記がされている場合は、この取扱いの対象として書かれていません。

また、本文は、法定相続分の登記がされた後に放棄が受理された場面を想定しています。放棄の受理のほうが先だったのに、放棄した人も含めて法定相続分で登記をしてしまった場合にも同じ取扱いになるかは、通達の文言からは読み取れませんでした。この場合は、申請前に管轄の法務局に確認してください。

誰が申請するか:持分が増える相続人が単独で

538号通達は、この更正の登記について「登記権利者が単独で申請することができる」としています。不動産登記法の定義では、登記権利者は「権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者」(2条12号)、登記義務者は「権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人」(2条13号)です。

本文の例で、いったん母2分の1・長男4分の1・長女4分の1で登記した後に長女の放棄が受理された場合にあてはめると、持分が4分の1から2分の1に増える長男が登記権利者、持分がなくなる長女が登記義務者にあたると読めます(この当てはめは、2条12号・13号の定義からの読みです)。母の持分は2分の1のままです。538号通達の別紙2の記録例も、更正前の「甲某持分2分の1・乙某4分の1・丙某4分の1」を、付記登記で「甲某持分2分の1・乙某2分の1」とする形になっています。

単独申請であれば、放棄した長女が申請人に加わる必要はありません。538号通達が登記原因証明情報として挙げているのも、相続放棄申述受理証明書と、相続を証する公務員作成の情報(戸籍の証明書など)で、長女が作成する書面は含まれていません。

申請情報と添付情報で押さえる点

  • 更正後の登記事項:不動産登記令の別表25の項は、更正の登記の申請情報として「更正後の登記事項」を挙げています。この例では、更正後の共有者とその持分(母2分の1・長男2分の1)を示すことになります。
  • 登記原因証明情報:相続放棄申述受理証明書と、相続を証する公務員作成の情報です(538号通達第3の1(3)イ)。
  • 第三者の承諾を証する情報:次に説明する「登記上の利害関係を有する第三者」がいる場合に必要になります。

登記上の利害関係を有する第三者がいる場合

538号通達は、この所有権の更正の登記について、「登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾がなければ申請することができないことなどは、従前のとおりである」とし、根拠として不動産登記法66条と68条などを挙げています(第3の1(6))。

  • 66条:更正の登記は、登記上の利害関係を有する第三者の承諾がある場合と、その第三者がいない場合に限り、付記登記ですることができる。
  • 68条:権利に関する登記の抹消は、登記上の利害関係を有する第三者がいる場合には、その承諾があるときに限り申請することができる。

通達が66条とあわせて抹消についての68条を挙げているのは、この更正が、放棄した人の持分を登記記録から消す点で抹消に近い性質を持つためと考えられます(この理由づけは推論です)。

承諾があることは、その第三者が作成した承諾を証する情報か、その第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報で示します(不動産登記令別表25の項の添付情報欄ロ)。承諾を書面で出すときは、作成者の記名押印と印鑑証明書の添付が必要です(同令19条1項・2項。官庁・公署が作成する場合など、法務省令で定める例外があります)。

どのような人が「登記上の利害関係を有する第三者」にあたるかを、538号通達は具体的に挙げていません。たとえば、長女の持分について差押えや抵当権設定などの登記がされている場合が考えられます(この例示は推論です)。申請の前に、登記事項証明書の甲区・乙区で、放棄した人の持分を目的とする登記がないかを確認しておくことが大切です。承諾が得られない場合は、債権者などとの関係によって対応が変わり、登記手続の範囲を超えることがあります。その場合は弁護士にご相談ください。

放棄した人への通知は、この取扱いの対象外

538号通達は、登記権利者が単独で申請する所有権の更正の登記のうち、特定財産承継遺言(特定の財産を相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言)による場合と、相続人に対する遺贈による場合について、登記官が登記義務者に申請があった旨を通知するとしています(第3の1(4)、不動産登記規則183条4項)。相続放棄による更正は、この通知の対象に挙がっていません。登記義務者にあたる放棄した人に、この規定による通知は届かないということです。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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