この記事の要点
- 続柄欄が「その人の立ち位置」を示すのに対し、身分事項欄は「その人にいつ何が起きたか」という出来事の記録を示す欄
- 認知は父と子の双方、普通養子縁組は養親と養子の双方、婚姻・離婚は夫と妻の双方の身分事項欄に記載される(戸籍法施行規則35条)
- そのため、被相続人自身の戸籍の身分事項欄をたどることで、認知した子・養子縁組した子・前の婚姻の存在といった相続人確定に直結する事実を拾える
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結論から言うと、相続人を確定する作業では、続柄欄と身分事項欄を役割分担で読み分けるのが基本です。戸籍の「続柄」欄の読み方で扱ったとおり、続柄欄はその人が父母や筆頭者から見てどの続き柄にあたるかという「立ち位置」を示す欄です。これに対して身分事項欄は、出生・婚姻・離婚・養子縁組・離縁・認知・死亡といった「その人の身の上に起きた出来事」を、日付とともに記録していく欄です。相続人の範囲を左右する事実の多くは、続柄欄ではなく身分事項欄に現れます。
身分事項欄に関する事項は、戸籍法13条1項9号が「その他法務省令で定める事項」として省令に委ねており、これを受けた規定のひとつが戸籍法施行規則35条です。同条は、各号に掲げる事項を「当該各号に規定する者の身分事項欄に」記載しなければならない、という形で、事項とその記載先を組み合わせて定めています。同条には、出生(1号)、認知(2号)、養子縁組・離縁(3号)、特別養子縁組・その離縁(3号の2)、婚姻・離婚(4号)、親権・未成年後見(5号)、死亡・失踪(6号)、生存配偶者の復氏・姻族関係の終了(7号)、推定相続人の廃除(8号)、分籍(10号)、国籍の得喪(11号)などが掲げられています。
なお、この「13条1項9号」という号番号は、現行の戸籍法のものです。氏名の振り仮名を戸籍の記載事項に加える改正(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律・令和5年法律第48号。令和5年6月9日公布、令和7年5月26日施行)により、氏名の振り仮名が13条1項2号として加えられ、旧2号から旧7号までが一号ずつ繰り下がるとともに、「その他法務省令で定める事項」を定める旧8号が9号になりました。施行前に書かれた解説書や記事が、同じ内容を「戸籍法13条8号」として引用しているのは、このためです。また、戸籍法施行規則35条に従来から掲げられていた氏の変更に関する事項(13号)、名の変更に関する事項(14号)は、この施行に合わせて、氏及び氏の振り仮名の変更に関する事項、名又は名の振り仮名の変更に関する事項へと文言が改められています(号の番号自体は改正の前後で変わっていません)。
相続人確定の観点で特に押さえたいのは、誰の身分事項欄に記載されるかが事項ごとに定められている点です。規則35条は、認知に関する事項は「父及び子」、普通養子縁組またはその離縁に関する事項は「養親及び養子」、婚姻または離婚に関する事項は「夫及び妻」の身分事項欄に記載する、と定めています。つまり、これらの出来事は関係する当事者の双方の身分事項欄に足跡が残ります。被相続人自身の身分事項欄に「認知」の記載があれば認知した子の存在が、「養子縁組」の記載があれば養子の存在が、「婚姻」「離婚」の記載があれば前の婚姻とその間の子を確認すべきことが、それぞれ分かります。相手方の戸籍を先に取り寄せなくても、被相続人の側から手がかりをたどれるわけです。
もっとも、ここから直ちに「被相続人の戸籍を出生までさかのぼれば足りる」という結論が出るわけではありません。規則35条が定めているのは、どの出来事をどの人の身分事項欄に記載するかであって、いったん記載された事項がその後に作られる戸籍へ必ず引き継がれることまでを定めた規定ではないからです。出生までの戸籍を集める実務上の必要は、婚姻・転籍・戸籍の改製などによって戸籍そのものが作り替えられるという、別の事情から生じます。規則35条から言えるのは、被相続人自身の身分事項欄が相続人確定の手がかりになる、というところまでです。
いくつか補足しておきます。第一に、認知の記載にある日付は届出や裁判確定の日であって、親子関係が生じた日ではありません。認知の効力は出生の時にさかのぼって生じるとされています(民法784条本文。ただし第三者が既に取得した権利を害することはできない旨の但書があります)。なお、相続が開始した後に認知によって相続人となった人が遺産の分割を請求しようとする場合について、民法910条は、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしていたときはその人は価額のみによる支払の請求権を有する、という別の規律を置いています。この場面の取扱いは、784条の遡及効とその但書の読み方だけから導かれるものではなく、910条という個別の規定によって定められています。認知の効力が出生の時にさかのぼるからといって、既にされた遺産分割の効力が当然に覆るわけではない、という結論は、この910条を根拠とするものです。相続分の考え方は認知された子の相続分で整理しています。
第二に、特別養子縁組またはその離縁に関する事項は、養子の身分事項欄に記載するとされています(規則35条3号の2。養子が外国人であるときは養親の欄)。普通養子縁組が「養親及び養子」の双方の欄とされているのに対して、条文の書きぶりが異なります。ただし、これは身分事項欄への記載先を定めた規定であって、養親の戸籍に特別養子縁組の痕跡がまったく残らない、という意味ではありません。養親の側の戸籍にどう反映されるかは、この規定とは別に確かめる必要があります。特別養子は続柄欄では実子と同じ記載になるため、縁組の経緯そのものは身分事項欄で確認することになります。普通養子と特別養子で相続への影響が異なる点は養子縁組と相続を参照してください。
第三に、死亡・失踪の記載(6号)は、数次相続や代襲相続を組み立てる際の起点になります。誰がいつ亡くなったかの前後関係で、相続人の顔ぶれが変わるためです。また、推定相続人の廃除に関する事項(8号)は、廃除された推定相続人の身分事項欄に記載されます。廃除は、遺留分を有する推定相続人に虐待・重大な侮辱・著しい非行といった事由があるときに、家庭裁判所に請求して認めてもらう制度です。被相続人が生前に請求する場合(民法892条)と、遺言による意思表示を受けて遺言執行者が請求する場合(民法893条前段)があります。後者について、廃除が認められたときはその効力が被相続人の死亡の時にさかのぼって生じる、と定められています(同条後段)。請求すれば当然に廃除されるわけではなく、家庭裁判所の判断を経る点は、どちらの場合も変わりません。認知の場合と同じく、戸籍に記録される日付と、実体としての効力が生じる時点は一致しません。
最後に、戸籍の身分事項欄を読めば相続人がすべて確定するわけではない、という点も申し添えます。たとえば相続放棄は家庭裁判所への申述によって行うもので、戸籍の記載事項として定められているものではありません。放棄がされているかどうかは、戸籍とは別に確認する必要があります。なお、ある事情が戸籍に現れるかどうかは、それについて記載を求める規定が置かれているかどうかで決まります。規則35条の列挙にないという一事だけを理由に、およそ戸籍には現れない、と言い切ることはできません。
もう一点、戸籍の記載そのものの位置づけも補足しておきます。戸籍は届出などにもとづいて身分関係を公に証明する制度ですが、記載されているとおりの身分関係を作り出す効力(いわゆる公信力)まで持つものではない、と一般に説明されています。この理解を前提にすると、記載は真実の身分関係を推測させる有力な資料ではあるものの、記載と実体が食い違っている場合には実体の身分関係が問題になる、ということになります。もっとも、食い違いをどのような手続で正すのか、どの場面で記載がどこまで通用するのかは事案によって異なり、ここで一律に言い切れるものではありません。戸籍をたどる作業が相続人確定の土台ではあっても結論そのものではない、というのはこの意味です。
なお、被相続人の住所の変遷や古い書式の戸籍の読み方、収集が行き詰まったときの対処は、それぞれ改製原戸籍の基礎知識や戸籍収集が途中で止まったときで扱っています。
執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
身分事項欄は、出生から死亡までの出来事を時系列で記録する欄で、認知は父と子、普通養子縁組は養親と養子、婚姻・離婚は夫と妻というように、関係する当事者双方の欄に記載されます。被相続人の戸籍の身分事項欄を丁寧にたどることが、見落としのない相続人確定の土台になります。記載の意味が読み取れないときや、相続人の範囲に判断がつかないときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。
- 戸籍法 第13条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 戸籍法施行規則 第35条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000010094
- 民法 第784条・第892条・第893条・第910条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 衆議院「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和5年法律第48号・制定法律本文): https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/21120230609048.htm
- 法務省「戸籍にフリガナが記載されます」: https://www.moj.go.jp/MINJI/furigana/index.html