問題: 相殺に関する以下の記述のうち、正しいものを選びなさい。
ア. 相殺は、双方の債務が同種の給付を目的とする債務であれば、自働債権及び受働債権のいずれもがその弁済期にいまだ到達していなくとも、双方からこれを行うことができる。
イ. 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。
ウ. 悪意による不法行為に基づく損害賠償債務の債務者は、その債務を受働債権として相殺をもって債権者に対抗することができる。
エ. 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前に取得した自働債権を有していたとしても、これによって相殺をもって差押債権者に対抗することはできない。
オ. 相殺の意思表示には、条件又は期限を付することができる。
答え: イ
解説: ア. 誤り。民法505条1項本文は「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる」と定める。受働債権について期限の利益を放棄することは相殺権者に認められるが、自働債権については弁済期の到来が必要とされている。
イ. 正しい。民法508条「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる」。当事者間の決済期待を保護する規定として機能する。
ウ. 誤り。民法509条1号は「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」、同条2号は「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」について、加害者側からの相殺を禁止している(令和2年4月1日施行)。被害者側からの相殺は禁じられていない。
エ. 誤り。民法511条1項は「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる」と定める。最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁の無制限説を踏まえ、令和2年4月1日施行の改正民法で明文化された。
オ. 誤り。民法506条1項後段「相殺の意思表示には、条件又は期限を付することができない」。
問題: 所有権に関する仮登記の本登記に関する以下の記述のうち、正しいものを選びなさい。
ア. 所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合であっても、当該第三者の承諾を得ることなく申請することができる。
イ. 所有権に関する仮登記に基づく本登記の申請に当たり、登記上の利害関係を有する第三者の登記が仮登記であるときは、当該第三者の承諾は不要である。
ウ. 所有権に関する仮登記に基づく本登記がされたときは、登記官は、職権で、当該本登記の登記順位を保全するために抹消する事項のある第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない。
エ. 所有権に関する仮登記に基づく本登記の効力は、仮登記がされた時に遡って発生する。
オ. 所有権以外の権利に関する仮登記に基づく本登記の申請には、当該権利の登記後にされた他の登記の名義人の承諾を要する。
答え: ウ
解説: ア. 誤り。不動産登記法109条1項「所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる」。利害関係を有する第三者の承諾は所有権に関する仮登記の本登記の必要的添付情報。
イ. 誤り。利害関係を有する第三者の登記が仮登記であっても、それが本登記により失効する関係にある場合は承諾が必要とされる(不動産登記法109条1項)。
ウ. 正しい。不動産登記法109条2項「登記官は、前項の登記をするときは、職権で、当該本登記の登記順位を保全するために抹消する事項のある第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない」。承諾を要する利害関係人の登記は、本登記後に登記官が職権で抹消する。
エ. 誤り。仮登記の効力は順位保全効力にとどまり、実体上の効力は本登記がされた時に発生する。不動産登記法106条は本登記の順位を仮登記の順位による旨を定めるが、効力発生時を仮登記時に遡らせるものではない。
オ. 誤り。不動産登記法109条1項は「所有権に関する仮登記」を対象としており、所有権以外の権利(抵当権など)に関する仮登記に基づく本登記には、利害関係を有する第三者の承諾は要件とされていない。これは条文の文言上明らかであり、登記実務における通説的取扱いでもある。
問題: 株式会社における取締役の解任に関する以下の記述のうち、正しいものを選びなさい。
ア. 株式会社の取締役は、株主総会の決議によっていつでも解任することができ、累積投票によって選任された取締役の解任もまた普通決議によって行うことができる。
イ. 株主総会の決議によって解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
ウ. 取締役を解任する旨の議案が株主総会において否決された場合、当該取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実があったときであっても、株主は訴えをもって当該取締役の解任を請求することができない。
エ. 取締役会設置会社においては、取締役の解任は、株主総会の決議によらず、取締役会の決議によって行うこともできる。
オ. 取締役を解任する旨の株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上をもって行う特別決議によらなければならない。
答え: イ
解説: ア. 誤り。取締役の解任の原則的決議要件は普通決議である(会社法341条)が、累積投票によって選任された取締役の解任は特別決議による(会社法342条6項・309条2項7号)。よって「累積投票によって選任された取締役の解任もまた普通決議によって行うことができる」とする点に誤りがある。
イ. 正しい。会社法339条2項「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」。正当な理由がない解任については、解任された取締役は損害賠償を請求することができる。
ウ. 誤り。会社法854条1項は、役員の職務の執行に関し不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき等は、一定の少数株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる旨を定める。
エ. 誤り。取締役の選任・解任は株主総会の専属的権限である(会社法329条1項・339条1項)。取締役会で解任できるのは、代表取締役の地位(362条2項3号)であり、取締役そのものの解任ではない。
オ. 誤り。取締役の解任は、原則として普通決議による(会社法341条)。条文上「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない」とされ、定足数に関しては会社法309条1項の原則(過半数)よりも緩和されており、特別決議ではない。例外として累積投票で選任された取締役の解任、監査役の解任、累積投票・種類株主総会で選任された場合等が特別決議となる。
問題: 処分権主義に関する以下の記述のうち、誤っているものを選びなさい。
ア. 裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
イ. 一個の不動産の所有権確認請求訴訟において、原告が当該不動産の所有権の全部の確認を求めている場合、裁判所は、当該不動産の共有持分権の確認判決をすることができる。
ウ. 原告が無条件の給付を求めた場合に、被告の同時履行の抗弁が認められるとき、裁判所が引換給付の判決をすることは、処分権主義に反しない。
エ. 原告が現在の給付の訴えを提起した場合において、裁判所が将来の給付の請求を認容する判決をすることは、処分権主義に反する。
オ. 原告が登記原因を「売買」と主張した所有権移転登記手続請求訴訟において、裁判所が「真正な登記名義の回復」を登記原因とする登記手続を命じる判決をすることは、処分権主義に反する。
答え: イ
解説: ア. 正しい。民事訴訟法246条「裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない」。処分権主義の原則を定める基本規定。
イ. 誤り。一個の不動産の所有権の確認を求める訴えにおいて、裁判所が当該不動産の共有持分権の確認判決をすることは、訴訟物の同一性を欠き、処分権主義に反する(最判昭和38年5月31日民集17巻4号589頁の趣旨参照)。所有権確認と共有持分権確認とでは権利の性質が異なるため、原告の意思に反して質的に異なる権利を判決の対象とすることは許されない。
ウ. 正しい。引換給付判決は、原告が無条件の給付を求めた請求の一部認容として理解され、原告の意思に反しない限り処分権主義に反しない(最判昭和46年11月25日民集25巻8号1343頁)。
エ. 正しい。現在の給付の訴えと将来の給付の訴えとでは訴訟物が異なり、原告が将来給付を申し立てていないのに将来給付の判決をすることは民事訴訟法246条に反する。
オ. 正しい。登記原因が異なる場合、登記原因を訴訟物の特定要素とみる立場からは訴訟物が異なるため、原告が主張した登記原因と異なる登記原因による判決をすることは処分権主義(民事訴訟法246条)に反するとするのが通説的整理である。
問題: 司法書士の業務遂行に関する以下の記述のうち、正しいものを選びなさい。
ア. 司法書士は、依頼があった場合は、簡裁訴訟代理等関係業務に関するものも含めて、正当な事由がある場合でなければ依頼を拒むことができない。
イ. 司法書士は、業務に関する帳簿および書類について、その作成または受領の時から3年間保存しなければならない。
ウ. 司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならず、この義務は司法書士でなくなった後も継続する。
エ. 司法書士は、補助者を置いたときは、遅滞なく、所属する司法書士会及び法務大臣に届け出なければならない。
オ. 司法書士法人の社員は、他の司法書士法人の社員となることができる。
答え: ウ
解説: ア. 誤り。司法書士法21条「司法書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒むことができない」。簡裁訴訟代理等関係業務は応諾義務の対象外となっており、これは事件の性質上、認定司法書士の専門性・利益相反等のチェックが必要であることに由来する。
イ. 誤り。司法書士法施行規則30条は「司法書士は、事件簿を、その閉鎖の時から7年間保存しなければならない」と定めている。3年ではなく7年。
ウ. 正しい。司法書士法24条「司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない」。退職後も守秘義務が継続する。
エ. 誤り。司法書士法施行規則25条1項により、司法書士は、補助者を置いたときは、遅滞なく、その旨を所属する司法書士会に届け出なければならない。届出先は所属する司法書士会のみであり、法務大臣への届出義務はない。
オ. 誤り。司法書士法42条「社員は、他の司法書士法人の社員となつてはならない」。社員兼任は禁止されている。
出題分野の振り分け
| 問題 | 科目 | 主要論点 | 根拠条文・判例 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 民法 | 相殺 | 民法505条1項・506条1項・508条・509条1号2号・511条1項/最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁(令和2年4月1日施行で明文化) |
| 第2問 | 不動産登記法 | 所有権に関する仮登記の本登記 | 不動産登記法106条・109条1項2項(所有権以外の権利に関する仮登記は条文文言上承諾不要) |
| 第3問 | 商業登記法・会社法 | 取締役の解任 | 会社法339条1項2項・341条・309条2項7号・342条6項・854条1項・329条1項・362条2項3号 |
| 第4問 | 民事訴訟法 | 処分権主義 | 民事訴訟法246条/最判昭和38年5月31日民集17巻4号589頁・最判昭和46年11月25日民集25巻8号1343頁 |
| 第5問 | 司法書士法 | 依頼応諾・守秘義務・補助者届出・社員兼任 | 司法書士法21条・24条・42条/司法書士法施行規則25条1項・30条 |