この記事の要点
- 帰化した人の日本の戸籍は、帰化の届出を受けて記載されたところから始まり、帰化する前の身分関係の経過(前の婚姻や離婚、認知、帰化前に生まれた子など)は原則としてたどれない
- 帰化後に亡くなった人の相続は日本の法律によるが、相続人を確かめるには帰化前の身分関係を示す本国の公的書類とその翻訳文が必要になることがある
- 相続登記で書類がそろわないときにどう補うかは、提出先の法務局の取扱いによる
相続の手続きでは、亡くなった人の「出生から死亡まで」の戸籍を集めて相続人を確かめるのが基本です。ところが、亡くなった人が帰化して日本の国籍を取得した人だった場合、日本の戸籍だけでは出生までさかのぼれません。日本の戸籍は帰化したところから始まっているためです。なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
帰化すると、日本の戸籍が新しく作られる
外国籍の人は、法務大臣の許可を得て帰化することで日本の国籍を取得します(国籍法4条)。帰化の効力は、許可が官報で告示された日に生じます(同法10条2項)。そのうえで、帰化した人は告示の日から1か月以内に、市区町村へ帰化の届出をしなければなりません(戸籍法102条の2)。
それまで日本の戸籍に記載がなかった人なので、父または母の戸籍に入る場合などを除き、新しく戸籍が作られるのが原則です(戸籍法22条)。帰化したことは、その人の身分事項欄に記載されます(戸籍法施行規則35条11号)。
帰化前の身分関係の経過は、日本の戸籍からはたどれない
帰化の届書には、父母の氏名や配偶者の氏名などを記載します(戸籍法102条の2・102条2項)。そのため、生年月日や実父母の氏名といった基本的な事項は戸籍に載りますが(戸籍法13条)、帰化する前に誰と結婚し、離婚していたか、認知した子や帰化前に生まれた子がいたかといった身分関係の経過は、原則として日本の戸籍からは読み取れません。日本の戸籍に身分事項として記載されるのは、帰化してから後のことが中心だからです。
相続人を確かめる目的は「相続人がほかにいないこと」まで確認することにあります。帰化前に生まれた子や、前の結婚の記録が戸籍に出てこないのは、「いなかった」からではなく「日本の戸籍に載る前のことだから」という可能性があります。そのため、帰化前の期間については、本国の公的書類(出生・婚姻・親子関係などを証明するもの)で補う必要が出てくることがあります。外国語の書類には、日本語の翻訳文を添えて提出するのが一般的です。
帰化前に日本国内で出生や婚姻の届出をしていた場合でも、その届出が日本の戸籍に記載されない事項のもの(たとえば、両親とも外国籍の子の出生届や、外国籍どうしの婚姻届)であれば、届書は市区町村が保存しています(戸籍法施行規則50条1項)。ただし保存期間には限りがあり、婚姻届のように届出によって効力が生じる行為に関するものは届出の年度の翌年から50年、出生届などそのほかのものは翌年から10年です(同条2項)。利害関係人は、特別の事由がある場合に限り、その届書に記載した事項の証明書を請求できます(戸籍法48条2項)。一方、日本人と婚姻していた場合のように、届出の内容が日本人側の戸籍に記載されているものは、その戸籍自体が手がかりになります。
どの国の法律で相続するのか
相続は、亡くなった人の本国法によるとされています(法の適用に関する通則法36条)。帰化した人は日本の国籍を持っているので、本国法は日本法です(ほかの国籍もあわせて持っていた場合も、日本の国籍があれば日本法が本国法になります。同法38条1項ただし書)。つまり、相続人の範囲や順位は日本の民法で判断し、その前提となる帰化前の婚姻や親子関係などを確かめる材料として本国の書類が必要になる、という関係です。
書類がそろわないとき
本国の書類が取り寄せられない、あるいは一部しかそろわないこともあります。相続登記では、相続人全員による申述書(上申書)などで補う方法がとられることもありますが、受け付けてもらえるかどうか、何を添えればよいかは法務局の取扱いによります。書類を集め始める前に、管轄の法務局へ相談しておくと手戻りを減らせます。
なお、逆に「日本人だった相続人が外国籍になった」ケースは、帰化とは方向が反対で、必要になる書類も異なります。こちらは外国籍になった相続人がいるとき──宣誓供述書と必要書類で解説しています。
まとめ
帰化した人の日本の戸籍は、帰化の届出を受けて記載されたところから始まります。帰化前の婚姻や認知、帰化前に生まれた子などの経過は原則として日本の戸籍からはたどれないため、相続人を確かめるには本国の公的書類とその翻訳文が必要になることがあります。相続そのものは日本の法律によりますが、相続登記で書類がそろわないときの補い方は法務局の取扱いによって変わります。どの書類から手をつければよいか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 国籍法 第4条・第10条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000147
- 戸籍法 第13条・第22条・第48条・第102条・第102条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 戸籍法施行規則 第35条・第50条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000010094
- 法の適用に関する通則法 第36条・第38条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000078