この記事の要点
- 明治・大正期の手書き戸籍には、旧字体や異体字で書かれた氏名が数多く残っている
- 相続で複数世代の戸籍をつなげていくと、同じ人物なのに戸籍ごとに氏名の字体が違って見えることがある
- 字体の違いだけで別人・誤記と決めつけず、生年月日・父母の氏名・本籍の変遷など他の記載事項を突き合わせて同一人物かどうかを確認する
相続の手続きでは、亡くなった方の戸籍を死亡時から出生時までさかのぼって集める必要があります。何代分もの戸籍を並べていくと、同じ人物のはずなのに、戸籍ごとに氏名の漢字の形が違って見えることがあります。「高橋」の「高」が古い戸籍では「髙」(はしごだか)になっている、「澤田」が後の戸籍では「沢田」になっている――このような食い違いに気づいたとき、誤記や別人ではないかと不安になる方は少なくありません。
なぜ戸籍ごとに字体が違って見えるのか
明治・大正・昭和初期に作られた戸籍は毛筆の手書きで、当時使われていた旧字体や異体字がそのまま書き残されています。「寿」と「壽」、「蔵」と「藏」、「辺」と「邊」、「沢」と「澤」のように、同じ読み・同じ人物を指していても、書かれた漢字の形(字体)が違うことがあります。戸籍の「さいとう」さんに斉藤・斎藤・齋藤・齊藤の複数の書き方があるのは、比較的知られた例です。
こうした字体の違いの多くは書き間違いによるものではなく、戸籍が編製し直される過程(改製)や、手書きから活字・電算処理へ移り変わる過程で、当時通用していた字体がそのまま、あるいは時代ごとの取り扱いに沿って書き継がれてきた結果です。改製の際に戸籍の記載がどう引き継がれるかの基本は、改製原戸籍の読み方の記事で扱っています。また、そもそも古い手書きの戸籍自体が読み取りにくいという点は、戸籍集めが止まってしまう詰まりポイントの記事でも触れています。
相続人確定では「同一人性」をどう確認するか
相続人を確定する作業では、字体が違う戸籍どうしが本当に同じ人物のものかどうか(実務ではこれを「同一人性」と呼ぶことがあります)を、氏名の字体だけで判断しません。次のような記載事項を突き合わせて確認します。
- 生年月日が一致するか
- 父母の氏名・続柄の記載が一致するか
- 本籍の変遷(転籍・分籍の経緯)がつながっているか
- 戸籍の編製・消除の日付に空白期間がないか
これらが整合していれば、氏名の字体の違いは「同一人物についての表記の違い」として扱われるのが通常です。逆に、字体以外の記載にも食い違いがある場合は、本当に別人が混在している可能性も含めて、慎重に読み解く必要があります。
2025年5月から戸籍に「振り仮名」が記載されています
2025年(令和7年)5月26日に改正戸籍法が施行され、戸籍の記載事項に氏名の振り仮名が加わりました(戸籍法13条1項2号)。すでに戸籍に記載されている方については、施行日から1年以内に限り振り仮名の届出ができるとされており(名の振り仮名は各人が、氏の振り仮名は戸籍の筆頭者などが届け出るしくみです。氏の振り仮名は令和5年法律第48号附則6条・7条、名の振り仮名は同附則8条)、この届出期間は2026年5月25日で終了しています。期間内に届出をしなかった場合は、市区町村から原則としてあらかじめ通知が送られ、そこに記載された振り仮名が戸籍に記載される取り扱いです(同附則9条)。なお、こうして届出をせずに職権で記載された振り仮名については、一度に限り、届出によって変更できる仕組みも設けられています(同附則10条〜12条)。
ただし、この改正で戸籍に加わったのは氏名の「読み方」であって、漢字の「字体」ではありません。旧字体・異体字をどう書くかという問題そのものが解決されたわけではない点に注意が必要です。また、この届出や記載の仕組みは、いずれも改正法の施行時点で現に戸籍に記載されている方を対象とするものです。相続でさかのぼって取り寄せる除籍や改製原戸籍にあとから振り仮名を書き加えることは、今回の改正では予定されていません。古い戸籍については、これまでどおり字体と他の記載事項を突き合わせて読み解いていくことになります。
不動産の相続登記の場面では、登記簿上の氏名の字体と、相続人が提出する戸籍上の氏名の字体が異なることもあります。この場合も、字体の違いだけで別人として扱われるわけではありませんが、実際にどこまでの資料で同一人性を示せるかは個々の事案や窓口の判断によるため、疑問があれば法務局や司法書士に確認しながら進めるのが安全です。
以上は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
古い戸籍を読み解くときに氏名の字体の違いに気づいても、それだけで誤記や別人と決めつける必要はありません。生年月日・父母の氏名・本籍の変遷といった他の記載事項とあわせて、同じ人物についての記録かどうかを確認することが大切です。判断に迷う戸籍が出てきたときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 戸籍法 第13条第1項第2号(氏名の振り仮名。e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 戸籍法の一部を改正する法律(令和5年6月9日法律第48号)附則 第6条〜第12条(振り仮名の届出・市町村長による記載と通知・記載後の変更の届出。e-Gov法令検索の戸籍法ページに附則として収録): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 法務省「戸籍にフリガナが記載されます」(施行日=令和7年5月26日の確認): https://www.moj.go.jp/MINJI/furigana/index.html