家族が立て替えた介護費用は相続で精算できる?──領収書と記録の残し方

この記事の要点 家族が自分のお金で立て替えた親の介護費用は、親に返してもらう性質のものであれば、親が亡くなった後、相続人が引き継ぐ親の債務(相続債務)になり得ます ただし、子には親を扶養する義務があります(民法877条1項)。扶養の範囲の支出や、返してもらうつもりのなかった支出と見られると、精算の対象にならないこともあります 精算は、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)の中で合意して行うのが通常の形です。合意を支えるのは、領収書・家計簿・親との取り決めの書面といった記録です 立替金の精算は、特別寄与料・寄与分・使い込みの問題とは別の話です 今日からできるのは、親のお金と自分のお金を分けること、領収書を残して記録をつけること、親が元気なうちに取り決めを書面にしておくことです 親の介護が続くと、施設の利用料やおむつ代、通院のタクシー代などを、子どもが自分の財布から払う場面が出てきます。結論から言うと、こうして立て替えたお金は、親に返してもらう性質のものであれば、親が亡くなった後に相続の中で精算する余地があります。ただ、親子の間のお金のやり取りは「親孝行として出したのか」「後で返してもらう約束だったのか」が曖昧になりやすく、記録がないと、ほかの相続人の理解を得にくいのが実情です。 ...

2026年10月24日 · ひぐらしさとし

遺産分割をやり直したら登記はどうなる──「錯誤」による抹消と、再協議で動く税金の注意(税理士へ)

この記事の要点 遺産分割の「やり直し」には、①相続人全員の合意で最初の協議を解消して改めて協議する場合と、②最初の協議にそもそも無効・取消しの原因があった場合の2種類があり、登記の直し方が違います。 相続人全員の合意で協議を解消し、改めて協議することは、最高裁判所の判例で認められています。一方、ほかの相続人が協議で約束したことを守らないという理由で、一方的に協議を解除することはできないとされています。 最初の協議が無効だった場合は、登記した時点から登記が事実と合っていなかったことになるため、「錯誤」を原因として登記を消す(抹消)か直す(更正)のが基本です。抹消の登録免許税は不動産1個につき1,000円です(更正の登録免許税は、課税の区分を申請前に確認します)。 全員の合意によるやり直しは、登記の後に事情が変わったものなので「錯誤」にはなじまないと考えられ、どの形で登記するかによって登録免許税が大きく変わります(相続による移転なら固定資産評価額の0.4%、相続以外の原因による移転なら2%)。申請の前に確認が必要です。 やり直しで財産の行き先が変わると、贈与税や所得税(譲渡所得)が問題になる可能性があります。再協議の前に税理士にご相談ください。 いったんまとまった遺産分割協議を、後から「やり直したい」と考えることがあります。結論から言うと、やり直しの登記は、なぜやり直すのかによって直し方が分かれます。 ...

2026年10月22日 · ひぐらしさとし

相続手続きの全体マップ──「何から始めるか」をこの1本から辿れる総目次

この記事の要点 相続の手続きは「亡くなった直後/相続人を確かめる/財産を調べる/分け方を決める/名義を変える/税金/もめたとき/生前対策」の8つの段階に分けると、いま自分がどこにいるかが見えやすくなる 期限のある手続きがあるので、最初に確かめたいのは「相続放棄をするかどうか(原則3か月)」と「相続登記(原則3年)」の2つ 下の段階別の目次から、いまの自分に当てはまる段階の記事を読んでください 税額の計算は税理士、相続人どうしで争いになっているときは弁護士が相談先です 相続の手続きで「何から始めればいいのか」と迷ったときは、まず自分がいまどの段階にいるかを決め、その段階の記事から読むのが近道です。この記事は、相続に関する解説記事をまとめて案内する総目次です。制度のしくみは個別の記事にゆずり、ここでは「どの段階で、どの記事を読めばよいか」だけを並べます。本記事は、執筆時点(2026年09月)の法令に基づく一般的な解説です。 ...

2026年9月28日 · ひぐらしさとし

家庭裁判所の審判はいつ「確定」する?──即時抗告の2週間と、登記で使う確定証明書

この記事の要点 家庭裁判所の審判は、審判書を受け取った日にすぐ確定するわけではありません。即時抗告ができる審判は、確定しなければ効力を生じないとされています(家事事件手続法74条2項ただし書) 即時抗告は「2週間の不変期間」内にしなければならず、その期間は、即時抗告をする人が審判の告知を受ける者であるときは、その人が告知を受けた日から進行します(同法86条1項・2項)。告知を受けた日が相続人ごとに違えば、期間が終わる日も人ごとにずれます 遺産分割の審判で不動産を取得した相続人が単独で相続登記を申請するときは、審判書に家庭裁判所の確定証明書を添えて使います なお、この記事は執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年9月18日 · ひぐらしさとし

相続の相談は弁護士?司法書士?──「もめているか」で分かれる相談先

この記事の要点 相続の相談先を選ぶ大きな目安は「相続人どうしがもめているかどうか」。ただしこれはあくまで目安で、最終的な判断は個別の事案の内容によります 訴訟事件その他の法律事件について、報酬を得る目的で代理などの法律事務を取り扱うことは、弁護士法72条により原則として弁護士の職域です 司法書士は相続登記や裁判所提出書類の作成に加え、認定を受けた司法書士に限り、140万円以下の簡易裁判所の手続きの代理と、140万円以下の民事の紛争についての相談・裁判外の和解の代理までを担当できます まず司法書士に相談し、途中で対立が深刻になった段階で弁護士へ引き継ぐという流れが、実務ではよく見られます 相続の相談先を「弁護士か司法書士か」で迷ったとき、最初の目安になるのは相続人どうしがもめているかどうかです。話し合いがまとまりそうな段階であれば司法書士に相談できる範囲は広く、話し合いが決裂し裁判所での対立に発展しそうな段階では弁護士の領域が中心になります。もっとも、これはあくまで一般的な目安であり、個々の事案では財産の内容や相続人の人数、対立の深さによって当てはまり方が変わるため、最終的な判断は必ず個別の事情に照らして行う必要があります。 ...

2026年9月8日 · ひぐらしさとし

実家に同居してきた子の相続──住み続けたい相続人と他の相続人の調整

この記事の要点 親と実家に同居してきた子には、配偶者居住権にあたる法定の居住権制度はありません。配偶者居住権は、その名のとおり配偶者のための制度です ただし裁判例には、被相続人の許諾を得て同居していた相続人について、遺産分割が終わるまでの間は無償で使い続けられる関係が推認されると判断したものがあります 住み続けたい場合の調整は、遺産分割の話し合いの中で行うのが基本です(現物分割・代償分割・換価分割・共有) 代償金をどう用意するか、長年の同居や介護を寄与分(民法904条の2)としてどう位置づけるかが論点になりやすく、相続開始から10年の期間制限にも注意が必要です 相続人どうしで意見が対立している場合は弁護士へ。名義変更(相続登記)の手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください 結論から──「同居していた」だけで住み続けられる権利は生じません まず結論です。実家に何十年同居していても、その事実だけで「その家に住み続ける権利」が法律上あたえられるわけではありません。実家(建物と土地)は相続財産に含まれ、他の相続人と分け合う対象になります。 ...

2026年9月3日 · ひぐらしさとし

親の土地に家を建てるとき──「使用貸借」のままだと相続で何が起きるか

この記事の要点 親の土地を無償で借りて家を建てる関係は「使用貸借(しようたいしゃく)」といい、貸主(親)が亡くなっても、それだけで契約が当然に終わるわけではないとされています ただし「終わらない」は「ずっと続く」ではなく、使い道に従って使用・収益をするのに足りる期間が経過すれば、貸主の側から契約を解除できるとされています(民法598条1項) また、貸主が亡くなれば土地そのものは相続財産となり、きょうだいなど他の相続人との遺産分割の対象になり得ます 自分の家が建っている土地を、自分以外の相続人が取得する事態も制度上はあり得るため、早い段階で家族間の話し合いを始めておくことが大切です 「親の土地に家を建てさせてもらっている。地代も家賃も払っていない」——こうした関係は、法律上は「使用貸借(しようたいしゃく)」と呼ばれる契約にあたります。契約書を交わしていなくても、口約束や暗黙の了解だけで成り立っている使用貸借は少なくありません。 ...

2026年8月30日 · ひぐらしさとし

死亡退職金と弔慰金のきほん──受取人と相続財産の関係(税額は税理士へ)

この記事の要点 死亡退職金は、会社に役員退職慰労金規程や慶弔規程があるかどうかで、受取人の定まり方が変わる 規程がなく、亡くなるたびに株主総会の決議だけで支給を決めている場合は、相続財産にあたるかどうかが問題になり得る 死亡退職金と弔慰金は性格の異なるお金であり、扱いも分けて考える必要がある 遺産分割協議書に載せるかどうかは、受取人の定まり方によって変わる。税額の計算・申告は税理士へ 「役員が亡くなり、死亡退職金を支給することになった。この退職金は、遺産分割の話し合いに入れるべきものなのか、それとも別扱いでよいのか」──会社側でも遺族側でも、判断に迷いやすい場面です。 ...

2026年8月29日 · ひぐらしさとし

成年後見人と本人の利益がぶつかるとき──特別代理人の選任と後見監督人の役割

この記事の要点 成年後見人と本人の利益がぶつかる行為(利益相反行為)については、後見人は本人を代理できず、本人のために特別代理人を選任するよう家庭裁判所に請求します(民法860条・826条) ただし後見監督人がいるときは、監督人が本人を代表するため、特別代理人の選任は必要ありません(民法860条ただし書・851条4号) 保佐・補助にも同じ仕組みがあり、こちらは臨時保佐人・臨時補助人を選任します(民法876条の2第3項・876条の7第3項) 「母の成年後見人になった。その母の相続——父の遺産分割協議に、自分も相続人として参加する」。このような場面では、後見人であるご本人(子)が、母の代理人としての立場と、自分自身の相続人としての立場を同時に持つことになります。民法は、こうした場面で後見人が本人を代理することを認めず、別の代理人を立てる仕組みを用意しています。本記事は、執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年8月24日 · ひぐらしさとし

非上場株式を相続したら──取引相場のない株の名義書換と少数株主の現実

この記事の要点 非上場株式を相続しても会社の承認は不要だが、会社が定款で定めていれば「売渡請求」を受けることがある 株主としての権利を会社に主張するには、株主名簿の名義書換(めいぎかきかえ)が必要 配当も売却先もないまま少数株主になるケースは珍しくなく、対応は早めの整理が肝心 「親が中小企業の株を少し持っていた。相続財産の一覧に出てきたが、上場株のように証券会社に問い合わせれば済む話ではないらしい」──非上場株式(取引相場のない株式)の相続で、こうした戸惑いを抱える方は少なくありません。 ...

2026年8月18日 · ひぐらしさとし