この記事の要点
- 遺言書に遺言執行者として名前が書かれていても、その人が引き受けるかどうかは本人の自由で、断ることもできる
- 返事がないまま止まってしまうときは、相続人などが「相当の期間」を定めて確答を求める催告ができ、期間内に返事がなければ承諾したものとみなされる
- 承諾したあとは「直ちに」任務を始め、「遅滞なく」相続人へ遺言の内容を通知する義務がある
遺言書に「遺言執行者に指定する」と名前が書かれていても、それだけで手続きが自動的に始まるわけではありません。遺言執行者に指定された人が実際に**引き受ける(就任を承諾する)**かどうかは、本人の意思次第です。承諾する義務はなく、断ることもできます。
ここで困るのが、指定された人がなかなか返事をしてくれない場合です。預貯金の解約や不動産の名義変更(遺言執行者──選任から、銀行・登記・税務まで「何ができるのか」で解説した各種手続き)は、遺言執行者がいる場合は原則としてその人が担うため、返事待ちのまま何も動かせない状態が続きかねません。
そこで民法1008条は、相続人その他の利害関係人が、遺言執行者に対して相当の期間を定め、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答するよう催告できる制度を用意しています。そして、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなされます(みなし承諾)。「いつまでも待たされる」状態に区切りをつけるための手段です。
ここでいう「相当の期間」は、日数が条文で一律に決まっているわけではなく、催告する側が事案に応じて定めます。書類の確認や本人の事情を考える時間として、あまりに短い期間を一方的に定めれば、催告として適切かどうかが問題になり得る点には注意が必要です。
承諾したあとの遺言執行者にも時間の縛りがあります。民法1007条1項により、承諾した遺言執行者は直ちにその任務を行わなければならず、同条2項により、任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。「引き受けるかどうかの返事」と「引き受けたあとの初動」の両方に、期限や段取りの考え方が組み込まれているわけです。
なお、指定された人が就任を断った場合や、すでに亡くなっている、辞任した、あるいはそもそも遺言に遺言執行者の指定がないという場合には、民法1010条により、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求することができます。遺言執行者が「いない」状態のまま手続きが止まってしまうときの受け皿として押さえておくとよい規定です。
以上は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
遺言執行者に指定されただけでは何も確定しておらず、就任するかどうかは本人の自由です。返事がないまま止まってしまうときは、相当の期間を定めた催告(民法1008条)で区切りをつけることができ、期間内に返事がなければ承諾したものとみなされます。承諾後は直ちに任務を開始し、遅滞なく相続人へ通知する義務も生じます。個別の遺言・遺産の状況に応じた具体的な進め方については、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。
- 民法 第1007条・第1008条・第1010条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089