この記事の要点
- 離婚をして婚姻前の氏に戻る人(復氏する人)は、婚姻前の戸籍がまだ残っていればその戸籍に戻るが、その戸籍がすでに除かれているとき、または本人が新戸籍編製の申出をしたときは、新しい戸籍が編製される
- 子がいても、その子が未成年か成年かにかかわらず、離婚だけで子の氏や戸籍は当然には変わらない。子を親の戸籍に移すには、別途、家庭裁判所の許可を得て入籍の届出をする必要がある(令和8年4月1日施行の改正民法で離婚後の共同親権が選べるようになった後も同じ)
- 相続人調査では、離婚歴のある被相続人の戸籍を婚姻前・婚姻中・離婚後とたどり、子がどちらの戸籍に残っているかを追いかける視点が欠かせない
結論から言うと、離婚をすると、婚姻によって氏を改めた側の戸籍は動きますが、その動き方には「婚姻前の戸籍に戻る」パターンと「新しい戸籍が編製される」パターンの二通りがあり、しかも子がいる場合、その子の戸籍は離婚だけでは動きません。相続人を確定する作業でこの分かれ方を知らずにいると、被相続人の戸籍を遡っていく途中で、子の存在を見落としたり、逆に戸籍が変わった理由がわからず手が止まったりすることがあります。
まず、氏の面から整理します。婚姻によって氏を改めた夫または妻は、協議上の離婚をすると婚姻前の氏に戻るのが原則です(民法767条1項)。これを「復氏(ふくし)」と呼びます。ただし復氏した人が離婚の際に称していた氏(婚姻中の氏)をそのまま使い続けたい場合は、離婚の日から3か月以内に届け出ることで、婚姻中の氏を称し続けることができます(同条2項)。これがいわゆる「婚氏続称」で、届出をしない限り自動的には認められません。
次に、戸籍の面です。復氏する人が婚姻前の戸籍に入るのか、新しい戸籍が編製されるのかは、戸籍法19条1項が定めています。婚姻前の戸籍に入るのが原則ですが、同項ただし書は、新戸籍が編製される場合を二つ挙げています。一つは、婚姻前の戸籍がすでに除かれているとき(たとえば、婚姻前の戸籍に在籍していた人が全員抜けて、戸籍そのものが除籍済みになっている場合など)で、この場合は戻る先の戸籍がないため新戸籍が編製されます。もう一つは、本人が新戸籍編製の申出をしたときです。こちらは戻る先の戸籍が残っていても本人の希望で選べるもので、離婚を機に自分を筆頭者とする戸籍を作る例は実務上珍しくありません。したがって「婚姻前の戸籍が残っているのに新戸籍になっている」という記載を見ても、それだけでは異常ではありません。なお、婚姻中の氏を称し続ける届出(婚氏続称)をした人については、その人を筆頭者とする戸籍が編製されていないとき、またはその戸籍に他の人が在るときに新戸籍が編製されます(同条3項)。戸籍の「身分事項欄」の読み方で扱ったとおり、離婚の事実そのものは夫・妻双方の身分事項欄に記載されますが、その後どちらの戸籍に入ったか・新戸籍が編製されたかまでは、実際に戸籍を取り寄せて確認しないとわかりません。
ここで見落としやすいのが、子の戸籍です。離婚届を出しても、親権者が誰になったかにかかわらず、子の氏や戸籍は当然には変わりません。婚姻中に生まれた子(嫡出子)は、父母の氏を称するとされています(民法790条1項本文)。もっとも、いったん定まった子の氏を変えるには、家庭裁判所の許可を得たうえで(民法791条1項)入籍の届出をするという別の手続きが用意されており、離婚によって親の一方が復氏したからといって、子の氏がそれに連動して変わるわけではありません。婚氏続称の届出をして婚姻中の氏を使い続ける場合も、その人については別に新しい戸籍が編製されるだけで(戸籍法19条3項)、子が自動的にその戸籍に入るわけではなく、子を移すには入籍の届出が別に必要です。この入籍の届出をしていなければ、親権者が誰であるかにかかわらず、子は離婚前の戸籍(多くの場合は父の戸籍)に残ったままになります。
この点は、令和8年4月1日に施行された改正民法(令和6年法律第33号)のもとでも変わりません。この改正で、離婚後の親権者を父母の双方と定めることもできるようになりましたが(民法819条1項)、子の氏を変えるには家庭裁判所の許可を得て入籍の届出をする必要があるという先ほどの仕組み(民法791条1項)は、この改正によって変更されていません。そのため、父母のどちらを親権者と定めても、また双方を親権者と定めても、親権者をそのように定めたことだけで子の氏や戸籍が動くことはありません。親権者の定め方と、子がどの戸籍に記載されるかは、別の問題として押さえておく必要があります。
この構造は、相続人調査の場面で実際に影響してきます。たとえば被相続人が離婚歴のある女性で、現在の戸籍だけを見ると単身のように見えるケースを考えます。婚姻中に生まれた子がいた場合、離婚後に母が復氏して別の戸籍に移っても、入籍の届出がされていなければ、その子は元の夫の戸籍に残ったままで、母の現在の戸籍には一切記載が現れません。母の死亡時の戸籍だけを見て「子の記載がないから相続人はいない」と判断すると、実子である相続人を見落とすおそれがあります。婚姻歴のある被相続人については、婚姻前・婚姻中・離婚後という戸籍のつながりを追い、婚姻中に子が生まれていないかを、その婚姻中の戸籍まで遡って確認する必要があります。戸籍の「続柄」欄の読み方で触れたとおり、続柄欄は父母との関係を示す欄であるため、婚姻中の戸籍にまで戻って初めて子の存在が見えてくる場面は少なくありません。
執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。実際の事案で戸籍がどちらのパターンに当てはまるか、子の入籍手続きがされているかどうかは、戸籍を実際に取得して記載を確認しなければ判断できません。
まとめ
離婚をすると、復氏する側の戸籍は「婚姻前の戸籍に戻る」か「新戸籍が編製される」かのいずれかに分かれ、子がいても、その子の戸籍は離婚だけでは当然には動きません。相続人調査では、婚姻歴のある被相続人の戸籍を婚姻前・婚姻中・離婚後とたどり、子がどの戸籍に記載されているかを追いかける視点が欠かせません。戸籍のつながりで判断に迷うことがあれば、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第767条・第790条・第791条・第819条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 戸籍法 第6条・第19条・第98条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」(令和6年法律第33号): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html
- 裁判所「子の氏の変更許可」(家事事件の手続案内): https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_07/index.html