「法定相続分」という言葉を聞いたことはあっても、自分の場合はどれくらいの割合になるのか、正確にわかる方は意外と多くありません。配偶者と子がいる場合、配偶者と親の場合、配偶者と兄弟姉妹の場合では、それぞれ割合が変わります。
この記事では、民法が定める「法定相続分」の基本を、相続人の組合せごとに整理します。
法定相続分とは──「遺言も話し合いもないとき」の目安
法定相続分とは、民法が定める「各相続人の取り分の割合」のことです(民法900条)。
ここで最初に押さえておきたいのは、法定相続分は「必ずこの割合で分けなければならない」というルールではない、という点です。
- 亡くなった方(被相続人〈ひそうぞくにん〉)が遺言を残していれば、原則として遺言の内容が優先されます。
- 遺言がなくても、相続人全員で話し合って合意すれば(遺産分割協議)、法定相続分とは違う割合で自由に分けることができます。
法定相続分が実際に意味を持つのは、主に「遺言がなく、話し合いもまとまらないとき」や、「とりあえず法律どおりの割合で手続きを進めるとき」です。いわば基準・目安として用意されている割合だと考えてください。
大前提──誰が相続人になるか
割合の話の前に、「誰が相続人になるか」を整理します。
- 配偶者(夫または妻)は、常に相続人になります(民法890条)。
- 配偶者以外は、次の順位で相続人になります。上の順位の人が1人でもいれば、下の順位の人は相続人になりません。
| 順位 | 誰が | 根拠 |
|---|---|---|
| 第1順位 | 子(亡くなっていれば孫など) | 民法887条 |
| 第2順位 | 親・祖父母など(直系尊属〈ちょっけいそんぞく〉) | 民法889条1項1号 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(亡くなっていれば甥・姪) | 民法889条1項2号 |
たとえば、亡くなった方に子がいれば、親や兄弟姉妹は相続人になりません。子も親もいなければ、はじめて兄弟姉妹が相続人になります。
組合せ別の割合
配偶者と、上の順位の相続人がいる場合の割合は、次のとおりです。
| 相続人の組合せ | 配偶者の取り分 | もう一方の取り分 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 と 子 | 1/2 | 子 全体で 1/2 | 民法900条1号 |
| 配偶者 と 直系尊属(親など) | 2/3 | 親など 全体で 1/3 | 民法900条2号 |
| 配偶者 と 兄弟姉妹 | 3/4 | 兄弟姉妹 全体で 1/4 | 民法900条3号 |
配偶者がいない場合は、その順位の相続人が全部を相続します(その割合を同順位の人どうしで分け合います)。逆に、子・親・兄弟姉妹がだれもいなければ、配偶者がすべてを相続します。
ポイントは、配偶者の取り分は、いっしょに相続する相手の順位が下がるほど大きくなることです(子と一緒なら1/2 → 親と一緒なら2/3 → 兄弟姉妹と一緒なら3/4)。
同じ順位の人が複数いるときは「頭割り」
子が2人、兄弟姉妹が3人というように、同じ順位の人が複数いるときは、その順位に割り当てられた割合を人数で等しく分けます(いわゆる頭割り。民法900条4号本文)。
なお、子については、実子・養子の区別や、結婚していない男女の間に生まれて認知された子(嫡出〈ちゃくしゅつ〉でない子)かどうかにかかわらず、相続分は等しいとされています。かつては嫡出でない子の相続分を嫡出子の半分とする規定がありましたが、平成25年(2013年)の民法改正で削除され、現在はどの子も同じ割合です。
【具体例1】 夫が亡くなり、妻と子2人が相続人の場合
- 妻:1/2
- 子:1/2 を 2人で分ける → 1人あたり 1/4 ずつ
先に亡くなった子がいる場合──代襲相続人の取り分
相続人になるはずだった子が、被相続人より先に亡くなっているとき、その子の子(つまり孫)が代わりに相続人になります。これを**代襲相続(だいしゅうそうぞく)**といいます。
代襲相続人(孫など)の取り分は、本来その親(先に亡くなった子)が受けるはずだった割合を、そのまま引き継ぎます(民法901条)。孫が複数いれば、その割合をさらに孫の人数で分けます。
【具体例2】 夫が亡くなり、妻・長男・「先に亡くなった次男の子(孫2人)」が相続人の場合
- 妻:1/2
- 子の取り分 1/2 を、長男と「次男の代わりに相続する孫たち」で分ける
- 長男:1/4
- 孫2人:次男の取り分 1/4 を 2人で分けて、1人あたり 1/8 ずつ
兄弟姉妹が相続人のときの注意──「半分だけ血のつながった兄弟姉妹」
兄弟姉妹が相続人になるケースには、少し特別なルールがあります。
父母の両方が同じ兄弟姉妹(全血〈ぜんけつ〉)と、父母のどちらか一方だけが同じ兄弟姉妹(半血〈はんけつ〉。たとえば父親は同じで母親が違う兄弟など)がいる場合、半血の兄弟姉妹の取り分は、全血の兄弟姉妹の半分になります(民法900条4号ただし書)。
これは兄弟姉妹が相続人になる場合に限ったルールです。さきほどの「子は全員等しい」という話とは別の論点なので、混同しないようにしてください。
また、兄弟姉妹には遺留分(いりゅうぶん。一定の相続人に最低限保障される取り分)がありません。この点は誤解が多いところですが、詳しくは別の記事に譲ります。
法定相続分は「出発点」
繰り返しになりますが、法定相続分はあくまで法律が用意した基準です。遺言があればそれが優先され、相続人全員の合意があれば、法定相続分と違う分け方も自由にできます。実際の相続では、「まず法定相続分という物差しを知ったうえで、遺言や話し合いでどう調整するか」を考えていくことになります。
相続人が誰になるか、割合がどうなるかは、戸籍を集めて家族関係を確定して初めてはっきりします。相続人の範囲が複雑なときや、割合の判断に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】法定相続分による相続登記とその後の実務
ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。
法定相続分は「割合の話」ですが、これを実際に不動産の登記へ反映させるとき、知っておきたい注意点があります。
法定相続分での相続登記は「1人でもできる」
法定相続分どおりの相続登記(たとえば「妻が持分2分の1、子が各4分の1」と登記すること)は、相続人の1人が、共同相続人全員のために単独で申請することができます。これは共有物の「保存行為」(民法252条5項)にあたると整理されており、相続による登記を相続人が単独で申請できるとする不動産登記法63条2項とあわせて、1人での申請が可能です。
遺産分割協議がまとまらなくても、ひとまず法律どおりの割合で登記だけは入れられる、という点で便利な方法です。
ただし「共有のまま」には落とし穴がある
法定相続分での登記は手軽な一方、結果として不動産が共有名義になります。共有には次のような注意点があります。
- 処分に全員の関与が必要:共有のままだと、その不動産を売る、抵当権を設定するといった場面で、原則として共有者全員の関与が必要になります。後の手続きが重くなりがちです。
- 後で遺産分割をすると登記をやり直すことになる:いったん法定相続分で共有登記をした後に、遺産分割協議で「この不動産は1人が取得する」と決めた場合、その内容を反映する登記(更正の登記、または持分の移転の登記)が改めて必要になります。登記の手間や登録免許税などが二段構えでかかることがあります。
- 1人が勝手に持分を売ってしまうリスク:法定相続分の持分は、その相続人が単独で処分できます。共有のまま放置している間に、相続人の1人が自分の持分だけを第三者に売り、その登記がされてしまう、という事態も理屈の上では起こり得ます。
このため、「とりあえず法定相続分で共有登記」が常に最善とは限りません。最終的に誰がその不動産を取得するのか、遺産分割の見通しとあわせて考えることが大切です。
相続登記の義務化との関係
相続登記は、令和6年(2024年)4月1日から義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から原則3年以内に登記をする必要があります(不動産登記法76条の2)。
遺産分割がすぐにまとまらないときは、法定相続分での共有登記のほかに、「相続人申告登記」(同法76条の3)という簡易な方法で、ひとまず申請義務を果たすこともできます。どの方法が適しているかはケースによって異なります(義務化や申告登記の詳細は別の記事でも扱っています)。
法定相続分で登記をするか、遺産分割を待つか、申告登記でつなぐか——いずれが適切かは、家族関係やその不動産を今後どうしたいかによって変わります。判断に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】法定相続分と相続税の計算の関係
ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。税額の計算・申告は税理士の業務です。具体的な計算や申告については税理士に、相続手続き全般についてはお近くの司法書士にご相談ください。
法定相続分は「遺産をどう分けるか」の基準ですが、実は相続税を計算する途中でも「ものさし」として使われます。実際の分け方とは別のところで法定相続分が登場するため、少し意外に感じるかもしれません。
相続税の総額は「いったん法定相続分で分けたつもり」で計算する
相続税には、「相続税の総額」をまず求めるという独特の計算の仕組みがあります(相続税法16条)。おおまかには、次のような二段構えです。
- 遺産の総額から基礎控除を引いた金額を、実際の分け方とは関係なく、いったん「各相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して」割り振る
- その仮の取得額ごとに税率をかけ、合計したものを「相続税の総額」とする
- この総額を、実際に取得した割合に応じて各相続人に割り振り、それぞれの納める税額を出す
つまり、遺産分割で法定相続分と違う分け方をしても、税額計算の入口では法定相続分が使われます。これにより、分け方によって相続税の総額が大きく変わってしまわないようにする狙いがあるとされています。
基礎控除も「法定相続人の数」で決まる
相続税には基礎控除があり、その額は次の式で決まります(相続税法15条)。
基礎控除額 = 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人が多いほど基礎控除は大きくなり、遺産がこの基礎控除の範囲内であれば、相続税はかからず申告も原則不要です(実際にいくらになるかは財産の評価が必要になるため、税理士の領域です)。
注意したいのは、この「法定相続人の数」には独自のルールがある点です(相続税法15条2項)。
- 相続放棄をした人も、人数には含めて数えます(放棄がなかったものとして数える)
- 養子は、実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までしか数に入れられません
このため、民法で「誰が相続人か」を考えるときの感覚と、相続税でいう「法定相続人の数」とが、少しずれる場面があります。
配偶者には大きな軽減がある
配偶者が遺産を取得した場合には、「配偶者の税額軽減」という大きな特例があります(相続税法19条の2)。配偶者が取得した遺産のうち、法定相続分に相当する額、または1億6000万円のいずれか多い金額までに対応する部分には、相続税がかからない仕組みです。ここでも法定相続分が基準のひとつになっています。
ただし、この特例を受けるには相続税の申告が必要で、適用の要件もあります。詳しい計算や適用の可否は税理士にご確認ください。
まとめ
このように、法定相続分は登記や遺産分割の場面だけでなく、相続税の計算にも関わってきます。相続税がかかりそうなケースでは、早めに見通しを立てておくことが大切です。具体的な税額の計算・申告は税理士に、相続手続き全般についてはお近くの司法書士にご相談ください。