この記事の要点
- 「相続人が一人」と言えるのは、亡くなった方の戸籍を出生から死亡までたどり(親や兄弟姉妹が相続人になる場合は親の戸籍なども)、ほかに相続人がいないと確かめてから。前の結婚で生まれた子・認知した子・養子が見つかれば、相続人が増えたり、相続人だと思っていた人が相続人でなくなったりする
- 遺言がなく相続人が一人なら遺産分割協議は不要。ただし相続放棄・限定承認の3か月、準確定申告の4か月、相続税申告の10か月、相続登記の3年という期限は、当てはまる場合にはそのまま残る
- 協議の成立を待つ必要がないため、相続すると決めたあとは、戸籍などがそろえば相続登記の準備を進められる
相続人が一人だけの場合、相続人全員で遺産の分け方を話し合う遺産分割協議は必要ありません。そのぶん手続きは軽くなりますが、期限のある手続きがなくなるわけではありません。結論から言うと、①本当に一人かを戸籍で確かめる、②遺言の有無を確かめる、③財産と借金を調べ、3か月以内に相続するかどうかを決める、④税金の期限を確認する、⑤相続登記を申請する、という順番で進めるのが基本です。
1. 「一人」は戸籍で確かめてから言える
家族の間では「子どもは自分だけ」と思っていても、亡くなった方の戸籍を出生から死亡まで集めると、前の結婚で生まれた子、認知した子、養子縁組をした子が見つかることがあります。子は相続人になり(民法887条1項)、亡くなった方より先に亡くなっている子がいれば、その子の子(亡くなった方の孫)が代わって相続人になります(同条2項)。
法務局の相続登記の必要書類の案内でも、亡くなった方の戸籍は「出生から死亡まで、在籍していた全ての戸籍・除籍謄本が必要」とされています。出生までさかのぼるのは、ほかに相続人がいないことを確かめるためです。子がいないため親や兄弟姉妹が相続人になる場合は、亡くなった方の戸籍に加えて親の戸籍などもたどり、ほかに相続人がいないかを確かめることになります。思い込みで「一人」と決めず、戸籍で確かめるところから始めます。
2. 遺言があると話が変わる
遺言で相続人以外の人に財産を遺贈していたり、財産ごとに行き先を指定していたりすると、「相続人が一人だから全部その人が受け継ぐ」とは限りません。相続登記に使う書類や登記の組み立ても、遺言の内容に応じて変わることがあります。
自筆の遺言書が見つかったときは、家庭裁判所での検認が必要です(民法1004条1項)。公正証書による遺言は検認が不要で(同条2項)、法務局に保管されている自筆証書遺言も検認は不要です(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。法務局の案内では、この場合は「遺言書情報証明書」(同法9条1項)を使うとされています。
3. 相続するかどうかは3か月以内に決める
借金のほうが多そうなときは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続放棄や限定承認をするかどうかを決める必要があります(民法915条1項)。何もしないままこの期間が過ぎると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。判断の前に相続財産を処分した場合も単純承認とみなされることがあるため(同条1号)、放棄の可能性が残っているうちは、財産に手を付ける手続きは判断が固まってから進めるのが基本です。期限の数え方や延ばし方は相続放棄の基本で解説しています。
相続人が一人の場面で知っておきたいのは、その一人が放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、亡くなった方の親や兄弟姉妹など、次の順位の人が相続人になる場合があることです(民法889条1項)。放棄をするかどうかは個々の事情によって判断が分かれるため、この記事では扱いません。
4. 税金の期限は「4か月」と「10か月」
亡くなった方に申告の必要な所得があった場合の準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内(所得税法124条1項・125条1項)、相続税の申告が必要な場合は、同じく翌日から10か月以内(相続税法27条1項)が期限です。準確定申告は相続人が行う手続きなので、相続人が一人であれば、その人が期限を管理することになります。
申告が必要かどうか、相続税がかかるかどうかは財産の内容によって変わるため、税理士にご確認ください。
5. 相続登記は協議を待たずに準備できる
不動産がある場合は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項)。2024年4月1日より前に開始した相続にもこの義務は及び、その場合は経過措置により期限の数え方が変わります(令和3年法律第24号附則5条6項)。起算日の考え方は相続登記の「3年」はいつから数える?をご覧ください。
相続人が複数いると、遺産分割協議の成立を待つうちに時間が過ぎがちですが、遺言がなく相続人が一人なら、分け方を話し合う相手がいないため、協議の成立を待つ必要はありません。その一人が法定相続分どおりに相続する形の登記になり、法務局の必要書類の一覧でも、遺産分割協議の場合に挙がっている遺産分割協議書と印鑑証明書は、法定相続分による相続登記の欄には挙がっていません。3の判断で相続すると決めたあとは、戸籍などの書類がそろえば、申請の準備に進めます。
執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
相続人が一人なら遺産分割協議は要りませんが、まず戸籍でほかに相続人がいないことを確かめ、遺言の有無を確認したうえで、3か月(相続放棄・限定承認)、4か月(準確定申告)、10か月(相続税申告)、3年(相続登記)の期限を順に押さえることになります。税金の申告が必要かどうかは税理士へ。戸籍の確認や相続登記の準備で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第887条・第889条・第915条・第921条・第939条・第1004条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律 第9条・第11条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000073
- 所得税法 第124条・第125条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 相続税法 第27条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 不動産登記法 第76条の2、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 法務局「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001393744.pdf
- 法務省「相続登記の申請義務化について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/souzokutouki-gimuka/index.html