「父より先に兄が亡くなっていた。兄の子(つまり私の甥)は、父の遺産を相続できるのか?」「兄弟姉妹だけが相続人だったが、その兄弟姉妹も先に亡くなっていた。甥や姪は相続できる?その子(甥の子)は?」

家族の年齢構成や順番によって、相続は「飛び越え」が起こります。これを**代襲相続(だいしゅうそうぞく)**と呼びます。読み方も書き方もやや堅いですが、いざ相続が発生すると一気に身近な制度になります。

ところが、代襲相続は誤解されやすい制度でもあります。「子が放棄したら孫が代わりに相続するんでしょ?」と思っている方が少なくありませんが、これは誤りです。代襲が起こる原因は限られていますし、兄弟姉妹側の代襲には独自のルールもあります。

この記事では、代襲相続の基本ルール、代襲が起こる原因、どこまで遡るか、相続分と遺留分、遺産分割協議での扱いを、一般の方向けに整理します。

代襲相続とは──「世代を飛び越える」しくみ

代襲相続とは、本来相続人になるはずだった人が、一定の事情で相続権を失っているとき、その人の**子(または孫)**が代わりに相続人となる制度です。

イメージしやすい例で説明します。

  • 祖父Aが亡くなった。
  • 本来、Aの子Bが相続するはずだった。
  • ところがBはAより先に亡くなっていた。
  • Bには子C(Aから見ると孫)がいる。
  • このときCがBの代わりにAを相続する──これが代襲相続です。

民法887条2項に「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、もしくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる」と定められています。

代襲相続が起こる「3つの原因」

代襲相続は、いつでも起こるわけではありません。次の3つの原因のいずれかに該当したときに限られます(民法887条2項)。

  1. 死亡──本来の相続人が被相続人より先に亡くなっている
  2. 相続欠格──民法891条の欠格事由(被相続人や他の相続人を殺害した、遺言書を偽造・破棄したなど)に該当して相続権を失った
  3. 相続廃除──被相続人が家庭裁判所に申し立てて廃除された(民法892条・893条)

ここで重要な点が一つあります。

「相続放棄」は代襲原因ではない

「子が相続放棄をすれば孫が代わりに相続する」と思っている方が非常に多いのですが、これは誤解です。

民法939条は「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定めています。つまり、放棄をした人は最初から相続人ではなかった扱いになり、「相続権を失った」状態にはあたりません。したがって、その子は代襲しません。

たとえば、父Aの相続で、長男Bが相続放棄をしたとします。このとき、Bの子(Aの孫)が代わりに相続することはありません。Aの相続人は、Bを除いた他の相続人(次男や配偶者など)が確定するだけです。

このルールを誤解したまま「子が放棄すれば孫に行く」と動いてしまうと、相続人の範囲を間違え、後の遺産分割協議や登記でつまずきます。代襲原因に相続放棄は含まれない──ここは強く意識しておきたい点です。

なお、相続欠格・相続廃除そのものについては、別の記事で詳しく解説していますので、必要に応じてあわせてご覧ください。

どこまで遡るか──「再代襲」と「兄弟姉妹の代襲一代限り」

代襲相続は、相続人の系統によって「どこまで遡るか」が変わります。ここが代襲相続の理解で最もつまずきやすいところです。

直系卑属(子・孫・ひ孫)の場合──再代襲あり

被相続人の子の系統では、再代襲が認められています。

民法887条3項は「前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、もしくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する」と定めています。

つまり、

  • 子が先に亡くなる → 孫が代襲
  • 孫も先に亡くなる → ひ孫が代襲(再代襲)
  • ひ孫も先に亡くなる → 玄孫が代襲(再々代襲)

このように、直系卑属(子の子の子……)が生きていれば、世代を超えて代襲は続いていきます。

兄弟姉妹の場合──代襲は「一代限り」

ところが、兄弟姉妹の代襲はルールが違います。

民法889条2項は「第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する」と定めていますが、ここで準用されているのは887条2項のみで、3項(再代襲)は準用されていません

これが何を意味するかというと、

  • 被相続人の兄弟姉妹が先に亡くなる → その子(被相続人から見て甥・姪)が代襲
  • 甥・姪も先に亡くなる → その子(甥の子・姪の子)は代襲しない

つまり、兄弟姉妹側の代襲は甥・姪までの一代限りです。

子のいない方が亡くなり、両親もすでに他界、兄弟姉妹も全員亡くなっている、というケースで「甥や姪はいる」「甥や姪の子もいる」という場合、相続人になるのは甥・姪までで止まることになります。これを知らずに「甥の子も呼ばないと協議できない」と思い込んで動くと、無用な手間がかかります。

整理

被相続人との関係 代襲できる範囲
子の系統(直系卑属) 孫、ひ孫、玄孫……(再代襲あり)
兄弟姉妹の系統 甥・姪まで(再代襲なし)

代襲相続人の「相続分」

代襲相続人は、本来の相続人(被代襲者)が受けるはずだった相続分を、そのまま引き継ぎます。これを定めているのが民法901条1項です。

代襲相続人が複数いるときは、被代襲者の相続分を頭数で按分します。

たとえば、父Aの相続で、本来の相続人が長男B・次男Cの2人だったが、長男Bが先に亡くなっていて、Bには子D・Eの2人がいたとします。

  • Bの本来の相続分:2分の1
  • D・Eはこれを2人で分ける
  • D・E各自の相続分:4分の1ずつ

このように、世代をまたいで按分されるのが代襲相続の特徴です。

代襲相続人と「遺留分」

遺留分は、相続人に最低限保障される取り分です(民法1042条)。代襲相続人がこの遺留分を持つかどうかは、もとの相続人の地位によって変わります。

直系卑属の代襲相続人──遺留分あり

被相続人の子の代襲相続人(孫・ひ孫など)は、もとの相続人である「直系卑属」と同じ立場で扱われます。したがって遺留分があります

たとえば、被相続人が「全財産を第三者に遺贈する」という遺言を残していた場合でも、代襲相続人である孫は、本来の相続分の半分(直系卑属が相続人のときは2分の1。民法1042条1項2号)を遺留分として確保できます。

兄弟姉妹の代襲相続人(甥・姪)──遺留分なし

一方、兄弟姉妹はもともと遺留分を持ちません(民法1042条1項柱書がかっこ書で「兄弟姉妹を除く」と明記しています)。代襲相続人である甥・姪も、もとの兄弟姉妹の地位を引き継ぐので、遺留分はありません

このため、子がおらず兄弟姉妹(および甥・姪)が相続人になるようなケースで、被相続人が「全財産を配偶者に」という遺言を残していると、甥・姪は遺留分による取り戻しを請求できないことになります。遺言の自由度がかなり大きいケースといえます。

養子の子は代襲できる?──「養子縁組の時期」がカギ

代襲相続で意外と論点になるのが、養子の子の扱いです。

民法887条2項にはただし書があり、「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない」とされています。これは何を言っているのでしょうか。

ポイントは、養子と被相続人との血族関係は、養子縁組の時から始まる(民法727条)ということです。養子縁組より前に生まれていた養子の子は、被相続人とは血族関係に立ちません。したがって、被相続人の直系卑属とはいえず、代襲もできない、ということになります。

具体的には次のとおりです。

  • 被相続人Aが、Bを養子にした。
  • 養子縁組のにBにすでに子Cが生まれていた → CはAの直系卑属にあたらず、Bの代襲相続人にならない
  • 養子縁組のにBに子Dが生まれた → DはAの直系卑属にあたり、Bの代襲相続人になる

戸籍を読み解いていくときに、「養子の子」が出てきたら、その子の出生日と養子縁組の日付の前後関係を必ず確認する必要があります。ここを間違えると、相続人の範囲そのものが狂ってしまいます。

遺産分割協議にどう参加するか

相続人として確定した代襲相続人は、当然ながら遺産分割協議に参加する権利を持ちます。代襲相続人を除いたまま行った遺産分割協議は、原則として無効です(相続人全員の合意が要件のため)。

代襲相続人を含めた相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍はもちろん、先に亡くなった本来の相続人(被代襲者)の出生から死亡までの戸籍もそろえる必要があります。代襲相続が絡む相続は、戸籍の収集量が一気に増える──これも代襲相続の実務上の特徴です。

また、代襲相続人が未成年であるケースもよくあります。たとえば、子Bが先に亡くなり、Bの子Cがまだ未成年で代襲相続人になっているとき、Cの法定代理人(多くは親)も同じ相続の相続人だと、利益相反となり、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります(民法826条)。

代襲相続人を含めて誰が相続人になるかを正確に確定し、必要な手続きを踏むこと──ここが代襲相続が絡む遺産分割の核心です。

相続登記の申請義務と代襲相続人

令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました(不動産登記法76条の2第1項)。相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」から3年以内に、相続を原因とする所有権移転の登記を申請しなければなりません。正当な理由なくこれを怠ると、10万円以下の過料の対象となります(不動産登記法164条1項)。

この義務は、代襲相続人にも当然に適用されます。代襲相続人は法律上「相続により所有権を取得した者」にあたるためです。

注意すべきは、起算点です。代襲相続人の場合、被相続人の死亡時点ではなく、「自分が代襲相続人となり、特定の不動産の所有権を取得したことを知った日」が起算点になります。被相続人とふだん交流がなく、戸籍をたどってはじめて自分が代襲相続人だと知るケースもあるため、起算点を客観的に確定すること自体が論点になります。

また、令和6年4月1日より前に発生していた相続についても、義務化の対象です。経過措置として、施行日(令和6年4月1日)と「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」のいずれか遅い日から3年以内に登記をする必要があります(不動産登記法附則)。何十年も前の相続で名義変更がされていない不動産にも影響しますので、過去にさかのぼった対応が必要なケースが少なくありません。

3年以内に遺産分割協議がまとまらない見通しの場合、暫定的な対応として相続人申告登記(不動産登記法76条の3)を活用する方法もあります。これは「自分が相続人の一人である」ことを単独で申し出ることで、相続登記の申請義務を一旦履行したものとみなす制度です。代襲相続人も、自分が相続人として確定していれば、単独で相続人申告登記をすることができます。最終的な遺産分割協議の結果が出た後で、改めて本来の相続登記をすればよい、という二段構えの運用が可能です。

なお、相続登記の登録免許税については、土地の価額が100万円以下のときの免税措置(租税特別措置法84条の2の2)が令和9年3月31日まで延長されています。代襲相続による相続登記も対象となりますので、過去にさかのぼった登記でこの特例が使えるかどうか、登記前に確認しておくとよいでしょう。

まとめ──代襲相続のチェックポイント

最後に、代襲相続で確認しておきたいポイントを整理します。

  • 代襲が起こる原因は、死亡・欠格・廃除の3つだけ。相続放棄は代襲原因ではない
  • 直系卑属(子の系統)は再代襲あり。孫・ひ孫・玄孫まで続く
  • 兄弟姉妹の系統は代襲一代限り。甥・姪まで(甥の子・姪の子は代襲しない)
  • 代襲相続人の相続分は、被代襲者の相続分を頭数で按分
  • 直系卑属の代襲相続人には遺留分あり、兄弟姉妹の代襲相続人(甥・姪)には遺留分なし
  • 養子の子は、養子縁組の時期によって代襲権の有無が分かれる
  • 代襲相続人を含めた相続人の確定には、被代襲者の出生から死亡までの戸籍も必要
  • 代襲相続人にも相続登記の申請義務(令和6年4月1日施行・3年以内)が課される。協議が長引くときは相続人申告登記で暫定対応も可能

「代襲が起きているらしい」と気づいた時点で、戸籍の取り寄せや相続人の範囲確定は専門家の手を借りるのが安全です。相続人の範囲を間違えたまま遺産分割を進めてしまうと、後から協議のやり直し・登記の更正などの手戻りが発生します。

代襲相続が絡む相続でお困りのときは、お近くの司法書士にご相談ください。代襲相続人の地位そのものを争うような紛争性のあるご事情がある場合は弁護士に、相続税の試算や2割加算の有無などの税務上のご不安は税理士に、それぞれご相談ください。


【さらに深掘り】代襲相続と家族設計の論点

ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

代襲相続は、相続発生時に「気がつくと巻き込まれている」制度ですが、生前の家族設計の局面でも、見落とせない論点を含んでいます。ここでは代襲相続を踏まえた遺言・信託・養子縁組・債務承継などの論点を整理します。

「孫に遺贈する」と「代襲相続にまかせる」の違い

子がすでに亡くなっていて、その子(孫)に財産を残したい、と希望される方は少なくありません。このとき選択肢が2つあります。

  1. 代襲相続のしくみにそのままゆだねる
  2. 遺言で「孫に遺贈する」と明記する

両者は最終的な帰結が似ているように見えますが、性質はまったく違います。

代襲相続は法律によるみなしの承継であり、孫は「相続人」として被相続人を相続します。一方、遺言による遺贈は個別の処分行為であり、受遺者は「相続人ではあるが、遺贈という形でその財産を受け取る」立場になります。

差が出やすいのが、不動産の登記費用です。相続による所有権移転登記の登録免許税は不動産価格の0.4%(登録免許税法別表第一第1号(2)イ)であるのに対し、相続人以外への遺贈は2.0%が原則です(同号(2)ハ)。登録免許税法別表第一第1号(2)イは「相続(相続人に対する遺贈を含む。)」と定めており、代襲相続人である孫はもともと法定相続人ですので、その孫に対する遺贈であれば、相続人に対する遺贈として0.4%が適用されます。ただし、孫が代襲相続人でないケース(被代襲者が生存している、養子縁組前の養子の子で代襲権なしなど)では、相続人に該当せず2.0%が適用されますので、適用の前提を取り違えないことが重要です。

代襲相続にまかせる方法は、シンプルですが他の相続人との関係次第で取り分が想定どおりにならない可能性があります。「特定の財産を必ずこの孫に」という意向が強い場合は、遺言で明示しておく方が安全です。

予備的遺贈──「受遺者が先に亡くなった場合」を遺言で備える

子に財産を残す遺言を作っていたところ、その子が遺言者より先に亡くなってしまった、というケースは決して珍しくありません。民法994条1項は「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定めています。

ここでよくある誤解が、「子が先に亡くなれば、その子の取り分は自動的に孫に行く(代襲のように)」というものです。これは誤りです。受遺者が遺言者より先に亡くなった場合、その遺贈は失効します。代襲相続の規定は、法定相続の場面のルールであり、遺贈には及びません(最高裁平成23年2月22日判決・民集65巻2号699頁も、原則として代襲相続を遺贈に類推適用しない立場を明らかにしています)。

これを避けるために有効なのが、予備的遺贈(補充遺贈)という遺言の書き方です。たとえば次のように書きます。

第〇条 遺言者は、長男Bに別紙不動産を遺贈する。 第〇条 もし長男Bが遺言者の死亡以前に死亡していたときは、前条の不動産を長男Bの子Cに遺贈する。

このように、第一順位の受遺者が先に死亡した場合に備えて第二順位を定めておけば、遺贈の失効を避けられます。高齢の方が高齢の方に遺贈する場合や、世代を超えた承継を考える場合には、予備的遺贈の条項を入れておくのが安全です。

代襲相続人を含む遺産分割の難しさ

代襲相続が発生すると、遺産分割協議の現場には世代差のある相続人が同席することになります。たとえば、被相続人の配偶者(80代)、長男・長女(50代)、亡くなった次男の代襲相続人である孫(20代)といった構図です。

世代差は、単に年齢の問題ではなく、情報量の差につながります。被相続人と日常的に関わっていた相続人と、ほとんど会ったことがない代襲相続人とでは、財産の全容や、生前の援助、お墓・仏壇の引き継ぎについての理解度がまったく違います。

このため、代襲相続人を含む遺産分割では、

  • 財産目録を早めに整える
  • 生前贈与(特別受益)について事実関係を整理する
  • 連絡を取りにくい代襲相続人がいる場合は、戸籍の附票で住所を辿る

といった準備が、合意形成の成否を分けます。代襲相続人だけ「印鑑をください」と最後にお願いされて納得できず、協議が長引くケースは少なくありません。準備段階から代襲相続人を協議の対等な当事者として位置づけることが、円満解決の前提になります。

民事信託(家族信託)で世代を超えた承継を設計する

代襲相続そのものは「結果として誰が相続人になるか」を決めるルールにすぎません。実際にどの財産を誰に渡したいか、いつ渡したいかをコントロールするには、遺言や信託といった生前の設計が必要になります。

民事信託は、「いったん受託者に財産を託し、長期にわたって受益者に利益を渡していく」しくみです。代襲相続の場面で特に活用しやすいのが受益者連続型信託(信託法91条)です。

たとえば、

  • 第一次受益者:高齢の配偶者
  • 第二次受益者:配偶者の死亡後は子A
  • 第三次受益者:子Aの死亡後は孫C(先に亡くなった次男の子)

というように、世代を超えた受益者の連続を設計できます。これは遺言だけでは(後継ぎ遺贈の効力に争いがあるため)実現が難しく、信託でしか安定的に設計しにくい承継です。

ただし、信託法91条には期間制限があります。信託設定時から30年経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡した時、または当該受益権が消滅した時に終了する、という規律です。つまり「永遠に世代承継できる」わけではありません。

また、受益者連続型信託では遺留分との関係が常に論点になります。受益権の評価方法、遺留分侵害額請求の対象範囲、信託設定行為の評価をめぐる議論は依然として動いており、遺留分を持つ相続人がいる場面では、設計時に丁寧な検討が必要です。「信託にしたから遺留分は飛ばせる」というのは誤った理解であり、安易に提案できません。

代襲相続を前提にして信託を組むなら、まず「誰に・どの財産を・どの順で・いつまで渡すか」を整理し、その上で信託・遺言・贈与の組み合わせを選びます。設計の選択肢は信託だけではありません。

孫を養子にしたケース──代襲相続との交錯

代襲相続にまつわる家族設計でよく持ち上がるのが、孫を養子にする選択肢です。孫を養子にすると、その孫は被相続人の「子」となり、第一順位の法定相続人になります。

ここで論点になるのが、すでに被代襲者(孫の親)が亡くなっているケースです。たとえば、

  • 祖父Aには、長男B(既に死亡)と次男Cがいる
  • 長男Bには子D(孫)がいる
  • AがDを養子にした

このとき、Dは「Aの子(養子)」としての地位と「Bの代襲相続人」としての地位の両方を持つことになります。登記実務および通説的な整理として、二重身分のある相続人については、それぞれの身分に応じた相続分を取得することが認められており、Dは養子としての相続分と、Bの代襲相続人としての相続分の両方を取得できる、というのが現在の取扱いです。

ただし、相続税の世界では別の規律が働きます。孫を養子にした場合、相続税の2割加算の対象になります(相続税法18条1項・2項)。一方で、代襲相続人としての孫は2割加算の対象外です。この税務上の差異は、設計段階で必ず税理士に確認すべきポイントです。

孫を養子にするかどうかは、相続税の節税効果だけで判断せず、家族関係への影響(他の子の心情、その他の孫との公平感)を含めて考える必要があります。

被代襲者の負債は代襲相続人にどう影響するか

「先に亡くなった親(被代襲者)に借金があった。代襲で祖父の相続が発生したとき、その借金は孫に降りかかるのか」というご質問もよくあります。

整理すると、

  • 被代襲者(先に亡くなった親)の借金は、被代襲者の相続のときに、その相続人(つまり孫など)が承継するか・放棄するかの問題として処理されます。これは祖父の相続とは別の話です。
  • 祖父(被相続人)の借金は、代襲相続によって孫が承継します。孫が祖父の相続を放棄すれば、祖父の借金は承継しません(民法939条)。

両者は別の相続なので、どちらの債務を承継しているかを正確に分けて考えることが必要です。被代襲者の相続のときにすでに相続放棄をしているなら、被代襲者の借金は承継していません。その上で、祖父の相続を承認するか放棄するかは、改めて検討する余地があります。

なお、代襲相続人として被相続人を相続する場合の熟慮期間(民法915条1項の3か月)も、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算します。被相続人とふだん交流がなく、財産が全くないと信じる相当の理由があった場合などには、起算点の繰下げが認められる余地があります(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。代襲相続人として相続放棄を検討する局面では、起算点の認識を取り違えないことが大切です。

同時死亡の推定があるとき──代襲は起こるのか

事故などで親子が同じ事故で亡くなり、どちらが先に亡くなったか分からない、という場合、民法32条の2は「同時に死亡したものと推定する」と定めています。

同時死亡と推定されたとき、両者の間には相続は起こりません(同時死亡者間は相互に相続しない、というのが通説)。しかし、代襲相続は別の話です。民法887条2項は「相続の開始以前に死亡したとき」と書いており、同時死亡もこの「以前」に含まれるのが通説的整理です。

したがって、たとえば父Aと長男Bが同じ事故で亡くなった場合、A・B間では相続は起こりませんが、Bに子Cがいれば、CはAを代襲相続します。子と親が同じ事故で同時に亡くなったケースでは、代襲相続人である孫の存在を見落とさないようにすることが大切です。


代襲相続は、一見シンプルなしくみに見えて、養子縁組・遺贈・信託・債務承継・同時死亡といった隣接論点と絡み合うと一気に複雑になります。「代襲が起こるかもしれない家系図」を意識した家族設計こそが、後の手戻りを防ぎます。具体的な設計の検討に入るときは、お近くの司法書士にご相談のうえ、必要に応じて税務は税理士、紛争性のある事情は弁護士へ橋渡しをすることをお勧めします。


【さらに深掘り】代襲相続と税務の論点

ご注意 以下は執筆時点(2026年5月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの税理士にご相談ください。

代襲相続が発生する相続では、相続税の計算に影響する論点がいくつも絡みます。「孫が相続人になったら2割加算でしょう?」というご質問をよく受けますが、これは半分正解で、半分は誤解です。整理していきましょう。

基礎控除・非課税枠は「法定相続人の数」で決まる

相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます(相続税法15条1項)。生命保険金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」(相続税法12条1項5号)、死亡退職金の非課税枠も同様に「500万円×法定相続人の数」です(同項6号)。

ここでいう法定相続人の数には、代襲相続人がそのまま算入されます。たとえば、被相続人に子A・B(うちBは先に死亡)がいて、Bに子C・Dの2人がいる場合、法定相続人は「A・C・D」の3人としてカウントされます。被代襲者B本人ではなく、その代襲相続人であるC・Dを頭数で数えるのがポイントです。

代襲相続人が複数いると、結果として「子1人+孫2人で法定相続人3人」となり、基礎控除や非課税枠が増えることがあります。家族構成によっては、代襲が発生していることで結果的に控除枠が広がる、という現象が起こりえます。

なお、養子を法定相続人の数に算入できる人数には制限があります(相続税法15条2項。実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人まで)。ただし、代襲相続人については、この養子人数制限の対象外です(同条同項のかっこ書)。本来の被代襲者である子が亡くなっているため、代襲相続人としての孫は人数制限なしで法定相続人の数に算入できます。孫養子(生きている子の上に孫を養子に取るパターン)とは扱いが異なります。

相続放棄があっても「法定相続人の数」は減らない

相続税法15条2項本文は、「相続人の数は、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数」と定めています。

つまり、代襲相続人が相続放棄をしても、基礎控除や非課税枠の計算では「放棄がなかった」前提で人数が数えられます。放棄者は税額計算上の相続人ではなくなっても、控除枠を計算する分母としては残る、という仕組みです。

これは、相続放棄の有無で控除額が動いてしまうと、税負担の操作が容易になりすぎる、という配慮に基づくものです。

ただし、生命保険金・死亡退職金の非課税枠そのものを使えるのは、相続人として保険金等を受け取った人に限られます(相続税法12条1項5号6号のかっこ書で「相続を放棄した者及び相続権を失つた者を除く」とされています)。代襲相続人が相続放棄をして保険金だけを受け取った場合、その保険金は非課税枠の対象外となり、全額が相続税の課税対象になります。「放棄しても保険金だけはもらえる」のは事実ですが、税制上は不利な扱いになることに注意が必要です。

2割加算──「孫が代襲」と「孫養子」では扱いが正反対

代襲相続と税務でもっとも誤解が多いのが、相続税の2割加算(相続税法18条)の扱いです。

相続税法18条1項は、相続または遺贈で財産を取得した者が、被相続人の「一親等の血族(代襲相続人を含む)及び配偶者以外」であるとき、相続税額を2割増しにする、と定めています。

裏返すと、一親等の血族の代襲相続人である孫は、2割加算の対象になります。相続税法18条1項のかっこ書で、被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡または相続権を失ったため代襲相続人となった者の直系卑属は「一親等の血族」に含むとされており、代襲相続人として相続人になった孫はここに含まれるためです。

一方、被代襲者がまだ生きているのに、節税目的などで孫を養子にした場合は、2割加算の対象になります。相続税法18条2項本文は、被相続人の直系卑属が被相続人の養子となっている場合は、その者を「一親等の血族」から除く、と定めています(その結果、孫養子には2割加算が適用されます)。孫養子に対する2割加算は、平成15年度税制改正で導入されたもので、節税目的の養子縁組への一定の抑制として設けられた規律です。

ただし、同項にはただし書があり、その直系卑属(つまり子)が相続開始以前に死亡または相続権を失ったため、孫が代襲相続人にもなっている場合は、この除外規定は適用されません(相続税法18条2項ただし書)。代襲相続人かつ養子(被代襲者の死亡後に養子縁組した孫)は、一親等の血族の代襲相続人として扱われ、2割加算の対象外となります。

整理すると次のようになります。

孫の立場 2割加算
親(被代襲者)が死亡・欠格・廃除で代襲相続人になった孫 対象外
親が生きている状態で、被相続人の養子になった孫(孫養子) 対象
代襲相続人かつ養子(被代襲者死亡後、養子縁組した孫) 対象外(一親等の血族の代襲扱い)

同じ「孫が相続人」でも、なぜそうなったかによって税負担が変わります。家族設計の段階で、養子縁組と代襲を混同せずに整理しておくと、後の税負担の見通しが立てやすくなります。

死亡保険金の受取人が先に亡くなっていたら

代襲相続の論点ではありませんが、相続実務でしばしば交錯するのが、保険金の受取人指定の問題です。

死亡保険金の受取人として指定されていた人(たとえば長男)が、保険事故発生前に亡くなっていた場合、保険法46条は「保険金受取人の相続人の全員が、保険金受取人となる」と定めています。

ここでよくある誤解が、「代襲相続のように、受取人の子が自動的に受取人になる」というものです。これは不正確です。保険法46条の規律は「受取人の相続人全員」ですので、受取人の配偶者・子(さらに親や兄弟姉妹)が共同で受取人になります。子だけが代わりに受取人になるのではありません。

また、複数の相続人が受取人になる場合、その持分は均等になるというのが最高裁の立場です(最判平成5年9月7日民集47巻7号4740頁)。法定相続分に応じた按分ではなく、頭数で均等という整理です。

代襲相続が発生している案件では、生命保険の受取人指定が古いままになっていないかを確認することが、相続税の計算と受取人確定の両方の観点から大切です。

相続税の申告期限──「自己のために相続が開始したことを知った日」から10か月

相続税の申告・納税期限は、「相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10月以内」です(相続税法27条1項)。

代襲相続人の場合、たとえば祖父の死亡を後から知った、というケースも珍しくありません。被相続人とふだん交流のなかった代襲相続人にとっては、起算点の把握自体が論点になります。

判例の立場(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁。これは民法915条1項の熟慮期間に関する判例ですが、税法上の起算点も同じ「自己のための相続開始を知った日」として整理されることが多い論点です)に従えば、代襲相続人としては「被代襲者の死亡と被相続人の死亡の両方を知り、自分が相続人となったことを認識した時」が起算点となります。実務では、戸籍を取り寄せ始めた時点や、他の相続人から連絡を受けた時点が起算点とされやすい運用です。

申告期限を延長する明文の制度は限定的ですので、代襲相続が絡む相続では、相続人の確定と申告準備を並行で進める必要があります。

相続税の総額計算の流れ──代襲相続人がいる場合

相続税の総額は、いわゆる法定相続分課税方式で計算します(相続税法16条)。流れは次のとおりです。

  1. 課税価格の合計額から基礎控除を差し引いて、課税遺産総額を算出
  2. 課税遺産総額を、各法定相続人の法定相続分で按分
  3. 按分後の各取得金額に税率を掛けて、各人の税額(仮計算)を算出
  4. これを合計して相続税の総額を算出
  5. 相続税の総額を、各人の実際の取得割合で按分し、各人の納付税額が決まる

代襲相続人がいる場合、ステップ2で使う法定相続分は、被代襲者の本来の法定相続分を頭数で按分した数値です。たとえば、配偶者・長男・次男(既死亡、子2人)という家族構成なら、配偶者2分の1、長男4分の1、次男の子2人がそれぞれ8分の1ずつ、として総額計算に用います。

総額計算の世界では、代襲相続人の人数によって相続税の総額自体が変わることもあります。法定相続人の数が増えると、低い税率帯に分散されて総額が下がるためです。代襲が起きた家族構成のほうが、結果的に相続税が下がるケースが見られるのは、この計算方式に由来します。

最終計算は税理士へ

代襲相続と相続税は、上記のように複数の論点が絡み合います。基礎控除・非課税枠・2割加算・受取人指定・申告期限のいずれも、家族構成のわずかな違いで結論が動きます。

ここまでは「制度の構造」を概観してきましたが、具体的な相続税の試算・申告書の作成・各種特例(小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減など)の適用判断は、税理士の専管業務です(税理士法52条)。代襲相続が絡む相続では、相続人確定の段階から税理士に並走してもらうことで、最終的な税負担と手続きの流れを早めに見通すことができます。

具体的な税額計算・申告・節税スキームの検討は、お近くの税理士にご相談ください。司法書士は、相続人の範囲確定・相続登記・遺産分割協議書の文案など、税理士の前提となる部分を整える役割を担います。